黒い向こう側の世界
「いつつ」
パンパンが放り込まれた世界は自分までも黒くなった場所だった。
「あ、あれ?僕は……」
「君はパンパンか。長く頑張っていたな」
「え?……そ、その声は……川城さん!?え!?どうして!?姿が見えませんけど、声が川城さんです!」
謎の空間には何千人もの気配が存在していたが、自分も含めて姿が映らない。
その中で変わった雰囲気を発する者にすぐにパンパンは気付いた。気付く前に彼への尋問は始まっていたようだ。
「全テ吐ケヨ」
「す、全てと言われましても………」
「関係ノナイコト、アルコト。全部コノ世界トアノ世界ニツイテ話セ」
聞き取り難い声で脅される立早の状況がそこにあった。"自己投影"から見放され、何をすればいいか分かっていない。
「わ、分かりません!俺は何も分からない!」
「嘘ヲツクナ!」
X76だけでなく、多くの声が立早に向かっていった。それだけでこの黒い世界が震えだした。脅しだけで立早から何も情報を奪えない。
「分からない!俺もここがどこか分からない!もう、俺には"自己投影"はないんだ!訊かないでくれ!」
現状を語れない立早。
しかし、彼等の希望はこの無力な男しかないのだ。この世界では意識はあれど、姿が無い。X76の"魔改造"も川城の"貯金戦士"、パンパンのチート装備も何もない。
「俺には何もない……」
「なら、お前が神だった頃の話を聞かせてくれ」
ここに残っている自分達が何者なのかは川城も、X76も、それ以外の者達だって薄々は気付いている。
「立早。今、私達が頼るべきはお前の記憶と過去だ。"自己投影"とやらが暴走した末路はおそらく、私の世界も、X76の世界も、パンパンの世界も、全ての世界の崩壊になる」
川城は落ち着きながら、泣いて何も語れない立早に優しさを差し伸べた。
「世界はお前がヒーローになるしか救えない!神様に縋るな!お前の声が大事だ!」
生き残っているのはまだ意識を確認していないシィエラと広嶋、テンバーであることは川城には分かっている。どうやって3人に伝えるかは考えてないが、ここでも奴を倒せる方法があるかもしれない。というか知らないといけない。
「お、俺は……」
「ゆっくりでいい」
立早は川城の言葉に頭を抱えながら、体を震わせていた。
"自己投影"について知っていること。一番は自分に突然宿った理不尽な力。自分を否定し続けた現実とはまったく違う世界をみせてくれたもの。求めていた幸福が力となって宿っていた万能の力。
友達や家族みたいな、ど畜生共とは違う。本物に大切な自分だけの力だった。
それを裏切る行為に震えるのだ。
けれども、力は確かにこの自分を裏切ったんだと、震えながら決断して川城に伝えた。
「じ、"自己投影"には制約があるんだ」
「制約?」
神様の真似事を繰り返した立早は"自己投影"を使えるルールがある程度、頭の中で察知していた。
「"自己投影"は自分の世界でならば自由に力を使え、失うこともない。……だが、自分以外の世界では万能の能力を引き出すことができない。あくまで自分の世界でなければ奴はその力を落とす」
川城、X76、パンパンなど数多くの生命体がこの"自己投影"の世界に召喚された。
自分以外の異世界がまだ数多くあることは全員が分かっている。
「たぶん、不死身ではなくなる。"自己投影"を殺すには奴が作っていない異世界に連れて行くんだ」
「……よく喋ってくれた」
友達や家族じゃないが。自分の力を裏切る決心に川城は深い感謝を立早に送った。
これだけの情報を喋ってくれたのなら、立早は最後の役目として十分だ。
「あとはみんなで戦おう」
「ソウダナ」
「こ、このことをシィエラさん達に伝えられれば」
「……ところで、お前等に伝えたところでできるのか?別世界に"自己投影"を連れて行くなんてできるのか?」
立早の意外性あるツッコミに一同。
「シィエラさんがなんとかしてくれる」
「広嶋くんがなんとかする」
「テンバージャネ?(テキトー)」
「ひ、人任せ!?大体、お前等!"自己投影"の弱点を知ったからって勝てると思っているのか!?方法なんてありはしない!」
「意外だな。まともな発言じゃないか」
「常識だろう!無理なもんは無理だ!あれを殺すなんて」
諦める声だけは一際大きい立早。自分が触れて使っていたからこそ、"自己投影"の強大さは分かっている。ただ死ぬだけだぞ。そう伝えたいが、
