第71話 【F】に集まる男達
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慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2
「アマデウスの謎」
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前回までのあらすじ
2008年。
リナ、そして父親の魁斗が、謎の組織に狙われた。
イギリス諜報機関に属するヒロは、リナを守るために命を落とす。さらに、リナの父親・魁斗も遺体で発見された。
2012年、女子大生となったリナの携帯に「妹を誘拐した」という電話が届く。
霊能力を持つ1つ下の後輩、慎吾を連れて実家へ戻ったリナ。誘拐犯は期限内に1億を差し出さなければ、雛子を殺すと宣言。
後藤と藤岡は4年越しで、再び羽鳥家の誘拐事件を担当する。
誘拐事件の翌日から、近辺では連続殺人事件が起こり始めた。
誘拐事件から5日目、犯人の代わりにリナの妹が身代金受け渡しの場所を指示する。 慎吾と共にリナは布田駅へ向かった。
誘拐犯の指示された通り、リナがコインロッカーに自分の荷物を入れた後・・・ロッカーは爆発。リナと慎吾は、警察に疑われるのを避けるため、その場を逃げ出した。
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第71話 【F】に集まる男達
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(誘拐犯が示したタイムリミット・・・12月19日24時)
2012年12月18日(火)、午後3時21分。
布田駅から調布駅へ向かう電車の中。
慎吾「パスワード?」
リナ「あ・・・ うん・・・」
【月光】の楽譜に隠されていたサイト。そこには生前のヒロが、4年前の事件の詳細をまとめた文書がアップされている。しかしサイトの後半には、256文字もの長いパスワードを要求する場所があった。
おそらくその先には、4年前リナの周りで起きた事件の黒幕・・・そして現在妹を誘拐し、毎日殺人を犯している犯人に繋がる、重要な情報があるに違いない。
その情報さえ手に入れば・・・その凶悪犯をすぐにでも捕まえられるかもしれない。
しかし・・・皮肉にもヒロのサイトは、父親が開発した世界最高のセキュリティソフト「ハドリアンズ・ウォール」がしっかりと守っていた。
リナは左側に座っている慎吾をじっと見る。
リナ「・・・ ・・・」
そのサイトの事はまだ慎吾には言っていない。言うべきかどうか悩み続けていたが・・・
リナ「ごめん・・・ まだ、あなたにはパスワードの事は言えない・・・」
あのサイトは、ヒロと自分を繋いでくれる・・・ヒロが残した物。慎吾の事は心から信頼しているが・・・今はまだ、そのサイトを慎吾に見せたくない。論理じゃない、感情がリナをそう思わせた。
慎吾「え? 何か、あるって事です・・・ よね?」
電車が調布駅のホームで停車した。
リナ「うん・・・ ごめん・・・ でも、私を信じて・・・
あんたが必要な時は・・・ 」
リナは慎吾の手の上に、自分の手をそえた。
慎吾「あ・・・」
リナ「必ず、力を借りるから!」
言うとリナは席を立ち、扉が閉まる直前の電車から降りた。突然の行動に慎吾は呆然としてしまう。
慎吾「あ!」
我に返った時には、すでに電車のドアは閉まっていた。窓の外を見ると・・・慎吾に向けて、小さく手を振るリナが立っている。
そしてリナはすぐに背を向け、走って行った。
慎吾「あ~・・・」
【あ】を連呼する事しかできない慎吾を乗せた電車は、そのまま西調布駅へ向かった。
・・・ ・・・。
(リナ「ごめん・・・」)
心で慎吾に謝りながら、リナは調布駅・南口を出て周辺を見渡す。
(リナ「確か・・・ ここらへんにあったはず・・・」)
ビルの建ち並ぶ通りに視線を定めたリナは、足早にスクエアビルに向かって歩いて行った。
・・・ ・・・。
