第58話 不審な男
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慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2
「アマデウスの謎」
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前回までのあらすじ
2008年。
リナ、そして父親の魁斗が、謎の組織に狙われた。
イギリス諜報機関に属するヒロは、リナを守るために命を落とす。さらに、リナの父親・魁斗も遺体で発見された。
2012年、女子大生となったリナの携帯に「妹を誘拐した」という電話が届く。
霊能力を持つ1つ下の後輩、慎吾を連れて実家へ戻ったリナ。誘拐犯は期限内に1億を差し出さなければ、雛子を殺すと宣言。
後藤と藤岡は4年越しで、再び羽鳥家の誘拐事件を担当する。
慎吾は誘拐事件とは別に起きた2つの殺人事件が、アガサクリスティの【ABC殺人事件】になぞらえていると推理。そして次の殺人が起きるかも知れないと、調布駅へと向かった。
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第58話 不審な男
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(誘拐犯が示したタイムリミット・・・12月19日24時)
2012年12月15日(土)。午前10時7分。羽鳥邸、書斎。
書斎から出て行った慎吾を確認したリナは、今は亡き父親のデスクに座っていた。ベートーベン作曲【月光】の楽譜を机に拡げ、横にあった消しゴムを手にする。
リナ「・・・ ・・・」
父親の書斎に入る事すら、この4年間一度もなかったリナ。
慎吾に連れられてやってきて・・・奥の棚から、何かに導かれるようにこの楽譜を手にした。
自分を守るために命を落としたヒロ・・・初めてリナと会った時、演奏していたのがこの【月光】だった。
楽譜を開くと・・・
(リナ「やっぱり、おかしい・・」)
楽譜に、強い違和感を感じる。頭の中でピアノを弾いてみると、明らかにメロディが変だ。
音符「♪」の丸い部分を符頭という。4分音符や8分音符の符頭は塗りつぶされるが、2分音符と全音符のそれが塗りつぶされる事は無い。
しかしこの楽譜・・・本来2分音符や、全音符であるはずの符頭が不自然に塗りつぶされている。
リナ「・・・ ・・・」
消しゴムを手にしたリナは、その塗りつぶされた音符の符頭をこすってみた。すると・・・
【.】
最初の全音符の中から、ドットが現れた。
リナ「 ? 」
ただのインクの滲みのようにも見えるが、次の符頭を消しゴムでこすると・・・
【 f 】
小さな符頭の中に、今度はアルファベットが現れる。
(リナ「やっぱり・・・ 何かある・・・」)
確信したリナは、塗りつぶされた符頭を、次次に消しゴムでこすっていった。
【.】【 f 】【 a 】【 s 】【 c 】【 i 】【 n 】【 a 】【 t 】
【 i 】【 n 】【 g 】【.】【 y 】 【 o 】...
32文字の英字や記号が、符頭の中から姿を見せる。
リナ「・・・ ・・・」
しばらくその文字を見つめていたリナ。明らかに・・・何者かがこの楽譜の中に、言葉を隠している。
(リナ「ヒロ先生・・・?」)
家族の中で、リナ以外にピアノを弾く者はいない。意図的に誰かがこの楽譜に何かを隠したとすれば・・・ 真っ先に浮かぶのがヒロだ。
じっとアルファベットを見つめ、何を意味するのかしばらく考える。
(リナ「最初のドットは・・・」)
やがて起動していたパソコンのキーボードを打ち始めた。
http://www.fascinating.yo...
ウェブブラウザを開き、楽譜に隠された文字をアドレス蘭に打ち込んで、Enterキーを押す。
リナ「・・・ ・・・」
どこかのサイトに繋がった。しかしページは真っ白で、エラー表示すら出ない。
リナ「・・・ ・・・」
しばらくページを見つめるリナ。
(リナ「ページ自体は存在している・・・ って事は・・・」)
白いページの真ん中で右クリックを押し「すべてを選択」する。すると画面が暗転し・・・
PASS-WORD【 ■■■■ - ■■■■■ - ■■■■■■ 】
画面中央に、パスワードを要求する画面が現れた。
リナ「・・・ ・・・」
再び画面を見ながら、考え始める。
(リナ「15文字のパスワードなんて・・・
簡単に見つけられるわけがない・・・」)
と思っていたが・・・
ヒロ「俺と・・・ 君の想い出の中に・・・ 真実はある・・・」
何故か、ヒロが死ぬ間際の言葉が頭をよぎった。
リナ「・・・ ・・・」
しばらく画面とにらめっこしていたリナは・・・
ゆっくりとキーボードを1つずつ押し始めた。
【 MOON - LIGHT - SONATA 】
Enterキーを押すと・・・ ログインに成功した。
(リナ「こ、これは・・・ 」)
・・・ ・・・。
午前10時19分。羽鳥邸。
準備を終えた慎吾が、玄関から出て行こうとするのを引き留める人物がいた。つい先ほど、藤岡から仕事を引き継いだ後藤だ。
後藤「お出かけかな?」
慎吾「え、えぇ・・・ ちょっと外出するだけです。
に、逃げたりはしません・・・。すぐ戻りますから」
後藤「ふむ。まさかまた・・・
どこかの殺人事件の現場へ、出向くつもりじゃないだろうな?」
慎吾「ま、ま、まさ・・・ まさか・・・。
藤岡さんにも同じ事いわれましたよ。は、ははは・・」
慎吾は逃げるように玄関を出て行った。その姿を見て、後藤は軽くため息をつく。
