私が頑張るとみんな死んじゃう⑤
「どうやら始めたようだね」
「広嶋様。本気になっておられるなんて、この裏切!もう一度この目で見に行きます!」
「よしなさい、邪魔になりますよ」
震源不明。深さ不明。マグニチュードのみ、"7"。
喫茶店の皿や棚、テーブルが揺れによって豪快に倒れる。外の耐震補強をしていない建物は次々と倒壊を始める。
また揺れは止まらず、さらに増そうとしていた。
「東京23区だけを隔離した。最悪の結末でも、東京だけ消えるようになっている」
「アシズムさん、サラリと恐ろしい事をやってますね」
「ミムラさん、今まで気付いてなかったんですか?のんちゃん、前から分かってましたよ!」
彼等による同格同士の戦いはお互いの命よりも、周囲に壊滅的な被害が出る。
立早の"自己投影"のように、たった一人の戦いで尋常じゃない被害が作られる。
すでに公園だけじゃなく住宅地全体が荒れている、空から見ると家やマンションの一つ一つがゴミのように無作為に、大地に突き刺さっていた。
「答えは自我に従うか。自分の力を過信するわけだな!?シィエラ!」
「ええ、私はあなた達に選ばれるより、私で選ぶ」
怒声だが暗く低く沈んでいる頭を見せる広嶋に対し、マンションの上に立つシィエラの表情はとても素敵に笑っていた。
「私が頑張るとみんな死んじゃう、という事をね」
一番は体じゃなく、魂だった。
「広嶋くん。私、とーってもあなたの事が好き。凄く強いからさぁ」
殺したい。壊したい。
「仲間もいるんでしょ?1人1人、あなたの近くに連れていってあげる」
それだけの強さを壊したい。努力を壊すために私がいる。
これが一番の望み。全てに力を尽くしたもの。得た力を報いるための善意。
「あなたはどうなの?」
「は?」
「その力をどこで手に入れたか分からないけど、思う存分扱いたいと思わないの!?私はそうしたい!やっぱりそうしたい!だって、あなたと戦えるまで強くなったのよ!それだから、あなたと戦いたい!」
戦闘狂を乙女チックに語らせた言葉だった。
「仲間なんか要らない!私がいたことだけがあれば良い!今をずっと、楽しくね……」
シィエラの決意は翻らない。また広嶋にその気がなくなった。
「俺が"5分遅れた"理由が分かるか?」
「ええ、分かってる」
「テメェに逃げるチャンスを与えるためだ」
広嶋にとってはまともな、能力者同士の戦場だった。お互いの意識のぶつかり合い。
普段は抹殺のために全力を捧げているが、少しの間。シィエラと同じように意味を彼女にぶつけてみた。
「気に入らない奴だけ殺す。俺は俺なりに、意味を持って、自分の力を引き出す」
「殺戮には興味ないの?」
「あるな。少なくとも、お前に向けている」
「まさか」
「殺したいと思っているのはお前みたいな敵だけだ。生殺与奪は俺が決める」
性格は似ていても、やっていることは結構違っていた。それは世界の文化の違い、出会いの違いとしか分からない。もし、広嶋がシィエラのような世界で過ごしていたらそうなったかもしれない。また、逆もきっとあっただろう。
「俺はここが気に入っている。お前には誰にも殺させない」
殺すも生かすも
「俺が全部決める。シィエラ、もうお前は死体になるしかねぇ」
時間はゆっくりと進んで行く。
シィエラの"無駄名努力"は戦闘が始まってから発動している。自分の周囲にある存在の努力を少しずつ削る毒が空中に舞っていると言っていい。
そして、会話中にシィエラは"陸困花"を発動させていた。花が咲けば周囲の努力の全てが無駄になるシィエラの切り札の一つ。まだ花は広嶋が荒らした地中の中で眠っている状態。
