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修羅馬鹿③

「待ってくれ!」



これはまだX76が人間であった頃のお話。

向こうの世界では意外にも家庭を築いていた。まだ修羅に入っていない彼は恵まれていた……のだと思っている。お金に困らず、愛せる人がいて、子供がいるのだから。

警備員のような職業をやり、週に1回は何かと戦うハメになっていた。こちらの方が多勢であり、そこまで強くなくとも周りが一丸となって抑え込める。

ボチボチの強さと地位に似合わず、幸せな箱庭にいた。それは世界が理不尽と思うだろう。いずれ、彼もそう思ったものだ。



「妻と子供には手を出さないでくれ!」

「やかましい!」



理不尽は唐突に起こった。

目の前で妻と子供が、複数の人間に拉致されてしまったのだ。その際、戦ったX76は人間ではいられないほどの傷を負った。

向こうの神様がギリギリで生かし、彼は自分の体を治すだけのお金がまだあった。



「体を機械にするしかあるまい」

「……それはできるのか?」

「私は一番の機械師だ。だから、お主達に守られている。金は実験込みで半額としてやろう」

「そうじゃない」



X76はあっさりと機械化を受け入れた。人間を捨てるという言葉が分かっているのか?本当の重さを知りながらも、頷いていることに多くが驚いた。

サイボーグ技術は今、確実に日進月歩で進んでいた。実験できる幅と時間が広がり、成功が明るみになる一方、失敗は闇に葬っていた。機械化とは犠牲無くして生まれない。



「俺は、妻と子供を取り返せるのか?」



願いだけでは強くなれない。

1人では太刀打ちできない。命ある限り。時間を費やしても、向上出来る修行があっても、在り来たりで確実な犠牲では取り戻せないと感じていた。

怖かった。

妻と子供と暮らしていた記憶が掠れていく時間の流れが怖かった。


一刻も早く、一刻も早く。心に手が浮かび上がるほどの訴えだ。



「妻と子供を取り返すんだ」



選んだ時、一方は必ず捨てていた。人間を捨てて得たのは強大な武力。どれだけ修行と時間を犠牲にして、辿り着けるのか分からないほどの武力をわずか1日で手にした。



「コレガ、俺カ」



武力と引き換えに人間を捨てた事を鏡で見た。

思ったより絶望はなかった。自分がそれだけの覚悟を宿していたからだ。手にした強さに幸福を実感した。何でも守れる、失わない。確かな強さだった。

その強さに駆られてすぐに妻と子供を取り返すため、連れ去った者達に復讐をした。



「な、なんだこいつは!」

「撃て!撃て!撃ち殺せ!」

「ダメです!こいつに銃弾も剣も通りません!」



震えながら銃を握っていても、連中の発する声が自分よりも軽い苦しみであった。

X76に対しての恐怖と確実な死に怯えている。



「俺ノ怒リニ触レテ、ソレダケナノカ」



あの時、守れなかったという恐怖を機械となっても覚えていた。屈辱だった。寝つけられないほど苦しい。生きている事は苦しみじゃねぇかっと、公言し、世界中にばら撒いてもいい。

X76は数がまったく通じないほど強くなりすぎた。

家族を取り戻すと同時に終わった復讐。

始まったのは本当の修羅場であり、X76はこの時まで知らなかった。



「だ、誰です!?」

「俺ダ!ジュリー、君達ヲ助ケルタメニ俺ハココマデ捨テタンダ!」



怯えた妻と子に、自分の名を強く叫んだ。

人間だった声ではなく。取り付けられた機械音での叫びは心がない事を相手に伝えていた。



「嘘よ!化け物!」



お金は分かりやすかった。心は分かりにくかった。



「近寄るな!!私と、私の子供に、近寄らないで!!化け物!!」



泣き出す子供と妻が強く、夫に訴えていた。

心を持ち、真実を語っている声色で残酷に心を突き刺す。銃弾よりも痛く、妻と子供を守れなかった時よりも悲しく。人間じゃない自分を見たことはあったが、自分が人間じゃなかったと知らされたのはこの時が初めてであった。

それほど、夫は妻を愛していた。しかし、妻は夫を愛してはいなかった。道を外したことが恐ろしいと後悔。



「俺ダ。冗談ダロ。オ、思イ出シテクレ。ジュリー。俺ノ名ヲ言ッテクレヨ……?」

「いやあああぁぁっ、来ないでぇぇっ!」



錯乱したX76と同じく。妻も混乱していた。目の前で連れ去れた者達が彼に殺されるところを目撃していた。夫への愛が薄ければ子供に対する愛も少なかった。

妻がとった行動は自害であった。

殺されるという緊迫感が己の心で耐えることができず、逃げ出すように死を選んだ。首を綺麗に突き刺し、グッタリとその場に転がった。



「お、お母さん!」

「ジュリー!」



多くの人間を殺せる力を手にしながら、たった一人。それも愛した人を救える力がなかった。

そこからはX76の記憶は霧に包まれた。

子供を守るようにではなく、二人を連れ去った連中と同じく首輪をつけてまで子供を生かした。この殺せる力を守れる力に変えて、子供が自分に怯えて自殺に向かわないよう。


我が子を8ヶ月間監禁し、生活した。


そして、子供は衰弱死する。

死ぬ1ヶ月前からX76と言葉を交わすことはなかった。




人間と、愛と、お金と、家族を失ってからようやくX76はX76としての心を作り出した。

自分が化け物であることを完全に認識し、それが当たり前だったとインプットした。

人間を捨てても、命を続ける目的は捨てなかった。

X76の目的?

あの時、妻と子供を幸せに救える強さを持つことだった。


もう無駄な努力じゃねぇか。




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