第97話 新世界
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慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2
「アマデウスの謎」
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前回までのあらすじ
2008年。
リナ、そして父親の魁斗が、謎の組織に狙われた。
イギリス諜報機関に属するヒロは、リナを守るために命を落とす。さらに、リナの父親・魁斗も遺体で発見された。
2012年、女子大生となったリナの携帯に「妹を誘拐した」という電話が届く。霊能力を持つ1つ下の後輩、慎吾と共に誘拐犯を追うリナ。
2人は黒幕が警視庁捜査官の藤岡である事を突きとめるが、彼等のアジトで捕まってしまう。藤岡はリナに、ウィーン大学のサーバに侵入すれば、家族を解放するともちかけた。
絶体絶命の状況に追い詰められながらも・・・リナは父親のセキュリティをついに突破した。
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第97話 新世界
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2012年12月21日(金)、0時48分。目黒基地内。
リナ「その言葉を聞いて安心したわ。
早速妹を返して!」
藤岡「まぁ、待て・・・。返す事は約束する。
5分だけ、俺の話を聞くんだ」
リナ「・・・ すぐにでも帰りたいんだけど?」
藤岡「今から、羽鳥雛子の部屋のロックを解除する。
そして、アナログ式のセキュリティもな。
どこぞの誰かのように・・・落とし穴に落ちぬように」
言いながら藤岡は小さく笑った。
リナ「・・・ ・・・」
藤岡「5分で解除する。その間、俺の話を聞くんだ」
リナ「・・・ ・・・」
ちらりと室内の時計を見るリナ。
リナ「5分・・・ 過ぎたら、妹と一緒にに帰る・・・」
藤岡「俺の話を聞いた後も、同じ事が言えるかな?」
リナ「あと4分50秒・・・」
藤岡「ふふ。いいだろう。ならばズバリ核心から言おう。
日本時間の22日午前零時。すなわち今から約23時間後・・・
日本を起点として、強力な宇宙線が地球上に降り注ぐ」
リナ「宇宙線・・・?」
藤岡「こまかい説明をしようと思ったら・・・
5分を超えるんでな。要点だけ言う」
藤岡も、一瞬時計を見た。
藤岡「今世紀初頭、あるアメリカの天文学者がこう唱えた。
銀河系の中心では、定期的に大きな爆発が起こり・・・
強力な宇宙線の衝撃波が、銀河系の隅々にまで走る・・・とな。
【ギャラクティック・スーパーウェーブ】と言われるものだ」
(リナ「ギャラクティック・スーパーウェーブ・・・?」)
藤岡「ここ数年、それを裏付けるような観測結果が出ている。
そのウェーブ・・・地球に届くのが、22日の零時。
もっとも、ニュートリノのように体を通過するだけで・・・
人体にも、地球環境にも無害だろうと言われている」
リナ「・・・ ・・・」
藤岡「ところがだ・・・
そのウェーブに、ある特定の条件が加わると・・・
単純に人体を通り過ぎるというわけではない。
ストレートに言うと、副交感神経に異常をもたらす」
(リナ「特定の・・・ 条件・・・」)
藤岡「その条件は・・・ 確実に起こりうる、ある事でな。
何でもないと言われたそのウェーブ。
その条件下で、人がそれを浴びると・・・
SLEに近い症状があらわれる事が、実験でわかっている」
リナ「SLE・・・?」
小さく首をかしげるリナ。
藤岡「免疫疾患の1つだ。全身性エリトマトーデス・・・通称SLE。
あらゆる臓器が異変を生じる症状さ。
もっともそのウェーブがもたらす症状は、SLEより即効、かつ深刻。
わずか数10分で血管は破れ、心筋梗塞や髄膜炎を引き起こす」
