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アマデウスの謎  作者: 伊吹 由
第3章 ゲームの行方
57/147

第56話  第一発見者

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


  慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2


       「アマデウスの謎」 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

前回までのあらすじ


2008年。

15歳だったリナは、新しいピアノ講師ヒロと付き合う。しかし彼はイギリス諜報機関・SISのスパイだった。


リナの父、羽鳥魁斗かいとが開発したソフト・・・そのアルゴリズムを狙ったテロリストがいる。ヒロはそのテロリストを追うべく、羽鳥家に近づいていた。


しかし魁斗はテロリストに奪われ、後に遺体が発見される。また、リナもテロリストに襲われてしまう。ヒロはリナを守り通したが、引き替えに自らの命を失った。


4年後の2012年。

19歳のリナの妹・雛子ひなこが誘拐された。リナは霊能力を持つ1つ下の後輩、慎吾を連れて実家へと戻る。


誘拐犯は1週間以内に1億を差し出さなければ、雛子を殺すと宣言。

後藤と藤岡は4年越しで、再び羽鳥家の誘拐事件を担当する事になった。


慎吾は箱根に戻る途中、駅を間違え・・・死体を発見してしまう。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


   第56話  第一発見者


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

(誘拐犯が示したタイムリミット・・・12月19日24時)


2012年12月14日(金)、午後3時半。分倍河原駅構内。


慎吾は制服を着けた警察の前で、困った表情を浮かべていた。


分倍河原ぶばいがわら駅構内にあるトイレ。トイレは閉鎖され、その入り口付近で慎吾は、制服を着けた警察官に事情聴取を受けている。


トイレの1番奥の個室から・・・ 血まみれYシャツ姿のサラリーマン男性の遺体が発見された。慎吾はその第一発見者だ。


遺体発見後、すぐに携帯電話で110番したのは慎吾本人。


数分後、制服を着けた警察官数名、および救急隊員が駆けつける。最初に到着した警察官により、トイレは即閉鎖。鑑識を呼ぶ間、慎吾に事情を聞いていた。


慎吾「だから・・・ おしっこしてたら、何か後ろから・・・

     なんていうか、変な雰囲気というか、変な空気というか・・・」


警察「雰囲気とは具体的にどういう事かね?」


慎吾「えっと・・・ 背筋がゾクゾクっとする・・・みたいな?」


警察「それは、おしっこしたからだろう」


慎吾「あ・・・ そうかも・・・ でも、何か嫌な感じがしたんです」


警察「だから、その嫌な感じというのを具体的に・・・」


慎吾は用を足した後、奥の個室を開けたら男が死んでいたと説明するが・・・


警察「何故用を足したのに、個室へ向かったのか?」


と、聞き返されてしまう。


慎吾「だ、だから・・・」


慎吾は・・・ 確かに感じた。背中から感じる、とても嫌な感覚を。


(慎吾「あれは多分・・・ 霊的なものだ・・・」)


慎吾のゆうする、霊的な感覚が死体を発見させた。それは慎吾も認識している。しかしそれを、霊とは無縁の人に説明しようとすると・・・


慎吾自身が怪しまれてしまう。


警察「まさか君がった・・・ なんて事はないだろうね?」


慎吾「も、もちろんでっ・・・です! はい!!」


ただでさえ、人見知りの慎吾。怪しまれていると思うと、言葉がつっかえてしまった。


(慎吾「こ、これじゃ余計に・・・疑われる・・・」)


