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【future.】


小さな店。ケーキ屋の看板をぶら下げるこじんまりとした店。小さな店だからある特定の人はその小さなケーキ屋に安心感を覚えて入っていくことができるのだ。


「いらっしゃいませ」


白いワイシャツを着こなした栗色の髪の青年店員がふんわりした笑顔でお客の老人に挨拶をする。


「あぁ、どうもどうも〜ケーキを取りに来た中島です」


お客の方もそれを良しとし、リラックスした様子で顔をほころばせた。


「中島様、はいメロンクリームケーキの方完成しておりますのでお渡しいたします、少々お待ちください」


店員はすでに前日予約されていたケーキを厨房の中にある業務用冷蔵庫を開いて、名前を書いたメモ用紙を剥がし店オリジナルの紙袋にドライアイスとともにケーキの入った箱を詰めた。

お客はその紙袋を渡されると、入店した時のような柔らかい笑顔を再度浮かべた。


「いやぁ、こんな歳にもなってもやっぱり誕生日は祝いたいものなんだよねぇ、こんな機会じゃないとケーキなんて食べないし。それじゃあ美味しくいただきます」


お客は満足げな足取りで店を出て、このあと家路につくのだろう。幸せな誕生日の夜となるはずだ。


「ありがとうございます、またのご来店を」


店員はケーキの入ったショーケース越しに客に頭を下げた。常連であろうと一期一会の客であろうと彼の前では皆いいお客さんなのだ。


「あ!ちょっと田中さん、店番頼むね。さっきのお客さんのケーキ入れ間違えちゃったかもしれない、ごめんね!」


「はい、じゃあ変わりに店番しておきますね。お客さんの方すぐ追ってください」


休憩室にいた女子店員にそう言うと、青年店員ーー敢えて名を出すならば、阿川 刀利(あがわ とうり)は颯爽と先ほどの客、中島を探しにあとを追っていったのであった。


「……入れ違えたって言ってたけど、ケーキ持ってかなくていいのかな?」








「〜〜♪〜♪〜〜♪♪♪」


中島は1,970年代の某歌謡曲を口ずさみながら絶賛裏道を通って家路に着こうとしていた。

夜。都会の街灯や窓明りで星は見えず、月も今日が曇りである為に半分ほど隠れてしまっている。しかし、夏場の生暖かい湿気た風は妙に中島の心をくすぐった。


「お命頂戴いたす」


そんな声が耳元で聞こえるまでは。

反射的に振り返ると、そこには先ほどの青年の顔が電灯の明かりに照らされてはっきりと見えた。しかし、その時にはすでに彼の手に持たれた料理包丁がまさに中島の喉元を切らんとしていた。


「ストーップ!はーいそこまで〜。今の状況全て監視カメラに映っておりまーす」


謎の男の声。どこからしているのか、狭い裏道で声が反響して音源がつかめず、辺りを見回していると先ほど寸前まで追い詰めた相手は遠くへ悲鳴をあげながら走り去ってしまった。


「誰だ!?」


「なんだかんだと聞かれたら!」


「答えてあげるが世の情け!」


「世界の破壊を防ぐため!中略!」


「ラブリーチャーミーな味方役!」


「石川 美沙!」


「江守 正吉」


「郷里……悟」


この登場の仕方を決めた石川はたいそうご満悦そうな表情を浮かべているが、他2人は怠そうだったり、恥ずかしさで顔が真っ赤になったりとチームワークの質がうかがえる。


「新手のロケット団ですか?」


「探偵と詐欺師と学生が徒党を組んだだけだ、そんな徒党に名前なんてねぇな」


「阿川さん。あなたを連続殺人鬼、バースデーキラーとして告発します!」


「告発?」


「ま、少なくともさっきのやつを殺そうとしたことで殺人未遂の罪からは逃れられねえだろうが、その前に殺人の方もきっちり認めてもらわないとな」


「………なんの話でしょうか?」


「そこの詐欺ジャーナリストが言ったように、あんたが連続殺人鬼バースデーキラーだってことを証明しに来たんだよ」


「私が、ねぇ……どうせ捕まる身ですから聞くだけ聞いてあげますよ」


阿川は果物ナイフを持った腕を下げて、観念した表情で耳を傾ける。


「お、いいねぇ、おとなしくしてくれるのは俺らも助かるぜ。それじゃあまず、なんであんたが犯人かって思ったところからな」


「今月起こった誕生日の人間を殺す連続殺人、殺人犯の通称はバースデーキラー。まずその1番の謎は被害者に共通点がないところだった」


「それに誕生日を知るような親しい真柄の人間も今回の被害者の中にはいないこともあった。では犯人はそんな中どうして【birthday】なんて現場に残したのか、そしてそれがどうして全て当たっていたのか」


「それは簡単だった。この世の中100や200はもちろんのことながら1000以上と職業があるその中には誕生日占いよろしく相手の個人情報を合法的にゲットできる職もあるってわけだ」


「じゃあ、誕生日を得られる職業の人間が犯人だとして問題はどんな職業か。そこで俺が探し当てたのは第3の被害者の女性が残していた日記。1文日記みたいに短いことしか書かれてなかったが、誕生日の日付のところにバナナクリームケーキって残されてた。これがさすものはつまるところ誕生日ケーキのこと」


「なわけで、セーカイはケーキ屋さんじゃねえかと思ったわけよ。確かにバースデーケーキならなんの疑いもなく平然と客の誕生日を知ることができる。だから、俺はこの詐欺ジャーナリストに近辺のケーキ屋を探させた、ネットでな」


