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ランニングをひと通り1時間ほどこなすと、部員たちは再び石原によってベンチ付近に集合をかけられた。
「今から守備練習をする。んで、終わったらバッティング。ちなみに言っとくけど、夏の大会までレギュラーだったやつは1、2年全員クビな。今の時点で秋季大会におけるレギュラーが約束されているポジションなんてひとつもない。全員ゼロからのリスタートだ。ベンチ入りした事ない1年でも、チャンスはあるぞ」
「ウッス!!!」
入部時点では70人ほどいた1年生の部員も、この頃になると怪我や退部などが続き、残る人数は50人程度に絞られていた。もっとも、このような現象は毎年恒例の事であるため、石原や上級生たちは別段気にしておらず、安室高校野球部的には何ら問題はない。
ただ、レギュラー陣にとって現在、問題として浮上してきたのは、今までの自分のポジションやベンチ枠がもう保証されなくなったという事である。全員が挑戦者。野球部員全員がベンチの枠を、そして9人のスタメンの枠を、奪いにいくという覚悟で練習に臨まなければならないのだ。
金串のような実績十分のスター選手であっても、それは例外ではない。皆がこれから始まるであろう壮絶な31日間の競争を想像し、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「よし、人数も多いし2グループに分かれてやるか。最初は1年たちから、守備につけ。2年はその間、ランニングで足腰鍛えてろや」
「ウッス!!!!!」
さっきまで1時間も走っていたのにもかかわらず、2年生たちは再びグラウンドの周りを走り始めた。更に、ほらもっとはやく、と石原に一喝され、さっきよりもスピードを上げる。
強靭な足腰を作る。それは強い野球部にとって、大前提となる条件である。
1年生もやはり、投手はランニングを引き続き行うようだ。それもそのはず、夏の大会の肘井を見ていると、1年生の投手陣にとってスタミナをつける事は最重要課題であるように思われていた。
残った1年生野手陣は、大体各ポジションにつき2人ずつ突き、交代制で石原からのノックを受けることになった。
入部当初に行われたベンチ入りメンバー選別テスト以来の練習方法であったが、この頃になると1年生たちは顔つきも身体つきも成長しており、当時のような緊張に引きつった面持ちはしていない。そのかわりに、皆なんとしてもベンチ入りを果たしてやろうという闘志に燃えているようであった。
「よし、始めるぞ。覚悟しておけ」
「ウッス!!!」
まるで悪魔の大王のようなセリフを吐いたのち、石原は鬼のノックが始められた。
石原まず1発目、さっきの怒りをぶつけるかの如くミサイルのような打球を、サードの金串の肩に飛ばした。




