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アマデウスの謎  作者: 伊吹 由
第3章 ゲームの行方
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95/147

第94話  レクイエム

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  慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2


       「アマデウスの謎」 


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前回までのあらすじ


2008年。

リナ、そして父親の魁斗(かいと)が、謎の組織に狙われた。


イギリス諜報機関に属するヒロは、リナを守るために命を落とす。さらに、リナの父親・魁斗も遺体で発見された。


2012年、女子大生となったリナの携帯に「妹を誘拐した」という電話が届く。


霊能力を持つ1つ下の後輩、慎吾を連れて実家へ戻ったリナ。誘拐犯は期限内に1億を差し出さなければ、雛子を殺すと宣言。


後藤と藤岡は4年越しで、再び羽鳥家の誘拐事件を担当する。

誘拐事件の翌日から、近辺では連続殺人事件が起こり始めた。


黒幕が警視庁捜査官の藤岡である事を突きとめるが、彼等のアジトで捕まってしまう。藤岡はリナに、ウィーン大学のサーバに侵入すれば、家族を解放するともちかけた。


一方慎吾は・・・ 藤岡に自白剤を注射された直後に・・・


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   第94話  レクイエム


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(藤岡が提示した、新しいタイムリミット・・・12月20日24時)


2012年12月20日(木)、午前3時15分。目黒基地内。


リナの見つめるパソコンからは、モーツァルトの【交響曲第40番】(K.550)が流れている。


リナ「・・・ ・・・」


ザルツブルグ・モーツァルテウム大学のサイトを閲覧すると、モーツァルトの楽曲がランダムに流れるようになっていた。


リナ「・・・ ・・・」


必死でパソコンを操作し続けるリナ。現状で、セキュリティソフト・ハドリアンズ・ウォールを突破する事は無理と判断し、ソフト自身のプログラム解析を行っている。


アルゴリズムの中核はまだ見えないものの・・・外側の部分は確実に見えてきた。


(リナ「ハドリアンズ・ウォールをインストールしているサーバ同士・・・

     巨大な素数の引き渡しを行っている・・・」)



ネットセキュリティ・・・


意外かもしれないが、それを支えているのは小中学校で学ぶ素因数分解だ。



例えば14桁の数【25081549060903】があったとしよう。とあるネットショップではその14桁の数を公開し、これを公開キー(鍵)とよぶ。


買い手がネットを通して、自分の情報(例えばクレジットカード情報など)をショップに送信する場合、公開キーを元に暗号化される。


暗号化された情報を元に戻すには、復号キーとよばれる2つの数が必要になる。


【25081549060903】の場合、素因数である【3003191】と【8351633】の2つの数が復号キーとなる。この復号キーは公開されておらず、買い手の情報を扱うショップだけが保持している。


仮に第3者が、暗号化された買い手の情報を得たとしても・・・この復号キーを知っていなければ、その情報を復元する事はできない。


実際ネットの世界で扱われる公開キーは、300桁以上の素数であり、復号キーも150桁以上の素数となる。


現在のコンピュータでは、巨大な数から素因数を割り出すには現実的な時間では不可能とされている。従って第3者が買い手の情報を得たとしても、素因数分解ができない以上、個人情報を保護できるというわけだ。


次世代のコンピュータとして研究・開発中の「量子コンピュータ」ならば、巨大な数の素因数分解が現実的な時間内で可能であるし、その事は数学的にも証明されている。しかし「量子コンピュータ」が世に出るのは・・・まだまだ先の話(※2012年現在)。


もし、現在のコンピュータで・・・現実的な時間内で素因数分解をする方法があるとしたら・・・方法は1つ。それは、素因数を特定する新しい画期的なアルゴリズムを発見する事である。


多くの数学者は、そのようなアルゴリズムは存在しないと考えているが・・・


存在しないと証明されたわけでもないし、存在すると証明されたわけでもない。



(リナ「パパは・・・ 発見したのかしら・・・?

