76:もう一つの故郷
剣術の練習を終え、キャノスと一緒にランチの会場へ向かう。場所は、昨日と同じ、噴水のある芝生の庭園だ。ここに街からやってきたキッチンカーが集結している。
今日のキャノスは、ライトブルーの半袖シャツ。それは俺が着ている白の半袖シャツの色違いだった。ズボンは俺と同じ、黒。足元は革靴。
やはり二人で並んで歩くと、高校生の二人組にしか見えない。
俺は歩きながら、昨晩のベリルとの出来事について、キャノスに話そうとした。でも他の誰かに聞かれたら大問題だったし、何よりベリル本人に誰かに話していいか確認していない。
だから俺はベリルとの一件については触れず、ベリルが秘めた想いを実らせるためには、レッド家次期当主の座を外れなければならず、そのためには兄のカーネリアンを見つけ出す必要があることを話した。
さらにカーネリアンがいる場所は、魔法使い達が暮らすテルギア魔法国である可能性が高いこと。カーネリアンを見つけ出すには、魔術が効きにくい体質の自分が最適だということ。だから俺は仲間を集い、テルギア魔法国に行くつもりであることを、スピネルとベリルに話したと打ち明けた。
キャノスはただただ驚いて聞いていたが……。
「……それでベリル様は、拓海の提案についてなんて言ったのですか?」
「最初は飛べない俺がテルギア魔法国に行くこと自体が大変だとか、入国するにも一苦労するとか、行ったところで見つからないかもしれないとか、とにかく反対された。仮に見つけても、カーネリアンが別人になっている可能性もある、とまで言われたよ」
「……でもそれは、可能性としてゼロじゃないですよね」
「うん。だから正直に『俺のこの挑戦はうまくいかもしれないし、いかないかもしれない。うまくいけば、ベリル、君は自由になれる。もしうまくいかなければ……その時はすまない。クレメンスと前向きに人生を歩んで欲しい』って伝えた」
「……拓海は本気でカーネリアン様を、探すつもりなんですね」
キャノスが眩しそうに俺を見る。
「ベリルも同じことを言ったな。ともかく本気だってことはちゃんと伝わって、最後は『……分かった。拓海がそこまで私のことを考えてくれていたとは……。ありがとう。父上に明日、話してみる』って言ってくれた」
「……そうですか」
キャノスが視線を落とした。
「どうしたんだ、キャノス?」
「……私はヴァンパイアの母と魔法使いの父との間に生まれました。二人はとても仲が良く、とても幸せそうに、今もこのブラッド国で暮らしています。父の生まれ故郷であるテルギア魔法国がどんな国であるか、ずっと気になっていました。でも父は『純血ではない魔法使いがテルギア魔法国へ行っても、歓迎されることはない』と言い、私がテルギア魔法国へ行くことを禁じているんです」
「そうなのか⁉」
「でも、今、拓海の話を聞いて、ベリル様が許してくれるなら、私もその旅の仲間に加わりたいと思いました。任務で向かうならば、父も許してくれるでしょう……。いえ、父が許してくれなくても、私は自分の目で見てみたいんです。もう一つの故郷を」
キャノスは俺を見て、綺麗な笑顔を見せる。
眩しすぎる美男子スマイル。これだけで武器だ……。
「俺もキャノスが旅の仲間に加わってくれれば、心強いよ。ぜひ頼む」
キャノスは力強く頷いた。
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