サーキット場の失態
「失礼するぜ」
そう言って、広嶋はサーキット場の固く閉ざされた扉の取っ手を掴み、引きながら扉をぶっ壊した。
進んで辿り着いた先はスポーツカーが並んでいる車庫。その奥には光り輝く入り口。
「立早が出てくるまで、時間を潰すことと罠に捕まってやらないとな」
「そうね。彼が動かないと、私達も何もできないし」
「こっちに来れば良いが。川城だろうな。餌役は俺がやった方が確実な気がするが……」
キーの付けられたスポーツカーを見つけて乗り込んだ広嶋。
「乗れ」
「なにこれ?」
「車。俺が運転するから、お前は隣だ」
「車って何よ?」
ちなみに広嶋は無免許である。なぜなら、免許取得まで時間が掛かるからだ。運転は灯と藤砂のを見て覚えている。スポーツカーは通常の車とは違っていても、この悪魔の才気は基本を眺めただけで応用まで可能にしてしまう。
エンジン音と共に発進。出口に向かって走り出す。
「まぁ!これは便利ね。あなたとも近くにいられるから殺しやすいし、余計な運動もしなくて進めるなんて」
「触れたら殺すぞ。それからシートベルトは付けんなよ。戦闘が始まる」
注。絶対にシートベルトはしてください。
「ところでさっきの話の続きだけど」
「あ?」
「あなた自身が餌役になるって何?」
シィエラはまた広嶋をからかう表情で訊いていた。そして、感情まで答えてあげる。
「自分で大きな敵を抱えるなんて、口より心は優しいのね」
「敵が増えるのが面倒なだけだし、俺が出るのが一番手っ取り早いからな」
「そんなことないわ。川城にも気を遣っている。あなたは優しいわね。いい人」
そこのところが広嶋が気にしているところ。広嶋の表情が動いており、怒りという照れみたいなものだ。
「うるせーな、殺すぞ」
「それしか言わなくなる広嶋くん。可愛いわね」
やっぱ、こいつは嫌いだと心の中で呟いた。
「あなたのからかいどころ、楽しいわね」
花を見ているような幸せな笑顔を作るシィエラの横。
鬼が逃げ出すほどの殺意と邪気が黒々と吐き出される。広く大きいこのサーキット場の壁にヒビが入り、車庫にあった乗る事のなかった車達が突然炎上するほどの、威圧。
シィエラの横にいる、黒ずんだ悪魔の口が動いた。
「次はねぇぞ」
その言葉と実力は興奮をもたらし、シィエラの肌がブルッと来た。
「はいはい、気をつけますわ。広嶋くん」
なんて。なんて。
強い人なのかしら?
一目見た時から広嶋に惚れた理由が分かるわ。
こいつを玩具に出来たらどんな声を上げるのかしら?
やっぱり立早よりも、広嶋を殺してみたい。苦しませて殺してやりたい。
潰してやりたいわぁぁぁ。この自尊心と実力。立派な黒髪を引き千切って、何も握れない手、護られなきゃ生きられない体にして。
「あなたの事、大好きって言うくらいは良いかしら?」
「それはかまわねぇよ。何人にも言われてるし、何人も殺してるからよ」
「ありがとう。心置きなく」
シィエラは広嶋の顔近くで、興奮している顔に濡れる股。
「大好きだわ、広嶋くん」
調教したらもっと好きになりそう。
シィエラの表情と言葉は一致しそうだったが、受け取った広嶋の表情は先ほどの悪魔染みた顔が消えた。
「敵が来た」
「あらごまかし?」
外の光を浴びながら、サーキット場内に進入。
「えーー……」
一瞬だけ白い光を浴びた2人であったが、すぐに黒い影に飲まれ、轟音が耳に届いた。
「あーー……」
広嶋、シィエラ共に唖然のような声をあげる。
スポーツカーの両サイドを走っているのは車と似ている機械生物。
サーキット内に入ったスポーツカーはとても小さく、一方、機械生物の大きさに合うレース作り。
「でけー」
「ねぇ、広嶋くん」
「ん?」
三車線、四車線という感覚の道ではなかった。このサーキット場、道路の端から端まで巨大なショッピングモールでも建てられそうである。
その巨大さに合う生物が、蟻ほど小さいスポーツカーの横を走っている。
「私達、小さくなってる?」
「それはねぇな。ここがでか過ぎる」
車と同じく巨大な四輪をつけて道路を走り続ける。
立早はX76を手に入れた時、彼の部品を改造してまったく別の生物をいくつも量産し始めた。このサーキット場のみという条件であるが、入ってきた者達を殺すだけの殺戮マシーンに変えている。
「横に二体、後ろに一体か」
相手の腹が変型し始めて、広嶋達に向けられた銃口が作られる。それも逃げ場が一切断たれた数。広嶋はブレーキを強く踏んで二体から並走を回避する行動をとった。それが銃撃からギリギリ逃れられた行動。
だが、後ろに広嶋達を待っている相手もいる。
「降りて良い?」
「いんじゃね?」
シィエラは横の扉から億誌もせず飛び出した。地上へ体が酷く汚れるほど、派手に転がった。
スポーツカーにも銃弾が当たり始め、後方の敵にもぶつかりそうになる広嶋。
後方の敵は両側の敵とは違い、巨大な大砲をスポーツカーに向けていた。
「俺も降りるか」
難を逃れられないと判断し、広嶋も車から離脱しようとする矢先。敵の方が早く、広嶋を襲っていた。
「!やべ、間に合わねぇ」
逃げ場を封じる波動砲はスポーツカーを飲み込んで全てを消失させた。
シィエラの目前でそれは起こり、
「あはははははは!遅っ!広嶋くん、逃げるの遅っ!ダサッ!」
そう言いながら、シィエラもまた。
「あ」
敵の迫って来る巨大な後輪に衝突したのであった。




