広嶋の場合
「くくくく」
「何笑ってやがる、仮面野郎」
広嶋もまた1人で別世界に飛ばされた。
川城とX76が辿り着いた闘技場とは違い、神殿のような場所で仮面を被った魔王のような衣装を身に纏った敵と相対していた。
「お前、死んだぜ」
絶対的な強さを自負する広嶋に対し、相手の返した言葉と行動。
「断言しよう。お前では絶対に私を倒すことはできない」
ゆっくりと仮面の人物はその素顔を現す。
「なぜなら、私はお前の護りたい者だからだ。護りたい気持ちがあれば壊すことなどできまい」
「!お前は」
ありえないことだ。
だが、広嶋の目に確かに映ったのは自分の仲間といえる存在。黒いツインテールがトレードマークで、肌も、顔の形も綺麗な女という枠に入れて良い。
「ミムラ!」
「その通り!沖ミムラだよ!」
広嶋の仲間である沖ミムラの顔がそこにあり、彼女が発するとは思えない言葉を使っている。
「この世界はお前が想う大切な者と戦うこととなる世界」
仮面が外れると同時に、肉付きまでも沖ミムラに変化していく。
「生き残るために大切な者を殺せるか?貴様に大切な女を殺せるか?」
相手はすでに勝ち誇った顔と口調であった。
「くくくくく、あはははははははは!お前に彼女を殺せるか!?」
卑劣。なんたる卑劣。立早の仕掛けた罠は人の心に傷をつけるものであった。
ただし、悪魔の心には傷などつかない。
「バッチィな、このゴキブリ」
「え?」
広嶋はミムラの髪を慣れているように掴み、引っ張り、さらに彼女を強く地面へと叩きつけた。
「きゃあぁっ」
仲間の悲鳴が響けば心が揺れるはずだというのに、揺れもしなかった。
仲間の姿を借りたという逆鱗ではなかった。それならばきっと、頭に血が上るほどの怒りが沸くだろう。しかし、広嶋にはそれがなかった。
大切な者という意味が彼には通じない。
「ゴキブリは踏み潰さないとな」
本気で顔面を潰す踏みつけ。頭から出血しても、仲間を見る目なんてまったくしなかった。
「ちょ、ちょ、ちょ、タンマ!広嶋くん、分かってるの!?私だよ!仲間だよね!?」
「喋んな、ゴキブリ。顔を潰さないとダメか?」
敵(立早の分身)は心の内を明かす。
なんだこいつ、全然踏みつけに加減がねぇ。こんな可愛い女を躊躇いもなく踏みつけるなんて、どーゆう神経してやがる。こんな彼女いて、大切な者だと認識しておいて、なんで平然と攻撃してやがる!?ゴキブリといつも言うなんて鬼畜過ぎる!つーか、どこらへんがゴキブリ?俺はこんな彼女が欲しかったぐらいの、明るい子じゃん!容姿にまでも出ているムードメーカー!胸もそれなりに大きい!
この可愛い顔とスタイルがドンドン崩れていく。女の心と体にも一生残る傷をつけるなんて。男としてどーなってやがる?いや、人間としてどーなってやがる!?
「ひ、卑劣な悪魔め」
「今更だろ」
つーか、この沖ミムラって子も頭どーかしてんだろ!?なんで、この悪魔に好意を抱いてんだ。ありえねぇだろ!どM?ゴキブリって呼ばれて嬉しいのか!?とんでもねぇ鬼畜に恋するなんてオカシイだろ!
