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アマデウスの謎  作者: 伊吹 由
第3章 ゲームの行方
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59/147

第58話  不審な男

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


  慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2


       「アマデウスの謎」 


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前回までのあらすじ


2008年。

リナ、そして父親の魁斗(かいと)が、謎の組織に狙われた。


イギリス諜報機関に属するヒロは、リナを守るために命を落とす。さらに、リナの父親・魁斗も遺体で発見された。


2012年、女子大生となったリナの携帯に「妹を誘拐した」という電話が届く。


霊能力を持つ1つ下の後輩、慎吾を連れて実家へ戻ったリナ。誘拐犯は期限内に1億を差し出さなければ、雛子を殺すと宣言。


後藤と藤岡は4年越しで、再び羽鳥家の誘拐事件を担当する。


慎吾は誘拐事件とは別に起きた2つの殺人事件が、アガサクリスティの【ABC殺人事件】になぞらえていると推理。そして次の殺人が起きるかも知れないと、調布駅へと向かった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


   第58話  不審な男


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(誘拐犯が示したタイムリミット・・・12月19日24時)


2012年12月15日(土)。午前10時7分。羽鳥邸、書斎。


書斎から出て行った慎吾を確認したリナは、今は亡き父親のデスクに座っていた。ベートーベン作曲【月光】の楽譜を机に拡げ、横にあった消しゴムを手にする。


リナ「・・・ ・・・」


父親の書斎に入る事すら、この4年間一度もなかったリナ。


慎吾に連れられてやってきて・・・奥の棚から、何かに導かれるようにこの楽譜を手にした。


自分を守るために命を落としたヒロ・・・初めてリナと会った時、演奏していたのがこの【月光】だった。


楽譜を開くと・・・



挿絵(By みてみん)



(リナ「やっぱり、おかしい・・」)


楽譜に、強い違和感を感じる。頭の中でピアノを弾いてみると、明らかにメロディが変だ。


音符「♪」の丸い部分を符頭(たま)という。4分音符や8分音符の符頭(たま)は塗りつぶされるが、2分音符と全音符のそれが塗りつぶされる事は無い。


しかしこの楽譜・・・本来2分音符や、全音符であるはずの符頭(たま)が不自然に塗りつぶされている。



挿絵(By みてみん)



リナ「・・・ ・・・」


消しゴムを手にしたリナは、その塗りつぶされた音符の符頭(たま)をこすってみた。すると・・・


【.】


最初の全音符の中から、ドットが現れた。


リナ「 ? 」


ただのインクの滲(にじ)みのようにも見えるが、次の符頭(たま)を消しゴムでこすると・・・


【 f 】


小さな符頭(たま)の中に、今度はアルファベットが現れる。


(リナ「やっぱり・・・ 何かある・・・」)


確信したリナは、塗りつぶされた符頭(たま)を、次次に消しゴムでこすっていった。


【.】【 f 】【 a 】【 s 】【 c 】【 i 】【 n 】【 a 】【 t 】

【 i 】【 n 】【 g 】【.】【 y 】 【 o 】... 


32文字の英字や記号が、符頭(たま)の中から姿を見せる。


リナ「・・・ ・・・」


しばらくその文字を見つめていたリナ。明らかに・・・何者かがこの楽譜の中に、言葉を隠している。


(リナ「ヒロ先生・・・?」)


家族の中で、リナ以外にピアノを弾く者はいない。意図的に誰かがこの楽譜に何かを隠したとすれば・・・ 真っ先に浮かぶのがヒロだ。


じっとアルファベットを見つめ、何を意味するのかしばらく考える。


(リナ「最初のドットは・・・」)


やがて起動していたパソコンのキーボードを打ち始めた。


http://www.fascinating.yo... 


