第88話 提 案
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慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2
「アマデウスの謎」
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前回までのあらすじ
2008年。
リナ、そして父親の魁斗が、謎の組織に狙われた。
イギリス諜報機関に属するヒロは、リナを守るために命を落とす。さらに、リナの父親・魁斗も遺体で発見された。
2012年、女子大生となったリナの携帯に「妹を誘拐した」という電話が届く。
霊能力を持つ1つ下の後輩、慎吾を連れて実家へ戻ったリナ。誘拐犯は期限内に1億を差し出さなければ、雛子を殺すと宣言。
後藤と藤岡は4年越しで、再び羽鳥家の誘拐事件を担当する。
誘拐事件の翌日から、近辺では連続殺人事件が起こり始めた。
リナと慎吾は、黒幕が藤岡である事を突きとめ・・・
リナの妹がいる部屋の直前まで来たが、敵のトラップにかかってしまう。
藤岡は慎吾達の命を賭け、ゲームをしようと言い出した。
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第88話 提 案
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(誘拐犯が示したタイムリミット・・・12月19日24時)
2012年12月19日(水)、午後20時45分。目黒基地内。
ガシャン
背後に立っていた覆面男らが、銃を持ち直した。
慎吾「・・・ ・・・」
リナ「・・・ ・・・」
テーブルの上、目の前にある銃・・・ニューナンブを見つめる2人。
藤岡「好きなタイミングで引き金をひいていいぞ。
ただし、タイムリミットは・・・」
チラリと部屋の時計を見る。
藤岡「今日の24時。すなわちあと1時間と15分といったところだ。
リミットを過ぎれば・・・
俺が引き金をひいてやる。それも忘れるな」
慎吾「・・・ ・・・」
リナ「・・・ ・・・ ハァ、ハァ・・・」
リナは過呼吸になり、頭の中がグルグルと回り始めていた。
そんな中・・・
慎吾が右手で、ニューナンブを押さえつけた。
慎吾「・・・ ・・・」
(「ゆっくりと、持ち上げろ」)
気がつけば、銃を抑える右手がブルブルと小刻みに震えている。それでも勇気を振り絞り、銃を持ち上げた。
(「絶対に、相手に銃を向けてはいけない!」)
慎吾は両手で銃を包み込むようにして、自分の胸の前まで持ってきた。
藤岡「・・・ ・・・」
その様子をじっと凝視する藤岡。
(「信じろ。弾は出ない!!」)
慎吾はけして藤岡に銃を向けず、ブルブルと手を震わせながら・・・
右手で銃を握り、銃口を自分の側頭部にあてた。
リナ「し・・・」
声を出せないリナ。
(リナ「し・・・慎吾・・・ ヤメて・・・」)
ゆっくり目を閉じた慎吾。
慎吾「ハァ・・・ ハァ・・・」
緊張した空気が部屋を包む。しかし・・・
慎吾「・・・ ・・・」
引き金をひけない。
・・・ ・・・。
10分が過ぎた。
藤岡「どうした? すでに10分過ぎたぞ?」
慎吾「・・・ ・・・」
どうしても引き金を引く事が出来ない。
藤岡「さっきも言ったが・・・ リミットまであと1時間。
このまま24時を迎えた場合、俺が引き金をひく。
君達の頭に向け・・・弾が出るまで、交互にな。」
慎吾「わ・・・ わか・・・てます・・・」
喉がカラカラで、かすれた声しか出てこない。
藤岡「俺としては、そのまま24時を過ぎても・・・
構わないがな・・・」
そう言うと藤岡は、小さく笑った。
慎吾「・・・ ・・・」
どうしても引き金が引けない慎吾は、時間を気にしながら藤岡にある要求をしてみる事にした。
慎吾「あの・・・ 1つ・・・ お願いが・・・」
藤岡「・・・ 言ったろ? 君達に要求する権利はない」
慎吾「ぼ、僕が持っていた・・・ 石。
その石を・・・ 握らせてくれませんか?」
藤岡の言葉を無視して、慎吾は要求を口にする。
藤岡「・・・ 石? 手のひらサイズのあの石か?」
慎吾の要求が意外なものだったため、藤岡は眉をひそめた。
慎吾「そ、そうです」
藤岡「・・・ 別室で、部下がX線や化学分析もしたが・・・
何か仕掛けがあるわけでもないし、放射能が出ているわけでもない」
藤岡の見ているパソコンの画面には、石の大きさや重さ、成分などの情報が映し出されている。
藤岡「こちらの調査では、正真正銘の石ころ。
その石ころが欲しいと?」
慎吾「あ、あれは・・・僕の勇気を増幅させてくれるんです。
それさえあれば・・ 引き金が引けます」
藤岡「・・・ ・・・」
しばらく慎吾の目の奥を覗き込んでいた藤岡。
藤岡「スパイのくせに・・・ そんな非科学的な事を・・・
ここを突きとめた割には・・・残念な要求だな」
藤岡に負けず、慎吾が言い返す。
慎吾「あなたが残念に思おうと・・・
石さえあれば・・・僕は引き金をひく」
藤岡「・・・ ・・・」
慎吾の必死な様子が伝わってくる。
慎吾「げ・・・ゲームを・・・ 盛り上げられます・・・」