「お、お前が薄情だというのは分かった!」
ミムラは顔を隠し始めた。それは広嶋の踏みつけから逃げる防御にも見えた。
広嶋は意外にも踏み付けを止めて、敵の次の行動を待ったのだった。
「大切な者を平然と踏みつけるか。ならばこうしてやる」
「あ?」
大切な者とは違う。何かを立早は映し出そうとしていた。
「どうやら、先ほどの女は大切ではあるが、人としてではなく道具として大切という意味だな」
「今更かよ」
「認めるな、この鬼畜!彼女が泣くぞ!まぁいい。次は貴様の愛した者だ!くくくく、貴様は愛していた女性と戦えるか?」
沖ミムラという大人の女の可愛さから一変、愛らしい姿を持つロリータ。
「広嶋くんが一番愛していたのは、この、のんちゃんです!」
元気な声と共に付けるフリフリのスカートが波のように揺れる。
「死ね!クソガキ」
「ぎゃーーーーー!」
ミムラ状態で傷付いた体も再生させ、まだ幼女といっても良い可愛らしくて愛らしい姿の阿部のんに対し、広嶋は容赦なく顔面を蹴り飛ばした。
「ふええぇっ、痛いよー」
幼女声に大粒の涙。どんなに怒った奴でも、心が動き、あやそうとしてしまう愛らしい行動だというのに。
「もう泣くなって言ったろ?」
「えぅっ……広嶋さ~ん」
「目玉刳り貫いて泣けねぇようにしてやろうか」
「ひぃぃっ」
口にした途端、即座に実行する広嶋。抵抗の行動も言葉も出せないまま、なんてことだ。子供の両目を平然と抜き取った。涙の原料である血液が変わりに溢れ出した。
「い、痛いよぉぉっ。な、なんて、酷いことをするの!それでものんちゃんの味方なの?」
「もう泣かないだろ?良かったな」
こ、子供の両目を抜き取って良かったな……って言う奴がいるか!なんだこいつ、子供相手にも鬼畜過ぎるだろ!鬼畜の意味を逆に聞きてぇくらいだ!限度超えてる!
「このロリコン!幼女好きだなんて、変態!」
「……あ?」
「………ご、ごめんなさい。言葉のあやで……」
「あ~~~~?」
幼女に一番好意を寄せていたとか気持ち悪すぎだろ。真っ当な正義機関で処罰されるべきだ。
「お前、言ってたな。屈辱を受けた時。人は何を思う?っと」
今の発言は軽率だった。容赦なくのんちゃんの顔を殴ってくる。ロリコンという言葉は使ってはいけなかった。この男、少しだけ気にしてやがる。ミムラの時よりも強く殴ってくる。怨み込めてる。
こののんちゃんも頭は大丈夫なのか!?さっきのミムラって女と同じく、広嶋って奴に好意を抱いているようだけど、このど鬼畜野郎といたら死んでしまうぞ。俺は幼女のためならここで命を賭けて忠告できる。こんな男といてはダメだ!死ぬぞ!
「くっ、お前の愛していたというのは心配という意味が強いようだな」
「お前、よく口が動くな。丈夫じゃねぇか。もっとすげーの叩きこんでやろうか?」
「いっそ殺せ!痛いぞ!……それはともかく、最後でお前をひっくり返してやる」
「ほー」
広嶋にとって大切な者とは道具。
広嶋にとって愛した者とは心配する奴。
ならば逆転の発想と、相手が仕掛けたのは
「お前は愛された者を殺せるか?」
最後の変身。
現われたのは女子高生で
「広嶋様ーーー!私は広嶋様の事を愛してます!」
ラブラブっぷりをアピールしながら、広嶋に跳びかかって行く。しかし、広嶋は立派な胸を掴んだかと思えば、肉体を真っ二つにしてしまった。
「死ね、裏切。お前の遊びに構ってる気はねぇ」
「お、おっぱい揉まれて本望です…………」
さ、さ、最後の女もどーゆうこった。こいつ、心と体までどMが染み渡ってるじゃねぇか。沢山痛められると興奮する体質ってどーゆうこった!?
「裏切は人間じゃねぇからな。あいつは攻撃されると喜ぶんだよ」
「な、なるほど」
本気で人間じゃねぇ!この男。仲間もそうだが、どいつもこいつも化け物揃いか。
「つーか。お前よ」
「なんだ?」
「仲間に化けたり、人質にとる奴が勝てるとでも思ってんのか?それほど頭良いのか?」
広嶋はもうお腹一杯といった顔で相手を見下ろしていた。
「そもそも、仲間の姿をした敵なんだ。向き合っても意味ねぇだろ?それから俺の駒に化けるなら、能力まで真似ないと話になんねぇーぞ。無理な話だが」
「あ、確かに」
「なに、『勉強になったぞ』みたいな顔をしてやがる。お前死ぬんだぞ(立早の片割れだろうが)」
「た、確かに」
相手を叩き潰し、広嶋もまた新たに現れた扉に入っていく。
わずかに恐れていた事が現実になりそうだった。
馬鹿な頭を持っている立早が成長しようとしている。これほどの能力を授けられたなら、能力にかまけて知能を劣らせる事もありえた。




