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アマデウスの謎  作者: 伊吹 由
第3章 ゲームの行方
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65/147

第64話  嫉  妬

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


  慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2


       「アマデウスの謎」 


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前回までのあらすじ


2008年。

リナ、そして父親の魁斗(かいと)が、謎の組織に狙われた。


イギリス諜報機関に属するヒロは、リナを守るために命を落とす。さらに、リナの父親・魁斗も遺体で発見された。


2012年、女子大生となったリナの携帯に「妹を誘拐した」という電話が届く。


霊能力を持つ1つ下の後輩、慎吾を連れて実家へ戻ったリナ。誘拐犯は期限内に1億を差し出さなければ、雛子を殺すと宣言。


後藤と藤岡は4年越しで、再び羽鳥家の誘拐事件を担当。

誘拐事件の翌日から、近辺では連続殺人事件が起こる。


慎吾とリナは、誘拐事件と殺人事件の犯人が同一であると確信するが・・・?


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   第64話  嫉  妬


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(誘拐犯が示したタイムリミット・・・12月19日24時)


2012年12月17日(月)、午前9時25分。羽鳥邸、リナの部屋。


慎吾「これは犯人によるゲームなんですよ・・・」


今、起きている連続殺人の犯人と・・・リナの妹を誘拐した犯人が、同一犯だと確信した2人。


リナ「・・・ ・・・」


リナはしばらく呆然としていた。4年前には彼氏と父親を亡くし、そしてまた妹の命が危機にさらされている。


(リナ「絶対・・・ 絶対にダメ!! 

     これ以上、愛する人を死なせるわけには・・・」)


涙がこぼれそうになるのを、ぐっとこらえた。


慎吾「・・・ ・・・」


しばらくリナを見ていた慎吾は、再び声をかける。


慎吾「リナ先輩・・・ 」


リナ「な、何よ・・・」


元気のない返事を返す。


慎吾「おそらく今日、犯人は・・・

    【E】駅で誰かを殺し、明日は【F】駅で殺すつもりでしょう」


リナ「でも、警察も【ABC】は知っているんでしょう?

    そう簡単には・・・」


慎吾「田園調布では、警戒にあたっている警察官が殺されたんですよ。

    犯人は・・・ どんな状況でも殺し続けると思います・・・」


2人は、恵比寿駅で遺体が発見された事をまだ知らない。


慎吾「僕は、この連続殺人を止めたい・・・。

    罪のない人が殺されるのは、絶対に許せないんです!


    何よりもこのままでは・・・

    妹さんが3日後、確実に危険ですから」


リナ「わ・・・ わかってる。

    わかってるけど・・・ どうすればいいのか・・・」


リナを真っ直ぐに見つめた慎吾が、ハッキリとした口調で声をかけた。


慎吾「教えてください。4年前の事を」


リナ「・・・ ・・・」


リナは慎吾と目を合わさない。しかし慎吾は、リナを真っ直ぐ見つめたまま声をかける。


慎吾「箱根で僕は言いました。僕がいれば千人力だと・・・

    でも、リナ先輩が協力してくれなければ・・・


    僕の力を発揮できません」


リナ「・・・ ・・・」


目を閉じたリナ。しばらく沈黙を保った後、大きく深呼吸した。そしてこれまでの事を振り返る。


普段頼りない慎吾だが、この連続殺人事件に関しては別人のようだ。


分倍河原駅では、その霊感とやらで被害者の第一発見者になり、警察よりも早く【ABC】を察知。そして複数ある【C】駅の中から3番目の殺害現場となった調布駅、さらには【D】である田園調布での殺人も言い当てた。


しかしそれは同時に、ひばりヶ丘で妹が殺される・・・


その可能性が非常に高いという事でもある。


【H】駅はひばりヶ丘駅、【H】の名は妹の雛子・・・そう、慎吾は言い放ったからだ。


リナ「・・・ ・・・」


結局調布駅での殺人は止められなかったものの、不審人物を見たのは慎吾だけ。ここ数日の慎吾の言動や行動は、確実に犯人に近づいているように思える。


(リナ「霊能力を持つ慎吾なら・・・

     妹を救う可能性は高くなる・・・」)


