【your】
次の殺人まであと1日…
「それで、江守さん。サトリサトルは見つかったんですか?」
今日もエアコンの壊れた部屋で600万円のために連続殺人事件の犯人探しの推理をしていた。
全く暑くてかなわんし、資料に汗が垂れちまう。
「んーにゃ、全くだ。足で見つけようと歩きに歩いたというのによぉ……」
「歩きって…」
「バッキャロ!探偵と警察は脚使ってナンボなんだよ」
「へぇ〜、そうなんですか」
俺の話を聞いているように見せかけて、膝に乗せたノートパソコンをパチパチパチパチ弾いている。
「お前だって記者なんだから、聞き込みに行ったりするだろ?俺のところに来たみたいにさ」
「私も記者なんですけど、都市伝説とかそっちの類なのでほぼネットサーフィンですかね」
だからノートパソコンか……
こんなことしているが、今こいつは俺より遠くの何かを見てるだろうな。
「やっぱ時代はソーシャルネットワークか…」
「気を取り直してくださいよ、江守さん。あ、そうそう私ひとつ気づいちゃったんですよ」
作業が終わったのか、ノートパソコンを閉じて俺のほうに向き直ってきた。
「何にだよ?」
「この郷里って名字珍しいのにどっかで見たことあるなぁ、って思ったら同じ会社に郷里 蘭っていう人がいたんですよ」
「……まじか」
一瞬、郷里が毛利に聞こえていろいろと探偵がらみなものを思い浮かべてしまった。俺の耳も悪くなってきたかな。
「私、思い切って聞いちゃったんですよ。家族か親戚に郷里 悟って人物がいないかって」
「まさか、お前それって」
「そうなんです!実は郷里 悟はその人の息子さんだったわけです!今は高校生らしくてここの近くの式羽学園って高校に通ってるそうです」
「式羽学園……昨日通りかかったあそこか!でかしたぞ石川ッ!」
俺の事務所ある町の名は西式羽町。西と名の付いているのに式羽中央病院が近くにある町。元々はここいらも式羽町の一部だったが、町が大小に二分割され小さな町となったのが西式羽町らしい。
それゆえ本家本元の式羽町まではかなり近い。式羽学園ならば10分で着くだろう。
「じゃあ、さっそく向かいましょう!」
「郷里じゃなくて郷里だったから見つからなかったわけか」
西式羽町以外にも支笏町なんてところにまで行ってみても見つからなかった理由がようやくわかった気がするぜ。第1名字が珍しいのに、それを読み間違えていたとすれば見つからないのも至極当然の至りってわけだ。
「たぶんそういうことでしょうねぇ〜」
こいつ俺の苦労も知らずによぉ…
遠い目で青空に沸き立つ大きな山雲をボーッと眺めているこいつにだんだん腹が立ってきた。
「これいつまで待つんだよ……」
「学校、終わるまでです」
「そんならよ、ちょっとくらいどっかで時間潰せばいいだろ!なんで校門の前ではりこまなきゃいけねえんだよ」
牛乳とあんパン持って双眼鏡でターゲットに張り込むとか、何年前の刑事ドラマだっちゅーの、じゃねぇや、だっつーの。
「もし今日会えなかったら明日中に1人死んじゃうんですよ。だったら今日逃すわけにはいかないじゃないですか。それに張り込みってなんか探偵みたいだし……」
「俺は探偵だけど、お前は違法ギリギリのジャーナリストだろ!勝手に仲間入りしてくんじゃねえ!」
「はぁぁ……江守さんはただ度胸がないだけでしょ。あのねぇ、取材ってものは体を張らなきゃいけないんですよ!」
「ネットサーフィンして仕事してるやつが何言ってんだ!手のひらひっくり返してきてびっくりしたわ!」
「あぁ!うるさいうるさい!夏だってのになんで道端で口論しなきゃならないんですか!」
「そもそもなそれはお前がーー
4時間後…
「……ライフル」
「ルビー」
「…ビスケット」
口論は30分も経たずに和平に持ち込めた、そのあとから体感時間3000年でずーっとしりとりだのUMA語りだの百物語だのをやり続けて、精神が擦り切れて感情が死んだ気がするぜ…
「え、そこは伸ばしてるんだから『イ』じゃないんですか?」
「俺んところは伸ばし棒は無視してたんだよ。そっちの方がわかりやすいってな」
