第65話 指定された【F】
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慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2
「アマデウスの謎」
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前回までのあらすじ
2008年。
リナ、そして父親の魁斗が、謎の組織に狙われた。
イギリス諜報機関に属するヒロは、リナを守るために命を落とす。さらに、リナの父親・魁斗も遺体で発見された。
2012年、女子大生となったリナの携帯に「妹を誘拐した」という電話が届く。
霊能力を持つ1つ下の後輩、慎吾を連れて実家へ戻ったリナ。誘拐犯は期限内に1億を差し出さなければ、雛子を殺すと宣言。
後藤と藤岡は4年越しで、再び羽鳥家の誘拐事件を担当。
誘拐事件の翌日から、近辺では連続殺人事件が起こる。
藤岡は、警視庁のページに違法アクセスしている何者かに気づく。
一方リナは、4年前の事件について慎吾に話し始めた。
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第65話 指定された【F】
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(誘拐犯が示したタイムリミット・・・12月19日24時)
2012年12月17日(月)、午後4時14分。羽鳥邸、リナの部屋。
リナ「・・・ ・・・」
昼食も取らず、ずっとベッドの上にいたリナ。
(リナ「こんな状態じゃ・・・ 妹を助けるなんて・・・」)
少しずつ落ち着きを取り戻すも、心のモヤモヤは拭えない。
リナ「・・・ ・・・」
思い立ったリナは、ゆっくりベッドから起き上がる。部屋を出ると、真っ直ぐ1階のピアノ室へと向かった。
1分後、静かにピアノの前に座ったリナは鍵盤に手を添える。
リナ「・・・ ・・・」
普段物事を決める際、迷う事が嫌いなリナだが・・・何を弾こうか迷っていた。
(リナ「月光・・・」)
ヒロが初めて自分に弾いてくれた曲を、ゆっくりと弾き始めた。暗譜はしていたものの、弾き始めてすぐの第4小節で手を止める。
(リナ「・・・。 ダメ・・・」)
【月光】を演奏していると、否が応でもヒロの事を思い出してしまう。演奏の途中で、涙がこぼれ落ちてしまった。
ヒロ「そんな時は、モーツァルトの明るい曲だ」
ヒロの声が聞こえたような気がした。
(リナ「ヒロ先生なら、きっとそう言うに違いない・・・」)
リナは深呼吸し、気を取り直して再び鍵盤の上に手をのせる。
(リナ「パパが大好きだった・・・K.545・・・」)
ベートーベンの重く響き渡る音とは違い、モーツァルトの軽やかな音がピアノ室を満たしていった。
・・・ ・・・。
応接室にいた後藤は、タバコを吸いながら携帯をいじっていた。
羽鳥雛子が誘拐されたと通報があって以来・・・藤岡と2人、12時間交代で羽鳥邸に常駐している後藤。
しかしここ数日、大きな動きがあったといえば、3日前に犯人から電話があったぐらいだ。
それ以降、後藤のする事といえば・・・ただ応接室のソファに座り、タバコをふかす。そして、時折入る署からの連絡対応だけだ。
後藤「・・・ ・・・」
黙って携帯を操作している後藤は、普段勤務中にやる事はない携帯ゲームに興じていた。リナがピアノ室から出てきた事も気づかず、ゲームに没頭している。
応接室の横を通り過ぎようとしたリナは、ソファに座っている後藤の携帯画面がちらりと目に入った。
(リナ「数独・・・?」)
後藤の携帯画面には、9×9のマス目に数字がいくつか点在しており、空いたマス目に数字を埋める・・・数独というゲーム画面が映し出されている。
(リナ「しかも、レベル【達人】?」)
数独もマインスイーパ同様、論理的な数字のゲーム。50歳を超えた後藤が【達人】レベルというのは、リナにとって意外だった。
リナ「・・・ ・・・」
声をかけようか迷ったが、無言でリナは書斎に向かう。
書斎へ入ると、一直線に奥の本棚へ向かった。楽譜が置かれてある棚だ。その中から、ソナチネアルバムを取り出す。
(リナ「確か・・・ これに・・・」)
パラパラとページをめくると、モーツァルトの「K.545」の楽譜を見つけた。
リナ「・・・ ・・・」
リナの父親・羽鳥魁斗は・・・生前、この曲が大好きだった。
4年前、家族でクリスマスを迎えられたなら・・・リナはこの曲を父親に演奏してあげるつもりだった。そのため、彼氏でもあるヒロにレッスンをつけてもらっていたが・・・
リナ「・・・ ・・・」
ヒロも父親も亡くなってしまった。