リナはこの事件に関し、自分の力だけではこれ以上先に進むのが困難だと思っていた。


(リナ「パスワードも、手がつけられないし・・・」)


目を開くと慎吾を見つめた。


リナ「・・・ ・・・」


慎吾は真っ直ぐリナを見続けている。軽く頷いたリナは、意を決した。


リナ「わかった・・・。 あんたに・・・賭けてみる・・・」 


リナの言葉を受け、慎吾はコクリと小さく頷く。思ったより早く、指切りげんまんの約束が果たされたと、小さな笑顔を見せた。


リナ「その代わり・・・  絶対に妹を助けてよ!」


今度は深く頷く慎吾。


慎吾「約束します!!」


そして力強く返事した。


リナ「・・・ ・・・」


以前、徳川埋蔵金を巡る事件に巻き込まれた時には・・・ 慎吾がこんなにも頼れるような態度を見せる事はなかった。


リナ「あんたさぁ・・・」


慎吾「はい?」


リナ「・・・ いや、いい・・・」


慎吾の態度の裏にあるものを探ろうとしたが・・・ 今は妹の事だけに集中すべきだと思うリナ。


リナ「ホントは・・・思い出したくないんだけど・・・」


言いながらノートパソコンのキーボードを叩き、警視庁のページを開く。


リナ「まずは警察の報告書を見てもらうわ。その後、私が話す。

    話せる分はね・・・」


慎吾「わかりました」


リナは警視庁のページから、4年前に関する事件の報告書を1枚1枚プリントアウトしていった。それを慎吾に手渡す。


慎吾「ありがとうございます」


報告書を手渡された慎吾はゆっくりと、そして丁寧にそれらに目を通し始めた。



・・・ ・・・。


午前10時ちょうど。応接室。


羽鳥邸に訪れた後藤は、藤岡のいる応接室へ姿を現した。前日も午前2時まで羽鳥邸にいたため、疲労の色を隠せない。


後藤の姿を見た藤岡は、心配そうに声をかける。


藤岡「大丈夫ですか? まだ疲れがとれてないようですが・・・」


後藤「な~に。これぐらいの疲れがちょうどいいんだよ」


そう言うと後藤は、ソファにどさっと音を立てて座った。


後藤「それより、また恵比寿でホトケが出たらしいな」


藤岡「えぇ・・・。

    さっき入った連絡じゃ、【江口】という名前だそうです」


後藤「これで・・・【E】まできちまったか・・・。 

    明日は【F】、明後日は【G】・・・。


    いったい何人殺せば気が済むんだ、犯人は・・・」


しばらく後藤を見ていた藤岡。やがて小さな声で語りかけた。


藤岡「・・・ 源さん。耳に入れて起きたい事が・・・」


藤岡は眼鏡をかけ直し、神妙な面持(おもも)ちで声をかけた。


後藤「なんだ?」


藤岡「えぇ。午前2時に源さんが帰った後・・・

    警視庁のページで情報をチェックしていたんですよ。


    そしたら・・・」


後藤「何だ? 何か気づいた事でも?」


左右を軽く見渡した藤岡が小さな声を出す。


藤岡「いいですか? 今から言う事はまだ他言無用です。

    源さんだから言うんです」


後藤「な、何だよ・・・ 改まって・・ なんかヤバい事か?」


小声で喋る藤岡に、後藤は眉をひそめる。


藤岡「えぇ、かなり。何者かが・・・

    警視庁のページに、不正アクセスしています」


後藤「何!?」


藤岡「今朝早く、正体不明のIPアドレスが・・・

    警視庁のサイト内を動き回っているのを見つけました」


後藤「ふむ・・・」


藤岡「最初、警察の誰かが、外からアクセスしてるかと思いましたが・・・

    不思議な事に、そのIPアドレスは・・・


    数分単位で、定期的にチェンジするんですよ」


後藤「おいおい・・・俺はコンピュータは苦手だ。

    わかるように言ってくれ・・・」


後藤は頭をかきながら、藤岡に要求した。


藤岡「2~3分経ったら、オーストラリアから・・・

    数分経ったら、中東アジアから・・・


    また数分経ったら・・・ 全然別の場所から侵入しているんです」


後藤「・・・ ・・・」


藤岡「神出鬼没なんですよ、そいつは。

    これは高度なプログラムを用いて・・・」


後藤はまだ「わからない」といった表情を浮かべている。


藤岡「つまり・・・正体を悟られないようにしているんです。

    不正アクセスで間違いありません。


    ハドリアンズ・ウォールをくぐり抜けているんですよ」


後藤「何!? それは俺でもわかるぞ。ハドリアンズ・ウォールって・・・

    誰もやぶれないセキュリティの事だろ?