そんな慎吾に、思わぬ助け船が入る。


「変わろうか」


慎吾を事情聴取している警察官の背後から、一人の男が声をかけた。


慎吾「ふ、藤岡さん・・・?」


銀縁眼鏡でスーツにネクタイという姿の藤岡が、制服警察官の背後に立っている。


警察「あ、これは藤岡捜査官! えっと・・・」


藤岡「後はいいよ、俺が彼にくわしい事情を聞くから。

    彼は顔見知りなんでな。


    簡単な状況は聞いているから、後は任せろ。

    君は鑑識の現状報告を聞いてきて欲しい」


警察「わ、わかりました!」


敬礼をした警察官の男は、すぐにトイレの中へと入って行った。それを見届けた藤岡の視線は慎吾へと移る。


藤岡「さて・・・ こんなところで、再び君と会うとはな」


軽くため息をついた藤岡は、小さな笑顔を浮かべて慎吾を睨み付けた。


慎吾「あ・・・ あの・・・ その・・・」


バツの悪そうな表情を浮かべる慎吾。


慎吾「ふ、藤岡さんは、誘拐事件の担当では・・・?」


藤岡「10時から22時までは、源さんが羽鳥邸にいる。

    俺は3時間休めば十分だから、ここに顔を出したまでだ」


慎吾「そ、そうですか・・・」


藤岡「来る気はなかったんだがな。死体を発見したという通報者が・・・

    どこかで聞いた名前だったんで」


慎吾「ぼ、僕・・・ですか」


藤岡は1度だけ軽く頷いた。


藤岡「さて・・・ まぁ、さっきも聞かれただろうが・・・

    何故、君はこんな所に? 箱根に戻ったはずじゃ?」


慎吾「え、えぇ・・・その・・・電車を乗り間違えてしまって・・・」


藤岡は眉をひそめる。


藤岡「間違えた? 君は、間違えた駅のトイレに来たのか?」


慎吾「えぇ。何か奥の個室が変な感じがして・・・ そしたら・・・」


藤岡「死体を見つけたと?」


慎吾「そ、そうなんです・・・」


藤岡は目を細めて慎吾を見つめた。


藤岡「駅を間違え・・・ そこでトイレに行き・・・

    そして死体を見つけた?」


慎吾「は、はい・・・」


一度眼鏡をはずした藤岡は、それをハンカチで拭く。そして鼻で小さく笑った。


藤岡「ふっ、慎吾君。まるで君・・・」


慎吾は藤岡が言おうとした言葉を奪う。 


慎吾「僕が犯人・・・ みたいですよ・・・ ね?」


眼鏡をかけ直した藤岡は、声をあげて笑い出した。


藤岡「はっはっは。その通りだ。

    ただでさえ、第一発見者は疑われる立場にあるのに・・・


    死体を発見した経緯は、さらに疑わしい」


慎吾「で、ですよね・・・」


藤岡「それに君は、昨日も殺人事件のあった秋津駅にいたよな?」


前日起きた秋津駅のレコード店での殺人事件。現場で聞き込みをしていた藤岡は、慎吾と会っていた。


慎吾「あ、あれは箱根に戻ろうと、たまたま寄っただけです・・・」


藤岡「・・・ ・・・」


藤岡は黙って、慎吾を見つめている。


慎吾「ず、ずっとリナ先輩の家にいましたよ・・・ 昨日も今日も!