慎吾は西調布駅で電車を降りた後、すぐに折り返して調布駅に戻った。駅構内、およびその周辺を歩き回るも、リナの姿を見つける事はできない。
(慎吾「リナ先輩・・・」)
リナを探すか・・・ それとも犯人が現れるであろう、府中本町駅へ行くかの決断に迫られた。
慎吾「・・・ ・・・」
慎吾はリナを信じて・・・府中本町へ向かうことにした。
・・・ ・・・。
午後4時32分。府中本町駅。
図らずもリナと別行動をとる事になった慎吾は、府中本町の駅に降り立った。府中本町も、布田駅同様【F】駅。周りには、多くの警察官や警備員が巡回している。
90分前、リナと共に布田駅にいた時・・・慎吾はロッカーの前にたたずんでいた所を、警察官に注意された。この府中本町ではなるべく目立たないよう、自然に歩こうとするが・・・ 意識すれば意識するほど、ギクシャクした歩き方になってしまう。
(慎吾「お、落ち着いて・・・ 落ち着いて・・・」)
やや挙動不審な歩き方で、駅構内の中央へと歩いて行った。
慎吾「・・・ ・・・」
壁に設置された駅構内図を見ながら、タクシー乗り場の位置を確認する。
(慎吾「リナ先輩・・・」)
ずっとリナの事が気になっているが・・・
(慎吾「今はリナ先輩を信じて、自分のとるべき行動を・・・」)
そう自分に言い聞かせた。しばらく駅構内図を見ていた慎吾は、周りをキョロキョロしながら、トイレへと向かって行った。
・・・ ・・・。
午後4時35分。府中本町駅・タクシー乗り場。
捜査官の後藤が、鋭い目つきで警戒にあたっている。
府中本町の小さなタクシー乗り場、およびその周辺では30人の警察官が警戒態勢をしいている。後藤はその中心で、時折周りの連中に指示を出す。
5時を過ぎれば、帰宅する連中で一気に人口密度が増すはずだ。
(後藤「人混みに紛れて・・・というつもりか?」)
腕時計を覗いた後藤。
(後藤「あと、25分・・・」)
4年前も後藤は、レインボーブリッジで身代金引き渡しに立ち会った。レインボーブリッジの前後、および周辺を固めたにも関わらず・・・たった1人の男に5000万円を奪われた。
今回は駅構内外合わせて70人以上もの警官、および民間の警備会社から派遣された警備員がいる。さらに、付近ではパトカーおよび、白バイ連中も待機している。
(後藤「4年前と同じ轍を踏むわけにはいかない・・・」)
前回同様、犯人は警察の事を承知でこの駅を指定してきた。
(後藤「絶対に逃がさない!」)
人質の命、そして警察の威信をかけて・・・
(後藤「全身全霊で警備にあたる!」)
4時40分。後藤はポケットから携帯を取り出し電話をかける。
後藤「・・・ 後藤だ。そっちは?」
電話はすぐに繋がった。
「特に問題はありません。
アタッシュケースと共に、そちらへ向かっています」
電話の相手は、羽鳥瞳を移送中のパトカーに乗る警察官だ。
「予定通り、4時50分には着きます」
後藤「そうか。くれぐれも油断をするなよ」
「わかってます」
携帯を切った後藤。全てが順調・・・ の、ように思えたその時。後藤の視線が、驚くべき人物を捉えた。
出入り口から出てきたその男は・・・ 真っ直ぐに後藤の元へ歩み寄ってきた。
後藤「藤岡! 何故、ここへ!?」
銀縁眼鏡、白いコートをつけた藤岡が静かに後藤の前で立ち止まる。
後藤「今日は【F】に近づくなと言ったろ!!」
藤岡「えぇ・・・ しかし・・・。
どうしても来なければならない理由が・・・」
後藤「冗談はよせ! お前だって、犯人に狙われる対象だぞ!
堂島だって・・・」
藤岡「100も承知です。でも俺は、ここにいる必要があるんです」
後藤「何故!? 命を賭けてでも必要なのか!?」
藤岡はじっと後藤を睨み付けた。
藤岡「えぇ、そうです。例の・・・
警視庁のサイトをハッキングしてるヤツを特定しました。
ハッキングしていたのは複数。そして・・・
連中は、この誘拐事件とも絡んでいます!」
後藤「な・・・ 本当か!?」
藤岡「もちろん!」
後藤「し、しかし・・・ お前がここにいては危険・・・。
そいつらの情報を渡してくれれば、こちらが・・・」
藤岡「状況は非常に複雑です。今はゆっくり説明してる暇がありません!
