74:幸せな朝帰り
自室に戻った俺は、まずベッドにダイブする。
信じられなかった。
まだ夢を見ているみたいだ。
ベリルが俺のことを好きだと言ってくれた。
そして今、朝帰り。
奇跡的なハプニングで、俺は服を着ていないベリルと一緒に、ベッドで寝ていた。
目覚めた瞬間はパニックだった。でも確かに俺の脇腹辺りに、とてつもなく柔らかく温かく、心地よい感触が……。あれは間違いなく……。
頬が緩む。
ルビーのように煌めく綺麗な二重の瞳。
通った鼻筋に、チェリーレッドの唇。
ワイン色の美しい髪。
雪のような肌の白さ。
強い魔力を持ち、聡明で、次期当主にふさわしい才覚を持つ美少女。
そのベリルが、俺なんかのことを好きになってくれた……。
目を閉じ、ついさっきの出来事を思い出す。
俺が部屋を出ようとした時。
ベリルは突然俺の腕を引っ張り、部屋に引き戻した。
そして閉じた扉の前で俺と向き合った。
細い腕を俺の首に絡めると、ぐいっと自分の方へ引き寄せ、ベリルは耳元で甘く囁いた。
「拓海、また今晩来て」
もうその言葉だけで、俺は腰砕け状態だった。そこへダメ押しのように、首に甘く噛みついた。
痛みより快感が勝り、そのまま意識を飛ばしたくなったが、それをグッと堪えた。
堪えてベリルを強く抱きしめた。
「もちろんだよ」
そう答えた俺に見せたベリルの笑顔は……心からの笑顔だ。
ルビー色の瞳の奥には、一点の曇りもなかった。
ああ……。
思い出すだけで胸が震える。
首元のシルバーのネックレスに触れた。
ベリルの顔と、甘く切ない感覚が沸きあがる。
そばにベリルはいないが、余韻だけで一日過ごせそうな気がした。
……いや、ダメだ。準備しないと。
俺はまず、シャワーを浴びることにした。
ぬるめのお湯を浴びながら、今日の予定を思い出す。
今日は午前中、ベリルはレオと乗馬デート、午後はエクリュと美術館デートだ。別荘の敷地内には、レッド家が所有する絵画を展示した、私設美術館があった。
午前中、ヴァイオレットが警護、午後はキャノスが警護で、俺は仕掛け人。
ちなみにお昼は、街から招いたキッチンカーの料理を好きなだけ食べていいという、夢のような企画だ。キッチンカー、それは調理設備を備えた車のことだった。
そう、この異世界にも車は存在している。
ただ、車はせわしなく動く市民のための乗り物。時間に余裕があり、ゆったりとした時の流れを好む上流階級の者は、あえて馬車を使っていた。もちろん車も所有しているが、使うことは滅多にないという。
シャワーを終え、タオルで全身の水気をとる。
予定のない午前中は、トレーニングルームでボクシングの練習。それと……中庭での剣術の練習の許可も出たから、今日は二本立てで訓練に励める。
俺は着替えを終えると、部屋を出た。