ウェブブラウザを開き、楽譜に隠された文字をアドレス蘭に打ち込んで、Enterキーを押す。


リナ「・・・ ・・・」


どこかのサイトに繋がった。しかしページは真っ白で、エラー表示すら出ない。


リナ「・・・ ・・・」


しばらくページを見つめるリナ。


(リナ「ページ自体は存在している・・・ って事は・・・」)


白いページの真ん中で右クリックを押し「すべてを選択」する。すると画面が暗転し・・・


PASS-WORD【 ■■■■ - ■■■■■ - ■■■■■■ 】


画面中央に、パスワードを要求する画面が現れた。


リナ「・・・ ・・・」


再び画面を見ながら、考え始める。


(リナ「15文字のパスワードなんて・・・

     簡単に見つけられるわけがない・・・」)


と思っていたが・・・


ヒロ「俺と・・・ 君の想い出の中に・・・  真実はある・・・」


何故か、ヒロが死ぬ間際の言葉が頭をよぎった。


リナ「・・・ ・・・」


しばらく画面とにらめっこしていたリナは・・・ 


ゆっくりとキーボードを1つずつ押し始めた。


 【 MOON - LIGHT - SONATA 】


Enterキーを押すと・・・  ログインに成功した。


(リナ「こ、これは・・・ 」)



・・・ ・・・。



午前10時19分。羽鳥邸。


準備を終えた慎吾が、玄関から出て行こうとするのを引き留める人物がいた。つい先ほど、藤岡から仕事を引き継いだ後藤だ。


後藤「お出かけかな?」


慎吾「え、えぇ・・・ ちょっと外出するだけです。

    に、逃げたりはしません・・・。すぐ戻りますから」


後藤「ふむ。まさかまた・・・

    どこかの殺人事件の現場へ、出向くつもりじゃないだろうな?」


慎吾「ま、ま、まさ・・・ まさか・・・。

    藤岡さんにも同じ事いわれましたよ。は、ははは・・」


慎吾は逃げるように玄関を出て行った。その姿を見て、後藤は軽くため息をつく。


(後藤「ふ~。相変わらず、挙動不審なヤツだ・・・」)



・・・ ・・・。


午前11時44分。調布駅。


ひばりヶ丘から池袋、そして新宿を経由して京王線準特急・高尾山口行に乗り込んだ慎吾は、調布駅に降り立った。


慎吾「・・・ ・・・」


辺りを見回しながら、真っ直ぐにトイレに向かう。過去2件の殺人事件では、遺体がトイレで見つかったからだ。


慎吾「・・・ ・・・」


トイレの前まで来た慎吾。


(慎吾「死体が・・・ ありませんように・・・」)


前日は、遺体の第一発見者となってしまった。今まで霊と会話したり、人の死を看取ってきた経験はあるが・・・死体と遭遇する事は、けして気分のよいものではない。


おそるおそるトイレに入り、中を見渡す。小便をしているホスト風の男が1人いた。さりげなく個室をチェックすると、奥の個室だけが使用中だ。


(慎吾「・・・ まさか・・・」)


手を洗うフリをして、しばらく時間を潰していると・・・ 奥の個室から水を流す音が聞こえ、小太りの中年男が出てきた。


慎吾「・・・ ほっ」


とりあえず今、トイレの中に死体はない。1度トイレを出て、出入り口の近くで、次の行動を考える。


(慎吾「・・・ もし・・・ 女子トイレに死体があったら・・・?」)


しばらく、女子トイレに入る人物の出入りを見ていたが・・・特に怪しいそぶりを見せる者はいない。


客観的に考えると・・・女子トイレの出入り口を凝視する自分こそが怪しい・・・そう感じ始めた慎吾。


(慎吾「と、とりあえず動いてみよう・・・」)


駅構内をプラプラと歩き始め、何か不審な状況がないかを見て回る。


特に何もない事を確認すると、今度は改札を出て、同じように駅構内をぐるぐると回っていった。



・・・ ・・・。


午後2時46分。


3時間以上も狭い駅でウロウロした慎吾は、さすがに疲れていた。昼食もとらずお腹が空いたので、何か口にするものを買おうと、駅の売店に向かう。


慎吾「ん?」


売店の前で人だかりが出来ているのが見え、ザワザワとしたどよめきが伝わってきた。そして・・・


「店員が倒れている!! 救急車を!!」


誰かの声が、はっきりと聞こえた。


(慎吾「ま、まさか・・・」)