リナ「・・・ ・・・」
藤岡「まずそのウェーブを浴びれば・・・約30分前後に発症。
そしてさらに30分後は・・・ 死に至る。致死率100%。
エボラ出血熱より、確実に死ぬというわけだ」
リナ「ふ、ふん・・・ そんなの、信じるわけ・・・ ないじゃない・・・」
藤岡「・・・ ・・・」
しばらくリナを睨んだ後、藤岡はパソコンのキーボードをうつ。
藤岡「見せてやろう。これは、ある国の地下施設での実験映像だ」
そう言うと、開いていたノートパソコンをくるりと回し、その画面をリナに見せた。
リナ「・・・ ・・・」
そこには2人の白衣を着た、50代と思われる男達が映っている。何かの大きな機械を扱っている様子が映っているが、音声は聞こえない。
2台のカメラ映像が上下にあり、上の映像は実験室全体を映し、下の映像は2人の実験者のアップ映像で、実験者はカメラに向かって何かを語っている。
藤岡「このウェーブは、時折微量ながら地球上のあらゆる所で観測される。
そしてこの映像は、ある宇宙物理学者がその飛来を予測し・・・
別の物理学者と共に、それを観測・分析しようとした時のもの。
ところが・・・」
藤岡はパソコンを操作して、映像を早送りした。
藤岡「観測に成功した30分後、2人とも1分違いで苦しみ始めた・・・」
リナ「・・・ ・・・」
音声は聞こえないものの・・・ 1人の男は喉を抑え、かなり咳き込んでいる。まるで自分の首を絞めているようだ。もう1人の男は、胸をかきむしり、とても苦しそうな表情を浮かべている。2人とも、苦しみながら部屋を出ようとしているが・・・
部屋の扉は開かない。
藤岡「万が一不測の事態が発生し、周りにも危険を及ぼす可能性がある・・・
そう判断されたら、部屋は閉鎖される。
この実験は、2人に強制させたものではない。
2人共率先して観測を行い、危険を承知である実験していた・・・」
リナ「・・・ ・・・」
2人共・・・何度も何度も扉にぶつかり、部屋の外に何とか出ようとしている・・・
リナ「・・・ ・・・」
見ている映像が痛々しい。2人の男はカメラに向かって、何かを叫んでいるが・・・扉が開くことはなかった。音声は切られているため、彼等が何を叫んでいたのかはわからない。
藤岡「かなり苦しんだようだ・・・
それから15分後の映像がこれだ」
藤岡は再び映像を早送りした。
1人の男はやがて吐血したかと思うと・・・喉を押さえ込みながら、その場で倒れる。一方、もう1人の男は・・・
胸をかきむしるように苦しみ続け・・・扉の前で倒れた。
2人共、倒れた後は・・・もう動く事はなかった。
(リナ「・・・ 死んだ・・・?」)
藤岡「観測に成功してから、発症まで29分と30分。その16分後・・・
つまりウェーブを浴びて46分後に・・・2人共死亡。
レベル4という厳重な安全態勢の元、司法解剖が行われた。
急性SLEとでも言おうか・・・ 無残な死に様さ」
リナ「・・・ 嘘・・・ よ・・・」
藤岡「嘘ではない。
後に別の実験グループが、恐怖を省みず同じ実験をしたが・・・
結果は同じ。観測から30分後に発症し、45~50分で・・・
臓器系に異常をきたし、皆死んだ。その映像も見るか?」
リナ「・・・ ・・・」
藤岡「まぁ、羽鳥教授も・・・ 最初は信じなかったがな。
このウェーブは22日の零時から日本に降り注ぐ。
建物なども透過するため、どこにいても逃れる術はない」
時計をチラリと見た藤岡。
藤岡「おっと・・・ もう時間だ。結論を言おう。
そのウェーブを免れる・・・新世界を我々は用意している。
地下300m、特殊な量子シールドで守られている。
さすがの、スーパーウェーブも透過できず、全て遮断する」
リナ「・・・ ・・・」
藤岡「そして、そこへは・・・
優秀な人物だけが、行く事を許されている」
藤岡はじっとリナを睨み付ける。
藤岡「すなわち【選ばれし者】だけだ」
リナ「・・・ ・・・」
リナもまた、藤岡を睨み付けた。