「はえ〜、ローカルルール問題はいろいろありますねぇ。ローカルルールで言ったら私もUNNOはドローツーを重ねたりしますもん」
「俺んところはドローフォーもありだった」
「それだいぶカオスですね……ってアイツじゃないですか!?」
唐突に石川が立ち上がって校門の方を指差した。時刻は午後4時半となりそろそろ高校の学生たちの帰宅ラッシュというところなのだろう。
「ん?何が?」
「私、郷里さんから息子さんの写真をこっそり拝借してたんで見分けがつくんですよ!ほらそっくり!」
そう言って見せつけてきた写真と人波の中のモブ生徒を交互に見ていくと、1人だけ顔が写真と合致する人物がいた。
「あいつか!でかした石川、行くぞ!」
「イエッサー!」
「おい、ちょっと坊主いいか?」
昨日の朝にあったやつと顔が一致する……なんか気の流れっつーか探偵の勘繰り的なものでこいつにビビッと来るものはあったが……俺のアナログな勘も捨てたもんじゃねえな。
「貴方達は昨日の…….」
あちらさんも俺たちのことを覚えてるらしいな。目つきが変わった。ありゃ会いたくないものに出くわした時の目だな。
ご機嫌斜めになる前にさっさと片付けちまうか。
「俺は江守、探偵だ。こっちの女は」
「石川です。とある出版社で記者をやっているものです」
「はぁ…それで探偵と記者が俺に一体なんのようですか?」
郷里は右足を一歩引いて、スクールバックの側面を向けて盾代わりにしてきた。
かなり怪しまれてるな、こりゃあまり刺激しねえように心配りしてヤンなきゃいけねータイプか。若いのはすぐにキレるからおじさんの天敵だぜ。
「単刀直入に聞くが坊主はーー
俺の言葉を言い切る前にやつがかぶせてきやがった。この状況じゃああぶねえ言葉を。
「君が今回の連続殺人事件の犯人だねッ!」
人差し指をビシッとまるで法廷に立った弁護士さんみたいに郷里の心臓めがけて指差した。あまりの迫力に郷里は今度は左足を引く、これで2歩分足を引き下げられた。
「…………は?」
目の色が変わった。
まずいな、もしこいつが犯人だったら完全にアウトとだが……俺の予想当たっててくれよ!
「バカッ!ちげえよ」
「え?違うんですか?だって誕生日を当てることができるから縁のない人物の誕生日を知ることができたんじゃ?」
「それはそうだが、坊主、お前は犯人じゃねえよな?」
ここではいそうですなんて馬鹿正直に言う奴はいねえが、少なくともこいつじゃねえのはわかる。目の色や顔つきは攻撃性を内包した何かに変わっているが、それは自分から危害を与えようとするタイプじゃなくて、ヤマアラシのように他人からの攻撃にリベンジするタイプの攻撃性だ。
こいつは間違いなく犯人じゃねえ
「いきなり現れて、一体なんなんですか俺が犯人だとか……違うに決まってるでしょ」
後半から声が低くなった、無意識っぽいが本能的に自分のプライドを傷つけられて石川に敵意を感じてる。
今回の事件に対してもきっと怒りや憤り覚えてるんだろうな。
「え、じゃあホントに」
「つーか、逆だよな。坊主、お前が殺人を止めようとしてたんじゃねえのか?」
となればあとは簡単だ。
同情じゃなくて同調してやりゃいい。
こいつは正しいと思われたり、援助されたりすることに対してはあまり警戒心のないタイプと見た。
探偵なら話術の1つや2つくらいには秀でてねえとな。
「江守さん一体どういうことですか?」
石川が俺の顔を覗き込むようにこっちを見てきた。
そろそろ種明しじゃねえが、説明してやんなきゃいけねぇな。
「簡単な話、ではないか。そうだな、おい石川、もしお前がこいつと同じ他人の誕生日を知る能力を持っていたら一体何に使う?」
「え?それは……宴会芸とか?」
「後は?」
「誕生日占いとか……」
「お前が言うようにその能力にはあまり使い道がない。ま、要するにカス能力ってことだな」
「ちょ、ちょっと!本人を目の前にそんなこと言いますか普通!」
石川の言う通り、本人の前でこんなことを言えば自信家なだけなら起こって俺の胸ぐらを掴んでくるくらいはしてもいいと思う。