     新アルゴリズムを・・・」)


いかに数字に強いリナとはいえ・・・300桁以上もの素数を、素因数に分解する事はできない。


何とかハドリアンズ・ウォールのアルゴリズムを解析したいが・・・


(リナ「肝心な部分に、複雑なコードがかかっている・・・」)


ただ、このハドリアンズ・ウォールをインストールしているサーバ同士で、大きな素数の引き渡しが行われている事は突きとめた。


例えば、X,Y,Zという3つのサーバが復号キーを2つずつ持っているとする。Xはaとbの2つの素数。Yはcとd、Zはeとfの2つの素数を保持していたとしよう。


特定の時間が過ぎれば、X,Y,Zのサーバ同士で素数の交換作業が行われ、Xはdとe,Yはaとf,Zはbとcを復号キーとして持つことになる。そしてそれらの積による新しい公開キーが設定され、暗号化される根本の数は変更された事になる。そしてまた、ある一定の時間が過ぎたら、再び素数の引き渡しが行われ、再度新しい公開キー・復号キーが設定される。


このような素数の引き渡し作業のスパンはユーザーで設定できるが、デフォルト(初期設定)では、6時間となっている。


そのため、素数を見つけるプログラムを長期的に走らせ、特定のサーバに攻撃しようとしても、それを守る素数が定期的に変わるため、過去の攻撃が全て無駄なものになってしまうのである。

(例えば1mの穴を掘ろうと思って、1日に10cm進んだとしても、1日経てば、また掘った穴が埋まって残り1mになってしまう)


2012年現在、ハドリアンズ・ウォールはセキュリティソフトの世界シェア50%以上を誇る。単純計算でも地球上にある20億台以上のパソコンがハドリアンズ・ウォールによって守られている。


それらを守っている素数は、必ずしもPC台数に比例するわけではないが・・・素数の組合せパターンが指数的なのは間違いない。


ただでさえ、素因数分解1つ計算するのに途方もない時間を要するのに、その素数が定期的にペアを変えるとなると・・・


(リナ「とてもじゃないけど・・・ 

     真正面から、突破できるわけがない・・・」)


ハドリアンズ・ウォールの正体が少しずつ見えてきはしたものの・・・


その中身を知れば知るほど、余計にその壁は高くなっていく。


リナ「・・・ ・・・」


かつて父の存在が、これほど大きく感じた事は無い。


(リナ「でも・・・」)


諦めるわけにはいかない。ハドリアンズ・ウォールを突破しなければ・・・母親と妹が死ぬ。


リナはプログラムを打ち始めた。


ゴールは全く見えない・・・ 今の自分がゴールに近づいているのかもわからない・・・


それでもリナは・・・


いつしかサイトから流れている【アイネクライネナハトムジーク】(K.525)を聴きながら、必死にキーボードを打ち続けた。



・・・ ・・・。



午前11時58分。


リナ「・・・ ・・・」


モーツァルトの【魔笛】(K.620)が、パソコンから流れている。


リナ「・・・ ・・・」


聴き心地のよい曲のはずだが・・・その旋律はリナの頭に入ってこない。


素因数を特定しようとするが、とてもできる気配はない。ならばと、ハドリアンズ・ウォールのソフトを解析して、その素因数を見つけ出すアルゴリズムを暴こうとするが・・・それすらもかなわない。


リナ「・・・ ・・・」


小さな溜息をつくリナ。



ブーーー!!



リナ「 !? 」


不意に大きなブザー音がなった。部屋の扉が開くと、銃を持った覆面男が1人、無言で入ってくる。


リナ「な・・・ なに・・・?」


男は入ってすぐ、お膳にのせた食事と水をフローリングの床に置くと、すぐ部屋を出て、再び扉を閉めた。


直後、部屋にアナウンス音声が鳴り響く。


藤岡「食事の時間だ、羽鳥リナ」


部屋の角にあるスピーカーから、藤岡の声が聞こえてきた。


リナ「・・・ ・・・」


藤岡「どうだ? 父親の壁は越えられそうか?

