立早、大勢で自問自答
「な、な、なんでだーーーー!?」
送り出したはずの最強装備をする部下達が悉く返り討ち。
全員の一部始終をチェックし、愕然とする立早。
「ば、馬鹿な最強装備だぞ。さ、最強の装備だぞ!なぜあいつ等は死なない!なぜあいつ等がチート装備をつける?」
ラスボスが勇者一行に部下を差し向け、返り討ち喰らった時に見せる反応の一例だ。
「相手を強くしてどうする!?無能な部下共め!俺に死ねと言っているのか!!」
部下を放り出すまでは自分が広嶋達より上だと核心していた。しかし、立早は広嶋達が気付いているように経験がまったくない。能力とステータス、ほんの少しの工夫ができる者が勝つと考えている。
総合力がこの世の全て。と考えている敗者だ。
「ま、ま、まだだ。俺には沢山の部下(NPC)がいる!俺を殺そうとするなら、先に殺してやる!俺が生きている限り、この世界は俺の世界だ!」
立早は慌てふためく。
奇跡と言っていい、"自己投影"の力の習得は諸刃であった。シィエラしかり、川城しかりどんな能力も一歩目は非力であった。ただ快足で最強に近い能力まで上り詰める才能もあり、鍛錬をしていた。だから、強い以上の力を発揮する。
今の立早には挫折と逆境、苦味が少ない。だから、精神的に4人も来たら勝てないと認めている。そして、事実である。
「落ち着け、落ち着け~。部下を出してどうする。おいぃぃっ、無能な人間に任せていいのか。俺こと神様」
再びチート装備を作っても、川城等がやるように奪われたら意味がない。
永遠の繰り返しになる可能性も有り、システムのカンストに到達する恐れもある。
立早が頼ったのは意志を失った部下ではなく、自分であった。
「最初と同じだ!」
天変地異とは比較にならないほどの衝撃を呼び寄せる。
創生と破壊が伴っていた。
「全部、消えてしまえ!あとで全部創り直してやる!」
慌て過ぎて、少し前の思考を忘れていた。危険であるから使用を拒んだはずなのにもう実行。
最終手段とは本来、使ってはいけない。自爆を頭に入れてスイッチを押すモノだ。
どれだけの威力が生まれるかはなってみないと分からない。
「ふーぅ、ふーぅ」
荒げる息がやがて、怯えて止まるのに時間は掛からなかった。
立早が作り出した全ての存在が重力を失い、平面に向かう。地面にある微妙な凹凸も激しく動きながら、綺麗な平面に変わっていく。新しい世界構築。
空は落っこちる。山は平らへ、海は乾き海底を露出。雪も溶けていく。街の建物も風化していき、ボロボロと崩れて灰となって、地面の一部となった。
新たな世界に旧世界の人間は要らないと告げるように、無慈悲な雷がいくつも人間達に降り注いだ。NPCは動くことができず、それが世界の答えだと受け入れて本当の死を得た。
「あ……」
立早が拠点としている城にもその影響は来た。
まさか自分の城まで壊れ始めるなんて思わなかった。そして、『やってしまった』という表情を作り出した。最後の最後で彼が思ったのは愛着だったのだ。
作り上げた時間は1ヶ月以上にも及び、それほど長くこんな出来事をやれたことはあまりない。積み上げてきた物だったと、壊れ始めて強く思えた。
努力とは違うかもしれないが、立早はナニカに継続をしていたのだ。
「!な、なんだこの手は!俺を捕まえるな!」
崩壊に巻き込まれると同時に突然現われた黒い手が立早を包み込んだ。
この世界にある時間が存在しない場所に放り込まれた。周囲はまったく見えないほど暗闇であり、一瞬異世界に来てしまったかと驚いた。だが、奇妙な温もりがまだ自分の世界だと教えてくれた。感じたのだ。
