仕事
ホームヘルパーさんとシッターさんに倣って、私も、保育園では極力切り替えていくのを心掛けた。園の子供達には、私の家庭の事情なんて関係ないからね。
それでも一応、園には、ダンナがステージⅣの癌だってことは伝えて、もしかすると急に休みを取らなくちゃいけないことになるかもしれないとは、伝えておいた。
「気を落とさないようにね……」
園長にはそう言ってもらえたけど、それが社交辞令でしかないことも分かってる。これでもし、私が何度も園を休むようなことがあれば、退職を促されるようなことになるだろうなというのもね。
だけど、そうなった時には、私は仕事よりも家族を取る。仕事は、私以外の誰かでも務まるだろうけど、家族の代わりはいないから。
この私の考えを批判する人もいると思う。でも、ダンナや観音のことをロクに知りもしない赤の他人の言うことなんか、知ったことじゃない。
私はダンナの<妻>で、観音の<母親>なんだ……!
不思議と、頭を切り替えるようにして仕事をしていたら、そんな風に思えるようになってきた。家にいるといつまででも泣いていられそうな気分だったのにね。
だから、こうやって外に出るのも必要なことなんだろうなとは思ったかな。
仕事自体も、切り替えるためのきっかけにはなりそうだ。そうじゃない人もいるだろうけど、少なくとも私にとってはなってくれた。
園の子供達と接してると、余計にそう思えてくる。
この子達も、それぞれ、いろんな事情を抱えてると思う。と言うか、抱えてる。
両親が遅くまで仕事で返ってこなくて、夜間保育も利用してる子。
両親が不仲で、精神的に不安定で、トイレに行きたいと自分から口にできず、何度もお漏らしをする子。
シングル家庭で、しかも母親が情緒不安定で、時々、迎えに来ないことがあって、結果として宿直の職員と一緒にお泊りになることがある子。
うちと同じで子連れ再婚なんだけど、再婚相手の素行があまりよろしくなくて、何度か児童相談所が聴取に来たことがある子。
これらは特に濃い<事情>だけど、そこまでじゃなくてもそれぞれ事情はある。
それを考えると、泣いてばかりもいられないなって……
こうしてなんとか気持ちを切り替えられた私は、
『悲観ばかりしてちゃ駄目だな』
とも思えるようになった。
厳しいのは事実でも、ダンナはまだ生きてる。死ぬと決まったわけでもない。
大丈夫。大丈夫。まだ可能性はある。
そんな風に思って、家に帰ってからネットでいろいろ調べてたら、
<ガンに効く健康酒>
ってのが。
『う~ん……十二万円か……でも、これでダンナの癌が治るなら……なんでも試してみたらいいよね。ダメ元で……』
そう思ってポチろうとしたら、
「ありがとう。でも、僕は、自分の好きなお酒しか飲まないから」
ダンナに止められたのだった。