    リミットの半分が過ぎた。あと12時間で、タイムオーバーだぞ」


リナ「・・・ ・・・」


藤岡「そちらのPCは、こちらの管理下にある。

    まだまだゲームクリアには・・・ほど遠いな・・・」


リナ「余計な・・・ お世話よ・・・」


ようやく声を出したリナ。


藤岡「ふふ、その意気だ。

    食事に毒などは入っていないから、安心して食べるがよい。


    心からゲームクリアを望んでいるよ、羽鳥リナ」


リナ「・・・ 慎吾は・・・?」


離ればなれになって12時間。気になっていた事をストレートに聞いた。


藤岡「・・・ 彼は・・・ 死んだよ」


リナ「な・・・」


一瞬、驚きはしたが・・・


リナ「何度もあんたにダマされた。信じるわけがない・・・」


冷静に反応するリナ。


藤岡「信じる信じないは自由だ。だが・・・

    今、君のPCに送ったファイルを見ても同じ事が言えるかな?」


リナ「・・・ ・・・」


リナの扱ってるパソコン・・・そのデスクトップにメッセージカードが届いた。クリックしてカードを開くと・・・


リナ「 !? 」


藤岡「それはリアルタイムの映像だ」


(リナ「ど・・・動画・・・?」)


ベッドの上で横たわっている、慎吾の姿がそこにはあった。ピクリとも動かず、呼吸している気配もない。


藤岡「横にあるのは、メディカルモニタ。すなわち、彼の生命情報だ。

    心停止しているのが・・・わかるかな?」


リナ「・・・ ・・・」


藤岡の言う通り・・・ 心電図の示す波形は波打つ事無く、横一直線のまま。すなわち、慎吾の心臓は止まっている。


リナ「し・・・ 信じないわ・・・ こ、こんな偽装・・・

    私には・・・ 通じないわよ・・・」


藤岡「まぁ、先にも言ったとおり・・・

    彼氏の死を信じるも信じないも、君の自由。


    俺は大学のサーバに侵入してくれれば、それでいい。

    食事の後は、ゲームクリアに励んでくれよ」


そう言うと、アナウンスが途切れた。


リナ「・・・ ・・・」


リナのパソコンには、動かない慎吾の動画が流れ続けている。


リナ「うそ・・・ よね・・・?」


動揺が体中に広がる中・・・


その心情には似つかわしくない曲、【トルコマーチ】(K.331)が流れていた。



・・・ ・・・。



午後3時30分。


リナ「・・・ ・・・」


パソコンからは【交響曲第41番】(K.551)が流れている。すでに15時間以上、パソコンに向き合っているリナ。


ずっとキーボードを叩いていたが・・・その手をゆっくり止めた。 


(リナ「これ以上・・・ 何ができるっていうの・・・?」)


あらゆる方法を試してきたが、とうとう打つ手がなくなってしまった。


父親のセキュリティソフトは・・・ 完璧に思える。両大学は世界中のあらゆるサーバと、3時間単位で素数の引き渡しが行われている。例えリナが扱うパソコンが、量子コンピュータだと仮定しても・・・


(リナ「突破できない・・・」)


ハドリアンズ・ウォールは・・・ 次世代コンピュータですら、突破できない完璧なセキュリティに思えた。



リナ「・・・ ・・・」


諦めた時点で、ゲームオーバー。すなわち、家族を失う事になる。


リナ「・・・ ・・・」


今ある知恵は全て出し切った。これ以上のアイディアは浮かばないし、新しい打開策が見つかるようにも思えない。


リナ「・・・ ・・・」


デスクトップにある、小さなウィンドウには・・・ずっと動かない慎吾の動画が流れている。



絶望・・・



4年前、彼氏と父親を失い・・・そして今は・・・


母親、妹、そして慎吾まで・・・ 死の淵に立たされている。



(リナ「このままでは・・・」)


自分以外の全てが死ぬ。じっと慎吾の映る動画画面を見つめるが、数時間も反応はない。



(リナ「・・・ 信じない・・・ 死んだなんて・・・」)



いつしかザルツブルグ・モーツァルテウム大学のサイトからは・・・



【レクイエム】(K.626)が流れていた。






           (第95話へ続く)

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次回予告


打つ手を全て失ったかに思えたリナ。


しかし、たった1つ・・・ リナに希望を与えるものが残されていた。


そしてそれを解く鍵は・・・ モーツァルトのあの楽曲にあった!



次回 「 第95話  希  望 」

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