第86話 尋 問
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慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2
「アマデウスの謎」
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前回までのあらすじ
2008年。
リナ、そして父親の魁斗が、謎の組織に狙われた。
イギリス諜報機関に属するヒロは、リナを守るために命を落とす。さらに、リナの父親・魁斗も遺体で発見された。
2012年、女子大生となったリナの携帯に「妹を誘拐した」という電話が届く。
霊能力を持つ1つ下の後輩、慎吾を連れて実家へ戻ったリナ。誘拐犯は期限内に1億を差し出さなければ、雛子を殺すと宣言。
後藤と藤岡は4年越しで、再び羽鳥家の誘拐事件を担当する。
誘拐事件の翌日から、近辺では連続殺人事件が起こり始めた。
リナと慎吾は、黒幕が藤岡である事を突きとめ・・・
リナの妹がいる部屋の直前まで来たが、敵のトラップにかかってしまった。
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第86話 尋 問
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(誘拐犯が示したタイムリミット・・・12月19日24時)
2012年12月19日(水)、22時10分。目黒基地内。
慎吾「・・・ ・・・」
リナ「・・・ ・・・」
落とし穴に落ちた2人。やがて2人は、やってきた覆面男らに引き上げられる。その際、手にしていたスタンガン銃は押収された。
スタンガンだけでなく、慎吾のパワーストーンも・・・。
前後に銃を持った覆面男数名に挟まれ、藤岡を先頭にその集団はどこかへと歩いて行く。
リナの妹がいる部屋を背に、2人は細長い通路を右へ曲がり、左へ曲がり・・・
銃を向けられたまま、やがてある部屋に通された。部屋の中には高音質の音楽が流れている。
(慎吾「・・・ ドボルザーク?」)
(リナ「・・・ 新世界・・・」)
クラシック曲が好きな慎吾、そしてリナも、その曲が何なのかを知っていた。
12畳ほどの部屋にテーブルが1つ。その後ろには、棚が見える。それ以外、周りに目立った物はない簡素な部屋。2つの椅子に座るよう指示された2人。
藤岡「先に言っておく。逃げようとしたり、何か変な行動を取れば・・・
後ろにいる連中が、迷わずお前達を撃つ」
先に席に着いた藤岡が、慎吾とリナに鋭い視線を突き刺し、声をかけた。
藤岡「今からお前達に質問をする。
俺の質問に正直に応えれば・・・
生きてここを出られる可能性があると、言っておこう」
リナが反抗の言葉を言いたそうだが、察した慎吾がそれをなだめる。
慎吾「大丈夫・・・ 必ず僕が、何とかしますから・・・」
リナ「・・・ ・・・」
確かにこれまで・・・慎吾は黒幕を暴き、妹のいる場所まで突きとめた。
しかしあと1歩という所で・・・自分のミスで敵に捕まってしまった。
リナ「・・・ ・・・」
強く責任を感じるリナ。周りは、銃を所持した屈強な男らに囲まれている。何かアクションを起こしたくても、どうする事も出来ない。
慎吾「必ず・・・ 時がきます・・・ 必ず・・・」
横で慎吾が、小さく声をかけてきた。
リナ「・・・ ・・・」
無表情のままリナは椅子に座る。続いて慎吾も椅子に座った。
藤岡「・・・ ・・・」
2人の背後では、銃を持った数名の覆面男が待機している状況。横にいた覆面男が何かの機器を取り出す。そして、野球帽のような物を2人にかぶせた。
慎吾「 ? 」
正面に座っている藤岡が説明をする。
藤岡「それは脳波を調べるものだ。わかりやすく言えば、嘘発見器。
人は脳まで嘘をつく事が出来ないんでね」
言いながら、すでに起動させてあるノートパソコンを自分の方に向けた。そのパソコンは、藤岡の言う嘘発見器とケーブルで接続されている。
藤岡「さて・・・。いくつか聞きたい事がある。まず・・・ 」
藤岡の鋭い視線は、慎吾に向いた。