「詐欺ジャーナリストって言わないでください!」


「でも、結局バナナクリームケーキを売っているケーキ屋が近辺になかったから俺が足で探しだした、足が骨になったぜ。いや、棒が折れるだったか?」


「つーわけで、お前の目論見なんてマルッとするっと、お見通しだ!」


「トリック?仲間由紀恵?」


「………見事ですね。でも僕が中島さんをねらうとは限らなかったはずだ。なのにどおしてわかったんです?」


阿川は先ほどまでの物腰柔らかそうな表情を切り替え、全てを見通しながらもあえて質問をしているようなそんな達観した表情を浮かべていた。


「そうだな。誕生日が同じやつなんて人が20数人集まれば1人くらいはいるらしい、だからこいつの、郷里の超感覚で見つけた今日が誕生日の人間を全員探偵仲間に見張らせてるんだよ」


「なるほど、それはそれは」


実際に郷里が見つけた今日が誕生日の人間は25名、その全員に探偵友達がついて回っていると思うと江守の人脈も捨てたもんじゃない。


「さてと、俺らは警察じゃないからイエスだろうがノーだろうがこの場で殺人罪の証拠はあげられない。だから、お前を捕まえてもらう動機として殺人未遂が欲しかったわけだ。こうして映像がしっかり残ったおかげでお前に殺された4人の人間の仇うちができる。さぁ、警察に行こうか」


手に持ったビデオカメラをコートの外ポッケにしまうと、阿川を誘導するように江守は手招きをした。しかし、阿川は一度顔を伏せる動作をしたあと割けんばかりに口を開いて笑った。


「ふは、ふははは!バァカ、おいそれとそんなもの警察に渡させるわけねえだろ!そっちの能力者が超感覚亜種なのは知ってんだよ。だから!あえて俺はそれに乗ってやったわけ、これ以上場を汚されねえためにな」


唐突に阿川の双眸が赤く光り、空気が波打つように歪む。念動力(サイコキネシス)のような何か不可思議な力が阿川の周囲を歪めているようだ。


「お前の目的はなんだ?わざわざ誕生日に注目させるようなメッセージを残したのはこの事件がただの快楽殺人に見せかけるためだろうよ、だったらお前が真に殺したかった人物は一体誰なんだ?」


「んなこともうどうでもいいんだよ、死ねや」


江守の言葉を唾棄するように無視したあと、赤く光っていた双眸をさらに光らせた。すると、周囲を波打たせていた力が収束し、江守めがけて飛んでいった。


「よっこらせ。魅了(ゲッチュ!)


あと少しで念動力の塊が江守に当たりそうというところで、阿川の背後に投げキッスが投げられた。その投げキッスをしたのはダイナマイトボディのファビュラスなマダムだった。

その人こそダイナマイト麗子、相手を行動不能にする魅了の能力者。彼女が放った投げキッスは阿川に見事命中し、奴の体を段々と蝋のように固めて行った。


「だれ、だ!?か、らだが」


後ろに首をひねることすらできず、阿川は苦悶の表情を浮かべて、完全に固まりしゃべることすらできなくなって、それ以上の言葉は出なかった。


「うっふーん、江守さん今日はありがとうね。私が探してた異能力者を発見してくれてありがと。これで雇い主さんのミッション完了だわぁ。沼袋、蓮沼!」


ダイナマイトは一度お辞儀をすると呼び出した2人の男の能力、ワープ沼によって体をゆっくりと地面に沈めて行った。もちろんなんのことかはわからないがミッション達成に必要らしい阿川も連れて。


「ん、マダム・ダイナマイトまた何か探して欲しいものがあったら連絡してくれ。あと用が済んだらそいつは警察に引き渡しといてくれ」


ダイナマイトがだれの命令で動いているのかは江守にもわからなかったが、少なくとも今出現したワープ沼に沈んでいってる阿川が生きている確率は五分五分といったところだろうと内心は思っていた。


「アイアイサー、ナンクルナイサー」


ダイナマイトはそんな適当な言葉を残して、完全に地面に沈みきってしまった。




間。




「う、うわぁぁぁ!私はなんてすごい光景を取り逃がしてしまったんだぁぁぁぁ!」


「ったく、そこかよ!お前本当にぶれねえな!」


「いやいや、人が地面に沈んだんですよ怪奇現象じゃないですか!」


「そんなことより、約束の600万ちゃんとくれるんだろうな?」


「私は300万としか言って」


「あ?」


「江守さん、引っ越したいだけならうちで抑えてる事故物件時価総額××××万円の家にすみませんか?」


「××××万円だと?その事故物件いくらで落としたんだよ」


「×××万円です!」


「ほぅ……なかなかにあくどいことしてるじゃねえか」


「てへへ、どうです?江守さん事故物件とか気にしないタイプだと思ったんですけど」


「いいぜ。600万の代わりにその家俺によこせ。だけど俺が引っ越したいっていうことだれから聞いた?」


「う、占い師とか?」


「霊能力者こえーよ、全部筒抜けかよ」


「おっし!それじゃあ俺は新居で事務所を開くとして……今日は食べに行くか!郷里の坊主も行くよな?」


「もう門限だし、僕はこの辺で」


「門限は破るためにあんだよ!オラつべこべ言わずゴーゴー!」


「えぇ……でも、ちょっとくらいはいいかな」


「おっし!それじゃあ今日は焼肉だぜ!もちろん石川のおごりな!」


「えぇぇぇ!!そこは男気溢れる江守さんがおごるとこでしょ!」


「俺オススメの焼肉屋が近くにあんだよ、ついてこい!」


「待ってくださいよぉ〜」






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