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アマデウスの謎  作者: 伊吹 由
第3章 ゲームの行方
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97/147

第96話  ゲームクリア

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


  慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2


       「アマデウスの謎」 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

前回までのあらすじ


2008年。

リナ、そして父親の魁斗かいとが、謎の組織に狙われた。


イギリス諜報機関に属するヒロは、リナを守るために命を落とす。さらに、リナの父親・魁斗も遺体で発見された。


2012年、女子大生となったリナの携帯に「妹を誘拐した」という電話が届く。霊能力を持つ1つ下の後輩、慎吾と共に誘拐犯を追うリナ。


2人は黒幕が警視庁捜査官の藤岡である事を突きとめるが、彼等のアジトで捕まってしまう。藤岡はリナに、ウィーン大学のサーバに侵入すれば、家族を解放するともちかけた。


追い込まれたリナだったが、ハドリアンズ・ウォールをくぐり抜けたメールの解読に成功。そして・・・


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


   第96話  ゲームクリア


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(藤岡が提示した、新しいタイムリミット・・・12月20日24時)


2012年12月20日(木)、22時42分。目黒基地内。


藤岡「・・・ ・・・」


とある一室で、2時間ほどの仮眠をとっていた藤岡。ゆっくり起き出すと、すぐにパソコンの画面をチェックした。


藤岡「・・・ ・・・」


必死でリナがキーボードをうつ、リアルタイムの動画が映っている。チラリと時計を確認した。


(藤岡「残り80分・・・ 羽鳥教授の娘といえど・・・

     ゲームクリアは、さすがに無理か・・・」)


画面の1つをクリックして、別のウィンドウを開く。


藤岡「・・・ ・・・」


そこには、ベッドの上に横たわる慎吾の姿がある。


(藤岡「・・・ 心電図は・・・ 完全に反応無し・・・」)


一時期、微妙に慎吾の心臓に動きは見えたが・・・


今は、完全に止まったままだ。


(藤岡「ミスターボンド・・・ そのまま死ぬには・・・

     惜しい男だが・・・」)


再びリナの画面を見つめる。


(藤岡「結局あの男・・・  出てくる気配は無かった・・・」)


しばらく画面を見つめていた藤岡。やがて携帯を取りだし、どこかへ電話をかけた。


藤岡「今から3時間後、そちらに出向く。用意をしておけ」


携帯を切ると、小さな溜息をついた。



・・・ ・・・。


24時ちょうど。


リナ「・・・ ・・・」


ちょうど日付がかわる瞬間を、パソコンの時計で確認したリナ。


リナ「・・・ ・・・」


パソコンから手を離し、その時を待っている。


やがて、部屋の中にアナウンス音声が鳴り響いた。


藤岡「さて・・・ 羽鳥リナ。ゲームの時は終わった。

    見た所、大学のサーバに侵入は出来なかったようだが?」


リナ「出来たわ!」


藤岡の声かけに対し、即座に大声で反応した。


藤岡「そちらのPCは、こちらでも管理できる。

    嘘をついてはいけないな」


リナ「嘘はついていない。私は大学のサーバに侵入した。

    履歴が残らないようにしてるだけ」


部屋の角にあるスピーカーに向け、リナは会話を続ける。


藤岡「ふふふ。単なる言い逃れにしか聞こえないな。

    証明できない事を議論するのは・・・


    時間の無駄だと言ったろう?」


リナ「証明してみせる! あんたの目の前で!!」


藤岡「・・・ 今、そのPCで侵入してみせろ」


リナ「言ったでしょ! あんたの目の前で侵入してみせると。

    もし出来なかったら、その場で私も妹も殺していいわ!」


藤岡「悪いが信じられないな。残念だが、羽鳥雛子は・・・」


リナ「待って!! ここのサーバに、あるプログラムを置いた。

    もし、あんたがこのPCを管理してるなら・・・


    そのプログラムの存在を知らないのはおかしいでしょ?」


藤岡「・・・ ・・・」


藤岡は無言で、サーバ内部にチェックを入れる。


リナ「最も小さいパーティーション・・・

    そこに、円周率を表示させるプログラムを置いた・・・


    ファイルネームは、【pai.exe】」


藤岡「・・・ ・・・」


リナの言葉を受け、藤岡はサーバ内のある領域をチェックした。そして【pai.exe】を見つける。


藤岡「・・・ ・・・」


リナのPCは管理していたはずだが・・・ 彼女が勝手にサーバにプログラムを置いた形跡はない。


リナ「あったでしょ!?」


しばらく沈黙を保っていた藤岡。やがて口を開いた。


藤岡「確かに・・・君の言う通りのプログラムはある」


だが、それを実行する事は無い。


(藤岡「いったいどうやって・・・?」)


リナ「どうやって気づかれずにプログラムを置いたか・・・

    わからないでしょ?