だが、俺ならそいつを見ればわかるはず・・・
だから俺も・・・ 身代金引き渡しの警備にあたります!」
後藤「・・・ ・・・」
藤岡「俺は、自分が狙われるかもしれないという事を意識している。
堂島とは違います!」
大きくため息をついた後藤は、角刈りの頭をかきむしる。
後藤「わかった。だが、俺の近くを絶対に離れるな・・・」
藤岡「えぇ」
後藤「そして、何か見つけたら真っ先に俺に連絡しろよ!」
無表情のまま、藤岡は頷いた。
・・・ ・・・。
その頃、リナは調布駅南口を出た所にあるネットカフェの中にいた。
ヒロが【月光】の楽譜に隠したサイトにログインし・・・
PASS-WORD
【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】
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【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】
【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】
【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】
さらにその下部にある、パスワード入力画面を見つめる。1度入力を失敗すれば、1時間はそのサイトに接続する事ができない。
(リナ「犯人の狙いは・・・ パスワード・・・」)
初めて誘拐犯からリナに連絡が入ったその日・・・犯人はリナの部屋を荒らしている。慎吾は、何かを探していたのかもれないと言っていた。
それを裏付けるように犯人は・・・身代金の要求を、母親よりも先にリナにしている。その理由がようやくわかった。慎吾の言うとおり、リナを箱根からひばりヶ丘まで呼び出すためだ。
(リナ「そして、本当はこのパスワードを奪うつもりだった・・・」)
リナの推理では・・・
このパスワードの向こうに、犯人の核心に迫る何らかの情報がある。おそらく犯人も、このサイトにまでは辿り着いたのだろうが・・・256文字のパスをクリアは出来なかった。父親のセキュリティで守られているからだ。
おそらくヒロの端末から送られたメール等を、違法にチェックしたのだろう。
(リナ「そして私宛のメールに辿り着いた・・・」)
ヒロのメール送受信に関しては、複雑なコードがかけられている。メールを受け取った者以外、その内容を知る事は出来ない。
パスワードは、ヒロがリナに送ったメールにある。
(リナ「犯人はそう思った・・・そしてどうしても・・・
パスワードの先だけは、誰にも知られたくなかった・・・」)
だからそれを破棄した。そう思えば、これまでの事が全て納得いく。
(リナ「犯人も私も・・・
このパスワードの向こうに、何があるかを知らない・・・」)
ハドリアンズ・ウォールで守られた256文字のパスワードの先・・・そこに踏み込めた者は、ヒロ本人以外にいないはず。だから犯人は、パスワードさえ破棄してしまえば・・・自分にとって不都合な情報は外に出ないと思ったのだろう。
リナの推理は大筋で当たっていた。
スパイは・・・自身が万が一の状況に陥った場合、大事な情報を他者に委ねる。実際、ヒロはリナ宛のメールにパスワードを隠した。
何故ヒロがリナ宛のメールに、そのパスワードを隠したか・・・
リナがその真の理由を知るのは・・・まだ先だった。
(リナ「とにかく256文字のパスワードは・・・」)
ヒロのメールに書かれたメッセージを鮮明に思い出す。
2 35 485813 85 15644845 41 8
48 416 14384 8 64 318414 384 18613
48 434 3821 641 38 4313 3848 83
47 488 9198 869 467 55 75139 57895
87 638 41089 3 89817 781871 81718
4 18 36 4161214 8498488 1
7 897 371 845 4841 3 4
14 8 143 8 913 1834 54 3
413 648 991 36 5345 43 8
1443 4831 864 18 6913 98 7
1515 85286 5 951 81 5898
1438 981713 96998 177 2
↓
2354858138515644845418
484161438486431841438418613
484343821641384313384883
474889198869467557513957895
876384108938981778187181718
41836416121484984881
7897371845484134
14814389131834543
413648991365345438
14434831864186913987
1515852865951815898
1438981713969981772
↓
2354858138515644
8454184841614384
8643184143841861
3484343821641384
3133848834748891
9886946755751395
7895876384108938
9817781871817184
1836416121484984
8817897371845484
1341481438913183
4543413648991365
3454381443483186
4186913987151585
2865951815898143
8981713969981772
リナは1度見た数字をけして忘れる事はない。例えランダムにならんだ256文字の数字だろうと。
パスワード入力を間違えれば・・・1時間はログインできない。しかしリナは高速で256文字の数字を打ち込んだ。そして迷うことなく、Enterキーを押す。
しばらく画面を見つめていると・・・
(リナ「・・・ ・・・ 繋がった・・・」)
つらつらと英文が画面を覆い尽くしていく。
リナ「・・・ ・・・」
ゴクリと唾を飲み込み・・・ 最初の1行から目を通していった。
・・・ ・・・。
府中本町駅。
タクシー乗り場。後藤の横で藤岡はアタッシュケースを持ち、警戒の目を光らせながら羽鳥瞳を待っていた。それと同時に・・・
(藤岡「絶対・・・ 現れるはずだ・・・」)
藤岡には、どうしても捕まえたい男があと1人いる。
ちょうどその頃、慎吾は駅構内のトイレに向かって歩いていた。
そしてもう1人・・・
濃い青のスーツを着けた男・・・
この男こそ、藤岡が捕らえたいと思っている男・・・
彼は府中本町駅に向け・・・電車の中で揺られていた。
後藤「・・・ ・・・」
藤岡「・・・ ・・・」
慎吾「・・・ ・・・」
男「・・・ ・・・」
【F】に集まる男達は・・・それぞれの思いで、時が来るのを待った。
慎吾とスーツの男。
後に肉弾戦を展開する事など・・・ 2人とも想像すらしていない。
(第72話へ続く)
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次回予告
リナはとうとう・・・256文字のパスワードの向こうの情報を手に入れる。
一方、府中本町駅では再び爆破騒ぎが起こり・・・
捜査官の藤岡は何者かの襲撃を受け、倒れていた。
慎吾は、例の男を見つけ・・・必死に追跡する。
次回 「 第72話 【Unknown】の目的 」
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