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アマデウスの謎  作者: 伊吹 由
第3章 ゲームの行方
72/147

第71話  【F】に集まる男達

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


  慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2


       「アマデウスの謎」 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

前回までのあらすじ


2008年。

リナ、そして父親の魁斗かいとが、謎の組織に狙われた。


イギリス諜報機関に属するヒロは、リナを守るために命を落とす。さらに、リナの父親・魁斗も遺体で発見された。


2012年、女子大生となったリナの携帯に「妹を誘拐した」という電話が届く。


霊能力を持つ1つ下の後輩、慎吾を連れて実家へ戻ったリナ。誘拐犯は期限内に1億を差し出さなければ、雛子を殺すと宣言。


後藤と藤岡は4年越しで、再び羽鳥家の誘拐事件を担当する。

誘拐事件の翌日から、近辺では連続殺人事件が起こり始めた。


誘拐事件から5日目、犯人の代わりにリナの妹が身代金受け渡しの場所を指示する。 慎吾と共にリナは布田駅へ向かった。


誘拐犯の指示された通り、リナがコインロッカーに自分の荷物を入れた後・・・ロッカーは爆発。リナと慎吾は、警察に疑われるのを避けるため、その場を逃げ出した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


   第71話  【F】に集まる男達


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

(誘拐犯が示したタイムリミット・・・12月19日24時)


2012年12月18日(火)、午後3時21分。

布田駅から調布駅へ向かう電車の中。


慎吾「パスワード?」


リナ「あ・・・ うん・・・」


【月光】の楽譜に隠されていたサイト。そこには生前のヒロが、4年前の事件の詳細をまとめた文書がアップされている。しかしサイトの後半には、256文字もの長いパスワードを要求する場所があった。


おそらくその先には、4年前リナの周りで起きた事件の黒幕・・・そして現在妹を誘拐し、毎日殺人を犯している犯人に繋がる、重要な情報があるに違いない。


その情報さえ手に入れば・・・その凶悪犯をすぐにでも捕まえられるかもしれない。


しかし・・・皮肉にもヒロのサイトは、父親が開発した世界最高のセキュリティソフト「ハドリアンズ・ウォール」がしっかりと守っていた。


リナは左側に座っている慎吾をじっと見る。


リナ「・・・ ・・・」


そのサイトの事はまだ慎吾には言っていない。言うべきかどうか悩み続けていたが・・・


リナ「ごめん・・・ まだ、あなたにはパスワードの事は言えない・・・」


あのサイトは、ヒロと自分を繋いでくれる・・・ヒロが残した物。慎吾の事は心から信頼しているが・・・今はまだ、そのサイトを慎吾に見せたくない。論理じゃない、感情がリナをそう思わせた。


慎吾「え? 何か、あるって事です・・・ よね?」


電車が調布駅のホームで停車した。


リナ「うん・・・ ごめん・・・ でも、私を信じて・・・

    あんたが必要な時は・・・ 」


リナは慎吾の手の上に、自分の手をそえた。


慎吾「あ・・・」


リナ「必ず、力を借りるから!」


言うとリナは席を立ち、扉が閉まる直前の電車から降りた。突然の行動に慎吾は呆然としてしまう。


慎吾「あ!」


我に返った時には、すでに電車のドアは閉まっていた。窓の外を見ると・・・慎吾に向けて、小さく手を振るリナが立っている。


そしてリナはすぐに背を向け、走って行った。


慎吾「あ~・・・」


【あ】を連呼する事しかできない慎吾を乗せた電車は、そのまま西調布駅へ向かった。


・・・ ・・・。


(リナ「ごめん・・・」)


心で慎吾に謝りながら、リナは調布駅・南口を出て周辺を見渡す。


(リナ「確か・・・ ここらへんにあったはず・・・」)


ビルの建ち並ぶ通りに視線を定めたリナは、足早にスクエアビルに向かって歩いて行った。


・・・ ・・・。


慎吾は西調布駅で電車を降りた後、すぐに折り返して調布駅に戻った。駅構内、およびその周辺を歩き回るも、リナの姿を見つける事はできない。


(慎吾「リナ先輩・・・」)


リナを探すか・・・ それとも犯人が現れるであろう、府中本町駅へ行くかの決断に迫られた。


慎吾「・・・ ・・・」


慎吾はリナを信じて・・・府中本町へ向かうことにした。



・・・ ・・・。


午後4時32分。府中本町駅。


図らずもリナと別行動をとる事になった慎吾は、府中本町の駅に降り立った。府中本町も、布田駅同様【F】駅。周りには、多くの警察官や警備員が巡回している。


90分前、リナと共に布田駅にいた時・・・慎吾はロッカーの前にたたずんでいた所を、警察官に注意された。この府中本町ではなるべく目立たないよう、自然に歩こうとするが・・・ 意識すれば意識するほど、ギクシャクした歩き方になってしまう。