    それを突破したって?」


初めて後藤は驚いた表情を見せた。


藤岡「そうです。世界最高と言われるセキュリティ・・・ 

    未だ誰も破った事のないウォールを破り・・・


    そして警視庁のページに、不正アクセスしてるヤツがいるんです」


後藤「そ、それは一大事じゃないか!!」


思わず大声を出した後藤。


藤岡「えぇ・・・ ですが源さん。この事は、今しばらく内密に。

    コンピュータは俺の専門。


    俺のカンでは・・・これは複数犯での不正アクセス。

    しかも・・・警察の内部に共犯者がいます」


後藤「おいおいおいおい・・・ 本気か!?」


藤岡「だからこそ、しばらくは秘密なんです。

    必ず、侵入したヤツを見つけますから。


    俺は源さん以外は信用出来ないので・・・」


後藤「どれぐらいで、特定できる? 

    その・・・不埒(ふらち)なヤツぁ?」


藤岡「かなり高度なプログラムですが・・・ 1日あれば何とか・・・ 

    遅くても明後日までには特定してみせます。


    ただ・・・先ほど言った通り、この事は絶対内密に・・・」


後藤「そうか・・・ わかった。その件はお前に預ける」

    俺は今、何も聞いていない。それでいいんだな?」


藤岡「えぇ。一人で背負うには重すぎるので・・・

    特定したらすぐに源さんに知らせます」


後藤は藤岡の肩をポンと叩きながら声をかけた。


後藤「わかった・・・ お前、少しは寝ろよ」


小さく笑った藤岡。返事を返す事はせず、そのまま席を立ち、羽鳥邸を後にした。



・・・ ・・・。


午前11時34分。リナの部屋。


4年前、羽鳥家の周りで起こった誘拐事件や襲撃事件・・・警察の報告書を一通り読み終えた慎吾は、「ふ~」と小さくため息をつく。A4用紙にして、実に21枚を一気に読み通した。


慎吾「4年前に・・・ こんな事があったなんて・・・」


警察側は、完全にヒロ・ハーグリーブスという人物を犯人と断定してる。その事を前提として、全ての報告書が書かれてあった。


リナ「・・・ ・・・」


ベッドの上で座っていたリナ。蒸し返されたくない過去を慎吾に知られ、複雑な表情を浮かべている。


慎吾「だいたい4年前の事は頭にたたき込めました。

    でも情報が多すぎて、少し整理しなきゃ・・・」


リナ「・・・ ・・・」


しばらく慎吾を見ていたリナは、もう1つのサイト・・・ 


ヒロが月光の楽譜に隠したサイトを、慎吾に見せるべきかどうか悩んでいた。未だに256文字のパスワードを解明できていない、謎のサイトだ。


(リナ「あれは黙っておいた方がいいかも。

     確実な情報を手に入れるまで・・・」)


しばらくそのページの存在は、慎吾に伏せておくことにした。


リナ「・・・ ・・・」


ゴクリと唾を飲んだリナは、やや緊張した声で【嘘】をつく。


リナ「ひどいでしょ? 私の彼氏。ピアノ講師を装って私に近づき・・・

    パパも誘拐して、私も危険な目に合った・・・」


思い切り慎吾が、眉をひそめた。


慎吾「何言ってるんですか? リナ先輩? 何でそんな事を?」


今度はリナが眉をひそめる。


リナ「なんでって・・・ 報告書読んだんでしょ? 

    私の元カレが・・・誘拐犯だったのよ!?」


今度は笑って見せる慎吾。リナは慎吾の表情の意味を理解できない。


慎吾「リナ先輩でも、そんな冗談言うんですね」


眉をひそめたままリナが聞き返す。


リナ「冗談って・・? あんた、何言ってるの?