しかしだ、こいつはそんな粗暴なフリは全然見せねえし、否定する様子もない。つーことはやつ自身もその能力に全くの思い入れがねえってわけだ。
「まぁ落ち着いて聞けよ2人とも。俺だったらそんな能力を持ってるからって今回みたいな4人も殺す事件を起こす勇気が手に入るなんて思わない。むしろその逆、劣等感に苛まれさえしたりするんじゃないか?どうなんだ?」
見れば分かる。こいつがもし自分とは格が違う異能力者がいるということに気づいているんなら、逆にこんなカス能力はコンプレックスにすら感じるだろう。自分の才能は結局こんなものだったんだ、てな感じにな。
「お、俺だって好きでこんな能力を得たわけじゃない……もっと人の役に立つ能力が欲しかった」
絞り出したような声。これは本心だ。
今のでこいつは敵役に憧れるタイプのやつじゃなくてヒーローに憧れるウブなタイプってのも掴めた。
「だそうだ。つまり、こんなカス能力を手に入れたところで今回みたいな大博打に出るとは俺は思えなかったんだよ」
「じゃあ、なんで今日この子に会いに来たんですか」
そう、今回の肝はここだ。
こいつが犯人じゃないのは7割方わかってたんだ、後はこいつが善人か悪人か、協力的か非協力的か、それを調べるためだった。
今回の事件解決にはこいつの能力が必要だったからな。
「それはこいつを利用しに来たからだよ」
「俺を何に使う気なんだよ……」
「お前のそのカス能力が活躍する時は今を除いてもうないだろう。誕生日殺人鬼の獲物は全て犯行日が誕生日、そして犯行は周期的、極め付けはお前の住んでる場所近くの事件。こんなお前のためだけに発生したような事件にお前がした行動があると俺は思っている」
「えっ?」
「被害者候補探し、言い換えれば獲物探しってやつか。犯人が狙う人間がその日誕生日のやつだと気づけば、坊主はそれを阻止しようとその日誕生日の人間を探したんじゃねえの?そして、そいつらについてって、犯人から守ろうとしたとか?どうだ?」
数秒の間。これが全て当たってくれれば骨休めができそうだが、してなきゃ振り出しに戻って骨折り損ってとこだな。まぁ、アドが取れなかったくらいじゃあへこたれねえけど。
「ボディーガードになれるなんて思ってないけど……警察に通報くらいは俺でもできる、って思ってた」
「それはお前が犯人から被害者候補を守ろうとしていたって受け取っていいんだよな」
首を一回だけ小さく縦にふる郷里。
ビンゴだ。祝杯は明日じゅうにあげれるな。
「え、じゃあもしかして、郷里くんって……いい人だったんですか!?」
「今気づいたのかよ!いや、俺だって最初は犯人だと思ってたけどよ、お前と暇つぶししてた4時間くらいの間に考えてたわけだよ。んでこいつはやってないって思ったんだよ」
「な、なんでですか?」
「探偵の勘が3割、学生ごときにできる事件じゃねえなって思ったのが2割」
「後の5割は?」
「コイントスで決めた」
「1番重要なところをコイントスって…….」
ま、ろくな根拠がなくてもこんな具合になるもんだわな。直感だけじゃわからないこともあるが、直感じゃなきゃ気づけないこともある。人のことを多面的に見るのは疲れるからな。
「おい坊主、一世一代の大仕事これを逃したら2度と輝けねえって事件、お前の手で解決してみねえか?」
「俺の手で……」
「犯人には目星はついてる。あとは被害者を出さないように坊主が必殺の手を出すまでなんだけどよ、どうするよ?
下を向いて考え込む郷里、しかしそんなものはちょっとした時間に過ぎなかった。すぐに上を向くと一皮むけた表情で俺に向かってゆっくり口を開いた。
「…………やります。俺、輝きたいですから!」
「決まりだな!よっし、それじゃあまず事務所で作戦会議タイムだ!いくぞ、バカジャーナリスト」
「推理は初めてなだけです!馬鹿じゃありません!」
「バーカ、バーカ。坊主、お前も言ってやれ、何人様を殺人犯扱いしてくれちゃってんの、ってよ」
「……バーカ!」
「その意気だぜ!」
「ちょっとぉ!」
フィナーレだぜ真犯人さんよ。あんたのせいで振り回されたが、あんたのおかげで俺は600万円を手に入れる。
俺の糧になれ。