楽譜を眺めながら、しばらく2人の事を思い出していたリナ。やがて目を閉じ、首を横に振る。
(リナ「今は哀しみに浸る時じゃない。
雛を救うためにも、心をしっかりしなきゃ」)
ソナチネアルバムを手にしたリナは、再びピアノ室へと向かった。
再度ピアノの前に座ったリナ。楽譜を開き、ところどころ暗譜出来ていなかった所を確認しながら演奏する。
非常にテンポのよい曲調は、少しずつリナの心の中にあるモヤモヤをかき消していくように感じられた。
ヒロ「な? 落ち込む時は、堅物のベートーベンよりも・・・
脳天気な天才・モーツァルトさ!」
リナ「うん・・・」
この日初めて小さな笑顔を見せたリナは、1時間もモーツァルトを弾き続けた。
・・・ ・・・。
午後6時51分。応接室。
後藤「お? 藤岡じゃねぇか・・・ まだ7時前だぞ?」
応接室に現れた藤岡の姿を見て、後藤が目を丸くする。
藤岡「お疲れ様です。
3日前には、7時過ぎに誘拐犯から連絡ありましたからね。
犯人によれば、今日連絡があるんですよね?」
後藤「あぁ・・・」
藤岡「だとしたら、そろそろ連絡が来る頃かと思いまして。
ちょっと早めに、来たんですよ」
言いながら藤岡は、後藤の目の前のソファに座った。
後藤「そうか・・・ 交代まで3時間もあるのに・・・。
相変わらず仕事熱心だな、お前は」
静かにノートパソコンを開いて起動させる藤岡に、後藤が小さな声をかける。
後藤「・・・ ・・・ あの件は?」
藤岡「まだです。ただ、警察情報がどこかに流出している可能性も・・・」
言いながら藤岡は、自分の携帯をテーブルの上に置いた。
後藤「警視庁サイトに不正侵入して、情報を流すヤツがいる・・・
警察の中にそんなヤツがいるなんて・・・
本人以外、絶対思わねぇよな」
藤岡「・・・ ・・・」
藤岡は黙って、パソコンのキーボードを高速で叩き続けた。
・・・ ・・・。
午後7時3分。リナの部屋。
リナから、たった2文字のメール「来て」を受け取った慎吾。
いつものようにベランダから、おそるおそるリナの部屋の中へと入っていく。
慎吾「お、およびでしょうか・・・?」
おどおどしながら、ノートパソコンを操作しているリナの背中に声をかけた。
リナ「大丈夫よ、取って食おうなんて思ってないから」
背中を向けたまま、慎吾に声をかける。
リナ「今日は、誘拐犯から連絡が来る事になっているからさ。
あんたの霊能力で、何かわかればと思って・・・」
朝に比べれば、だいぶ落ち着いた口調だ。
慎吾「そ、そうですか」
リナ「連絡が来るまでさ・・・
4年前の事件で何かわかった事とかあれば・・・聞こうかな?」
慎吾の方を振り返り、作り笑いを浮かべた。
慎吾「は、はい・・・」
相変わらず部屋の中では、露出度の高い服を着ているリナ。慎吾の目が慣れる事はなかった。
・・・ ・・・。
午後11時12分。応接室。
藤岡「遅いですね・・・ 今日は連絡がないのかも・・・」
本来10時に帰るはずの後藤も、まだ応接室に残っている。
後藤「う~む・・・ まぁ12時まで待ってみるさ」
さらに応接室では、午後7時からリナの母親・羽鳥瞳も待機していた。
瞳「・・・ ・・・」
夕食もとらずに、犯人からの連絡を待ち続ける瞳。
誘拐犯からの連絡を受けるのは、心をえぐられるようなつらい感覚に襲われる。しかし連絡を受け取らなければ、愛する娘の命が危険にさらされる。
連絡を受け取りたくない気持ちと、早く連絡が来て娘の無事を確かめたい気持ちの両方が混在した、複雑な心境だった。
そして運命の時は来た。
リリリリリーン・・・ リリリリリーン・・・
午後11時14分、電話は不意に鳴り響いた。ナンバーディスプレイを確認すると「非通知」。
ここ数日で非通知表示の電話があったのは・・・
後藤「犯人からだ!」
すぐに藤岡は、逆探知の準備をする。100%逆探知が無理と確信しているが、マニュアル通りに仕事をこなすだけだ。そして後藤もまた、マニュアル通りに瞳に声をかけた。
後藤「いつものように、2点だけ確認してください。
落ち着いて話す事。そして、出来るだけ会話を引き延ばす事!」
瞳は静かに、そして深く頷いて受話器をとった。
瞳「も・・・ もしもし・・・?」
後藤と瞳にとって、完全に予想外の声が聞こえてきた。
声「マ・・・ ママ・・・?」
瞳の目が大きく見開く。
瞳「ひ・・ 雛子!?」
雛子「うん・・・ ママ。私よ・・・」
藤岡「・・・ ・・・」
4年前、誘拐犯のヒロ・ハーグリーブスが電話して来たと思ったら・・・誘拐された方のリナが、電話に出た時があった。後藤はそれを思い出しながら、電話の向こうの声に集中する。
瞳「ど、どこに!? あなた、今、どこにいるの!?」
雛子「あ・・・ 1億円は・・・ 用意出来たか・・・って?」
電話の向こうの娘は、たどたどしく喋り始めた。
瞳「何!? 何、言ってるの!?