「それでも倒さないといけない相手なんだ。なぁ、みんな?」
「アア」
「はい!」
立早以外の全員が、"自己投影"を倒すという決心をしていた。強大さを知らない顔じゃない。強大だからこそ、倒さなければいけないという理由。
「……ば、馬鹿だろ」
「お前には言われたくない」
「大抵、戦ウ理由ハ馬鹿ナンダヨ」
この黒い世界で着々と"自己投影"を討つ対策がとられる。
何が起こるか分からないが、奇跡的に機会が訪れたとき。機会を逃さず、"自己投影"を倒す。いつか、どこか、分からないというのになぜ対策を講じるのか立早には理解したくない。
「奇跡は起こらないかもしれないぞ」
奇跡なんてありはしない。
そう思っていたら、ここまで落ちぶれていた。奇跡が起きないから自分は助からなかったと思っていたが、そんな奴は最初から助かるわけがなかった。どこかで知っているストーリーだったなと、立早はふと思った。
もう一度人間に戻った時、人間だった頃の記憶がフラッシュバックした。
「あー、キリがねぇな」
そして、重要な戦局。広嶋 VS "自己投影"。
「ちっ」
広嶋と"自己投影"の能力同士では決着がつくまで、相当な月日が必要だと理解した。
そして、長く長く続けると自分が敗れる可能性があると広嶋は察知した。
理由に能力を宿している器の違いがあった。
立早の体から離脱し、能力そのもの"自己投影"に消耗がなく、消耗を補える回復がある。
一方で無敵かつ鉄壁な広嶋の"同士討血"の防御も破られるわけはないが、元は人間の肉体を持っている広嶋。人間としての消耗が日を重ねればあり、星がある高さよりもある魔力もジリジリと減っていけば防御の性能も落ちていく。
やっぱり、こいつは神様だな。
と、"自己投影"をわずかながら認める。
『はぁぁぁ』
広嶋の戦闘力に抗えず、ゴミのように倒れている"自己投影"。攻撃を回避できなくとも、死を回避し負けを認めない精神力も加わって面倒なレベルが高い。
「お前本当、どうやったら死ぬんだ?一生、どMプレイしてぇのか?」
『だ、誰が、どMだと。この神はそんなことしない』
「いいから早く死んだ方が良いってのはお前の事を言うみたいだな」
使いたくねぇな。どっちをやりに来たのかわかんねぇーし。ま、しゃあねぇか。
俺は殺しに来ただけ。ついでに壊しても、死人に口なしだ。
「しゃーねぇな。おおよそ、お前を殺す術は予想がついた」
ノーヒントながら"自己投影"の弱点に辿り着いていた。広嶋の経験値はそれだけ高い。
"自己投影"の無駄なお喋りから、よく入る"この"に注目していた。"自己投影"の世界で戦っているから不死身なのかもしれないという予想を実行する。
『っま、待て!何をする気だ!?』
この世界が"自己投影"の意思に反して震えているほどのパワー。
地震のように動いているだけじゃない。世界が生成された座標がずれ始めているのも感じている。そして、ずれは加速していく。
『こ、この世界をどこに運ぶ気だ!?いや、その前に!なんだお前のそのパワーは!?どれだけの力を使っているか分かっているのか!?』
「引き篭もりの時間も終わってんだよ」
地球以外にも存在する異世界は数多くある。人の想像の数だけ世界は広がっている。
広嶋の狙いは、"自己投影"が作り出した世界を別の異世界にぶつける作戦。世界規模で"同士討血"を発動させている。体への負担が大きく、相手からの攻撃は完全に防御できても、自分で自分を傷つけることによる防御はほぼない。
"自己投影"の攻撃では軋みも感じさせなかった体が軋んで、口や鼻から血が吹き出る。
「ちっ。対象物がデカすぎるな」
『お前!止めろ!!この世界が、別世界に行くだろう!』
"自己投影"の叫びや訴えなどとうに遅く。"自己投影"の世界はいくつもある別の世界と衝突を始め、ボロボロと壊れ始めた。
崩壊を始めた方へ、"自己投影"は飛ぶように向かった。
『俺の世界を壊すな!この世界は壊れちゃダメだ!』
この世界が滅ぶことは自分が死ぬことを意味する。必死に造り上げた物を護ろうとしたが、
「じゃあ、守ってろよ。一人でな」
反動で体がボロボロになっていても、"自己投影"の殺害を遂行するべく。奴を指差して解体する広嶋。
解体されてから復活するまでの時間が明らかに遅くなっていた。
だが、
「ちょっと休むぞ……。疲れた」
広嶋も多くの異世界そのものを操った反動で、戦意を落としてその場で倒れた。