    話がかみ合わないんだけど・・・」


笑ったまま慎吾が、リナの目を見て声をかけた。


慎吾「だって、このヒロさんが犯人のわけないじゃないですか」


その言葉を聞いたリナは、反射的に右手で胸を抑える。


リナ「・・・ ・・・」


パラパラと報告書をめくる慎吾。


リナ「な、なんで・・・? その報告書・・・

    嘘が書かれているって言うの?」


慎吾はリナの目を真っ直ぐ見つめて、確信めいた表情で口を開いた。


慎吾「当たり前ですよ。

    警察が犯人に逃げられたとあらば、面目丸つぶれですからね。


    典型的な【誰かを犯人に仕立てあげる】ってパターンです」


リナ「・・・ ・・・」


突然リナの中で、何かの感情がわき起こる。


リナ「なんでわかるのよ!?」


そして興奮気味に大きな声を出した。


リナ「このヒロって男は4年前、スパイを装って私に近づき・・・ 

    パパを誘拐したのよ!


    私だって銃撃戦に巻き込まれたんだから!」


どこからか、怒りに似た感情がわき起こる。何に対して、自分が起こっているのかわからない。


リナ「会った事もない・・・その場にもいなかったあんたが・・・

    何で確信を持って、彼を犯人じゃないって言えるのよ!!」


涙目になりながら、慎吾に怒鳴りつけるように言い続けた。


リナ「あんたに・・・ 何がわかるのよ!!」


そう言うと慎吾に背中を向け、目に溜まった涙を拭(ぬぐ)う。


(リナ「私・・・ 」)


1度もヒロと会った事のない慎吾。ヒロの事をわかった風に語るその口調が、気に入らなかったのだろうか・・・感情の整理がつかなくなってしまった。


リナ「あんたに・・・ 何がわかるのよ・・・」


大声から一転、かすれる声を出した。慎吾に背中を向けたまま・・・目に溜まる涙を、手で拭(ぬぐ)い続ける。


リナの背中を見ながら慎吾は、リナの予想外の態度に少し戸惑っていた。


慎吾「す、すいません。何か気に障る事を言ったようで・・・。

    でも・・・ わかるんです。だってそのヒロさん、し・・・」


突然、慎吾は睨み付けられる。


慎吾「あ・・・ 死んでしまったけど・・・ 

    今でもリナ先輩、愛してるんですよね?」


睨み付けられた慎吾は、少し萎縮しながら言葉を続けた。


リナ「・・・ 愛なんて、知らないくせに・・・」


普段リナの方が冷静だが、ヒロの事が絡むと感情がうまくコントロールできない。


慎吾「す、すいません・・・ 」


重い空気が流れる中、しばらく2人は沈黙を保つ。


慎吾はリナの背中を見つめたまま、静かに声をかけた。


慎吾「あの・・・ 少し間(ま)を取りましょう・・・

    僕、部屋に戻って、もう1度報告書を読みます。


    そして今回の件も絡めて、今一度情報を整理してみます」


そう言うと小さくリナの背中にお辞儀をして、静かにベランダの外へ出て行った。去り際に、今一度リナに声をかける。


慎吾「気を悪くされたら失礼します。でも一言だけ・・・ 

    ヒロさんは、100%犯人じゃないです。


    リナ先輩もわかってるように・・・」


リナ「・・・ ・・・」


慎吾が出て行くのを、扉が閉まる音で確認したリナ。ベッドで横になり、枕に顔を埋(うず)めた。


リナ「・・・ ・・・」


頭の中・・・いろいろな事がぐるぐると回っている。


ヒロの事、妹の事、慎吾の事、パスワードの事、これからの事・・・


そして自分の事・・・


リナ「っう・・・」


モヤモヤとした心の中・・・自分の意志で制御できない。


(リナ「ヒロ・・・ 先生・・・」)


頭も感情も整理の着かないリナは枕に顔を埋(うず)めたまま、涙を流し続けた。




             (第65話へ続く)

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次回予告


256文字のパスワードも突破できず、精神的にも不安定・・・。

このままでは、妹を救うどころではないと思ったリナは・・・


その夜、後藤と藤岡が応接室で待機する中、誘拐犯からと思われる電話が鳴り響く。


しかし電話に出たのは・・・意外な人物だった。



次回 「 第65話  指定された【F】 」

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