第30話:魔族からも蔑まれる、かつての聖女様。
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魔族の視点から語られる、アルスの絶対的な格の違い。
そして、その名声を利用しようとして、逆に敵からも軽蔑されるエルザたち。
自業自得という言葉では足りないほどの格差が、ここに極まりました。
王都から遠く離れた、霧深い街道の影。
アルスの名を出し、魔王軍の斥候を追い払ったあの日、俺はそのまま領地の巡回を続けていた。
一方、俺が逃がしてやったあの斥候たちは、退却の途中で「獲物」を見つけていた。
それは、飢えと寒さでボロボロになり、街道の隅でうずくまっていたエルザ、ガイ、ミレーヌの三人だった。
「ひっ、魔、魔族……!? 来ないで、あっちへ行ってよ!」
エルザが悲鳴を上げ、泥だらけの手を振り回す。
斥候のリーダーは、獲物を見る冷酷な瞳で彼女たちを見下した。
「……ほう、ただの人間か。だが、その汚れた法衣……貴様、かつて聖女と呼ばれていたエルザではないか?」
エルザは、魔族が自分の名を知っていたことに、一瞬だけ卑屈な希望を抱いた。
「そ、そうよ! 私は聖女エルザ! 私を助ければ、後でたっぷりと報酬を……そうだ、アルス! あのアルス男爵だって、私の幼馴染なのよ! 私を傷つけたら、あいつが黙っていないわ!」
その言葉を聞いた瞬間。
魔族のリーダーの顔から、一切の感情が消えた。
「……貴様、今、何と言った?」
「だ、だから、アルスは私の――」
「黙れ、下衆がッ!!」
魔族の怒声が森を震わせた。彼はエルザの胸ぐらを掴み上げ、地面に叩きつけた。
「先ほど、我らはおあつらえ向きにその御方……アルス様とお会いした。その底知れぬ慈悲と、神のごとき魔圧。我ら魔族ですら、魂の底から敬服せざるを得ぬ御方だった」
魔族は吐き捨てるように言葉を継ぐ。
「だが、風の噂で聞いていたぞ。その至高の御方を『無能』と蔑み、道具のように使い潰して追い出した大馬鹿者がいるとな。……まさか、それが貴様らだったとはな」
「え……?」
「貴様らを殺す価値すらない。アルス様の慈悲によって生かされている我らが、その御方がかつて守ろうとした『ゴミ』を掃除するなど、不敬極まりないからな」
魔族たちは、心底汚らわしいものを見る目でエルザたちを睨みつけると、そのまま霧の中へと消えていった。
「……あ、あはは……魔族にまで、見捨てられた……」
エルザは、泥の中に顔を埋めて笑った。
かつて自分を全霊で守ってくれた男は、今や敵対するはずの魔族からすら敬意を払われる存在になっている。
自分たちが捨てたのは、ただの仲間ではない。
この世界の誰もが跪く、「絶対的な守護」そのものだったのだ。
その頃、俺は領主館に戻り、リアナが用意してくれた温かい夕食を囲んでいた。
フェンリルが足元で甘えるように喉を鳴らし、女神と王女が賑やかに笑っている。
……もう、あの冷たい霧の中にいた頃の記憶は、ほとんど思い出せなくなっていた。
魔族ですらアルスを敬い、エルザたちを蔑む。
この徹底した「世界の評価」こそが、アルスの歩んできた誠実な道の証でもあります。
物語はここから、魔王本人との接触という未知の領域へと進みます。
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