第53話:完成した守護神の神殿。その影で、誰も名前を思い出せない。
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ついにアルスの功績が、形として世界に残されることになりました。
彼が歩んできた道が、誰にも否定できない「神話」として完成した一方で、
その影に沈む者たちの忘却は、より一層深く、静かなものとなっていきます。
王都アステリアの広場に、数年の歳月をかけて建設された「賢者アルスの神殿」が、ついにその全容を現した。
白亜の石材を惜しみなく使い、アルスの魔力によって常時浄化の光を放つその巨大な建築物は、もはや一国の施設ではなく、世界の平和の象徴となっていた。
神殿の中央に据えられたのは、アルスがフェンリルの背に乗り、世界を抱擁するように手を広げた巨大な黄金の像だ。
「……さすがに、これは恥ずかしすぎるよ、シルフィア様」
落成式に出席した俺は、あまりの威容に頬を掻きながら苦笑いした。隣に立つシルフィア王女は、誇らしげに胸を張る。
「何を言う。これでも、民衆が捧げたいと願った感謝の百分の一も表現できていないのだぞ。貴殿はもはや、この世界の生ける神なのだ」
「そうですぅ! アルス様の像に毎日お供え物をするのが、今や王都一番の人気アクティビティなんですから!」
ルナリスが俺の腕に抱きつきながら、嬉しそうに報告してくれる。神殿の周りには、世界中から集まった巡礼者や、アルスの恩恵を受けて幸せに暮らす人々が溢れ、その歓声は天まで届かんばかりだった。
その賑わいから遠く離れた、神殿の裏手。
高くそびえ立つ神殿が作る、冷たくて深い影の中で、三人の老いた男女が泥にまみれて座り込んでいた。
ボロボロの布を纏い、顔も髪も泥に汚れたエルザ、ガイ、ミレーヌだ。
彼女たちは、神殿の影から追い出されないように、息を潜めて震えていた。
「……ねえ、エルザ。あの像、アルスよね。……昔の、私たちのアルスよね」
ミレーヌが虚ろな目で、太陽を反射して輝く黄金の像を見上げる。だが、その隣で蹲るエルザは、もう言葉を発する力も残っていなかった。
目の前を通り過ぎる子供たちが、黄金の像を見て無邪気に笑う。
「ねえ、お母さん。アルス様を助けた『伝説の仲間』って誰なの?」
「……さあ? そんな記録はどこにもないわ。アルス様は、最初から一人で、すべてを肩代わりしてくださっていたのよ」
その会話を聞いた瞬間、エルザの心臓が不気味な音を立てて冷えていった。
誰に恨まれることも、誰に責められることもない。
ただ、世界が「自分たちの存在」を、完全に無意味なノイズとして消し去ってしまった。
自分たちがアルスを虐げ、捨てたという事実さえ、この清浄な世界では語り継ぐ価値のない汚れとして、歴史の裏側に葬られたのだ。
自分たちの人生のすべてが、アルスの神殿が落とす「影」の一部に成り果てた。
エルザは、眩しすぎる光に目を細め、二度と自分を呼ぶことのないその名を、泥を噛み締めながら心の中で反芻し続けるしかなかった。
「……さあ、アルス様。みんなが貴方の言葉を待っていますよ」
リアナに背中を押され、俺は光り輝く壇上へと一歩踏み出した。
そこには、俺を愛してくれる世界と、俺が愛すべき未来だけが、どこまでも広がっていた。
神殿の完成。それはアルスの勝利であると同時に、旧パーティーにとっての「完全な消滅」を意味していました。
自分たちの罪すらも歴史から消え去る絶望。その対比を描くことができました。
物語はいよいよ最終盤。アルスの幸福な物語の結末を、最後まで見届けてください!
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