どうして彼なの……?
ダンナに、抗がん剤の副作用があんまり出なかったのは、要は『効いてない』ってことだったらしい。
検査の数値の変動も、ちょっと下がったことはあっても、正直、誤差の範囲だったらしいし……
そして、その抗がん剤を使える期間が過ぎてしまい、次の抗がん剤を試すことに。
だけどこの頃には、もう、仕事を続けられるような体調じゃなかった。抗がん剤の副作用というよりは、まともに食事もできず、栄養補給の点滴頼みになってたことで体力が一気に衰えたんだ。
見た目にも、げっそりと痩せてた。
普通に座ってるだけでも辛いし、横になっても寝られないって……
一見しただけで普通の病気じゃないって分かる様子だったと思う。
ダンナの両親は、私と結婚する以前には二人とも亡くなってて、そっちに気を遣う必要がなかったのは幸いだったかな。父親はダンナが前の奥さんと結婚するよりずっと以前に事故で。お母さんは、心筋梗塞で。と、彼は言ってた。
「僕自身はあんまり気にしたことなかったんだけど、早死にする家系だったのかもね……」
なんて、冗談めかして……
『やめてよ、そんな言い方……!』
って言ってしまいそうだったけど、それは何とか飲み込んだ。
『私がダンナに当たってどうすんだ。苦しんでんのは私じゃなくてダンナだ。死に直面してるのは私じゃなくてダンナだ。そこを履き違えるな……!』
自分にそう言い聞かせる。
一方、観音は、普通に振る舞ってくれてた。
ただ、一人じゃ寝られないのか、私とダンナの寝室で一緒に寝るようになったけど。あと、お風呂も、一人じゃ入れなくなったみたい。
なるべく普通に振る舞うようにしてくれてるんだろうなっていうのが分かってしまう。ここでもし観音まで精神的に不安定になって感情的になられたりしてたら、私ももちこたえられなかったかも……
ダンナも、結局、そういうことなんだろうな。八つ当たりしたって癌が治るわけじゃない。それどころか、観音や私の心まで壊してしまうかもしれない。それが嫌だったんだと思う。
でも、だからこそ、思うんだ。
『どうして彼なの……? 世の中にはもっと死んだ方がいい奴だっていっぱいいるじゃん……!』
ってさ。
だけど、<この世>っていうのは、そういうものなんだよね。
そして、そんなこの世に、親は、子供に承諾ももらわずに勝手に送り出しちゃうんだ。それを思えば、観音のことをダンナがとことん気遣おうとしてたのは当然だって気がする。そんな父親だからこそ、観音は安心できてたんだろうな。
私も、そんなダンナだから、好きになったんだ。
それは間違いない。