    後藤さんが、僕のアリバイを示してくれるはずです!」


藤岡「ふ・・・アリバイという言葉を使うとは、ますます怪しいな。

    そういや君は・・・


    羽鳥雛子誘拐の犯人としても疑われたばかりだったな」


2日前・・・


慎吾はリナの妹の誘拐事件に際し、捜査官の後藤の事情聴取を受けた。そこで緊張の余り挙動不審になってしまい、後藤に疑いの眼差しで見られている。


慎吾「ぼ、僕はどうなるんでしょう?」


藤岡「今の君は、どの事件でも怪しい立場にいる。そうだな・・ 

    逃亡の恐れはなさそうだし・・・ 留置する必要はないだろう」


この程度で留置する事はないが、藤岡はあえてそう言ってみた。


慎吾「りゅ、留置!?」


焦った表情を浮かべる慎吾を見て、藤岡はさらに笑う。


その藤岡に、先ほどの警察官がよってきて耳打ちした。


2,3度頷く藤岡を見ながら、慎吾はさらに不安な気持ちになる。しばらくして、藤岡は警察官の肩を叩いて慎吾に声をかけた。


藤岡「君が発見した遺体は、バットで撲殺ぼくさつされた・・・

    で、間違いないそうだ」


慎吾「ぼ・・・ ぼ・・・ 撲殺・・・?」


藤岡「あぁ。君にはまた、色々聞かなければいかないかもしれない」


慎吾「で、では・・・ 留置されるんですか?」


藤岡「それは冗談だよ。だがいつでも事情聴取が出来るように・・・」


藤岡は眼鏡を深くかけて言葉を続けた。


藤岡「そうだな・・・ いい案がある」


慎吾「いい案?」



・・・ ・・・。



午後5時過ぎ・・・。慎吾は三度みたび羽鳥邸に姿を現す。


前日に続き、羽鳥邸の玄関で出迎えたのは後藤。


後藤「話は藤岡から聞いてる。ホトケの第一発見者だって?」


※ ホトケ = 死体


申し訳なさそうに、慎吾は小さな声で応えた。


慎吾「え、えぇ・・・」


後藤「事情は羽鳥瞳にも伝えてある。いい顔はしなかったがな。

    警察への協力という事で、君の宿泊を了承してくれたよ」


この日羽鳥邸に泊まれば、慎吾は3連泊となる。


慎吾「なんか・・・ 僕・・・

    無理矢理理由をつけて、彼女の家に泊まろうとしてるって・・・」


後藤「あぁ、間違いなく思われてる」


慎吾「で・・・ ですよね・・・」


しょぼんとした表情のまま、慎吾は瞳に挨拶をしにいった。




・・・ ・・・。



午後7時。


慎吾は昨日と同じ部屋で1人、食事をとっていた。

本当は1階の食卓によばれたのだが・・・ 


彼女という立場をとっているリナ、そしてその母親・瞳と一緒に食事をする勇気がなかった。


食事をとった後、タイミングを見計らって食器を1階のキッチンへと片付けに行く。瞳と会わないように・・・。


部屋に戻ると、慎吾はリナにメールした。


慎吾「今から、部屋に行ってもいいですか? お話ししたい事が」


数秒で


リナ「どうぞ」


とメールが返ってきた。


2階の廊下からリナの部屋に行くのが正規のルート。しかし1階から2階へ続く階段や、2階の廊下は1階の応接室から見えてしまう。応接室には、常に後藤か藤岡が待機している。


【彼女の部屋に行く】場面を見られない様、前日と同じルート・・・ベランダを通じて、リナの部屋に向かう慎吾。カーテンの閉まっている部屋のドアをコンコンと叩くと、中からリナが開けてくれた。


リナ「はい、どうぞ。光源氏さん」


屋内では露出度の高い、タンクトップとショートパンツで過ごすリナ。慎吾は目のやり場に困ってしまう。


慎吾「し、失礼します。け、けして夜這いに来たわけでは・・・」


リナ「わかってるわよ。何? 駅、間違えて・・・死体見つけたって?」


事前に、羽鳥邸に戻る経緯をメールしていた慎吾。メールでは伝えられなかった事を話し始めた。


慎吾「えぇ・・・。でも正確には・・・

    僕、そこに導かれたんです・・・」


眉をひそめたリナが聞き返す。


リナ「導かれた?」


慎吾「はい」


リナ「何に? 死体に?」


慎吾「いえ・・・ ただ、電車を間違ったのは偶然じゃないんです。 

    僕はここに行かなければって感覚になって・・・ 


    そして駅についた後、トイレに向かった・・・」


リナ「マジ? で、行ったら死体見つけたわけ?」


慎吾「えぇ。だから・・・ 

    僕が死体の発見者になったのは・・・ある意味、必然的。


    導かれた・・・ わけですから」


リナ「だから何に導かれたのよ?」


慎吾「・・・。多分・・・ 僕の守護霊かなと・・・」


リナはさらに深く眉をひそめた。


リナ「おかしな話ね。守護霊って、普通は守ってくれるんでしょ?

    その守護霊が、死体のある危険な場所に導いたりするの?」


慎吾「僕の守護霊・・・ そうなんですよ・・・ 

    僕を鍛えるというか、あえて困難な状況に追い込むというか」


リナ「それは守護してると言うのかしら・・・?

