希望があるなら
片足を失った不利などなかったかのように、アリステラの攻撃は緩むことはなく苦戦を強いられていた。
ゴルドンとメーニンが風の刃と斧で二人がかりで斬りかかるが、攻撃が当たる様子は一切なく、いとも容易くいなされている。
「メーニン!『強欲の泉』の場所は?!」
「今、私が向いてる方角を真っ直ぐ行けばあるけど……どうして?」
「アリステラさんを……治せるかもしれないんだ!」
「「――ッ!」」
「どういうことだ!ヒロタカ!!」
「詳しくは省くが、『強欲の泉』を使えば希望はある!!」
アリステラは黒い靄のかかった本。その封印を『強欲の泉』で解除できると言っていた。
その本にかかっていた靄とアリステラにかかっている靄……偶然とは思えないほど瓜二つであった。
アリステラの靄と本の靄……、同じであるという確証はない。だが、希望があるのなら縋りつきたい。
「分かった、アリステラを『強欲の泉』まで運べばいいのね」
「あぁ、協力してくれるか?」
「おう!」「えぇ!」
アリステラを殺したくない。救いたい気持ちは皆同じ。断るはずがなかった。
向きは前方……、戦闘によってズレはあれど距離は300メートルほどだったはずだ。
背を向けて『強欲の泉』まで駆け抜ければすぐだろうがアリステラの速度を考えると隙を見せるだけで終わるだろう。
攻撃をしのぎながら徐々にって手もあるが、300メートルもある……その間アリステラさんの攻撃を耐えるってのは厳しい……
ヒロタカが思考を繰り返していると、眼の前にアリステラが現れる。思考に没頭してしまっていたヒロタカは反応が遅れてしまう。
「――ッ!まずい……!!」
反応の遅れはたった数秒の遅れであっても命取りだ。
短剣を如意棒に当て攻撃防ぐが、短剣を弾かれ手から失ってしまう。
短剣が手から失ってしまえば、ヒロタカは成す術なくなってしまう。短剣は未だ宙を舞い地にすら着いていないのに、アリステラの如意棒は既にヒロタカを捉えていた。
せめてっ……ダメージを最小限にっ ……!
左腕に魔力を巡らせ、如意棒の狙う先に用意する。左腕は無事では済まないが少なくとも致命傷は避けられるだろう。
だが、訪れたのは如意棒の硬い衝撃ではなく、アリステラを吹き飛ばす強力な風であった。
「助かったぜ!メーニン!!」
間一髪、メーニンが風の魔法でアリステラを宙へ舞い上がらせる。
それは、ヒロタカを救うと共にチャンスを作った。
ヒロタカは足に魔力を巡らせ、大地を蹴りアリステラに接近し、体を翻し足の甲を衝突させる。その蹴りは如意棒によって防がれてしまうが、ヒロタカは足に貯めた魔力を解放させ、さらなる衝撃を加える。
出来れば斜め上を狙いたかったが、真っ直ぐに入れられただけ御の字だな。
蹴りをくらい、アリステラはその衝撃に流されるまま、吹き飛ばされる。
アリステラを追いかけていると、次第にゴール地点……『強欲の泉』らしきものが見えた。泉というには陳腐なもので豪華な噴水と言うのが正しいが、恐らくあれが『強欲の泉』だろう。
「――っ!足り……ねぇか!」
「はん!だったら伸ばしてやるよ!!メーニン!」
「分かった!」
ゴルドンの呼びかけに呼応し、メーニンはゴルドンの足に風を纏わせ、アリステラと同じくらいの高さまで飛び上がる。そうして、足に纏う風を蹴り上げ、斧を振りかざしアリステラに突撃する。
金属同士がぶつかり合い、鈍い金属音が鼓膜を震わせる。その衝撃はアリステラを『強欲の泉』まで吸い込ませた。
それでも、『強欲の泉』に入れるにはまだ足りなかった。アリステラの体はどんどんと高度が下がっていく。宙に無造作に放り出されたような体は地に叩きつけられる準備が出来ていない。このまま行けばアリステラの体は柔らかな豆腐のようにグチャっと崩壊するだろう。
「あと……一歩ォッッッ!!!」
ヒロタカは強く足を踏み込み宙に踏み込む。抵抗なく地へ落ちるアリステラへ接近し、アリステラへ腕を回す。柔らかな肉体を筋肉を固め、如意棒を震わせないよう腕ごと固定する。地に向かっていた体はヒロタカと共に『強欲の泉』へと進路を変えていた。
直後、『強欲の泉』の水面から大きな水柱が立った。