藤岡「秋津駅での事件から、分倍河原や調布、田園調布と・・・
全て見透かしたように、行動していたな。
お前は・・・どこの国のスパイだ?」
慎吾もリナも、藤岡の質問に目を丸くする。
慎吾「ぼ、僕は・・・ただの大学生です・・・」
おどおどしながら応える慎吾。
藤岡「・・・ ・・・」
視線の先を、慎吾からパソコンの画面に映す。
藤岡「・・・ いいだろう。では、どこで俺に気づいた?」
キーボードをカタカタと操作しながら、藤岡はさらに慎吾に声をかけた。
慎吾は藤岡を見つめながら・・・ゆっくりと口を開く。
慎吾「あ、あなたは・・・ 秋津にも分倍河原にも・・・
調布や田園調布にも姿を現した。
僕を陥れようとしていましたが・・・
その逆。あなたこそが、各駅・・・全てに現れていた・・・」
藤岡「質問の意味を理解してないようだな。
【ど】【こ】【で】! 俺に気づいたかと聞いたんだ・・・」
慎吾「・・・ ・・・」
慎吾はチラリとリナの方を見た後、再び藤岡の方へ向き直す。
慎吾「府中本町での騒ぎの後。羽鳥邸で・・・
後藤さんが携帯を落とした時です。
いつもと音が違っていました・・・」
藤岡「・・・ ・・・。 続けろ」
慎吾「後藤さんは、よく携帯を落としていたから・・・
自然とその音は覚えていました。
でもあの時だけ・・・いつもより【重い】音がした・・・
携帯に・・・何かが仕込まれていると思ったんです」
藤岡「・・・ ・・・」
パソコンの画面を見つめながら、藤岡が返す。
藤岡「源さんの携帯だ。疑うなら俺ではなく、彼では?」
慎吾「いえ。各駅にあなたが現れた事・・・。
さらに今までの、誘拐犯からの電話があった時や・・・
身代金要求の時、何故、リナ先輩の妹さんが電話に出たのか。
それらを考えました。そしたら・・・」
携帯の【重い】音・・・それはリナに話していない。
リナは驚いた表情を浮かべながら、慎吾の言う事に聴き入っていた。
慎吾「あなたが・・・この一連の事件の犯人だと思えば・・・
全てつじつまが合う・・・」
再び慎吾は、ちらりとリナの方を向く。
リナ「・・・ ・・・」
リナと目があった。慎吾はすぐに藤岡の方へ向き返す。
慎吾「4年前・・・ 湾岸警察署に、テロリストが押し入った事件・・・。
テロリスト達は屋上から、迷わず7階へ向かっていました。
リナ先輩達がいた場所です。
そして事件当時、何故か警察はその階にほとんどいなかった」
藤岡「・・・ 報告書を読んだだけで、そう思った?」
慎吾「えぇ。警察の中に・・・手引きした者がいる。
そう思えば・・・ 当時の事件も全て納得がいく。
つまり・・・
4年前も、今も・・・ あなたが事件の中心にいたんです」
藤岡「・・・ ・・・」
パソコンの画面と慎吾を交互に見つめながら、藤岡は小さな溜息をつく。
藤岡「なるほどな。まさか君が、そこまで鋭い洞察力を持っているとは。
初めて会った時からは、想像もつかない。
正直驚いたよ。だが・・・」
いつの間にか、慎吾は【お前】から【君】と呼ばれるようになっていた。
藤岡「君は真実を言っているが・・・ まだ、隠している事があるようだ」
トントンと指を立て、テーブルを叩く。
藤岡「俺の車に、単純な墨汁の追跡装置を取り付けたな・・・」
慎吾「・・・ えぇ、僕が・・・」
リナをかばうように言葉を発する慎吾。
藤岡「なるほど。
穴の開いた底が少しでも下方向に向けば、墨汁が垂れる。
スピードを緩める方向転換時に、必ず墨汁が出るわけだ。
気づかなかったよ。見事な追跡装置だ」
深呼吸をする藤岡。さらに続ける。
藤岡「フリーのスパイか? 誰かに・・・雇われた?」
慎吾「ま、まさか・・・。ホントに・・・僕はただの大学生です」
藤岡「・・・ ・・・」
パソコンの画面を見つめ・・・小さく眉をひそめる藤岡。
藤岡「ふむ・・・。君の脳波は、不可思議な波形を描いている。
君には後で・・・ 再び、尋問するとしよう」
慎吾に対し、何らかの興味がわいてきた藤岡。その視線が・・・ リナの方へ向く。
リナ「・・・ ・・・」
リナは目を合わさず、右下の方を向いた。
藤岡「俺が・・・タイムリミットを設定したのは知っているな?