1分後・・・駅員が現れ、さらに数分後には警察官も現れる。


前日も遺体発見者という形で、殺人事件に関わっている慎吾。多くの野次馬に紛れ、目立たぬよう警察の様子を見守っていた。


しばらくすると、【警視庁】と背中に書かれた作業服を着た男達が数名現れ、売店周辺の写真を撮り始める。


(慎吾「や、やっぱり・・・ 死体があったんだ・・・」)


昨日分倍河原駅でも見た、鑑識の人達だと思っていたその時・・・。


慎吾「 ん? 」


慎吾の目に、見覚えのある人物が映った。


野次馬に紛れて、目立たないが・・・ 黒いコートにサングラスの男。


(慎吾「コートの色は違うけど・・・」)


その男は、野次馬の流れに逆らって歩き始める。反射的に慎吾は男を追いかけた。


(慎吾「秋津駅で見た男だ!」)


2日前、慎吾はリナの実家へ戻る口実を作るため、秋津駅で不審人物を探していた。その時、適当に目を着けた男は、白いコートをつけていたが・・・


(慎吾「間違いない! あの時の男だ!!」)


男は改札を通り、ホームへ向かう。慎吾も慌てて切符を買い、改札を通った。


(慎吾「は、犯人かも・・・」)


大きなサングラスで、顔の様子は遠目からよくは見えなかったが・・・40~50歳ぐらいの白髪交じりの男。


駅のホームで、その男を必死に探す。


(慎吾「いた!!」)


京王線・新宿方面の電車に、男が乗り込むのが見えた。慌てて慎吾は別車両から、同じ電車の中に乗り込んだ。


(慎吾「ま、間に合った・・・」)


必死に追いかけて、電車に乗り込んだ慎吾だが・・・これからどうするべきかを考えると、緊張がはしる。


慎吾「・・・ ・・・」


隣の車両には・・・殺人犯かもしれない男がいる。


慎吾「はぁ、はぁ・・・」


そう思うと、少しずつ恐怖心が芽生え始めた。喉がカラカラになり、無理矢理唾を飲み込む。そして、ポケットのパワーストーンを握りしめた。


(慎吾「と、とりあえず・・・彼がどこへ行くのか追ってみよう・・・」)


やがてチャイムが鳴り響き、電車のドアが閉まる。


慎吾「え!?」


思わず慎吾が声をあげた。

ドアが閉まる直前・・・ サングラスの男が電車を降りたのだ。


慎吾「な・・・ 」


呆然とする慎吾を乗せたまま、ゆっくりと電車は走り始める。

ガラス窓越しに・・・


慎吾「・・・ ・・・」


その男と目が合った。


男はサングラスをしているため、視線の先に慎吾を捉(とら)えていたかはわからないが・・・慎吾の顔を、じっと見つめていたように思える。


慎吾「・・・ ・・・」


いや・・・何か自分に声をかけているかのように、口を動かしているように見えた。


(慎吾「な、何・・・?」)


なすすべもなく、慎吾はただ電車に身を委ねるだけだった。



・・・ ・・・。



ドアが閉まる直前、黒いコートの男は電車を降りる。そしてサングラス越しに、電車内で慌てる慎吾をじっと見つめていた。


男「明日は・・・  田園調布だぞ・・・」




             (第59話へ続く)

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次回予告


【月光】の楽譜に隠されたサイトには・・・


生前のヒロがまとめた、テロリストに関する情報があった。


一方慎吾は、殺人事件のあった調布駅にいた事を、2人の捜査官に知られてしまう。



次回 「 第59話  月光に隠されたもの 」

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