絶望の知らせ
ダクラを倒したが、依然アリステラは黒い靄を纏いながらメーニンに攻撃を続ける。
その光景はヒロタカ達にとっての絶望の知らせだった。
「ぁ……、」
ヒロタカは掠れた声で小さく音を漏らした。
心臓が強く脈打ち、その存在を強く示す。
体中の血の気が引き、息が止まる。
「……クッ」
ゴルドンは奥歯を噛み締め、斧を壊れてしまほど握りしめる。そうして、目を見開きアリステラに接近した。
その腕は斧を振り被っていた。
ゴルドンはアリステラを容赦なく襲う。斧は如意棒に阻まれ、鈍い金属の甲高い音が響く。
攻撃は防がれたがゴルドンはすぐに追撃を入れ、アリステラを遠くに飛ばした。
「ゴルドン……!どうしたの――?」
「ダクラは倒した。――が、アリステラは戻らなかった……」
唇が震え、その先の言葉を紡げない。伝えなければならない……しかし、認めたくないからか声を出すことが出来ない。
「戻らないの……?」
「―――――――、あぁ」
長い沈黙先に訪れたのはゴルドンの肯定の言葉だった。アリステラを殺さなければならない……肯定の言葉はそれを意味する、ゴルドンによる絶望の知らせだ。
「ぁ……そんな……」
覚悟、出来ていたと思っていた。しかし、アリステラを前にして躊躇ってしまっている自分がいる。本当に殺さなければならないのか。メーニンは見えない希望を探し彷徨っていた。
彷徨いの刹那、メーニンのすぐ目の前にアリステラが姿を現す。
如意棒を振り被り、メーニンを殺さんという目で、メーニンを殺さんと如意棒を振るった。それはメーニンの探していた希望を打ち砕く。
如意棒と自分自身の間に風を纏わせ、如意棒が触れるまでの時間を遅らせ、その隙にアリステラから距離をとった。
既に左腕と腹部を負傷してる体だ。アリステラの攻撃を一撃でも喰らえ致命傷になり得る。
「《ウィンド・カッター》」
無数の風の刃がアリステラを襲う。
四方からくる刃を如意棒に器用に当て、消していく。が、
「――ッ!」
「殺すなら……本気だよッ!」
背後から来る刃にアリステラは気付かなかった。故に刃を防ぐことが出来ず、左足を切断された。
一応、首を狙ったんだけどね……やっぱ制御難しいや
無数の刃を操ることは複数の刃へ同時に意識を向けなければならない。そのため、刃一つ一つの動きを正確に動かすことは至難の業だ。
切断面からは赤い血がドロドロと止まることなく流れ出していた。
しかし、左足を切断された程度ではアリステラは止まらない。
器用に右足だけで立ち、軽く膝を曲げ地を蹴りメーニンを標的に距離を詰めた。
片足だけで、この速さ……っ!?ダメッ!避けられ……
迫るアリステラの影は一瞬にしてメーニンの眼前に現れる。その影はメーニンに死の存在を意識させた。
「ウウゥラァァァァァッッッ!!!」
雄叫びを上げながらヒロタカはアリステラへ短剣を振るう。メーニンへ攻撃が当たる前に意識を反らせ、ヘイトを自分へ向けさせる。
メーニンへの一撃はその一撃のみで死へ誘うだろう。ヒロタカはメーニンを失いたくない。それと、同じくらいアリステラに仲間を殺してほしくない。
如意棒で襲いかかる短剣を弾く。アリステラとヒロタカの激しい攻防が幕を開けた。
メーニンはアリステラから距離を取り、魔法を放つ準備をする。ヒロタカの援護の為とヒロタカがチャンスを作り、その好機逃さないためだ。
――?なんだ……?この違和感は?
アリステラとの激しい攻防の中、ヒロタカは何かを感じた。
モヤモヤとした気持ち悪い感触。その違和感の正体は希望になり得ると信じてみたい。たとえ、それがさらに絶望へ突き落とすものだとしても。
絶望に染まった深い泥沼に手を突っ込んで小さな希望を探す。泥沼をかき分けてかき分けて……一筋の光が見えた。
既視感だ。ヒロタカはアリステラを覆うあの黒い靄を見たことがある。しかし、どこで見たのだろうか……?
確かにそこにあり、諦めかけていた希望。しかし、あと一歩届かない。
依然激しい攻防は続いている。ヒロタカは思考のあまり有利をアリステラに譲ってしまっていた。泥沼に沈むまで少し……といったところか。
靄……靄……黒い靄……
言葉が頭の中を飛び交い、記憶を呼び起こして反芻させる。
「――龍。――ッ!!」
そして、呼び起こした記憶は一筋の希望を掴み取った。




