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私が頑張るとみんな死んじゃいますわ  作者: 孤独
VSシィエラ編
38/57

世の中、才能なんだよ。それが普通なんだよ。努力なんかしない方が楽なんだよ

「うあああぁぁぁっ」



シィエラ VS 立早の決着の少し前。

身震いし、堪らず栞を挟んで本を閉じて、現場から走って逃げるテンバーがいた。読んでいる本からシィエラの"陸困華"の領域が近づいていることを知ったからだ。



「うおおおぉぉっ」



立早の感情が強く書かれ、腐っているとしか例えようもない脳内が小説化されて、それを読まなければいけないという苦痛。氷よりも冷たく痛い。

テンバーは立早とは違う世界から来ており、彼の思想がとても



「な、なんだこの気味悪い頭!うぇぇっ、ここまで読んで寒気がする奴見た事ねぇ」



本を最後まで読むことで対象者を殺害できる力を持っているわけだが、読む物が自分の思想に合っていればとても楽しいことだろう。中身はとても真っ当な想像力に対し、幼児のような文章体が最初から最後まで貫かれた作風だ。時折見せる、謎の決め台詞とポーズに、それらをやるために挿入された要らない葛藤シーンには心が持たない。

テンバーは小休止と避難を目的としてのダッシュであった。



「こ、ここまで来ればシィエラの攻撃は届かないよな?立早経由での情報じゃ詳しく書かれてないのがな」



立早から10キロ離れるとこの本の意味がなくなる。7キロ程度の間合いをとっても2人の攻撃には巻き込まれるテンバー。まだ川城が足止めしてくれた方が良かった。

シィエラの攻撃範囲は着実に伸びてきているが、それよりも早く決着がつくことはテンバーには分かっていた。

なにせ、残り10ページしかないのだから。

残り10ページで何が起こるかは分からない。だが、読みきれば確実に殺せる。

テンバーは座り、どんな文面、内容であろうとこの本を読み切る覚悟をした。



一文目は。



『100000000000000の努力は1の圧倒的な才能に劣る』



シィエラと立早の能力はほぼ互角、お互いの武器に込められた魔力も互角。

では、勝敗はどうついたのか?

能力の根源と記す。



「くっ」



努力を無駄にする能力は確実に立早の努力を奪い取っていた。それを証拠に彼が隕石の如く落とす消しゴムのスピードは確かに落ちていた。

それでも止める事ができなかったのはシィエラの能力の範囲外であるもの。

立早が偶然にも得てしまった。



"理不尽極まりない才能であった"



巨大な消しゴムはゆっくりと落下しながら、シィエラの体を押し潰していく。

力勝負を臨んだ彼女が逃げ(すでにできなかったが)もせず、潰されてもなお立早の努力を根こそぎ奪い取ったが、溢れ過ぎている才能にはまるで無力。彼女自身が無駄な努力をしていた。

地面に体を押し付けられ、消しゴムが1回、2回、3回と。紙がグシャグシャになるほど強く荒っぽい消しゴムの使い方がシィエラを襲った。

服だけでなく、体全体にシワが生まれ、少し身体が縮んだ。そして、皮膚がいくつも千切れだす。手入れを欠かさない桃色の髪がいくつも衝撃で剥ぎ取られた。

勝敗に関わらず、一瞬で女としては観る事が難しい体に追いやられたのは確実であった。

"禁勉"と"陸困華"も、シィエラの魔力も多くが消し飛んだ。



「づっ、うはっ……」



体の痛みは尋常じゃない。それでもシィエラの命を守ったのは己の精神力であった。

単純な才能だけの者がこれほどの傷を負うと、立ち直るのには才能だけでは超えられない。

確かな傷を受けた時の回復力は、川城のような能力でもない限りは繰り返し浴びてきた傷を回復させないと回復力はつかない。

命の途切れを精神で繋いだシィエラに対し、またしても立早は残酷な才能を彼女の前で見せた。



「うげええっ」



立早も多くの努力が無駄にされて、在り来たりにできたことができない事に変化させられたら体が悲鳴を上げる。しかし、微量ながらもリセットされた努力を補おうと、この世界が立早を動かした。



この世界は立早を愛しているかのように体と心を再生させている。



「痛い、痛い、苦しい、苦しいよぉぉっ」



川城のスカッとした打撃を喰らうより、シィエラの攻撃の方が苦しくて痛かった。死に近づくのが遅いから苦しい時間を長く味わってしまう。



「酷ぇぇ、なんて奴だぁ、息、できなかった、苦しい。今も苦しい、喉が焼けてるよ、目がチカチカする、耳に雑音ばっか、震える、腹空いたぁぁ」



できた事、忘れた事がぶり返していることで立早の頭は混乱していった。

知能すら削られれば状況判断能力が大きく削がれるのは当然。また、立早ほど状況を読みきれないとしたら混乱はとても長い。



「ひゅー、ひゅー……」

「あうううぅぅぅ」



お互い、異常な休憩時間とボイスを発していた。

ボロボロのシィエラはまだ起き上がることができず、意識を保つことで精一杯。喰らった傷を回復する能力はなかった。

一方。精神的にも肉体的にもボロボロで攻めるところがないほど、敗北したと言っていいやられっぷりを晒している立早。敗北となったとしても、蘇ってくる非情な回復手段。



「くうううぅぅぅっ」



精神の強さなど立早にとって笑止千万。

痛みが和らいでいき、努力は取り戻せば良いと魅せつける回復力。

シィエラの与えたダメージがどんどん惹いていく。



「ああーーー、あーー」



回復と同時に回復魔法では消せない憤怒をシィエラからもらった。



「ゆ、許せねぇっ」



回復すれば痛みは忘れてしまうものだが、痛くなくともやられたという感覚は強く立早の心に刻まれた。


「女ぁぁぁ!!よくもこの神様を!死に追いやったな!!赤ランプが点滅するほどのダメージだったぞ!」


憤怒に対してまだ回復が追いついていない。それは憤怒がそれだけ強い事を意味する。

川城にやられた際は川城があまりにもその場で強く、反撃できなかったから。しかし、今のシィエラは体さえ回復すれば立早が一方的に葬ることもでき、苦しませることもできた。



「苦しませてやる。俺が味わった苦しみと同じだけ、……いや、俺よりも苦しませてやる。NPCなんて甘えってくらいに苦しませてやる!」



"苦しみ"、"苦痛"、"壊れる"。

立早は頭の中でそれらの単語を引いた。度重なる傷も、回復している立早にとっては



「外傷なんて生温い!死に逃げられる!」



戦国や中世ものの拷問は神様にとっては退屈や、暇潰しにしかならない。立早の求めているのはシィエラの恐怖や苦しみが、己の快感に繫がること。

立早は多く笑われた顔を思い出す。自分には分からない。立場が逆転になればもっと。



「うヴぅぅ」



PCのファンが回っているような音が立早の口から流れた。



「ふぶぶぶヴヴヴ」


自分が自分じゃなくなる。"自己投影"がなければ臆病で、気弱で、馬鹿でしかない立早には、苦しんでいる人をさらに苦しませるという思考をすることができなかった。それを快感に繋げるのが難しい。

心の奥の震えが体に伝わっている。

言葉でも強さでも偽れないのが、自分であるから立早は決断するまでに時間が掛かった。



「うううぅ」



答えはずっと前から出ていたが、自分のHPと外傷の全てが完全回復してからようやく。

自分を捨てられた。



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