平行線
<ガンに効く健康酒>ってのがネットで売られてて、ダメ元でダンナに飲んでもらおうと思ってポチろうとしたら、そのダンナに止められた。
「なんで? 効かないかもしれないけどダメ元で試してみたらいいじゃん…!」
私の抗議に、彼は悲しそうな表情をして、
「観音の気持ちは嬉しい。だけど僕にはこれは必要ないから。<プラシーボ効果>ってのは、信じてればこそ効果も発揮するかもしれないけど、僕はそういうのに対しては疑い深くてね」
だって……
正直、この時は、ダンナが何を言ってるのか理解できてなかった。だけど今から考えたら、当時の私は、自分では冷静なつもりだったけど、正気を失ってたんだなって分かる。
これが、<病気の怖さ>なんだって感じる。本人もそうだけど、周りの人間も本来の判断力を失うんだなって……特に、命に関わるような病気の場合はね。
そして彼は、保険適応外の<最新医療>についても望まなかった。
「何でも試してみようとするのも、一つの考え方だと思うから、そう考える人を僕は批判しようとは思わない。だけど、僕の命は僕のものだ。僕自身が納得できる方法を選びたい」
「はあ!? なに言ってんの!? あなたは私と観音の家族なんだよ!? あなたの命はあなただけのものじゃないでしょ!? 私達のために生きてよ…! 何が何でも! お願いだから……!」
「そうだね。それも一つの考え方だね。それを選ぶ人がいてもいいと思う。僕だって諦めたわけじゃない。だけど、やるだけやって後に残ったのが焼け野原だったら、そこから先を生きていけるのかな」
「お金の心配!? そんなの、生きてさえいたらなんとでもなるって! 家がなくなっても、安アパートに住むことになっても、生活保護を受けることになっても、私は平気だよ! あなたさえいてくれたらなんだって我慢できる!」
「ありがとう……気持ちは嬉しいよ……」
私とダンナの意見は、完全に平行線だった。私には、彼がもう生きることを諦めてるようにしか見えなくて、ものすごく腹立たしかった。なんでそんなに簡単に諦められるのか分からなくて、
『もしかして、私のことも観音のことも、本当はどうでもいいと思ってる……?』
みたいに考えてしまって……
だけど、彼は彼で、私達のことを考えてくれてたからこそのものだったんだっていうのは、今なら分かる。
彼が、すべての財産をはたいてありとあらゆる方法を試してってしなかったからこそこの家が残って、観音との生活が守られたのは紛れもない事実なんだ。
でも……それでも、どっちが<正解>だったのかは、分からない……
『他の方法を試してたら、もしかしたら……』
っていう気持ちも、今でもあるんだ……