藤岡「・・・ ・・・」
自分でなく、相手の視点で物事を見ている慎吾。しばらく慎吾の目を見続けた藤岡は、やがてゆっくりと首を縦にふった。
藤岡「いいだろう。それでゲームが進行するなら、俺もそれを望む」
藤岡は2人の後ろにいた覆面男に指示を出した。
藤岡「おい。あの石ころを持ってきてやれ」
覆面男の1人は無言で頷き、部屋を出て行った。
2分後。
戻ってきた男は、慎吾の目の前にその石を置く。
(慎吾「こ、このパワーストーンさえあれば・・・」)
慎吾はパワーストーンを左手で握りしめ、右手で銃を自分のこめかみにあてた。
慎吾「・・・ ・・・」
右手は震えたままだが・・・
(「信じろ!」)
さっきに比べれば、全然マシな状況だった。
慎吾「う・・・」
さらに右手が大きく震える。
慎吾「うわぁあああ!!」
大声で叫んだ直後。
カシャーン・・・
乾いた金属音が部屋に鳴り響く。
リナ「・・・ ・・・」
目を大きく見開いたリナが、慎吾をじっと見つめていた。
慎吾「ハァ、ハァ、ハァ・・・」
引き金をひいた事を確信し・・・ そして生きている事を今、確信した。
藤岡「・・・ ・・・」
その様子を見ていた藤岡。慎吾の左手を見ながら・・・
藤岡「見事だ。その度胸、そして生き延びた運。銃を置くがよい」
その石に何か秘密があるのかと疑う。
言われた慎吾は、しばらくはこめかみから銃を動かさない。いや、動かせない。
20秒ほどして、ようやく銃をテーブルの上に置いた。
慎吾「ハァ、ハァ・・・」
目を閉じ、テーブルの下を向いて肩で息をしている慎吾。藤岡の視線は、リナへと向いた。
藤岡「羽鳥教授の娘・・・ 次は君だ」
リナ「・・・ ・・・」
狼狽するリナに、慎吾が声をかけてくる。
慎吾「だ、大丈夫です・・・。 次も・・・ 次も弾は出ません・・・」
リナ「・・・ ・・・」
慎吾「パワーストーンのおかげで・・・ わかるんです・・・」
リナ「そ、そんな事言ったって・・・ 出来るわけないじゃない・・・」
リナは銃を見つめたまま、声を絞り出す。
慎吾「引き金をひくのに・・・ かなりエネルギーは使いますが・・・
大丈夫・・・ 絶対に弾は出ません・・・」
リナは首を横にふる。
リナ「む・・・ 無理よ・・・」
慎吾「で、でも・・・ じ、時間が・・・」
リナ「・・・ ・・・」
慎吾のように引き金を引くなんて・・・ とても出来る気がしない。
ふとリナの視線が藤岡に向いた。
リナ「わ、私からも・・・ 要求が・・・ ある・・・」
リナの言葉に小さく笑った藤岡が応える。
藤岡「注文の多いカップルだ。
彼氏の要求を聞いてしまったのは失敗だったな・・・」
リナ「・・・ ・・・」
藤岡「だが、まぁ・・・ ゲームを盛り上げられる要求なら・・・
聞いてやってもいいぞ?」
一瞬慎吾の方へ視線を移し、再びリナの方を見る。
藤岡「言え」
リナ「あ・・・ あなたも・・・ このゲームに参加を・・・」
藤岡「俺も? ロシアンルーレットに参加せよと?」
リナ「あ、あなたも参加した方が・・・ ゲームも・・・
盛り上がる・・・ でしょ?」
普段こういうセリフは、スラスラと言うリナだが・・・この緊迫した状況では、息も絶え絶えになる。
藤岡「要求というよりは、提案だな。なるほどな。だが・・・」
リナも自分の言った事が、受け入れられない提案であることはわかっている。少しでも、自分に銃を向けなければならないという現実から、逃げるための言動だ。
しかし・・・
藤岡「俺がゲームに参加したら・・・ 後悔するぞ?」
リナ「・・・ ・・・」
藤岡の言葉を・・・
(慎吾「変な要求をしたから・・・ぼ、僕らを殺すつもり・・・?」)
悪い方に捉えた慎吾が
慎吾「あ、いや・・・ だ、大丈夫です。
ぼ、僕らでゲームを・・・ クリアしますから・・・」
声をかけ終えた・・・直後だった。
藤岡は体を前に乗り出し、慎吾の前に置かれたままの銃を手にする。
慎吾「う!! 撃たないで!! ぼ、僕らだけでちゃんと・・・」
てっきり慎吾は、自分らに向けて、藤岡が引き金を引くのかと思った。
ところが・・・
藤岡「羽鳥リナ、君は正しい。ゲームを盛り上げてやろう・・・」
そう言った藤岡は、右手で銃を握り、銃口をこめかみにあて・・・
カシャーン!!
迷わず引き金をひいた。直後、乾いた金属音が鳴り響く。
藤岡「・・・ ・・・」
リナをじっと睨んだ藤岡の視線。
リナ「・・・ ・・・」
呆然とするリナ。
慎吾「・・・ ・・・」
そして慎吾。
藤岡はゆっくり銃をテーブルの上に置き・・・ リナの前にそれを滑らせた。
藤岡「確率は4分の1。果たして君は・・・
選ばれし者か?」
部屋に流れていた曲は・・・
いつしかワーグナーから、リヒャルトシュトラウスの曲になっていた。
(第89話へ続く)
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次回予告
追い込まれたリナ。だが、どうしても銃を握ることが出来ない。
慎吾はリナに引き金を引かせるため、策を講じるが・・・?
次回 「 第89話 選ばれし者、選ばれざる者 」
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