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「コラァ!朝っぱらから何をやってるんだお前らは!!!」
いきなり、グラウンドの入り口の方から物凄い剣幕で怒鳴る声が聞こえる。金串と矢澤は驚いて立ち止まり、声のする方へ体を向ける。
そこには石原の姿があった。
「きをつけ!レイ!」
「っしゃす!」
とってつけたような部員たちの挨拶に目を向けず、石原はベンチに座り、すぐさま金串を呼びつけた。どうやら相当頭に来ているようだ。
「しゅ、集合!」
「ウッス!」
咄嗟に部員たちは、金串を中心に石原の前に集まる。全員が揃ったのを確認すると、石原はいきなり声を荒げた。
「安室高校野球部が作ってきた今までを、1瞬にして壊したいのか!!!」
その言葉は、さっきランニングの列から外れたふざけていた金串と矢澤、特に、いつでもしっかりしていないといけない新キャプテンであるはずの金串に向けられたものであった。
金串は、珍しく興奮気味の石原に圧倒され、とりあえずただすいませんと言い伝えた。
「おい、金串」
「はい、なんでしょう」
「これをもって、お前はキャプテンをクビだ」
「えっ」
これには金串本人だけでなく、野球部員全員が揃って驚いた。新キャプテンが1日目にクビになるという事もさることながら、2年生も含めて、
放任主義の石原がここまで激昂している姿は見た事がなかったからだ。
しかしそれも当然だと言えば当然であろう。
石原は、これまで昼夜問わず一所懸命練習し、苦楽を共にしてきた御木本擁する3年生の精鋭たちをもってすら夏の甲子園出場を逃してしまった。
御木本らの才能やそれをも上回る努力を知っている石原は、自分が彼らを東京都大会4連覇に導いてやれなかった事に、計り知れない責任を感じていたのだ。それがどうだ。早朝から合宿をやるからと言われ来てみると、かけっこをしている奴がいるではないか。それもあろうことかキャプテンが、である。
石原がこのような態度を取るのも至極当然であろう。
「おい、最初に言ったよな。俺は特別扱いはしないって。金串がいくら御木本に信頼されて次期主将を任されようがなんだろうが、チームの為にならないと俺が判断したらキャプテンはクビにする。いいな。今日からの31日間、このチームはキャプテンをなしとする。それで、最終日までに台頭してきたものを、俺が改めてキャプテンと認める。こんな面倒はしたくなかったが、お前らに危機感がないのでこうするより仕方ない。では以上。練習に戻れ。」
石原の凄みにおされ、しばらく部員たちは動くことが出来ないでいた。それは金串も同じである。
「戻れっていったら戻れぇ!!!」
「う、ウッス!!!」
ようやく安室高校ナインは、ランニングに戻った。今度はさっきまでとはうってかわって、緊張感に満ち溢れている。
さて、まさかの事態が起きた。新キャプテンであるはずの金串が、就任1日目にして、しかもその朝に、キャプテンを解任されてしまったのだ。前代未聞である。
金串を信頼し、任命した御木本がこの事を知ったら、どう思うだろうか。
さぞや悲しむに違いないだろう。




