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アマデウスの謎  作者: 伊吹 由
第3章 ゲームの行方
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69/147

第68話  安田の行方

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


  慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2


       「アマデウスの謎」 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

前回までのあらすじ


2008年。

リナ、そして父親の魁斗(かいと)が、謎の組織に狙われた。


イギリス諜報機関に属するヒロは、リナを守るために命を落とす。さらに、リナの父親・魁斗も遺体で発見された。


2012年、女子大生となったリナの携帯に「妹を誘拐した」という電話が届く。


霊能力を持つ1つ下の後輩、慎吾を連れて実家へ戻ったリナ。誘拐犯は期限内に1億を差し出さなければ、雛子を殺すと宣言。


後藤と藤岡は4年越しで、再び羽鳥家の誘拐事件を担当する。

誘拐事件の翌日から、近辺では連続殺人事件が起こり始めた。


誘拐事件から5日目、犯人の代わりにリナの妹が身代金受け渡しの場所を指示する。


その夜、リナに届いた不審なメール。指定されたアドレスを見ると・・・4年前のリナが、人を殺した動画が流れていた。


そして布田駅に来なければ、今すぐにでも妹を殺すというメッセージが映し出された。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


   第68話  安田の行方


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

(誘拐犯が示したタイムリミット・・・12月19日24時)


2012年12月18日(火)、午前3時42分。羽鳥邸、リナの部屋。


リナ「・・・ ・・・」


自分のベッドの上で、天井を見つめるリナ。


リナ「・・・ ・・・」


妹を誘拐した犯人が示したサイト。そこでは、4年前の自分が銃で人を撃ち殺した動画が流れていた。


リナ「・・・ ・・・」


初めて見た時、あの動画は他人事のように思えた。しかし時間が経つほど・・・


(リナ「私は・・・ 人を殺した・・・」)


あの映像が・・・けして他人事ではない事を、体中が認識し始めている。呼吸が乱れ、熱も出ているようだ。脳内では、あらゆる考えが交錯する。


(リナ「人を・・・ 殺した・・・」)


見えない何かに、心が押しつぶされそうだ。


(リナ「でも撃たなければ・・・」)


自分もヒロも・・・命の保障はなかった。


しかし正当防衛うんぬんよりも・・・


(リナ「それでも私は・・・ 人を殺した・・・」)


この事実だけは曲げようがない。


4年前・・・ 


リナを誘拐した覆面男らは、爆弾の設置された倉庫へ閉じ込めた。倉庫周辺には武装した連中がいて、助けに来たヒロと激しい銃撃戦を繰り広げた。


やがてリナが監禁されている倉庫に辿り着いたヒロは・・・ リナをかくまいながら、複数のテロリスト相手に応戦する。


あの覆面連中のした事は立派な犯罪。あの状況の中、自分は最良の行動をとったはずだ。


論理ではそうだが・・・ 理性がそれを否定する。


(リナ「私も・・・ 殺人者・・・」)


