第55話 不審点
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慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2
「アマデウスの謎」
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前回までのあらすじ
2008年。
15歳だったリナは、新しいピアノ講師ヒロと付き合う。しかし彼はイギリス諜報機関・SISのスパイだった。
リナの父、羽鳥魁斗が開発したソフト・・・そのアルゴリズムを狙ったテロリストがいる。ヒロはそのテロリストを追うべく、羽鳥家に近づいていた。
しかし魁斗はテロリストに奪われ、後に遺体が発見される。また、リナもテロリストに襲われてしまう。ヒロはリナを守り通したが、引き替えに自らの命を失った。
4年後の2012年。
19歳のリナの妹・雛子が誘拐された。リナは霊能力を持つ1つ下の後輩、慎吾を連れて実家へと戻る。
誘拐犯は1週間以内に1億を差し出さなければ、雛子を殺すと宣言。
後藤と藤岡は4年越しで、再び羽鳥家の誘拐事件を担当する事になった。
そんな中、秋津駅で女性がナイフに刺され、殺されるという事件が起こる。
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第55話 不審点
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(誘拐犯が示したタイムリミット・・・12月19日24時)
2012年12月13日(木)、午後10時35分。羽鳥邸、リナの部屋。
リナ「そういえば・・・ 妹の着信履歴、私のしかなかった・・・ 」
慎吾「【お母さん】の着信履歴は・・・ なかったんですね?」
リナ「うん・・・。
私に電話したところで、1億なんて用意できるわけ無い・・・」
慎吾「何故、誘拐犯が母親ではなく、リナ先輩に電話を入れたか・・・
それが1つ、犯人に近づく鍵になるかと。もっと言えば・・・」
リナ「もっと言えば?」
慎吾「えぇ。こういうパターンって・・・
リナ先輩が知ってる人物が・・・犯人って可能性もあるんです」
リナ「わ、私が知ってる人が犯人!?」
慎吾「まぁ、推理小説だと・・・なんですがね。
リナ先輩、心当たりとかは・・・?」
慎吾がリナに視線を合わせた。
慎吾「って、まさか無いですよね」
真剣な表情から一転、慎吾は軽く笑って見せる。
リナ「・・・ うん・・・」
慎吾は軽く笑い飛ばしたが・・・リナには心当たりがあった。
4年前、秋津駅の近くで、覆面男らに誘拐された経験があるリナ。
(リナ「あの時と・・・ 同じヤツが・・・?」)
4年前・・・父親の魁斗が誘拐された事件(後に魁斗は遺体でみつかったため、殺人事件になる)に関して、警察はヒロが犯人と断定した。もちろんリナは犯人が別にいると確信している。
(リナ「もし同じヤツなら・・・
4年を経て、何故今・・・? 今度は妹を・・・?」)
慎吾「あと、これも1つの推測ですが・・・」
リナ「な、何?」
慎吾「誘拐犯は、リナ先輩の箱根の自宅のカードキー・・・
そのDATAを盗んだって言ってましたよね?」
リナ「えぇ・・・。スキミングね」
慎吾「犯人は事前にリナ先輩、つまり【お姉ちゃん】を調べていた。
さらに都内の高校から、妹さんを誘拐し・・・
その後、わざわざ箱根にまで来ています」
リナ「うん・・・」
慎吾「推測ではありますが・・・
ひょっとしたら、リナ先輩の部屋で何かを探していた・・・
と、考えられないでしょうか?」
リナ「何かって・・・ 何を?」
慎吾「それは・・・ わかりませんが・・・ あくまでも推測って事で」
リナはじっと慎吾を見つめた。
リナ「文系のくせに、やけに論理的に犯人の行動を分析するわね」
慎吾は再び小さく笑う。
慎吾「推理小説、好きなんですよ。
コナンドイルとか、アガサクリスティとか」
リナは、細い冷めた目で慎吾を見つめた。
リナ「歴史オタクに、文学少年か。草食系代表って感じね」
右手で頭をかいて、照れくさそうにする慎吾に
リナ「だから褒めてないっつーの!」
即座にツッコミを入れるリナ。
慎吾「あの・・・リナ先輩」
リナ「何?」
慎吾「もしよかったらですが・・・
あ、いや、イヤだったらいいです、はい」
言いずらそうな表情を浮かべる慎吾。
リナ「だから何?」
慎吾「明日・・・ リナ先輩の部屋を、もう1回調べてみようかと」
リナ「はぁ? 妹の命かかってるんだから、私はここを動かないわよ」
慎吾「いや、だから・・・ 僕が、リナ先輩の部屋を調べようかと」
反射的にリナはひっくり返ったような声を出した。
リナ「はぁあ!? 何、1人で女子の部屋に入ろうとしてんのよ!」
慎吾「だ、だからイヤだったらいいんです・・・」
リナ「絶対あんた、私の下着とかもチェックするでしょ!!」
慎吾「絶対それは無いですって!
