第31話:魔王、お忍びで領地に来る。
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ついに魔王本人が登場しましたが、戦いではなく「酒」に釣られての訪問となりました。
アルスの作る豊かさは、種族間の壁すらも容易く越えていくようです。
ハルバート領に新しくオープンした、ガルド商会直営の酒場。
そこは今、大陸中から集まった最高級の酒と、俺の魔力で育った極上の食材が楽しめる場所として、連日大盛況となっていた。
そんな賑わいの中に、一人、異様な威圧感を放つ大男が座っていた。
漆黒の外套を羽織り、深くフードを被ったその男の前には、俺の領地特産の『霊水仕込みの銀麦酒』が置かれている。
「……ほう。この酒、魔界の深層にある名酒すら児戯に等しい。これほどの純度、一体どのような魔術を編めば生み出せるというのだ」
男が独り言を漏らす。その正体は、魔族の頂点に君臨する魔王その人であった。
斥候たちから聞いた「底知れぬ賢者」の噂を確かめに来たはずが、彼は最初の一口で、この領地の「豊かさ」の虜になっていた。
「お待たせしました。こちら、本日のおすすめ『黒鋼竜の網焼き』です」
俺が自ら皿を運んでいくと、男の視線が俺を射抜いた。
正体を隠しているつもりだろうが、俺の目には彼の内側に眠る強大な魔力の渦がはっきりと見えていた。
「……あんた、いい飲みっぷりだね。気に入ったなら、おかわりも持ってくるよ」
「……貴様が、この地の主か。……フン、これほど無防備な魔力の器を私は知らん。だが、その瞳……まるで世界すべての重荷を背負う準備ができているようだな」
魔王は俺の正体を見抜いたのか、不敵な笑みを浮かべてグラスを掲げた。
一方、王都の場外。
魔族の影に怯え、震えながらゴミ山を漁っていたエルザたちは、遠くに見えるハルバート領の灯りを呪わしげに見つめていた。
「……ねえ、エルザ。あっちからは、凄くいい匂いがしてくるわ。……お肉とお酒の匂い。昔は毎日、アルスが用意してくれていたのに……」
ミレーヌがよだれを垂らしながら呟く。
かつては最高の食事を「口に合わない」と投げ捨てていたエルザ。
彼女は今、自分が捨てた男が、正体を隠した魔王とすら対等に酒を酌み交わしていることなど想像もできず、泥にまみれた空腹に身をよじらせていた。
「うるさいわね……! あんなの、全部幻よ! あいつが……あいつだけが幸せになるなんて、絶対におかしいわ……っ!」
エルザの枯れ果てた声は、領地から響いてくる賑やかな音楽にかき消される。
魔王ですら魅了されるハルバートの夜は、優しく、そして残酷なほどに輝いていた。
魔王とアルスの、静かながらも緊張感のある邂逅。
この領地での出会いが、今後の世界の運命を大きく変えていくことになります。
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