 

    同じ方法で大学のサーバに侵入してみせる!」


藤岡「・・・ ・・・ 強気だな」


リナ「アルゴリズムを見つけた! ハドリアンズ・ウォールを・・・

    あんたの目の前で突破してみせる!!」


藤岡「・・・ ・・・」


珍しくリナが噛みついてくる事を不審に思う藤岡。


(藤岡「どうやら裏に何かあるらしいな・・・」)


想定外の状況であったが、リナの誘いにのる決意をした。


藤岡「いいだろう・・・。

    口にした言葉・・・ 忘れるなよ・・・」



ブーーー!!



直後、部屋の中にブザー音が鳴り響いた。


リナ「・・・ ・・・」


監禁されている部屋の扉が開くと・・・覆面をつけた男が1人、銃を手にしたまま入ってきた。


リナは無言で席を立ち・・・ 男に腕を掴まれた。


リナ「1人で歩けるわよ!!」


腕を振り払おうとするが・・・男の太い腕は、リナを掴んで放すことはない。反対側の腕に、ずっと格闘していたノートパソコンを持ったまま・・・ リナは部屋の外へ連れ出される。


リナ「・・・ ・・・」


そして24時間前にいた部屋へと、連れて行かれた。



・・・ ・・・。


21日(金)、午前0時7分。



リナ「・・・ ・・・」


24時間ぶりに・・・ 彼氏を殺した男と対面したリナ。


藤岡「久しぶりだな。羽鳥リナ。余計な会話は必要無い。

    俺の目の前で・・・ 大学のサーバに侵入してみせろ」


そういうと藤岡は、リナの目の前に置かれたノートパソコンを開いた。


リナ「・・・ ・・・」


ゴクリと息をのむリナ。


藤岡「どうした・・・? やはり嘘か?」


リナ「今から・・・」


ゆっくりとリナが語り始める。


リナ「今から30分以内に・・・

    あんたの目の前で、ハドリアンズ・ウォールを突破する」


藤岡「はっはっは。頼もしい言葉だ。

    ここ4年間、誰一人越えた事のないウォールを・・・


    わずか30分で破るというのか?」


リナ「突破したら・・・ 私の家族・・・ 全員の無事を約束して」


藤岡「最初から約束した通り。このゲームをクリアすれば・・・ 

    24時間などとケチな事は言わない。


    君の家族には・・・一切手を出さない。約束しよう」


リナ「・・・ 絶対・・・ 絶対よ・・・」


藤岡「わかってるさ。いいのか? あと29分しかないぞ?」


リナ「ハドリアンズ・ウォールは・・・ 

    それをインストールしているサーバ同士、素数の交換が行われる」


言いながら、リナはキーボードを打ち始めた。


藤岡「それぐらいの解析はこちらでも出来ている。肝心なのは・・・

    巨大な数から、どうやって素因数を特定するかだ」


リナ「双子素数・・・」


藤岡の顔を覗き込む。


藤岡「もちろん知っている。ハーディ・リトルウッド予想も知っている。

    続きを話せ」


リナ「ネットの公開キーは、大きな2つの素数の合成数。

    その桁数は300~400以上と巨大、かつウォールにより・・・


    3時間ごとに公開キーが変わってしまう」


藤岡「それも周知」


リナ「そこで・・・ 巨大な合成数から素因数を特定する・・・

    アルゴリズムを探したけど、私にはわからなかった・・・」


藤岡「ほう・・・ それでも、突破できる?」


リナ「そこで、私は発想を変えた。巨大な合成数の集合から・・・

    何かが見えないかと」


藤岡「続けろ」


リナ「大学のサーバの公開キーは、過去履歴の中に全て残っていた。

    そこで、両大学がウォールをインストールしてから・・・


    3時間ごとに公開キーを変えている、そのキーを全て・・・

    リストアップした」


リナはキーボードを叩き、過去の大学の公開キーを表示させた。


リナ「約3年前から今まで・・・3時間事に、キーを変えるから・・・

    1日に8つの公開キー。3年で8000以上もある」


パソコンをくるりと反転させ、数字の羅列を藤岡に見せる。


藤岡「・・・ で? それから、何か突破に繋がる情報でも?」


リナ「これだけ大きい数だと、計算処理が大変だから・・・

    2桁の素数で説明する・・・」


再びリナは自分の方へパソコンを向け、キーボードを打ち始めた。


リナ「2桁の素数による積で・・・1番小さいのは11×11の121。

    1番大きいのは、97×97で9409。


    これらの合成数の中で・・・