    まぁ、あたしは霊とか見えないし、よくわからないから・・・


    話したい事ってそれ?」


慎吾「いえ。もう1つ。今日の事件、その・・・ 

    警察署のデータベースから、情報を引き出せませんか?」


リナ「 ? 出来るわよ?」


言いながらリナは、すでに起動してあったノートパソコンのキーボードを叩き始めた。


慎吾「さっき言ったように・・・

    僕が死体を見つけたのは偶然じゃなく、導かれたんです。


    なんか・・・ その事件と、リナ先輩の妹さんの誘拐事件・・・

    繋がりがあるように思えるんです」


リナは細目で、慎吾をじーっと見つめる。


リナ「お得意の霊能力とやらね。妹を助ける手がかりになるのなら・・・

    警察署だって、総理官邸だってハッキングするわ!」


そういうとリナは、高速でキーボードを叩き始めた。


リナ「分倍河原駅・・・ 12月14日・・・ あった! これね!」


リナは警視庁が取り扱った事件の一覧表を見つけ、分倍河原駅で起きた事件のファイルを開く。


リナ「慎吾の名前も出てるから間違いないわ。

    えっと・・・ 被害者は板東文太ばんどうぶんた、43歳」


慎吾「あ、見せて下さい」


慎吾はリナのパソコンのディスプレイを凝視した。


慎吾「国立くにたち商事の営業担当。

    この日、外回りに出ていたところ事件に遭遇したとみられる。


    死亡推定時刻は、午後1時~1時半の間?

    僕がトイレに入ったのは2時前だから・・・」


リナ「あんた、事件直後に現場にいたわけね。

    少し早ければ、犯人と鉢合わせたかも」


慎吾「そ、そう考えると・・・ 怖いですね・・・」


ゴクリと唾を飲み込みながらも、隅々まで事件の報告ファイルに目を通す慎吾。


慎吾「凶器は野球の木製バットで、現場に残されていた・・・」


凶器からは指紋など、犯人に繋がる物は見つからず。また、バットによる殴打の形跡は7箇所あり、うち2箇所は頭部。5箇所は下半身。7箇所とも背後から殴られ、尾てい骨を粉砕されている。


慎吾とリナは、目を背けたくなるような遺体の写真を見た。


慎吾「ひどい・・・」


リナ「バットで頭殴るなんて・・・ 狂った人しか出来ないわよ・・・」


慎吾「・・・。えぇ・・・。それに犯人は・・・ 

    おそらく、被害者を苦しめてから殺してます」


リナ「? どういう事?」


慎吾「下半身には全く血がついてないじゃないですか。

    上半身にはたくさんついているのに」


リナ「えぇ・・・ でもそれがどうしたの?」


慎吾「犯人は下半身から殴って・・・

    生きたまま、尾てい骨を粉砕させたんじゃないかな・・・?


    被害者が立ち上がれなくなったところで・・・

    頭をガツンと2回」


慎吾は、遺体の写真を見ながらも冷静に語る。


慎吾「もし、頭から殴ったのなら・・・

    頭部からの出血がバットについてるはず・・・


    つまり下半身にも血が付くはず・・・」


リナはゴクリと唾を飲み込んだ。慎吾の言うとおり、遺体の下半身には血がついていない。


リナ「ま、マジ・・・? 絶対そんな殺され方、イヤだわ・・・」

      

閲覧できる情報全てに目を通した慎吾。


慎吾「・・・ ・・・」


腕組みをして考える。しばらくして、リナに声をかけた。


慎吾「あの、リナ先輩・・・ あと1つ気になるのがあって・・・ 

    もう1つ検索して欲しい事件が。


    昨日の秋津駅ビルのレコード店での事件・・・」


リナ「あぁ、ニュースでやってたヤツね。わかった」


見ていたページを閉じ、再び警視庁のデータベースから事件を検索する。


リナ「あった。これよ」


リナはその事件に関する報告書を開き、慎吾に見せた。



秋津駅ビル、パンダレコード店内における殺人事件。


12月13日(木)。被害者は安藤愛子あんどうあいこ、27歳。同レコード店の従業員。


慎吾「第一発見者は・・・、同じレコード店の従業員ですね・・・」


休憩中、トイレに行ったきり40分以上戻らず、不審に思った女性店員の一人が探しに行ったところ・・・トイレの1番奥の個室から遺体で発見された。


慎吾「こちらも、遺体はトイレの個室・・・」


アメリカ製のアーミーナイフで、頭部を8箇所切りつけられ、死亡推定時刻は午後2時から2時半の間。ナイフは個室で発見され、被害者の血が付着していたが、指紋などは検出されず。


慎吾「似てる。バットとナイフの違いはありますが・・・

    今日の事件と似ている・・・」


リナ「ホントだ。トイレの個室で発見されているし・・・

    殺害に使った道具を、現場に残しているのも同じ」


ディスプレイをじっと見つめる慎吾は・・・ 何かが見えそうな感覚になった。


(慎吾「何だろう・・・? どこかでこんな事件が・・・」)