(慎吾「お、落ち着いて・・・ 落ち着いて・・・」)


やや挙動不審な歩き方で、駅構内の中央へと歩いて行った。


慎吾「・・・ ・・・」


壁に設置された駅構内図を見ながら、タクシー乗り場の位置を確認する。


(慎吾「リナ先輩・・・」)


ずっとリナの事が気になっているが・・・


(慎吾「今はリナ先輩を信じて、自分のとるべき行動を・・・」)


そう自分に言い聞かせた。しばらく駅構内図を見ていた慎吾は、周りをキョロキョロしながら、トイレへと向かって行った。



・・・ ・・・。


午後4時35分。府中本町駅・タクシー乗り場。


捜査官の後藤が、鋭い目つきで警戒にあたっている。


府中本町の小さなタクシー乗り場、およびその周辺では30人の警察官が警戒態勢をしいている。後藤はその中心で、時折周りの連中に指示を出す。


5時を過ぎれば、帰宅する連中で一気に人口密度が増すはずだ。


(後藤「人混みに紛れて・・・というつもりか?」)


腕時計を覗いた後藤。


(後藤「あと、25分・・・」)


4年前も後藤は、レインボーブリッジで身代金引き渡しに立ち会った。レインボーブリッジの前後、および周辺を固めたにも関わらず・・・たった1人の男に5000万円を奪われた。


今回は駅構内外合わせて70人以上もの警官、および民間の警備会社から派遣された警備員がいる。さらに、付近ではパトカーおよび、白バイ連中も待機している。


(後藤「4年前と同じてつを踏むわけにはいかない・・・」)


前回同様、犯人は警察の事を承知でこの駅を指定してきた。


(後藤「絶対に逃がさない!」)


人質の命、そして警察の威信をかけて・・・


(後藤「全身全霊で警備にあたる!」)


4時40分。後藤はポケットから携帯を取り出し電話をかける。


後藤「・・・ 後藤だ。そっちは?」


電話はすぐに繋がった。


「特に問題はありません。

  アタッシュケースと共に、そちらへ向かっています」


電話の相手は、羽鳥瞳を移送中のパトカーに乗る警察官だ。


「予定通り、4時50分には着きます」


後藤「そうか。くれぐれも油断をするなよ」


「わかってます」


携帯を切った後藤。全てが順調・・・ の、ように思えたその時。後藤の視線が、驚くべき人物を捉えた。


出入り口から出てきたその男は・・・ 真っ直ぐに後藤の元へ歩み寄ってきた。


後藤「藤岡! 何故、ここへ!?」


銀縁眼鏡、白いコートをつけた藤岡が静かに後藤の前で立ち止まる。


後藤「今日は【F】に近づくなと言ったろ!!」


藤岡「えぇ・・・ しかし・・・。

    どうしても来なければならない理由が・・・」


後藤「冗談はよせ! お前だって、犯人に狙われる対象だぞ!

    堂島だって・・・」


藤岡「100も承知です。でも俺は、ここにいる必要があるんです」


後藤「何故!? 命を賭けてでも必要なのか!?」


藤岡はじっと後藤を睨み付けた。


藤岡「えぇ、そうです。例の・・・

    警視庁のサイトをハッキングしてるヤツを特定しました。


    ハッキングしていたのは複数。そして・・・ 

    連中は、この誘拐事件とも絡んでいます!」


後藤「な・・・ 本当か!?」


藤岡「もちろん!」


後藤「し、しかし・・・ お前がここにいては危険・・・。

    そいつらの情報を渡してくれれば、こちらが・・・」


藤岡「状況は非常に複雑です。今はゆっくり説明してる暇がありません! 

    だが、俺ならそいつを見ればわかるはず・・・     


    だから俺も・・・ 身代金引き渡しの警備にあたります!」


後藤「・・・ ・・・」


藤岡「俺は、自分が狙われるかもしれないという事を意識している。

    堂島とは違います!」


大きくため息をついた後藤は、角刈りの頭をかきむしる。


後藤「わかった。だが、俺の近くを絶対に離れるな・・・」


藤岡「えぇ」


後藤「そして、何か見つけたら真っ先に俺に連絡しろよ!」


無表情のまま、藤岡は頷いた。



・・・ ・・・。


その頃、リナは調布駅南口を出た所にあるネットカフェの中にいた。


ヒロが【月光】の楽譜に隠したサイトにログインし・・・


          PASS-WORD 


【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】


さらにその下部にある、パスワード入力画面を見つめる。1度入力を失敗すれば、1時間はそのサイトに接続する事ができない。


(リナ「犯人の狙いは・・・ パスワード・・・」)


初めて誘拐犯からリナに連絡が入ったその日・・・犯人はリナの部屋を荒らしている。慎吾は、何かを探していたのかもれないと言っていた。


それを裏付けるように犯人は・・・身代金の要求を、母親よりも先にリナにしている。その理由がようやくわかった。慎吾の言うとおり、リナを箱根からひばりヶ丘まで呼び出すためだ。