藤岡「君はハドリアンズ・ウォールを破った。
その業績を評価し・・・
俺が新世界へ行く事を許可しよう。
そこではウェーブの影響など、微塵もない世界だ」
リナ「・・・ その・・・ 新世界とやらは・・・ どこにあるの?」
藤岡「・・・ ・・・」
リナを睨み付けていた藤岡の眼光が・・・やや曇った。
藤岡「羽鳥教授は・・・ 非常に優秀な男だった。
彼も新世界へ誘ったが・・・ 結局自ら死の道を選んだ」
リナ「・・・ ・・・」
表情1つ変える事無く、リナは藤岡を睨み続ける。
藤岡「・・・ あの時、俺は1つ学んだ。
おそらく羽鳥教授だけでなく、その家族も・・・
新世界移住を認めれば、彼はきっと死ぬ事はなかったと・・・」
リナ「・・・ ・・・」
一度曇ったものの・・・だんだん鋭くなってきた藤岡の眼光が、リナを突き刺す。
藤岡「だから・・・ 新世界へ招待するのは君だけではない。
羽鳥雛子、そして羽鳥瞳も・・・
安全な新世界へ招待しよう・・・ どうだ・・・?」
リナ「・・・ ・・・」
チラリと時計を確認するリナ。
リナ「で、でも・・・ 特定の条件とやらが・・・
発生しなければ、人体にも地球にも無害なんでしょ?」
藤岡「詳細は言えないが・・・ その特定条件は確実に発生する。
つまり放っておけば、24時間後には・・・
日本を起点として、世界人口の99.999%は死に絶える。
その宇宙線はまる24時間、地球上に降り注ぐからな」
リナ「どうして・・・ 特定条件が発生すると・・・ わかるの・・・?」
藤岡「言ったろ? 詳細は言えない。だが、それは確実に起こる。
新世界に辿り着いた後なら・・・ 教えてやってもいいが?」
リナ「・・・ ・・・」
しばらく黙っていたリナ。
リナ「ホントに・・・ 家族も・・・ 全員・・・?」
藤岡「あぁ。優秀な人材、そしてその家族なら・・・
新世界移住を認める。俺にはその権限がある」
リナ「私は・・・死にたくないし、家族も死にたくない・・・」
藤岡はニヤリと笑う。
藤岡「では・・・?」
リナ「新世界とやらに・・・ 家族全員、連れて行って。
どこへ行けばいいの?」
さらに藤岡は、声をあげて笑い出した。
藤岡「はっはっは。変わり身の早い事だな。
ところで・・・ 1つ気になっていた事がある・・・」
リナ「 ・・・ ・・・ ? 」
藤岡「何故、死んだ彼氏の話を一言もしない?
まるで何かを・・・ 知っているようだな?」
リナ「な・・・ 何も・・・ 知らないわ・・・」
リナの額に汗がにじむ。
藤岡「君は優秀だが・・・ 彼氏のようなスパイ稼業は向かないようだ。
新世界について、急に興味を示したかと思えば・・・
父親の死について、あんなに怒っていた君が・・・冷静に話している。
嘘発見器の必要すらない程、下手な演技だ」
リナ「・・・ ・・・」
藤岡の言う通りだ。普段なら、口から出任せの達人のリナ。しかし自分だけでなく、慎吾や妹の命がかかっているこの状況では・・・
いくらリナでも緊張から逃れる事は出来ない。
リナ「・・・ な、何を・・・ 言いたいの?」
藤岡「君は・・・ 知っているんだろ?」
リナ「・・・ ・・・」
藤岡「彼氏がまだ・・・
生きているって事を・・・?」
そう言うと藤岡は・・・リナの目の前に、破れた紙包みを放り投げた。
リナ「・・・ ・・・」
藤岡「そしてそれを知っているという事はもちろん・・・」
リナ「・・・ ・・・」
リナも藤岡の鋭い眼光に負けず、彼の目の奥を見つめ続けていた。
(第98話へ続く)
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次回予告
慎吾が生きている事を、リナは気づいていた。
そしてそれは・・・
もう1つ、大きな事実も示していた!
次回 「 第98話 暗号解読 」
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