いつか復讐してぇっ、そうやって相手の背中ばかり見て来た。
「まったく、殿方は酷いですわ」
巨大な道路の真ん中で横になっているシィエラ。
「あなたのミスが私の体をこんなにも汚した」
後輪に撥ね飛ばされたというのに元気そうな言葉を吐いている。
汚れてしまった事の方がシィエラは傷付いているようだ。
モロに体を撥ね飛ばされたというのに起き上がって行動できるのはやはり"無駄名努力"の力。
飲み込まれたら致死するタイヤが持っていた力。回転数、推進力、摩擦力、圧力、空気抵抗など、あらゆる力を削ぎ落とした。タイヤではなくまるで柱となって相手のスピードは大幅に減速。
だが、シィエラは自分にぶつかるタイヤのみに"無駄名努力"をかけていたため、完全に停止することなく彼女にぶつかった。
「摩擦と空気抵抗は削らなかった方が良かったわね。細かい事がまだできないなんて、鍛錬不足」
傷をもらって勉強した。
撥ね飛ばされたシィエラはサーキット場で置いてけぼり、謎の機械生物はどんどん道なりに進んでいた。そして、このサーキット場は徐々に形を変えて、二人を外に出さないように強固に変わっていく。
揺れを常に感じながら、シィエラは周囲を見渡した。
「あら、馬鹿なのかしら?せっかく、私から逃げられるチャンスでしたのに」
サーキット場から次々に現れるのは、X76の部品が内臓された機械生物。先ほどは巨大な車であったが、今度のは多彩で、犬やら猫やら雉やらとまるで動物園となっていた。
障害物は何もないこの戦場は単純な実力だけが物を言った。
隠れることもできず、逃げにおいても単純なスピードが勝負を決める。
さらにシィエラの前には機械の動物だけでなく、このサーキットで走るための車の形をした機械達も向かっていた。それも、タイヤだけで人の大きさを越えている巨大な車。
この配置はシィエラの弱点が相手に悟られたと考えられる。
「さっきの一撃。やっぱり拙かったわね」
あらゆる努力を無駄にできる能力であるが、努力をしていない力はいかにシィエラといえど消すことはできない。例えば対象者の体積や身長。努力なしとは言わないが、努力よりも才能や遺伝が強い物を完全かつ速攻で消すことはできない。
巨大であれば力が大きいように、シィエラが使用する魔力の量も大きくなる。
弱点を晒してしまったシィエラであるが、体から糸状の魔力をいくつも放出し始め、瞬時に守りにも攻めにも有効な蜘蛛の巣を作り上げる。
さらには白く耀いているのに邪気を発している、鞭も手に握っていた。
やる気満々。弱点が露呈したことで決定打を作るのは数でも、質でも難しい。
「女の秘密を知っちゃったら」
死刑ヨ
シィエラは感情を持たない敵を相手に、口封じを目的とした殺意を見せた。
サーキット場での地上戦が始まった。
「シィエラ。あんまり熱くなったらよー」
一方、広嶋は相手のビームで体を貫かれながらも、巨大な敵を掴んでいた。シィエラの殺意を感じ取り、戦況を遠目で確認した。
「うっかり殺すぞ」
広嶋が掴んでいる敵とは先ほどの車の形をした敵である。
シィエラが地上戦ならば広嶋は車上戦。いや、車の側面で戦うつもりであった。
両足が宙に浮き、敵にしがみ付いている状態。シィエラのように地面に足をつけて戦わないのは、敵に近い方が戦いやすいからという理由でしかない。
しかし、うっかり殺してしまうぞと言っておきながら、広嶋にはもう何十もの銃口が向けられて発射される。
避けるなんてできず、防御もロクにしていない。
いくつか広嶋の体が吹っ飛んで地面に転がって、シィエラのように轢かれてしまった。
右腕だけはしっかりと相手を掴んで、あとは散っていく。
「いてぇじゃねぇか」
右腕が喋るな。そして、右腕だけで動いてはいけない。
敵にしがみ付いたままというのは情けないように見えて、広嶋にとっては最高の間合いとも言える。なにせ、掴んでいるだけで自分の持っている能力の一つ、"投手"を自在に扱えるからだ。
物理法則も生きているのか死んでいるかの法則なんて、彼には存在しない。
文字通り、右腕一本で掴んだ相手を空へと放り投げる。
そして、広嶋の右腕は力尽きたように灰になって消えていく。同時に、ずっと前からそこにいたかのように出現するのが広嶋である。
「おー、高く飛んだ飛んだ」
もう一方の敵にいつの間にか掴んでおり、自分で投げ飛ばした相手を眺めていた。なおかつ、今まで喰らっていた傷が塞がっていた。
「討ち合え」
空に飛んだ敵めがけて、広嶋が認識できる敵の全てが抗うことなく飛ばされる。広嶋のもう一つの能力、"同士討血"である。
敵が多勢という条件ならば、絶対に負けようがない能力とも言える力。
同じ物を呼び寄せてぶつけ合うのは遊びのようにできる。そこからさらにぶつけるだけでなく、互いが互いを消し合うように陥れるまでも広嶋はやってのける。
サーキット場での戦闘は無限に近い数と、絶対的な個を持つ二人が大暴れしていた。
サーキット場から伝わる戦闘の光景と音は外にいる人達にも分かった。
そこへ立ち入ってはいけないと、戦場が叫んでいると理解もできる。それでも人達は心配と不安、応援の意味を込めて見守った。
「釣りの隠語を知っているかい?」
川城だけ、未だ海辺で釣りをしていた。その川城の後ろから忍び寄る男性。彼は無言のままであったが、川城に何をするかは決まっていた。
「大物が掛かるのを待っている、という意味だ。針はつけていない」
手にした釣竿を海に投げ込む川城。そして、振り向き後ろから襲おうとした者と向かい合った。
「なんで後ろをとる?神様はそんなことをするのか?」
川城の質問に神様こと、立早は答える。
「憎い相手を後ろから刃物で刺せば殺せると思っていた。ナイフも隠し持っていた。だけど、今までできなかった」
広嶋とシィエラを足止めしつつ、持ち込んだ川城とのタイマン。
「昔は怖いから。今は相手が強いから。背後から襲うのは想像以上に難しいようだ」
「なぜ、お前はこのような事をしている?」
「自分の理想のため。空っぽでも、理想だし」
立早は自分が悪いという意識が強いことを理解している口ぶり。弱者でもあるからこそ、川城達の気持ちも直接向き合って感化できるのであろう。
追い込まれたことによる成長でもあった。
「何よりこれから俺が戦うのは、俺を護るため以外ない。もう止められない」
「ああ。どんな理由だろうとお前は殺さなきゃならん」