天井を見つめたまま・・・


一睡もする事なく、夜は明けていった。



・・・ ・・・。


午前11時10分。リナの部屋。


慎吾「リナ先輩のお母さん・・・ 出て行きましたよ。

    警察の人もみんな一緒です」


部屋の中から、窓の外を見ている慎吾。ベッドに座っているリナへ、背中越しに声をかけた。


リナ「・・・ ・・・」


リナの方を振り返った慎吾が、再び声をかける。


慎吾「リナ先輩?」


リナ「・・・ え? 何?」


心ここにあらずといった様子だ。


慎吾「・・・ ・・・」


リナの異変に気づいた慎吾は、首をかしげながら三度(みたび)声をかけた。


慎吾「どうかしましたか? 今日はずっと変ですよ?」


リナ「・・・ ・・・」


昨夜から一睡もしていないリナは、小さくため息をつく。


リナ「うん・・・ 犯人が言ったリミットが近づいてるから・・・

    ちょっとナーバスになってる・・・ かな・・・」


慎吾「そうですか・・・。そうですよね・・・

    早く妹さんを助けないと・・・ 落ち着けませんものね」


リナ「うん・・・」


リナは迷っていた。昨夜犯人からコンタクトがあった事を、慎吾に言うべきかどうかを。


リナ「・・・ ・・・」


慎吾「もう少ししたら・・・僕は府中本町に行こうと思います。

    早めに行って、あの男がいないか調べたいので」


リナ「・・・ ・・・」


しばらく沈黙を保っていたリナは、ゆっくりと慎吾に視線を合わせる。


リナ「聞いて・・・」


慎吾「え?」


リナ「あ・・・ ・・・」


一瞬戸惑いを見せた直後、覚悟を決めたように声を出した。


リナ「聞いて欲しい・・・事があるの・・・」


慎吾はニコッと笑う。まるでその言葉を待っていたかのように。


慎吾「えぇ・・・ 聞きましょう」


リナ「うん・・・」


リナは自分の携帯を取り出し、【お姉ちゃん、助けて】というタイトルのメールを見せた。



・・・ ・・・。



慎吾「なるほど。犯人から布田駅に来いと・・・。 

    来なければ妹さんを殺す・・・」


慎吾は悩む表情を見せる。


リナ「えぇ・・・」


ベッドに座っているリナ。例の動画の事は伝えず、犯人からのメッセージのみを慎吾に伝えた。


慎吾「そのメールにあるサイトは・・・ もう見られないんですね?」


リナ「うん。何度読み込んでも、メッセージは2度と表れる事はなかった」


あの動画から


(リナ「犯人は間違いなく、4年前に私とパパを誘拐した人物・・・」)


そう確信しているが・・・その事は慎吾に伏せておいた。


慎吾「そうですか・・・」


リナ「見せてあげたいけど、どうせ真っ暗なページだけだし」


万が一にでも、あの動画が慎吾の目に触れないよう、そのサイトにアクセスする事はしない。


慎吾「・・・ ・・・」


ずっと何かを考え込んでいる慎吾。


慎吾「ひっかかりますね・・・」


リナ「な、何が?」


リナは思わず声が上ずってしまう。


慎吾「いえ・・・ ほら・・・ 箱根にいた時ですが・・・

    犯人は、リナ先輩の部屋を荒らしていたじゃないですか」


リナ「う、うん・・・」


慎吾「前にも言いましたが、犯人は何かを・・・

    リナ先輩が持ってる何かを・・・探しているのではないかと」



リナ「何かって・・・ 何よ?

    私、犯人が欲しがるような物、持っていないわよ?」


慎吾「・・・ ・・・。でなければ・・・」


リナ「でなければ?」


慎吾「・・・ ・・・」


黙ってリナを見つめる。


慎吾「いえ・・・」


口を噤(つぐ)んで、ニコッと笑う慎吾。ふとリナの机に視線を移した。


慎吾「あ、これ! 何の楽譜ですか?」


机の上にあった、ピアノの楽譜集を手にした。


リナ「・・・。ソナチネよ。ピアノ初級者向けの楽譜集」


慎吾があからさまに話題を変えた事はもちろん気づいてるが、ここは慎吾に合わせるリナ。


慎吾「へ~。ベートーベンにモーツァルトにバッハにシューマン。

    有名どころばっかりだ」


リナ「・・・ ・・・」


パラパラと楽譜をめくる慎吾を見ながら、やや言いづらそうにリナは口を開いた。


リナ「パパがね・・・それにあるモーツァルトの曲が好きだったの」


慎吾「え?」


4年前の事件の報告書で、リナの父親が遺体で発見された記述を思い出した。


慎吾「あ・・・ お父さん・・・ その・・・」


リナは気にしてないといったそぶりで、小さく笑う。


リナ「ね? 日本語だとしっくりくる言葉がないのよね。英語なら・・・」


慎吾「【I’m sorry.】でしたよね?」


リナ「そ!」


以前、その言い回しを教えた事があったリナは、小さく首を縦にふった。


慎吾「それじゃ・・・」


父親の話題を変えようと、慎吾が口を開く。


慎吾「一緒に行きましょう、布田駅へ。出発はいつにします?」


その言葉を聞いたリナは、心から安心した。


普段強気で、1人で何事もこなすリナだが・・・今回は妹の命がかかっている。自分の下手な行動で、妹を危険な目に合わせるわけにはいかない。


慎吾がいれば・・・ 相手の出方に対して多様な作戦を練ることも出来るし、何より慎吾の霊能力は頼りになる。


リナ「一緒に来てくれるのは心強いけど・・・ 

    あんた、警察に目をつけられてるんでしょ?