    差が2である2つの合成数の組に注目した・・・」


藤岡「・・・ ふむ・・・」


リナ「例えば29×31の【899】と、17×53の【901】。

    他にも31×41の【1271】と、19×67の【1273】。


    53×79=【4187】と、59×71=【4189】・・・」


藤岡「73×89=【6497】と、67×97=【6499】もそうか」


リナ「71×97=【6887】と、83×83=【6889】も。

    散らばり具合はわからないけど・・・

 

    差が2で、2つの素数の積による合成数の組は確実に存在する」


藤岡「なるほど・・・ 双子素数のようなものだな・・・

    だが、それでウォールを突破できるとは思えないが・・・?」


リナ「調べたら、大学の公開キーの集合の中にも・・・

    差が2の合成数のペアは、いくつか存在した。

   

    そしてそれらが、素因数分解をするきっかけを与えてくれた・・・」


藤岡「全く見えないな・・・?」


リナ「この合成数の2つのペアのうち、どちらかは・・・

    素数列の項数が、非常に近いという性質がある!!」


藤岡「何だと・・・!?」


リナ「【899】と【901】の組なら・・・【899】の方。

    この数は29と31。隣り合う素数の積だわ」


藤岡「29と31・・・ 双子素数か・・・」


リナ「【1271】と【1273】なら、【1271】。 

    この数は、31と41の素数の積で・・・


    素数列の中で31と41は、たった2つしか離れていない」


※ 2 3 5 7 11 ・・・と、素数を並べていくと、

  31は11番目、41は13番目の素数となる。


リナ「【4187】【4189】のペアは、【4189】が・・・

    17番目の素数59と、20番目の素数71の積。


    項数は・・・ 20-17=3 つまり項数差は3」


藤岡「【6887】と【6889】にいたっては、【6889】。

    23番目の素数83と、自分自身の積というわけか。項数差は0」


リナ「2桁の素数分布でそれを調べると・・・

    項数差の最高値はわずかに3」


藤岡「100以下の素数は25・・・ なのに、項数差の最高が3?」


藤岡はもう1台、自分のノートパソコンで表計算ソフトを出し・・・


それを確認した。


藤岡「確かに・・・ そうだ・・・

    だが、3桁・4桁・・・150桁の素数による合成数が・・・


    素数の項数差が小さいとは、限らない」


リナ「それは・・・ 認める・・・ 証明どころか・・・

    反例は存在する・・・」


藤岡「では、そのアルゴリズムは・・・ 欠点アリだな」


リナは首を横に振った。


リナ「最新の素数判定アルゴリズムでは・・・

    その精度の高さをパーセンテージで保証している。


    大事なのは、そのアルゴリズムで・・・

    より多くの確か【らしい】情報が得られるという事・・・」


藤岡「・・・ ・・・」


リナ「2つの大学の公開キーの集合から、差が2である組をいくつか抽出。

    2つのうち1つは・・・素数列の項数が近いと推定。


    素数同士が近いという事は・・・」


藤岡「そうか・・・ 平方根に近いという事か・・・」


リナ「・・・えぇ・・・ だから、従来の素数判定アルゴリズムを・・・

    その数の平方根に近いところから、スタートさせ・・・


    あとは数字を落として、割り算をして余りを調べればいい・・・

    素因数はペアで見つかるんだから、1に近い方に進むのが得策」


藤岡「なるほど・・・ 実に面白いアルゴリズムだ。

    だが、公開キーは時間とともに変動する。


    過去のキーを分解したとして・・・

    今設定されているキーを突破できるのか?」


リナ「ハドリアンズ・ウォールは、サーバ同士、素数の交換を行う・・・

    1つでも巨大な素数を割り出せば・・・


    そこからもう1つの素数も割り出せる。

    4189の素因数の1つが59とわかれば・・・」


藤岡「4189÷59=71で、ペアはわかる・・・ そうか!!」


リナ「大学で設定された公開キーはたかだか8000。

    それらの数に、割り出した2つの素数での割り算を行い・・


    割り切れたら、新たに巨大な素数をこちらは手に入れる」


藤岡「な・・・ なるほど・・・ そうか・・・

    素数の交換が行われて・・・

 

