75:ハンベルグの本心
トレーニングルームへ行って驚いた。
ベリルとのデートの予定がない婚約者候補のシディアン、ハンベルグ、クレメンスもやってきていたのだ。三人とも自分達の三騎士から話を聞き、興味を持ち、参加することにしたのだという。
俺は驚きつつも、興味を持ってもらえたことが嬉しく、いつも以上に熱心な指導を行った。
練習を終え、後片付けをしていると、ハンベルグが俺のそばに来た。
「拓海、レッスン、とても勉強になった。ありがとう」
ハンベルグが手を差しだす。
「こちらこそ。興味を持ってもらえてよかったです」
俺はハンベルグとガッチリ握手を交わす。
「……ベリルも本当に素敵な女性だが、彼女の騎士である拓海も、やはり素晴らしいな」
これまでハンベルグとの接点はゼロだった。だからこんな風に話しかけられ、俺は驚いていた。
「そう言っていただけると光栄です。……ハンベルグ様、お聞きしてもいいですか?」
せっかく話すことができたのだ。気になっていることを聞いてみようと思った。
「ああ。構わない。何だろう?」
ハンベルグはセピア色の瞳を細め、俺を見る。
「失礼な質問をすることになるのですが……」
「俺の元婚約者の件か」
怒らせただろうか。俺はハンベルグの目を見る。
「俺が婚約していたことは、周知の事実だからな。そして拓海はベリルの騎士だ。気になって当然だろう」
ハンベルグの瞳に怒りの色はなかった。
「実はベリル本人とも、初日にこの件で話したんだ。自分のために婚約解消をさせてしまい、申し訳ないと、ベリルに言われた」
「そうなんですか⁉」
俺は驚いて、目を丸くする。
「ああ。ベリルはおそらく俺が婚約者に選ばれることはないと教えてくれた。それはベリル自身の意志とは関係なく、政治的な要素で、ってね。驚いたよ。まさかそんなことを教えてくれるとは思わなくて。なんでそれを俺に教えるのかと尋ねたら……。俺が元婚約者のことが本当に好きで、まだ未練があるのなら、ぜひやり直して欲しいからと。好きな相手がいるのに、親の都合で好きではない相手と結婚させられる。こんな悲劇は、まっぴらごめんだからって」
まさかベリルがそんなことを、ハンベルグと話していたなんて……。
「俺の中のベリルの好感度はグンと上がったよ。それは異性としてではなく、ヴァンパイアとして」
「なるほど。だからだったのですね。初日にベリルとの打ち解け度合いが、グンを抜いていたのは」
ハンベルグは頷く。
「ベリルは、面倒だろうけどこのホリデーシーズンを乗り越えれば、また元婚約者と会えるから、申し訳ないが今しばらくこの茶番に付き合ってくれ、って言ったんだ。ホント、驚いた。
あまり積極的にはならず、でもほどよい距離感で、この婚約者候補によるイベントに参加しようと思えるようになった。おかげで肩の力も抜けたし、何よりホリデーシーズンが終わったら彼女の元に……ベッティーナの元に戻ることができると思うと、元気も沸いた。
だからベリルには、本当に感謝しているよ」
「それは本当に良かったです。俺も僭越ながら、ハンベルグ様がベッティーナ様と再び愛を育まれることを願っています」
「ありがとう」
ハンベルグは白い歯を見せ、笑顔でトレーニングルームを出て行った。
俺はその姿を見送り、安堵の溜息をつく。
ハンベルグと話すことができて良かった。
少なくともハンベルグは、ベリルに異性としての好意を持っていない。ということは残りの日程の中で、ベリルに余計なことはしないだろう。
「拓海、こっちの片付けは終わりましたよ。中庭に行きましょう」
キャノスの声に俺は頷き、縄跳びをいれた木箱を床に置いた。
本日更新分を最後までお読みいただき、ありがとうございます!
次回更新タイトルは
『もう一つの故郷』
『妖艶なダンス』
『騎士全員がベリルに魅了される』です。
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
明日のご来訪もお待ちしています‼