    布田駅だって【F】よ? 行って、大丈夫?」


慎吾「大丈夫ですよ。目をつけてるのは、後藤さんと藤岡さんだけ。

    リナ先輩に見せて貰った警視庁のサイトを見ても・・・


    僕が警戒されてるような記述はありませんでしたし」


リナ「そっか・・・」


ここ数日、そして今朝にいたるまで警視庁サイトから最新情報を収集しているリナ。分倍河原駅で死体を発見した以外で、慎吾の名前が書かれているのを見た事が無い。


リナ「そうね・・・」


部屋の時計を見ながらリナが応える。


リナ「ここからなら、布田駅まで1時間ちょっとあれば着くから・・・

    1時過ぎに出れば十分ね」


慎吾「了解です。では準備して、午後1時にリナ先輩の部屋に来ます」


リナ「うん」


ベランダの扉から出て行こうとする慎吾に、思わずリナは声をかけた。


リナ「あ・・・ 慎吾・・・」


慎吾「 ? まだ、何か?」


リナは首を横に振る。


リナ「ううん・・・。その・・・ ありがと・・・」


慎吾は笑顔を見せると、何も言わず頷いて、リナの部屋を後にした。その慎吾を、リナは小さな笑顔で見送った。



・・・ ・・・。


午後1時5分。リュックを背負った慎吾が、リナの部屋に現れた。


今一度、これからの行動を確認した後・・・リナもリュックを背負って、共に部屋を出る。


部屋を出たリナは鍵をかけると、体をかがめ、ドアの下の方に何かをセットした。


慎吾「何してるんです?」


リナの行動を不思議に思った慎吾が声をかける。


リナ「ん? ん~。 おまじない」


ドアの蝶番(ちょうつがい)の上に、シャーペンの芯をセットしたリナ。かつてヒロに教えてもらったおまじない・・・いや、人が出入りしないかをチェックする簡易トラップだ。


リナ「さ、行くわよ」


慎吾「はい」


2階の廊下を歩きながら・・・慎吾は、下の階に藤岡がいる事に気づいた。


慎吾「藤岡さん・・・ ソファで寝てます・・・」


リナ「・・・ ・・・」


返事をせず、無表情で階段を降りるリナ。


慎吾「・・・ ・・・」


慎吾は、家政婦の新城から聞いた事を思い出す。


藤岡が・・・リナの彼氏であるヒロを撃ち殺したという話を。


警察の報告書の中で・・・ヒロは警察署を襲撃した主犯として、藤岡捜査官に射殺されたとあった。


(慎吾「そういえば藤岡さんも・・・ イニシャルが【F】だ・・・」)


寝ている藤岡の横を通り抜け・・・ 2人は玄関の外へ出る。


羽鳥邸の正面玄関を出ると、広い庭がある。一般道へ出るには10m先の、赤く大きな正門をくぐって行かなければならない。その正門の前には、ものものしいX線装置がある。


4年前、羽鳥邸は爆破テロ攻撃を受けた。それ以来、外部から羽鳥邸の中へ入る者は、金属探知機とX線による検査を義務づけられている。ただし中から外へ出て行く際、それらの検査は不要である。


正門横には小さな警備小屋があり、羽鳥家・警備主任の井上がそこから出てきた。


井上「おや、リナお嬢様? 外出なさるので?