目を閉じ、何かを思い出そうとするが・・・ 思い出せない。


リナ「き・・・きた!!」


リナが突然大声を出した。その声は明らかにうわずっている。びっくりして目を開いた慎吾が、リナに声をかける。


慎吾「な、何がきたんですか・・・?」


リナ「誘拐犯よ・・・ ほら、コレ」


慎吾「誘拐犯・・・?」


最初慎吾は、リナが何を言ってるのか、わからなかった。


リナはディスプレイの片隅を指さす。そこには電話のアイコンが、鳴り響くように小さく動いていた。


リナ「妹の誘拐があってから、うちにかかってくる電話は・・・

    全て各電話局のデータとマッチングさせるように仕込んだの」


慎吾「え、えっと・・・?」


リナの言ってる意味がわからない慎吾。


リナ「今かかってる電話は・・・ どのデータともマッチしない。

    逆探知もはしらせているけど・・・ 多分、スクランブル回線。


    つまり・・・」


慎吾「ゆ、誘拐犯からですか?」


根拠となる部分は全くわからないが、電話の主が誘拐犯からという事だけは、何とか理解する。


リナ「えぇ・・・ 今、繋がった。ママが電話を取ったはず・・・」



・・・ ・・・。



瞳「も・・・ もしもし・・・」


1階の中央に設置されてある電話を受け取った瞳は、緊張しながらも冷静さを失わないよう、声を出した。


声「母親だな?」


何かの機械を通したであろう、電子音声が聞こえてくる。間違いなく娘を誘拐した男だ。


瞳「えぇ・・・」


瞳の横では、後藤を始め、数名の警察が逆探知をしようとしている。


声「1億は用意できたかな?」


瞳「あと2日あれば用意できるわ」


声「よかろう。ならば確実に用意が出来ている3日後にかけ直すとしよう」


瞳「ま、待って!!」


後藤が電話を引き延ばすようにと、無言で瞳に指示を出している。


瞳「む、娘の声を聞かせて!!」


声「それは出来ない。リミットは19日の24時。

   それまでは確実に生きていると保証する」


瞳「一言だけでいいの・・・ お願い!! 雛子の声を!!」


声「いいか? しっかり聞いているんだろう?

   ゲームはすでに始まっているぞ!」


直後、電話は切れた。


瞳「もしもし! もしもし!!」


2日ぶりの誘拐犯からの電話。

前回と違って冷静に対応したつもりだが・・・


今回は娘の声を聞くことはできなかった。数名の警察官がいる中、人目もはばからず瞳は泣きだす。


その横で後藤は、大きなため息をついた。


後藤「逆探知は・・・ やっぱり無理か・・・」



・・・ ・・・。



自分の部屋で、誘拐犯と母親の会話を、パソコンを通して聞いていたリナ。


リナ「・・・ ・・・」


声「いいか? しっかり聞いているんだろう?

   ゲームはすでに始まっているぞ!」


警察同様、今の会話をパソコンに記録していた。緊張を隠せない慎吾が静かにリナに声をかける。


慎吾「な、何でしょう・・・? ゲームは始まっているっていうのは?」


明らかに誘拐犯が最後に言った言葉は、会話の流れからは不自然だ。


リナ「・・・ ・・・」


声「いいか? しっかり聞いているんだろう?

   ゲームはすでに始まっているぞ!」


記録した音声ファイルを何度も聞き返すリナは、ある思いを張り巡らしていた。


リナ「・・・ これは・・・」


そして静かに口を開く。


リナ「最後の言葉は・・・ ママに言ってるんじゃない」


慎吾「え?」


じっと音声ファイルの波打つ画面を見つめるリナは、視線をそらす事は無い。


声「いいか? しっかり聞いているんだろう? ゲームはすでに始まっているぞ」


リナ「最後の言葉は・・・




      私に言ってる・・・」


慎吾「え!?」




             (第57話へ続く)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回予告


誘拐犯の示すタイムリミットが少しずつ迫る中・・・


慎吾は、この事件と似た事件の事を思い出した。

その手がかりは・・・今は亡き、リナの父親のの書斎にあった。



次回 「 第57話  違和感 」

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