そのリミットまで、あと少しだ」
リナ「・・・ ・・・」
藤岡「妹を助けたいか?」
その言葉を聞いて、リナは藤岡を睨みつけた。
リナ「あんたが・・・ ヒロ先生もパパも殺した!!
絶対・・・ 絶対、許さないわ!!」
涙目になりながらも、腹の底から声を出す。
藤岡「・・・ 本気で・・・そう思っている・・・ ようだな」
パソコンの画面を見つめながら・・・ ややトーンダウンした声を発した藤岡。
慎吾「 ? 」
その藤岡の反応に、何かの違和感を感じた慎吾。
藤岡「・・・ ・・・」
藤岡はズボンのポケットに手を突っ込むと、何かを握りしめる。そしてテーブルの上に、握りしめていた3cm四方の紙包みを5~6枚放り出した。
リナ「・・・ ・・・」
それを見つめる慎吾とリナ。
藤岡「その中に、カプセル錠剤が入っている。
世界中探しても、このような薬はない。
羽鳥教授・・・すなわち、君の父親が作った物だ」
慎吾は興味深げにそれを手にするが、藤岡がとがめる事はない。
藤岡「羽鳥教授は・・・ある地下施設でそれを作った。
パラジウムという触媒で、炭素を結合する技術を用いてな。
彼はある化学式をたて、実際に調合・・・
そして、それを服薬した・・・」
リナもその紙袋を手にする。
藤岡「それが何の薬か・・・ わかるまい・・・」
藤岡は右手の親指で、左胸をトントンと叩く。
藤岡「心臓を止めるための薬さ。
降圧剤の一種だが、心臓のポンプ機能を極端に低下させる。
これを飲めば、5分後に心臓は止まる代物だ」
慎吾「な、何故? リナ先輩のお父さんは・・・こんな物を・・・?」
背後で銃を持った男らがいるというのに・・・慎吾は、気になった事を藤岡に聞いてきた。
藤岡「それに応える義務はない。だが・・・」
慎吾をにらみつけた後、その視線はリナへ移る。
藤岡「俺は羽鳥教授を殺したわけじゃない。
教授は自らその薬を作り、自分の意志で飲んだ」
リナ「・・・ ・・・」
藤岡「そして・・・
今の君の反応で、俺の欲しい情報は得られたよ」
慎吾「・・・ ・・・」
慎吾はじっと藤岡の銀縁眼鏡・・・さらにその奥をのぞき込もうとしている。
リナ「・・・ 妹を・・・ 返して・・・」
口を真一文字に結んだリナが、声を絞り出した。
藤岡「妹を取り戻しに・・・ ここまで来たか・・・。
わからんな。ここが危険というのは十分承知のはず。
危険を冒してまで、何故妹を助けに来る?
身内だからか?」
リナは藤岡をにらみつけながら、首を横に振る。
リナ「愛しているからよ・・・」
その返答に、藤岡は笑った。
藤岡「ははは。愛か・・・ よく聞く言葉だが?」
リナ「あなたなんかに・・・ 愛なんてわからないでしょうが・・・」
藤岡は首を横に振る。
藤岡「教えてやろう。【愛】と【神】・・・
この2つの言葉は、弱い人間が好んで使う言葉。
この世に・・・それらが存在するとでも・・・?」
リナ「【神】は知らない。でも、【愛】は存在する!」
藤岡「どうやって、証明する? そんな抽象的なものを?」
リナ「・・・ ・・・」
藤岡「所詮【愛】とは、弱い人間がよりどころにする言葉。
【愛】があるから生きていける。【愛】があるから頑張れる。
【愛】があれば・・・ 【神】もまた然り」
バカにしたような笑いを浮かべ、藤岡は続ける。
藤岡「【愛】や【神】など存在しないし、必要性も無い。
この世に必要なのは、優れた人間だけだ」
リナは藤岡を睨み付けたまま、強い口調で反論する。
リナ「・・・ 私は・・・ ヒロ先生を愛していた!