    警察からは外に出るなと・・・」


笑顔でリナは応える。


リナ「外出禁止は昨日まで。聞いてると思うけど・・・

    今日、府中本町で身代金の引き渡しが行われるの・・・」


井上「えぇ、聞いております」


リナ「今日は、そこに近づかなければいいって言われたわから・・・」


口から出任せを言うリナ。


井上「おや、そうでしたか・・・。

    久しぶりに彼氏様とデートって事ですね」


リナ「まさか・・・ 

    妹の無事を願って、布多天神社(ふだてんじんじゃ)に行くのよ」


井上「これはこれは・・・ 大変失礼しました。

    私も心から、雛子お嬢様のご無事を祈っておきます」


深々と頭を下げる井上。


リナ「うん。絶対に絶対に・・・ 無事に戻ってくる事を祈っておいてね」


小さな笑顔を井上に見せるリナ。


井上「もちろんです」


井上は再び深々とお辞儀をした。


リナ「そういえば・・・」


井上「 ? 」


リナ「最近、安田さん見かけないけど・・・?」


井上「彼は今、休みをとっています」


リナ「え? そうなの?」


井上「彼の仕事は基本、運転手ですから。

    ここ数日、奥様もずっと自宅待機。雛子お嬢様も行方不明・・・」


リナ「そっか・・・ 運転手は今、必要無いってわけね・・・」


井上「雛子お嬢様が誘拐された事に、かなり責任を感じてたようで・・・

    おそらく、お嬢様を毎日捜し回っていると・・・思います」


リナ「・・・ ・・・」


ヒロの報告書に、安田の名前は一切出てこなかった。それゆえリナは、安田がヒロと組んでいた事は知らない。


リナが高校生の時、学校を始めあらゆる所へ送迎をしてもらったのが安田。今でも【安田=羽鳥家の運転手】という認識だ。


リナ「うん、わかった・・・。ありがとう。

    井上さんも無理せず、休みが欲しい時は遠慮せず休んでね」


井上「もったいないお言葉です」


にこやかな笑顔で、井上は頭を下げる。


リナ「じゃ・・・ お仕事頑張ってね」


リナは軽く手を振ると、慎吾とともに大きな門を出て行った。


外へ出た直後、慎吾はリナに質問する。


慎吾「あの・・・布多天神社(ふだてんじんじゃ)ってのは・・・?」


リナ「布田駅の近くにある神社よ。

    何でも500年以上も前からあって、由緒ある神社らしいのよね。


    ぶっちゃけ、行った事ないけど」


慎吾「へ~・・・」


事件がなければ、是非とも訪れてみたいと思う慎吾。


慎吾「でも、リナ先輩、やっぱりすごいな」


眉をひそめたリナが聞き返す。


リナ「何が?」


慎吾「だって、ホントは誘拐犯に指示されて、布田駅に行くのに・・・

    警備の井上さんには神社に行くって・・・ アドリブですよね?


    頭の回転が速いというか、口から出任せの達人というか・・・」


リナ「・・・ ・・・。相変わらず、ひっかかる言い方するわね・・・」


言いながらも、妹の事に集中しようとするリナ。慎吾の天然発言は、なるべく忘れるように意識した。


リナ「さ、まずはひばりヶ丘から秋津・・・ね」


慎吾「はい!」


リュックを背負った1組のカップルは・・・ 足早にひばりヶ丘駅へと向かった。



・・・ ・・・。


2人はひばりヶ丘から秋津。新秋津から府中本町へと向かう。府中本町で武蔵野線から、南武線に乗り換える。府中本町で乗り換える際、2人は多くの警察官や警備員を見た。


慎吾「やっぱり・・・【F】駅には、たくさん警備がついてますね」


リナ「そうね・・・」


リナは警備態勢に特に興味を持たず、スタスタと歩いていった。 


南武線で分倍河原へ行き、そこから京王線に乗りかえる。


慎吾「・・・ ・・・」


分倍河原駅のホームに降り立った時、慎吾は4日前の事を思い出した。あの時、慎吾は何かに導かれるようにして・・・トイレの中で遺体を発見した。


(慎吾「今日も【F】駅で・・・ 犠牲者が出るのだろうか・・・」)


京王線・新宿方面行きの電車に乗った慎吾。


(慎吾「布田駅か・・・ あるいは府中本町か・・・

     それとも他の【F】駅か・・・」)


布田駅に向かう電車の中で・・・ 少しずつ緊張が高まってきた。出来れば【F】駅での殺人も止めたいが・・・


(慎吾「今はリナ先輩の妹さんを・・・」)



・・・ ・・・。



場所は変わって・・・



日本から遠く離れた国。オーストリア。


その首都、ウィーン。時刻、午前6時半。(日本時刻、午後2時半)



その女性はホテルから出ると、目の前に止まっていたタクシーに乗り込んだ。


運転手「Guter Morgen.」

(おはようございます)


運転手の男は、後部座席に乗り込んだ女性客に声をかける。


女性「Guter Morgen.Vienna Universität!」

(おはよう。ウィーン大学まで)


運転手「Roger.Ich führe Sie zur Vienna Universität.」

(了解しました。ウィーン大学までお連れします)


言いながら男は、タクシーを出発させた。そしてハンドル横の無線機に手をかける。


チラリとバックミラーで、女性客を確認した男は・・・


無線機に向け、日本語で言った。


運転手「対象を確保。今から空港に向かいます」


女性「 ? 」


運転手が、聞き取れない言葉で無線に応じていたようだが・・・女性は特に気にする様子を見せない。


無線の向こうから・・・ 日本語で言葉が返ってきた。


「絶対に油断はするな・・・



            安田」




             (第69話へ続く)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回予告


リナと慎吾は布田駅に降り立った。


リナの携帯に、誘拐犯からのメールが届く。

誘拐犯の指示通りに動く2人だが・・・



次回 「 第69話  鍵 」

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