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朝6時前から開始された石原による地獄のノックは、昼の10時までテンポ良く続けられていた。
自主練習の成果もあってか、数ヶ月前よりも1年生の動きは俊敏なものになっていた。
なかでもそれを感じさせるのは、やはり金串なのであった。
金串は石原からウサを晴らすかのような、右往左往に打ち分ける猛攻撃を受けても、なんなく追いつき華麗なるグラブ捌きを見せつける。
そんな金串の余裕が、ますます石原の感情を逆なでした。
そしてもう最後の方は、石原は金串に対し、集中砲火を浴びせた。
金串はそのノックひとつひとつに真摯に向き合い、プレーで見せる。どうだ、もっと強いノックを打ち込んでみろ、といっているかのような気迫が感じられた。やはり、1年生からレギュラーとして活躍するセンスはダテではないのだ。
やはり、御木本から次期キャプテンに指名される鬼才はダテではないのだ。
「よし、1年生はこのへんで終わりにしよう」
「ウッス!!!!!」
金串はこの時、1番ノックを打ち込まれておきながら、1年生のうちで1番元気が良く、活気に満ち溢れていた。
次にノックを受ける予定である、ランニング中の2年生たちに交代を告げ、金串ら1年生たちはランニングに入る。
そこで最初に、石原は1年生に対してクギを刺す。
「おい、全力で走れよ」
「ウッス!!!」
今日の石原はスキがない。やはりそれだけ、夏の大会の結果が悔しかったという事であろう。
悔しいのは選手だけではなく、監督も同じであるという事だ。
「1年生ノックて、半分くらい金串ノックやんな(笑)」
矢澤が再び金串に話しかける。仲の良い2人はまた笑い、話そうとするが後ろを走っている1年生のうちの1人に止められた。
「おい、その2人は一緒に喋らないほうが良いぜ。ほら、石原監督を見てみろ。どうやらお前ら、マークされてるみたいだぜ」
え、と声を出して2人は遠くで2年生にノックを行う石原のほうを見つめる。
石原はなんと、ノックの一球一球の合間に、いちいち鋭い眼光を光らせて金串や矢澤の方を監視していた。そして2人が自分を見つめている事に気付いた石原は、再び怒鳴り声を上げる。
やはり今日の石原はいつもと違う。別人のようだ。
「よそ見してないで、はやくはしれー!」
それを聞いて2人は顔を見合わせる。
「やっべ」
1年生は必死に走りだした。