(リナ「そして、本当はこのパスワードを奪うつもりだった・・・」)


リナの推理では・・・ 


このパスワードの向こうに、犯人の核心に迫る何らかの情報がある。おそらく犯人も、このサイトにまでは辿り着いたのだろうが・・・256文字のパスをクリアは出来なかった。父親のセキュリティで守られているからだ。


おそらくヒロの端末から送られたメール等を、違法にチェックしたのだろう。


(リナ「そして私宛のメールに辿り着いた・・・」)


ヒロのメール送受信に関しては、複雑なコードがかけられている。メールを受け取った者以外、その内容を知る事は出来ない。


パスワードは、ヒロがリナに送ったメールにある。


(リナ「犯人はそう思った・・・そしてどうしても・・・

     パスワードの先だけは、誰にも知られたくなかった・・・」)


だからそれを破棄した。そう思えば、これまでの事が全て納得いく。


(リナ「犯人も私も・・・

     このパスワードの向こうに、何があるかを知らない・・・」)


ハドリアンズ・ウォールで守られた256文字のパスワードの先・・・そこに踏み込めた者は、ヒロ本人以外にいないはず。だから犯人は、パスワードさえ破棄してしまえば・・・自分にとって不都合な情報は外に出ないと思ったのだろう。


リナの推理は大筋で当たっていた。


スパイは・・・自身が万が一の状況に陥った場合、大事な情報を他者に委ねる。実際、ヒロはリナ宛のメールにパスワードを隠した。


何故ヒロがリナ宛のメールに、そのパスワードを隠したか・・・


リナがその真の理由を知るのは・・・まだ先だった。


(リナ「とにかく256文字のパスワードは・・・」)


ヒロのメールに書かれたメッセージを鮮明に思い出す。


2   35 485813   85  15644845  41     8  

48 416 14384  8  64  318414  384 18613  

48 434 3821  641  38  4313  3848    83  

47 488 9198  869  467  55  75139 57895 

87 638 41089  3  89817    781871 81718 

4   18     36   4161214  8498488     1 


7  897  371   845  4841  3 4

14  8  143  8  913 1834 54 3

413   648  991  36 5345 43 8

1443 4831  864  18 6913 98 7

1515 85286  5  951  81  5898

1438 981713   96998    177 2


     ↓


2354858138515644845418  

484161438486431841438418613  

484343821641384313384883  

474889198869467557513957895 

876384108938981778187181718 

41836416121484984881 


7897371845484134

14814389131834543

413648991365345438

14434831864186913987

1515852865951815898

1438981713969981772


      ↓


2354858138515644

8454184841614384

8643184143841861

3484343821641384

3133848834748891

9886946755751395

7895876384108938

9817781871817184


1836416121484984

8817897371845484

1341481438913183

4543413648991365

3454381443483186

4186913987151585

2865951815898143

8981713969981772



リナは1度見た数字をけして忘れる事はない。例えランダムにならんだ256文字の数字だろうと。


パスワード入力を間違えれば・・・1時間はログインできない。しかしリナは高速で256文字の数字を打ち込んだ。そして迷うことなく、Enterキーを押す。


しばらく画面を見つめていると・・・


(リナ「・・・ ・・・ 繋がった・・・」)


つらつらと英文が画面を覆い尽くしていく。


リナ「・・・ ・・・」


ゴクリと唾を飲み込み・・・ 最初の1行から目を通していった。



・・・ ・・・。


府中本町駅。


タクシー乗り場。後藤の横で藤岡はアタッシュケースを持ち、警戒の目を光らせながら羽鳥瞳を待っていた。それと同時に・・・


(藤岡「絶対・・・ 現れるはずだ・・・」)


藤岡には、どうしても捕まえたい男があと1人いる。


ちょうどその頃、慎吾は駅構内のトイレに向かって歩いていた。


そしてもう1人・・・


濃い青のスーツを着けた男・・・

この男こそ、藤岡が捕らえたいと思っている男・・・


彼は府中本町駅に向け・・・電車の中で揺られていた。


後藤「・・・ ・・・」


藤岡「・・・ ・・・」


慎吾「・・・ ・・・」


男「・・・ ・・・」


【F】に集まる男達は・・・それぞれの思いで、時が来るのを待った。


慎吾とスーツの男。


後に肉弾戦を展開する事など・・・ 2人とも想像すらしていない。




             (第72話へ続く)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回予告


リナはとうとう・・・256文字のパスワードの向こうの情報を手に入れる。


一方、府中本町駅では再び爆破騒ぎが起こり・・・

捜査官の藤岡は何者かの襲撃を受け、倒れていた。


慎吾は、例の男を見つけ・・・必死に追跡する。


次回 「 第72話  【Unknown】の目的 」

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