悪魔出陣
これはとある場所での雑談である。2人がお布団に入りながら、まるで今が楽しくて寝付けないからやる会話みたいなモチベーション。
「ねー、ねー、ミムラさん。のんちゃんはまだみんなと出会ってから日が浅いですけど、質問いいですか?」
「なんでもバッチこーい!」
沖ミムラと阿部のん。
広嶋達の仲間は佐世保にはまだいない。別のところで話している。
「みんな、強そうですよね。ミムラさんも凄い女性って感じがします」
「うん、良いね。褒めてくれるのとっても嬉しい!」
褒められる事に、布団の中でガッツポーズまで作るミムラにのんちゃんはとても子供っぽい質問を彼女にした。
「ミムラさん、広嶋さん、藤砂さん、灯さん、裏切さん、アシズムさん。……あ、あとのんちゃんも入れて……ミムラさんは誰が一番強いって思っているんです?」
全員が世界を単独で滅ぼせる能力や強さを有している連中。その集まりの中でさらに序列を求めるのんちゃんの子供らしくて、高度な質問にミムラはストレートに
「100%、広嶋くん!絶対だね!」
「や、やっぱり!じゃあ、二番目は?」
「私!……か、藤砂さん……か、アシズムさん…………アシズムさんはよく判らないんだよね。あとは分からない!」
悩まずに1番を答え、さらに2番に自分を候補に入れる。そして、質問者ののんちゃんをランク外にさせるミムラ。子供心を平然と壊している。ちょっと泣きそうであった。
「の、のんちゃんは?」
「う~ん。じゃあ、私の隣で3位!」
隣じゃないんですけど、それ。1位と2位には絶対の差がある。そして、2位と3位にも絶対の差がある。まったくもって励ましてない。
「うぇぇっ、ショックです!」
「私も広嶋くんの隣は譲らないよ!勝負だよ、のんちゃん!……あ、でも、本気はなしだよ!この世界が滅ぶしね!」
仲が良い二人が今まさに戦うのかと思わせる状態。
寝る前に泣いてしまったのんちゃんをあやしつつ、諭しに向かうミムラ。
「えっと、のんちゃんの質問がちょっと悪いかな?」
「ふぇ?」
「絶対、広嶋くんがみんなの中で一番強いと思うけど。私達はケースバイケースが多いから序列が難しいかな。接近の戦闘なら藤砂さんとアカリン先輩はメチャクチャ強いけど、それ以外じゃ使える能力じゃないし。私や裏切みたいな能力は戦闘よりかは別のことに向いてるから、みんなと勝負したら負けるかもしれない」
あくまで全員がそれだけの能力を身に付けているだけで、ミムラもまた広嶋以外は誰が上か下かは決めにくい。
「私達のレベルになると相性もあるからね。その中で戦闘という面で、一番弱点が少ないのは広嶋くん。完成された防御と完璧な破壊を持ってるから攻守においてバランスが良い。どんな相手でも負けはない」
超危険集団の中でも際立って最強かつ危険人物。それだけの男が今動くのだ。
「シィエラ。お前は離れてろ。巻き込んで殺すぞ」
"自己投影"を前にしても、退く事はなく一歩ずつ彼に近づく。
『ぬぬ~~?なんだ今の?どうやった?』
強力な攻撃が突然なくなったかのような、不可思議な防御。しかし、"自己投影"は怯えることはない。広嶋のカラクリに興味を持った程度だ。
ここに同レベルが3人も揃った。その中でシィエラは"自己投影"との相性の悪さから脱落した。"自己投影"には連戦という疲労や試練はまったくない。自分自身が、立早と同類で神様であることを自負している。つまり、誰にも負けない。
「1勝0敗のくせにな」
だが、奴は意識を自覚しているならばシィエラとしか戦っていない。それも弱ったシィエラに勝った程度。
負けないという自信は結構だが、あまりにも戦っていない。平泳ぎができただけで海豚と並んで泳げる自信を持った馬鹿みたいな面。
こいつも立早と同じだけの馬鹿だった。
自信や妄想だけで強く語るのも結構だ。広嶋はそれについては興味がない。だが、広嶋は自信や妄想だけで作られた悪魔じゃない。
同レベルの3人の中で経験と結果が豊富。神など名乗らなくても(悪魔とか言われてる時点でどうかと思うが)、広嶋にはあらゆる戦場で戦い全てで生き抜いた者だ。藤砂と裏切、それ以外に6人も自分と同じだけの危険な存在と戦った。自信よりも確かな経験と結果を持った方が良い。
「藤砂や灯じゃなく、ミムラに近いタイプの能力か。面倒なだけだな」
"自己投影"の情報は今まで多く知れた。能力をひけらかす事は自分の血を流していることと同じ。
広嶋はまだ自分の能力を全て明かしていない。全て明かすつもりもないが……、
「こんなに近くていいのか?」
『目に見える位置で殺した方が良いのでな』
まだ自らが上とのぼせ上がる"自己投影"。広嶋の手が届く間合いを許した。
「お前が死ぬんだよ」
『あ』
"自己投影"を殴りながら"同士討血"の発動。
細々に存在する繫がれた部品の解体。肉、骨、血管、内臓。そしてそれらを形成している細胞や分子の分裂までこなせる。
シィエラと似た、力の根源を壊す能力は防御し難く、回復には時間が掛かる。威力が高いより確実なダメージの蓄積の方が脅威である。
"自己投影"の保有しているHPがガクッと下がった。
手に触れれば強力な解体が可能。手が届かなくても、対象を指差すことでも解体可能。
広嶋の手に触れて、"自己投影"の体が一瞬で粉のように変わった。細か過ぎる解体。
ふわりふわりと風に運ばれながら、また"自己投影"は形を作りだす。
『な、なんだ今のは?』
異常な回復力は立早の時とは比べ物にならないほど精度を増していた。
広嶋の解体から復活するスピードは広嶋の予測を上回っていた。しかし、立ち上がって来るのはこの程度のレベルに達していれば当たり前だった。広嶋には不安が響かない。
「消えろ」
広嶋に指をさされるだけで"自己投影"の腹に風穴が空き、穴は回復しなければどんどん広がっていく。
気付く前にこれで2回死んでいる。
『ぼ、防御が効かん!?』
理不尽は広嶋の方であった。
なぜなら彼の方が強く、残酷で、容赦なく、狂っているからだ。




