表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

84/92

人間って…こんな風に

ダンナがそんなことになっても、前の奥さんからは何の音沙汰もなかった。彼が連絡も取ってないから当然なのかもしれないけどさ。


そもそも、離婚してからは満足に連絡を取り合ったこともないって。


なんかもう、逆にすごいよね。この徹底ぶりがさ。お互いに未練の欠片もないってことなんだろうな。


私は、ダンナのことが嫌いになって別れたんならなるほど『顔も見たくない。声も聞きたくない』って気持ちも分かるけど、前の奥さんはダンナのことを嫌いになったわけじゃないんだよね。確か。


私には理解できないよ……


ただ、ここで、前の奥さんが現れてあれこれ言ってきたら、キレてしまいそうだったから、むしろ良かったんだと思う。トラブルが回避されたんだと考えてもいいかもね、


なんていう風に、<良かった探し>をしてた気がする。この頃には。


ダンナは仕事を続けられなくなって辞めて、保険とそれまでの貯えで凌ぐ状態に。


これでもし、保険適用外の先進医療とか、それこそ怪しげな民間療法とか試してたら、あっという間に貯えも底をついただろうな……


どんな綺麗事言ったって、今のこの世で生きていくにはお金が必要なんだって改めて思い知らされる。だって、ダンナの入院費だって、保険で賄ってるけどその保険に入るにはお金がいるんだしさ。


はあ…ヤダヤダ……




新しい抗がん剤は、前のよりも強いものだそうで、さすがに副作用もでて、眩暈や倦怠感、吐き気、そして毛も一気に抜け始めた。


ベッドや枕にいっぱいついた毛を、コロコロで掃除する私に、


「ごめんね。ありがとう……」


ダンナが声を掛けてくれる。だけどその声も、力なくて……


そしてこの頃には、転移した癌が増殖して尿道を圧迫。自力ではまともにおしっこもできなくなってて、カテーテルで導尿してってなってて、看護師さんがおしっこの袋を取り換えるところを、私はただ茫然と見てただけだった。


『人間って…こんな風に壊れていくんだ……』


導尿のためのチューブと栄養剤の点滴のチューブと、肺にも転移して呼吸が苦しくなってきたからってことで酸素吸入用のチューブが繋がったダンナの姿を見て、ぼんやりとそんなことも思ってた気がする。


なのに、表面上は、普段通りに振る舞うようにしてて……


私も、観音(かのん)も……


病室で、三人で写真もいっぱい撮ったりした。


もっとも、その時の写真は、何年経ってもまともに見られない。ものすごく胸が苦しくなるから。




最後の一週間なんて、ベッドから起き上がることもできなくて、口から、血なんだか何なのか分からない粘液を吐きながら、痛み止めを打ち続けてる状態なのだった……



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