正真正銘のラスボス
『あ』
立早が目覚めたところはとても暗い場所だった。足元すら見えず、意識だけがそこにあった。
『ど、どこだ?どこだここは?』
今まで宿っていた"自己投影"の能力がないという事実が目覚めた時に気付けた。
神に等しい力がなくなり、1人ぼっちになった時。立早は不安で胸が壊れそうだった。
『た、助けて!俺は1人じゃ生きられない!どうすればいいんだ!』
声は響く。
遙か彼方まで透き通ってSOSは発せられた。
『助けてぇ、神様ぁ、怖いよぉぉっ』
急激な精神崩壊。大暴落の立早。
「やれやれ、あの時の威勢はなんだったのだ?」
「説明ガ欲シイノハ俺達ダト言ウノニ」
「!?だ、誰だ!?助けて!誰でも良いから!説明して!」
そんなSOSなど聞き耳は持たん。しかし、情報を求めようと何人もの人々が立早の方へ向かっていたのだ。この黒しか映し出さない世界で魂は生きていた。
そして、立早とは別の生命体となった者。
『うううぅぅっ』
呻き声を上げながら、黒い手は徐々に人の形へと変わっていく。能力者であった立早をベースに形成されていく人体。
全ての根源が意志と肉体を生み出した。
『生存空間、ヨシ』
走る動作をし続ければ当然、いつか息は切れ始める。
『全てを束ねる』
"魔術"であっても、"科学"であっても、"超人"であっても、小さくとも消耗はあり得る。
しかし、この完全体にして神格化となった"自己投影"に消耗は完全になくなった。人間の器を外れた生命体。
"この世界の神は絶対に不敗、絶対の最強、当然の神"
『残りのゴミ共は…………12名。ほうほう、大したものだ。ゴミにしてはよく生き延びる。粗大ゴミではなく、コレクションとして飾ってやろう』
完全体となる前にも立早等が暴れ回っており、シィエラ達人間側の生存者は12名しかいなかった。
"自己投影"は12名を正確に、巨大な稲妻で討ち抜くイメージをした。
天から雷速の一撃を避けられるのはほぼ不可能。
『消えるが良い』
放たれる稲妻を目にした者達は悲鳴すらなく一瞬で消し飛んだ。
生き延びられるのは見かけと思想が合っていないのに、気合を見せた者。
「うおおぉっ!あ、危なっ!雷で死ぬところだった!」
己の体を犠牲にし、二つの稲妻を1人で浴びた。それによって助かった者。
「パンパンくん!しっかりなさい!」
「し、……シィエラさん……」
意識が遠のくパンパン。チート装備を身につけていた事で即死は免れたが、死は回避できなかった。
「だ、だいじょ………ぶ………きぼ……う……は………シィ……エラ……さ……ん………」
チィヨコレィト・パンパン、死亡。
自分は一度だけだったが、彼は二度も自分を救った。回数と重さがまったく違った。シィエラはパンパンのためにも戦うという意識が生まれた。
「ふうぅぅっ」
シィエラに気合や仇討ちなんて、縁のないことだと思う。自分に余力がないならなおさらだった。
しかし、この黒い人間の形をした化け物を目にすればそれらが込み上げてくる。
素の自分よりもさらに強いと断言できる怪物。
『我が殺してやろう。清き女性よ、火葬か?水葬か?選ぶがいい』
「パンパンくんの仇は」
圧倒的な不利でも、戦意が折れないのは努力の積み重ね。しかし、真に残念ながら。大変申し訳ないが、
『死ね』
勝利や結果、生存は努力では掴めない。無駄な努力をいくつも見てきたシィエラには分かっている。
"自己投影"の攻撃がシィエラに放たれた時。
最後の1人の生き残りが現れた。
「そうだな。俺はテメェをただぶっ殺す」
『!あ?』
最後の生き残り。"自己投影"という神様からの攻撃を真正面で浴びながらも、平然としていた者。己の体でシィエラを守ってみせた。
「お前には墓はいらねぇもんな。来る奴もいねぇだろう」
『ゴミが、何をした?』
この悪魔が。
「広嶋くん。少し遅いんじゃない?時間にルーズな男は嫌われるわ」
「仕留められねぇテメェ等に言われたくねぇよ」
正真正銘の悪魔、広嶋健吾には神の攻撃は通じない。




