第29話:魔王軍の斥候、聖域の魔圧に当てられて戦意を喪失する。
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ついに魔族の魔手(?)が迫りますが、アルスにとっては散歩のついでに過ぎませんでした。
格の違いを見せつけるアルスと、その足元にも及ばない旧パーティー。
物語のスケールは、いよいよ魔界をも飲み込もうとしています。
ハルバート領の境界付近。そこは今、人族の領地とは思えないほどの濃密な精霊の力に満ちていた。
その森の陰から、漆黒の装束に身を包んだ三つの影が、領主館を窺っていた。
「……報告にあった通りだ。この土地、異常すぎる。マナの密度が魔界の聖域すら超えているぞ」
魔王軍の隠密部隊、そのリーダー格である男が戦慄に声を震わせた。
彼らは魔王の命を受け、大陸を震撼させている「救国の賢者」の正体を探りに来たのだ。
「隊長、見てください。あの領主館の周りを飛んでいるのは……伝説の聖獣フェンリルではありませんか?」
「馬鹿な。あんな災厄の化身が、なぜあんなに無防備に腹を見せて寝ているんだ……。……待て、誰か来るぞ」
彼らが息を殺した瞬間、俺はフェンの背に乗って、散歩がてら境界の森までやってきた。
隠れている彼らの存在には、もちろん気づいている。
「……そこ。あんまり殺気を出しすぎると、うちの精霊たちが怖がっちゃうから、控えてもらえるかな?」
俺が静かに声をかけ、指先で少しだけ魔力の『蓋』を緩める。
――ズゥゥゥゥゥン……!
ただの威圧ではない。彼らがこれまで信じてきた「世界の理」を塗り替えるような、深淵の魔圧が森を包み込んだ。
「ひっ……!? なんだ、この重圧は……! 魔王陛下ですら、これほどの……」
魔族の斥候たちは、膝を突くことすら許されず、その場に平伏した。
俺に敵意がないことを悟ると、彼らは恐怖を通り越して、ある種の「神後」にも似た畏怖を感じていた。
一方、王都の裏路地。
逃亡を続けるエルザたちは、魔族の影に怯えながら、ボロ切れのような毛布に包まっていた。
「……ねえ、エルザ。もし魔族が攻めてきたら、私たち真っ先に殺されるわね。アルスさえ、アルスさえいれば、守ってくれたのに……」
ミレーヌの震える声に、エルザは答えなかった。
かつて、魔族の気配がするだけでアルスの背中に隠れ、彼を盾にしていた自分。
今、そのアルスは魔族すらもその存在感だけで屈服させる、世界の守護神になろうとしていた。
「帰って、魔王陛下に伝えろ。ハルバート領には、決して手を出してはならない『深淵』がいるとな」
俺がそう告げると、斥候たちは弾かれたように逃げ去っていった。
ハルバート領に、また一つ、新たな「伝説」が刻まれた瞬間だった。
魔王軍の斥候すら戦慄させるアルスの魔圧。
彼の存在は、もはや人族の枠を超え、全種族にとっての「希望」か「絶望」かの二択になりつつあります。
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