73:好きだ。誰にも渡したくない
「べ、ベリル」
「なんだ?」
「その、昨晩、ベリルは俺のこと……」
「ああ。私は拓海のことが好きだ」
「……!」
夢じゃない。現実だった!
「どうして、俺のことを……」
「どうして? 理由が必要なのか?」
「いや、それは……」
「気づいたら好きになっていた。拓海から目が離せなくなっていた……それではダメか?」
「だ、ダメなわけないよ!」
照れる俺を見て、ベリルは微笑む。
「これが好きという気持ちかと自覚したのは……決闘があったあの日だ。拓海が私を庇って倒れ、死んでしまったのかと思った時、とんでもない悲しみに襲われた。そしてその悲しみが、拓海を好きという気持ちから起きたものだと自覚した」
「ベリル……」
「その後、お前が『ザイド』にさらわれそうになった時、誰にも渡したくないと思った」
迷いのないルビー色の瞳にまっすぐ見つめられると、もうそれだけで俺はメロメロだった。
「拓海は私のことを好きか?」
「⁉」
ベリルのことを好きか⁉
それはもちろん……好きに決まっている。
でもベリルは好きにはなってはならない存在だと思っていた。
だから、好きと認識しないようにしていて……。
この別荘に来てから感じた、モヤモヤや落ち着かない気持ち。それはベリルを好きだから感じた気持ちに違いなかった。
「……拓海は私を好きではないのか」
ベリルが寂しそうに瞳を伏せる。
「違うよ、ベリル! 俺は……俺は……ベリルのことが……」
言ってしまっていいのだろうか、好きだと。
ベリルが顔を上げ、俺のことを見る。
ルビーのような美しい瞳が、俺の心を捕える。
その時、自覚した。
俺の心はとっくの昔に、ベリルの虜になっていたのだと。
ゆっくりとベッド降りて、ベリルに歩み寄る。
「好きになってはいけない存在だと思っていた。だからこの別荘に来てから、自分の中で渦巻く気持ちを、ずっと持て余していた。でも自覚した。もうとっくの昔に俺の心は、ベリルの虜になっていたと」
心臓が信じられないぐらい高鳴っている。
俺はベリルの両腕を掴んだ。
「ベリル、好きだ。誰にも渡したくない」
その瞬間ベリルが俺を抱きしめ、俺もベリルを抱きしめた。
「……ベリル、どうして昨晩気持ちを伝えてくれたんだ?」
「それは拓海が本気だと分かったから。本気で私のことを想い、兄上を探し出そうとしていると分かったから」
「うん。もちろんそれは本気だよ」
「本当は……拓海のその挑戦が終わってから、気持ちを伝えようとも考えた。とんでもないサプライズになるだろう? でも、失敗したら……告白なんて、できない。だから先に告げることにした。それに私の想い人が誰であるか分かった方が、拓海はやる気になるだろう?」
「さすがだな、ベリル。ぬかりないな。……でも」
ベリルが顔を上げる。
「でもどうして告白した後、あんなに連続で吸血したんだ……?」
分かりやすく、ベリルは顔を赤くした。
「あれは……。恥ずかしさを誤魔化すためと、ずっと我慢していた拓海の、恍惚とする顔を見たかったのと……それと私も気持ち良かったからだ」
「え……」
「拓海の血を吸うと、なぜか私も気持ちがよくなる。ヴァンパイア同士の吸血であれば、双方が快感を覚える。でも拓海はヴァンパイアではないのに……」
ベリルは照れを隠すためか、顔を俺の胸の中に戻す。
「そっか……。てっきり快感を覚えるのは、俺だけだと思っていたら……。ベリルが気持ちよくなるなら、それにこしたことはない」
俺はベリルをギュッと抱きしめた。
「……ベリル、今日は一日一緒にいたい。もう婚約者候補達に、ベリルがちやほやされるのを見たくない」
すると。
ベリルは俺から体を離す。
「そうしたい気持ちは山々だが、まだ父上に何も話していないし、皆が準備をしてしまっている。今はまだ我慢して欲しい」
凛としたその言動は、次期当主のそのものだ。
「……そうだな。じゃあ、俺も部屋に戻って、準備しないと……」
名残惜しいが仕方ない……。
「拓海」
俺の名を呼びながら、ベリルは首につけていた細いシルバーの鎖状のネックレスを外す。
「これをお前につけておく」
ベリルは腕を伸ばし、俺の首にネックレスをつけた。
「それを私だと思うといい。寂しくなったらその鎖に触れ、私のことを思い出せ」
俺はその細い鎖に指で触れてみる。
……! なんだろう。なんだか不思議な感覚がする……。
甘く切ない感覚が沸きあがる。
「……ベリル、ありがとう」
俺はベリルを抱きしめた。
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