地獄を終わらせる大きな一歩
冷たいものが体に纏わりつく。
払っても払ってもそれが体から離れることはない。纏わりついているのはただの感覚で、正しくはそれに包まれているからだ。
包まれたその膜を2人は破り、水面から顔を出す。髪は濡れ、毛の先端から水が零れ落ちる。髪は纏う水の重さに敗北し、顔を覆わんとした。
滴る水を目の周りから払い除け、ヒロタカはアリステラに視界を移す。アリステラに纏う黒い靄は見る影もなく消滅していた。
「……ッ、アリステラ……さんっ!」
「――?ヒロタカ、か?なんで二人して濡れて……?」
今にも泣きそうな声で、アリステラの名前を絞り出す。黒い靄も消え、アリステラと言葉を交わせる。ダクラの支配は消えた。絶望の中、縋り付いた希望は応えてくれた。
少し、離れたところから不安そうに見つめるゴルドンとメーニンも一転、安堵の表情を浮かべる。
「ヒロタカ……、簡潔でいい状況を説明してくれ」
「アリステラさんが、ダクラに乗っ取られて……それで、ダクラ倒してもそのままで、でも『強欲の泉』ならって」
嗚咽を漏らしながらも冷静に、アリステラに状況を伝える。ヒロタカは必死で泣くのを我慢していたが、その頬には熱いものが流れていた。ヒロタカはそれを『強欲の泉』の聖水と自分を誤魔化していた。
「なるほど、片足がないのはそれでか……」
「うっ……」と痛いところを突かれたようにメーニンが苦い表情をする。
無論、アリステラは仕方ないことだと割り切っているが、メーニンはそう簡単にいかない。しかし、今はそんなことを悠長に考えている暇ないのだ。
「ダクラは倒したのだろう?ならば『強欲の泉』奪還まではあと少しだ。残りは雑魚の殲滅。気合入れて行くぞ」
そう言って立ち上がり『強欲の泉』から出ようとする。しかし、バランスを崩して膝を折ってしまう。
「アリステラさん……!」
ヒロタカは咄嗟にアリステラの左肩を支える。腕を肩に回して、歩行の補助に徹する。
「ったく、その状態で戦う気か?」
「あぁ、操られている時私は違えていたのだろう?ならば、戦えぬ道理はない」
ヒロタカの腕をどかし、一人で前へ進もうとする。しかし、歩くことさえままならずその場に倒れてしまう。
「アリステラさんは休んでてください!俺達が残党をぶっ倒しますから」
倒れたアリステラの腕を再度肩に回し、『強欲の泉』の縁に優しく座らせる。
「――、そうだな……このままでは足を引っ張るだけ……か。何もできぬのはやるせないが仕方ない。任せたぞ、皆」
「はい!」
強く、アリステラの言葉に応え、それぞれ残党を殲滅しに向かった。
―――――――
生臭い朱色で染まった石畳の上を歩く。この場所は昔、王都だったらしく、土に埋もれていたが石畳が現れた。
少し遠くを見ると大きな廃城も見えた。厄災前、人が住んでいたことが伺える。
「魔獣は……もういなそうだな……」
元王都を探索し、魔獣の影を探すがそれらしき影や気配はない。全て殺したか逃げられただろう。
「ヒロタカ君!そっちはどう?」
「一通り見たけど、居なさそうだった。そっちは?」
「私の方も居なさそうだったよ」
王都は思ってた以上に広く、メーニンやゴルドン達と手分けして魔獣を探した。結果、メーニン側もそれらしき影は見なかったという。それが、指し示す結論は……
「勝った……『強欲の泉』を……」
「うん!ついに……だよ。ついに、『強欲の泉』を……奪還したんだ!」
勝利の二文字だ。
『強欲の泉』の泉があれば、地に纏う荒れた土が元に戻る。そうなれば作物もさらに育って、たらふく村の人達に食べさせることだってできる。
そして、語り紡がれるはずだった物語が読めるようになる。
この地獄を終わらせる為の、大きな一歩をヒロタカ達は踏み出した。