そして、彼も私を愛していた!」
再び笑う藤岡。
藤岡「思いこみだ。相手はMI6のスパイ。
15歳の少女に惚れるなど・・・ありえない」
リナ「それでも愛していた! 私にはわかる!!」
藤岡「証明できない事を議論するのは時間の無駄だ」
リナ「・・・ ・・・」
何も言い返せないリナ。
藤岡「とはいえ、ハーグリーブスに羽鳥教授。
2人とも君に情報を与えなかったとはな・・・
それが君らの言う【愛】とやらなのかもな」
リナ「・・・ ・・・」
藤岡「もしそうだとしたら・・・
君の彼氏は【愛】に惑わされ、死んだって事か」
小さく笑う藤岡を、リナは睨み続けている。
藤岡「1つだけ教えてやろう。湾岸警察署での事件の後・・・
君はMRI検査を受けただろ?
あの時俺は、君のすぐ近くにいた。
何故、俺がいたのか・・・わかるか?」
リナ「・・・ ・・・」
藤岡「君の脳波を見ていたんだ。今と同じように。
もしハーグリーブスが、君に組織の情報を渡していたら・・・
俺はその場にいた連中を、皆殺しにしていたよ」
その話を聞いて、リナは息をのむ。
リナ「・・・ その場にいた・・・ 事件と関係ない、医者も殺した?」
藤岡「あぁ。我々の計画の支障となる者は・・・全て消す」
リナ「・・・ ・・・」
藤岡「4年前・・・ 俺とハーグリーブスはゲームをした。
ハーグリーブスは優秀だったよ。それは心から認める。
当時50人いた組織の人間を、1人で壊滅させたんだからな。
まぁ、最後には・・・ 俺がゲームに勝った。それだけだ」
4年前のあの時・・・
藤岡「ハーグリーブス! ゲームオーバーだ!!」
藤岡は確かに、そう言ってヒロに銃を向けた。
リナ「・・・ ・・・」
嫌な記憶がよみがえる。
(リナ「あの時・・・
あの時もっと早く、こいつが黒幕だと気づいていれば・・・」)
慎吾「で、でも・・・」
慎吾が会話に割り込んできた。
藤岡「・・・ ・・・」
藤岡がゆっくりと慎吾の方を向いた。
慎吾「こ、今回のゲームは・・・僕らの勝ちです」
藤岡「・・・ ・・・」
今度は慎吾をにらみつける。
慎吾「だ、だって・・・僕らは連続殺人を止めました。
今日・・・ 【G】では、誰も死んでいない」
内心おびえながらも、続ける慎吾。
慎吾「あなたは羽鳥邸に電話してきた時、こう言った。
【ゲームはすでに始まってる】って・・・
つまり・・・今日、【G】で誰も死ななかった時点で・・・
ゲームオーバー・・・ でしょ?」
藤岡「・・・ ・・・」
銀縁眼鏡が、やや曇ったように見えた。
藤岡「なるほど。確かに君のロジックは正しい。
その頭の回転の速さと、達者な口ぶりは・・・
やはりスパイだな・・・」
慎吾「・・・ そ、そうかも・・・?」
藤岡「ふふ。君のようなタイプは、これまで見たことがない。
よかろう・・・
【ABC】殺人の件は君の勝ちだ。名探偵、ポアロ君」
慎吾「そ、それじゃぁ・・・ リナ先輩の妹さんも・・・」
藤岡「ふん。図に乗るな。
だが、君の優れた洞察力や交渉力に敬意を払い・・・
その可能性を与えてやろう」
慎吾「可能性?」
藤岡「あぁ。今からゲームをしようじゃないか」
慎吾「げ、ゲーム・・・?」
この場に似つかわしくない言葉に、慎吾は面食らう。
藤岡「賭けるのは、羽鳥雛子の命。そして・・・
君と・・・ その彼女・羽鳥リナ・・・ 3つの命だ」
2人を交互に睨み付けた藤岡は・・・席を立つと、背後の棚から何かを取り出した。
リナ「・・・ ・・・」
(慎吾「じゅ・・・ 銃・・・?」)
藤岡「俺はゲームが大好きでね。
特に人が命を賭けてプレイするゲームは最高だ」
笑いながら、銃のいろいろな箇所をチェックする藤岡。
リナ「・・・ ・・・」
慎吾「・・・ ・・・」
2人は同時に、ゴクリと唾を飲み込んだ。
(第87話へ続く)
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次回予告
タイムリミットまで、あと1時間・・・
全ての命運を賭け・・・ゲームは開始された!
次回 「 第87話 ロシアンルーレット 」
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