そんな事より、あなたが今、どこにいるのか教えてちょうだい!」
(後藤「落ち着いて・・・」)
後藤は両手を拡げ、ゆっくり上下に動かして瞳に合図を送る。しかし、娘の声を聞いて落ち着いていられるはずがない。
瞳「雛子! 雛子!!!」
雛子「・・・ ・・・」
電話の向こうで、何か小さな物音が聞こえるが・・ その音が何なのか判らない。
雛子「お、お願いママ・・・。ママがちゃんと応えないと・・・
私・・・ 私・・・」
今度は泣きそうな声で話しかけてきた。
瞳「ひ・・・ 雛子・・・?」
娘が誘拐されてから・・・直接電話で瞳と話すのはこれが2回目。
誘拐されたその日に、雛子と瞳は電話を通して言葉を交わしたが・・・ その時、雛子は犯人に銃を向けられていると言った。
瞳「雛子・・・」
おそらく娘の側に犯人がいて、あの時同様、娘に怖い思いをさせているのだろう。
雛子「1億は・・・ 用意出来た・・・?」
瞳「・・・ ・・・」
娘の名前がのどから出かかっているが・・・ それをゴクリと飲み込む。
瞳「1億・・・ ちゃんと用意してある・・・」
雛子「その・・・1億を・・・ えっと・・・」
今にも泣き出しそうな声を、絞り出しているようだ。側で「こう言え」と指示されている様子が、手に取るようにわかる。
雛子「アタッシュケース・・・ 4つに分けて・・・ あした・・・
指定した駅まで・・・ 持って来い・・・」
瞳「1億円を・・・ 4つに分けて・・・ 駅まで持ってくるのね!?」
娘の言った言葉をわざとゆっくり繰り返し、少しでも時間を稼ぐ。
瞳「アタッシュケースも用意する! ど、どこの駅に持って行けば?」
雛子「えっと・・・ ふ、府中本町まで・・・ 持って来いって・・・」
(後藤「府中本町・・・? 【F】駅に・・・?」)
瞳「わかった、府中本町にね! な、何時に行けばいいの?
駅のどこに?」
雛子「明日、午後5時・・・ タクシー乗り場・・・ 来・・・」
言葉の途中で電話が切れた。
瞳「雛子!! 雛子!!!」
すでに切れた電話に向かって、何度も娘の名前を呼び続ける瞳。
藤岡「・・・ ・・・」
案の定、逆探知には失敗していた。
・・・ ・・・。
同時刻、リナの部屋。
リナのノートパソコンを通じて、電話のやりとりを聞いていた2人。
リナ「府中本町・・・
身代金の受け渡しに、【F】駅を指定してきたわ・・・」
妹の誘拐犯、そして連続殺人犯が同一人物と断定しているリナと慎吾。
リナ「明日、【F】駅で人を殺すつもりなんでしょ? この犯人」
慎吾「えぇ・・・ そのはずですが・・・」
リナ「まさか、府中本町で身代金の受け渡しの後・・・
ついでに誰か殺すつもり・・・?」
慎吾は首を横に振った。
慎吾「・・・。わ、わかりません・・・・」
リナも慎吾も・・・ 犯人の狙いが全くよめない。
(慎吾「いったい・・・ 犯人はどうするつもりだ・・・?」)
(第66話へ続く)
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次回予告
名前が【F】で始まる藤岡は、後藤に【F】駅に行く事を禁じられた。
一方、リナの携帯に「お姉ちゃん、助けて」というメールが届く。
そのメールを確認したリナは・・・
信じられない物を見る事になる。
次回 「 第66話 妹からのメール 」
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