(後藤「ふ~。相変わらず、挙動不審なヤツだ・・・」)
・・・ ・・・。
午前11時44分。調布駅。
ひばりヶ丘から池袋、そして新宿を経由して京王線準特急・高尾山口行に乗り込んだ慎吾は、調布駅に降り立った。
慎吾「・・・ ・・・」
辺りを見回しながら、真っ直ぐにトイレに向かう。過去2件の殺人事件では、遺体がトイレで見つかったからだ。
慎吾「・・・ ・・・」
トイレの前まで来た慎吾。
(慎吾「死体が・・・ ありませんように・・・」)
前日は、遺体の第一発見者となってしまった。今まで霊と会話したり、人の死を看取ってきた経験はあるが・・・死体と遭遇する事は、けして気分のよいものではない。
おそるおそるトイレに入り、中を見渡す。小便をしているホスト風の男が1人いた。さりげなく個室をチェックすると、奥の個室だけが使用中だ。
(慎吾「・・・ まさか・・・」)
手を洗うフリをして、しばらく時間を潰していると・・・ 奥の個室から水を流す音が聞こえ、小太りの中年男が出てきた。
慎吾「・・・ ほっ」
とりあえず今、トイレの中に死体はない。1度トイレを出て、出入り口の近くで、次の行動を考える。
(慎吾「・・・ もし・・・ 女子トイレに死体があったら・・・?」)
しばらく、女子トイレに入る人物の出入りを見ていたが・・・特に怪しいそぶりを見せる者はいない。
客観的に考えると・・・女子トイレの出入り口を凝視する自分こそが怪しい・・・そう感じ始めた慎吾。
(慎吾「と、とりあえず動いてみよう・・・」)
駅構内をプラプラと歩き始め、何か不審な状況がないかを見て回る。
特に何もない事を確認すると、今度は改札を出て、同じように駅構内をぐるぐると回っていった。
・・・ ・・・。
午後2時46分。
3時間以上も狭い駅でウロウロした慎吾は、さすがに疲れていた。昼食もとらずお腹が空いたので、何か口にするものを買おうと、駅の売店に向かう。
慎吾「ん?」
売店の前で人だかりが出来ているのが見え、ザワザワとしたどよめきが伝わってきた。そして・・・
「店員が倒れている!! 救急車を!!」
誰かの声が、はっきりと聞こえた。
(慎吾「ま、まさか・・・」)
1分後・・・駅員が現れ、さらに数分後には警察官も現れる。
前日も遺体発見者という形で、殺人事件に関わっている慎吾。多くの野次馬に紛れ、目立たぬよう警察の様子を見守っていた。
しばらくすると、【警視庁】と背中に書かれた作業服を着た男達が数名現れ、売店周辺の写真を撮り始める。
(慎吾「や、やっぱり・・・ 死体があったんだ・・・」)
昨日分倍河原駅でも見た、鑑識の人達だと思っていたその時・・・。
慎吾「 ん? 」
慎吾の目に、見覚えのある人物が映った。
野次馬に紛れて、目立たないが・・・ 黒いコートにサングラスの男。
(慎吾「コートの色は違うけど・・・」)
その男は、野次馬の流れに逆らって歩き始める。反射的に慎吾は男を追いかけた。
(慎吾「秋津駅で見た男だ!」)
2日前、慎吾はリナの実家へ戻る口実を作るため、秋津駅で不審人物を探していた。その時、適当に目を着けた男は、白いコートをつけていたが・・・
(慎吾「間違いない! あの時の男だ!!」)
男は改札を通り、ホームへ向かう。慎吾も慌てて切符を買い、改札を通った。
(慎吾「は、犯人かも・・・」)
大きなサングラスで、顔の様子は遠目からよくは見えなかったが・・・40~50歳ぐらいの白髪交じりの男。
駅のホームで、その男を必死に探す。
(慎吾「いた!!」)
京王線・新宿方面の電車に、男が乗り込むのが見えた。慌てて慎吾は別車両から、同じ電車の中に乗り込んだ。
(慎吾「ま、間に合った・・・」)
必死に追いかけて、電車に乗り込んだ慎吾だが・・・これからどうするべきかを考えると、緊張がはしる。
慎吾「・・・ ・・・」
隣の車両には・・・殺人犯かもしれない男がいる。
慎吾「はぁ、はぁ・・・」
そう思うと、少しずつ恐怖心が芽生え始めた。喉がカラカラになり、無理矢理唾を飲み込む。そして、ポケットのパワーストーンを握りしめた。
(慎吾「と、とりあえず・・・彼がどこへ行くのか追ってみよう・・・」)
やがてチャイムが鳴り響き、電車のドアが閉まる。
慎吾「え!?」
思わず慎吾が声をあげた。
ドアが閉まる直前・・・ サングラスの男が電車を降りたのだ。
慎吾「な・・・ 」
呆然とする慎吾を乗せたまま、ゆっくりと電車は走り始める。
ガラス窓越しに・・・
慎吾「・・・ ・・・」
その男と目が合った。
男はサングラスをしているため、視線の先に慎吾を捉えていたかはわからないが・・・慎吾の顔を、じっと見つめていたように思える。
慎吾「・・・ ・・・」
いや・・・何か自分に声をかけているかのように、口を動かしているように見えた。
(慎吾「な、何・・・?」)
なすすべもなく、慎吾はただ電車に身を委ねるだけだった。
・・・ ・・・。
ドアが閉まる直前、黒いコートの男は電車を降りる。そしてサングラス越しに、電車内で慌てる慎吾をじっと見つめていた。
男「明日は・・・ 田園調布だぞ・・・」
(第59話へ続く)
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次回予告
【月光】の楽譜に隠されたサイトには・・・
生前のヒロがまとめた、テロリストに関する情報があった。
一方慎吾は、殺人事件のあった調布駅にいた事を、2人の捜査官に知られてしまう。
次回 「 第59話 月光に隠されたもの 」
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