ダンナが本当にもういないんだって
私も自分の駄目さ無力さを思い知らされた。
本当に何もできない。でも、だからこそ、努力が大事なんだなとも思わされた。努力もしないで『何もできない!』じゃ、自分の子供に合わせる顔がないよね。
自分が甘えたいのなら、子供が甘えたいと考えることも受け止めなきゃね。
それをわきまえてたら、たぶん、なんとかやっていけると思う。
胸にぽっかりと穴が開いた気はすごくするけど、同時に、私にはまだ、観音がいる。ダンナを亡くしたことばかりに囚われてて観音のことを蔑ろにしたんじゃ、彼に嫌われちゃうよ……
でもさ……
でもさ……
忌引きを終えて仕事や学校も行くようになって、日常生活が戻ってきて、観音がトイレに入ってて一人でキッチンで洗いものしてたら、ダンナが本当にもういないんだっていうのが急に込み上げてきて、
「―――――っ!!」
ほとんど無意識に手にしてたコップを床に叩きつけてしまった。自分でもなんでそんなことしたのかよく分からないけど、突然、たまらなくなったんだ。
パシャンッ!
ヤワなガラスのコップだったから、思ったよりは大きな音もしなかった。だけど、破片はキッチンの床全体に飛び散って……
「……」
私は頭も働かないまま、キッチンに常備してあった床用のお掃除ワイパーで破片を拭いて歩ける場所を確保して、掃除機を取りに行った。
そこに、観音がトイレから戻ってきて、
「大丈夫? なんか割れたみたいな音したけど……」
って心配そうに訊いてきた。
「あ…、うん、大丈夫。ちょっとコップ落としちゃって……危ないからソファに座ってて。掃除機で吸うから」
笑顔でそう言ったつもりだったけど、今から思えば、きっとひきつった笑顔になってただろうな……
中学生の娘に心配かけて気遣わせて、本当に私は何をしてんだ……!
今になって無性に腹が立ってきて、でもそれを抑え付けながら掃除機でコップの破片を吸った。掃除機で細かい破片を吸いながら、大きなのはそのまま寄せて集めて、改めてホウキとチリトリで丁寧に集めて、念のためにもう一度掃除機をかけて、最後にお掃除ワイパーで拭いて、破片が残ってないか、床に這いつくばって確かめて、
「よし、OK!」
ちょっと大袈裟に声を上げた。
その頃にはもう気持ちも切り替わってて、観音と一緒にお風呂に入った。
だけど、それから後も、半年くらいは、
『冷静なつもりで実は』
っていう精神状態が続いてたかな。
ああそれと、ホームヘルパーさんとシッターさんについては、やっぱり雇い続けるのは難しそうだったから、ダンナが亡くなる二週間前には、もう、契約を終了してもらってた。