『な、なんだ。おい!暗いぞ!周囲を照らしてくれ!』
時間が存在しない世界ではいくら立早の力を用いても、働かない。時間がなければ働きも遊びもできない。立早の意識と、もう一つの意識だけがこの場所で時間をもらっていた。
『灯りよ、点け!』
立早がいくら声を出しても周囲は暗いまま。この世界にあるもう一つの意識が声を出した。
『臆病だな』
『だ、だ、だ、だ、だだだ、誰だ!?お前、ここここ、殺すぞ!』
ビクッと体に緊張が走り、声が震えていた。なにせ、"自己投影"が使えない空間に放り込まれた、人間以下のくせに人間をやっているのだから。
『び、び、びっくりするだろ』
『お、お前もかい!』
立早の緊張が相手にも移ったようだ。なにせ相手は
『俺だ』
『誰だよ?』
『俺だよ』
『名前は?』
『お前だよ』
『お前?』
『分かれ馬鹿!』
『お前の説明が悪い!』
この説明不足感。
『ジャニー・立早だ』
『奇遇だな、俺もジャニー・立早ってんだ』
そして、この状況把握能力。
『!……そうか、お前は俺か!』
『やっと気付いたか。馬鹿め』
『自分に馬鹿って言ってどうする!』
出会ったのはもう1人の自分。
『精神が二つあるなんてオカシイだろ!この偽物!』
『なんだと?俺が偽物だと!それはお前だろ!』
自分同士言い争いをすれば、どちらの心にも傷が付く。そして、同じだけ痛んだことも理解できた。
そして同時に
『お前はなんだ?』
『さぁな?』
『俺の善と悪みたいな別れか?』
『俺の常識と非常識みたいな別れか?』
『知らないぜ』
お互い出会った自分。悩みはお互い誰なのかではなく。
『どうすればいい?』
『今の状況をか?』
『広嶋、川城、シィエラ、X76。奴等と戦えない』
『俺もそう思う』
『なんで奴等と戦うことになったっけ?』
『俺達のせいじゃね?そもそも呼ぶ相手を考えれば良かった』
『浮かれていたって事か。死んだらどうなるんだ?』
立早がどうして謎の黒い手に巻き込まれたかは後々気付く。
暗い世界の中。自分しかいないこと。
『2人で悩むなよ。3人』
『いや、4人』
『5人』
『6人』
『7人だ』
全員が立早。馬鹿が何百人、何千人と揃ったところで馬鹿でしかない。しかし、馬鹿は馬鹿だから。同じ自分がこんなに囲まれているというだけで、踏み出す勇気を生んだ。
仮想の大衆によって心を再生させ、安定させる。
『俺達は戦おう!』
『おう!』
『俺達は神なのだ!』
確固たる理由は誰よりもない。なにせ、この世界を作り出した人間。自称している神様が、まさか下賎である人間達と戦ってやるという意志をどうして持つ?
『俺達は戦う!』
"自己投影"の防衛本能。立早の深層心理によって働き、彼の臆病さを一時的に改善。さらには補修し、強化した。強化といってもまだ一般人にすら到達していないメンタリティーだ。
なんであれ意志がなければ"自己投影"はもっとも使えない能力である。
「俺は戦う!…………ハッ!」
立早が我に返った時、自分1人しかいなかった。
だが、寂しさはなく。使命感を目に宿し、自信を知らずに取り戻した。
「俺は1人しかいなかったか」
冷静に頭を回した。
世界は急速に壊れていっているというのにNPCには広嶋達がいない。彼等は生きている。しかも、結構の人数で生きている。
ニューロードされる世界にも奴等はいる。
「なら、あいつ等も1人になればいいな」
立早は『自分が悲惨だった』と解釈していた。
だから、辛いという言葉を聞いただけで肉体と心がどれだけ傷付くか理解できる。
そして、傷を知るから傷を抉る術を知っている。
もっとも、傷を抉る術をするのは神様となってから初めてであった。