    一度でも同じ素数を使って、公開キーが設定されれば・・・

    必ずペアの素数は割り出せる。しかも割り算1つで」


リナ「残念ながら最初に割り出した2つの素数で・・・

    他の公開キーとかぶる素数はなかった。


    でも次に得た素数から・・・ ネズミ算式に素数を捕まえた」


藤岡「1度取り逃がした素数でも・・・

    別の素数を割り出すエサにはなる・・・ からな・・・」


リナ「あとはプログラムをはしらせ・・・


    今の公開キーを作っている・・・素数を見つけるだけ・・・」


藤岡「巨大な素数を受け渡し、新たな巨大合成数を生み出すという・・・

    ハドリアンズ・ウォール最大の特徴が・・・


    逆に素数を割り出す情報を、多く提供したというわけか・・・」


リナ「今から・・・ ウィーン大学の現在の公開キーを突破する・・・」


リナは高速でキーボードを叩く。しばらくして手を止めると、藤岡にパソコンの画面を見せた。


リナ「今、プログラムを走らせて、現行キーを突破しようとしている・・・

    私の計算では・・・ このノートパソコンのスペック的に・・・


    今から10分以内でウォールを突破する!!」


藤岡「・・・ ・・・」


画面いっぱいに、膨大な数字の列が高速で動いている。


リナ「素数を割り出したら・・・

    それはサーバに侵入出来るという事・・・ 認めるわね?」


藤岡「あぁ・・・ 認める」


リナ「つまり・・・ ゲームクリアという事でいいわね?」


あくまで強気。藤岡を睨み付けながらリナは確認した。


藤岡「あぁ・・・ それで・・・ 構わない・・・」


藤岡は・・・ただ、リナのノートパソコンの画面を凝視している。


(藤岡「この4年・・・ 俺でさえ・・・ 

     何人たりとも突破できなかったこのウォールを・・・


     突破するというのか・・・? 本当に・・・?」)


半信半疑の表情を浮かべる藤岡。


(藤岡「だが、今の理論に・・・ ミスなどないように思える・・・」)



・・・ ・・・。


5分後。


リナ「あと5分以内に・・・ 

    パソコンの画面に、2つの巨大な素数が出る・・・」


(藤岡「ホントに・・・ 突破するのか・・・?

     19歳の娘が・・・」)


リナ「・・・ ・・・」


藤岡「・・・ ・・・」


リナと藤岡は、パソコンの画面・・・ ただ高速で動く画面たくさんの数字を見つめ続ける。


そして、その数字の動きは・・・ ピタリと止まった。


かと思うと、左端から高速で数字を右に書き並べていく。


藤岡「・・・ 出来たのか・・・?」


数秒後、画面には167桁と、174桁の2つの数が映し出された。


リナ「これよ・・・ これが・・・ 今の公開キーの素因数よ!!」


藤岡「・・・ ・・・」


藤岡はキーボードを叩き・・・ 映し出された2つの素数を元に、ウィーン大学のサーバ侵入を試みた。


藤岡「・・・ おぉ・・・ 」


どんなサイバーアタックも跳ね返してきた、同大学のサーバに・・・


藤岡は侵入に成功した。同時にリナの顔を見る。


藤岡「・・・ ・・・ さすがの俺も・・・ 驚いた・・・」


素直に驚いた表情を見せた。


リナ「ゲームクリア・・・ それでいいわね?」


藤岡「・・・ ・・・」


しばらく大学のサーバ内のいろいろな場所へと移動してみた。行きたい所へ、全て行けた。


藤岡「あぁ・・・ 羽鳥リナ。

    ハドリアンズ・ウォールを突破した最初の人物・・・


    見事だ・・・」


リナ「私の聞きたい言葉は、それじゃない!」


藤岡を睨み付けながら、大声をあげる。


藤岡「・・・ ・・・」


しばらく黙っていた藤岡だが・・・


藤岡「君の家族は・・・完全解放する。


    ラストゲーム・・・  クリアだ・・・」


リナの聞きたい言葉を口にした。



           (第97話へ続く)

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次回予告


ゲームをクリアしたリナ。


藤岡は、新世界の事を語り始めた。


そしてリナは・・・驚愕の事実を知る。


次回 「 第97話  新世界 」

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