「なら、やりましょう」
「当然だ」
無論、広嶋もすでに自分の周囲が毒だらけであることを理解している。それでもまだ自身の能力と動きが鈍らないのは相応の力を備えているからだ。
「短期決戦だな」
努力を無力化していく。
それだけでシィエラと戦う場合、長期戦は圧倒的に不利だと理解可能。"同士討血"の防御がほんの少しずつ脆くなっていくことは実感している。
防御の修復はシィエラを倒さなければ不能。広嶋にとってはシィエラのように力の根源を壊すタイプが苦手な相手だった。(倒される危険性があるだけ)
地上全体が揺れ動くまま、広嶋の"同士討血"によって地面に高低さが生まれていく。シィエラの周囲だけは広嶋の力が削減されてほぼ平面であるが、逆にそれがシィエラの逃げ道を塞ぐような形となった。
巨大な戦場は即座に円柱状、半径20mのエリアとなった。同時にそれがシィエラが発する無駄名努力の濃い空間範囲。
そこに広嶋は思い切って飛び込んできた。
「ふふ」
被弾覚悟であることは顔を見れば分かる。
シィエラはもう一つの切り札。"禁勉"を右手に持ち、自分を囲った大地ごと破壊しながら広嶋に攻撃を繰り出した。
そして、大地に潜めた"陸困花"も開花を始める。
生存領域を狭め、最終的には自分だけが生き残る残酷世界。景色が変わってから音が遅れて鳴るほどの速さ。唐突な移り変わりの中、広嶋はシィエラの危険領域に足を踏み入れた。
「壊れろ」
シィエラを指差し体を破壊しようとするも、攻撃する努力が無駄にされて届かない。
逆にシィエラから"禁勉"を放たれる。
一発、モロに直撃。固い防御を有しながら体の芯に突き刺さるダメージ。しかし、二回目の攻撃に即座に対応。広嶋は当たるだけでも危険な鞭を握った。
「!っ」
体の力が抜けているも、完全に抜け切る前に攻撃は尽くした。
「へ」
シィエラ自身も考えていなかった顔で空中に高速で浮いた。
男の力と、広嶋の持っている"超人"能力、"投手"が鞭を振り回させ、逆にシィエラを地面に叩きつけた。鞭の威力を広嶋から味わった。
「くぅっ。こんなことまで」
広嶋はシィエラを叩きつけた瞬間に鞭から手を離した。
痛みを顔には出さないが、右手がヨボヨボで萎れていた。あれ以上握っていたら右手が吹っ飛んでいただろう。それに引き換えシィエラには骨折程度と割に合わないダメージ。
「っ」
倒れ、痛んだ箇所を抑えるシィエラとは対比して広嶋は彼女にさらに近づいた。近づくほど右手がボロボロになっていくというのに恐れていないし、近づけない絶望感にも震えていない。彼にあるのは接近し、彼女を握り締め、殺害すること。"無駄名努力"の領域でも自分が上回れる自信と知略がそうさせていた。
「絡まれ!」
シィエラは魔力を糸状にし、広嶋を絡めてさらに走るスピードを落とそうとするも、強引に広嶋は前に足を出し続けた。
「止まらねぇぞ」
「くっ」
「お前の全てを壊してやる」
撒いておいた"陸困花"もまた枯れていく。それでも広嶋のやる努力が全て終わろうとしていても、生きている限り、前に進んだ。
伸ばす左手にシィエラの右腕が届いた瞬間。
「嫌ぁっ!」
「うるせぇ」
シィエラの右半身の多くが侵食するように粉々に吹っ飛んだ。その壊れ方は拷問好きのシィエラも震え、拒否するほどだった。中から何もかも引きずり出されて、細胞同士が共食いしながら消滅しあう。殺すことに一点を置いた一撃はシィエラの死を確実とさせたが、瞬殺とはいかなかった。
広嶋もシィエラも、その場で身動きがとれないまま体を地面に転がした。