リナ先輩の下着なんか、触るわけないじゃないですか・・・」
リナ「・・・ ・・・。 いや・・・ 【なんか】ってのも・・・ 」
リナは、うまく言えないモヤモヤとしたものを表現できずにイライラする。
リナ「・・・ ・・・」
しばらく迷った表情を見せたリナは、意を決した。
リナ「わかったわよ。はい、カードキー!」
変な事をしないと信じたリナは、自分のカードキーを慎吾に差し出す。
慎吾「あ、ありがとうございます。
何か、手がかりを見つけられるといいのですが・・・」
リナ「いい!? 風呂場と、タンスの・・・
タンスの上から2段目の引き出し! 絶対に触らないでよ!」
慎吾「はい。そこに下着が入ってるんですね?」
リナ「ぐ・・・。そ、そうよ・・・」
慎吾「大丈夫ですよ。死んでも、下着とかには触りませんから」
思い切り眉間にしわをよせるリナ。
リナ「・・・ ・・・」
慎吾はニコッと笑って見せたが、リナにとっては複雑な気分だった。
リナ「とにかくあんたは、誘拐犯がいた現場検証ってわけね。
一応気をつけてよ。万が一犯人と遭遇したら・・・」
慎吾「お気遣いありがとうございます。
パワーストーンは肌身離さず持ってますので」
リナ「べ、別に心配はしてないけどさ・・・万が一って事もあるし」
慎吾は無言でリナに笑って見せた。
リナ「じゃあ私は、警察署のデータベースに忍び込んで、何か探ってみる。
最近の誘拐事件とか、不審な事件とか・・・
何でもいいから、今回の事件に繋がる情報がないか調べてみるわ」
リナの発言に慎吾が驚く。
慎吾「え!? 警察署!? だってあそこ、聞いた話じゃ・・・
ハドリアンズ・ウォール使ったセキュリティでしょ?」
リナ「まあね」
慎吾「どうやって侵入するんですか? 絶対無理ですよ!」
リナ「ちっちっち!」
リナはカタカタとキーボードを打ち出した。
リナ「警察がね・・・セキュリティソフトをインストールする前に・・・
私の領域をサーバに作っておいたのよ」
ディスプレイを見ながら、高速ブラインドタッチでキーボードを打つリナ。
慎吾「えっと・・・」
リナ「だから私は、警察署の中からアクセスしてる事になってるの。
ウォールの内側だから、どんなウォールも無意味ってわけ」
リナのノートパソコンの画面に、警視庁の人間しかアクセスできないページが映し出された。
慎吾「そ・・・ そうですか・・・」
必要最小限でしか、パソコンを使わない慎吾。リナが何を言ってるのかわからない。
リナ「妹の誘拐事件に関わる情報がないか・・・洗ってみる。
少しでもいいから、有力な情報が引き出せればいいんだけど」
慎吾「で、でも、それって・・・ バレたらヤバいんじゃ・・・?」
リナ「だからあんた、誰にも言わないでよ!」
慎吾「ぼ、僕は言いませんけど・・・
サイバーコップとか、ニュースで聞きますが・・・
捕まったりしませんか?」
リナ「ふん。私を誰だと思ってるの。私は・・・」
(リナ「私は、羽鳥魁斗の娘よ!」)
反射的に脳裏に浮かんだ言葉・・・それを押し殺したリナ。
リナ「私は・・・ 絶対バレないプログラムをはしらせているから・・・」
元気のない声を出したリナ。そのリナの表情を、慎吾が不思議な顔で見つめた。
慎吾「わかりました。じゃぁ、明日は・・・
犯人に繋がる何かを見つけるため、それぞれで動くという事で」
リナ「うん。今日、誘拐犯からの連絡は無かったとはいえ・・・
犯人の示したリミットも気になるし・・・
今は、少しでも前に進んでおかないとね」
慎吾は立ち上がって、リナに挨拶する。
慎吾「必ず妹さんを助けましょうね。お休みなさい」
リナ「うん。お休み」
慎吾はベランダに出ると、思い出したようにリナに声をかけた。
慎吾「なんだか源氏物語みたいだ・・・」
リナ「源氏物語?」
慎吾「えぇ、紫式部の書いた物語です」
リナ「そ、それぐらい知ってるわよ!」
慎吾「源氏物語には、夜這いの描写とかもあるんですよ。
男性が女性の寝てる部屋に忍び込むって。
今の僕も、はたから見たら夜這いしてる感じかな~って」
リナ「夜這い?」
慎吾「あ、いえ、すいません。変な事言っちゃって。大丈夫ですから!」
リナ「大丈夫? って、何が大丈夫なのよ・・・?」
慎吾「リナ先輩の部屋に夜這いなんて・・・絶対ありえないですから!」
リナ「・・・ ・・・。はいはい。早く戻りなさい」
リナは右手で、「しっしっ」と犬を追い返すようなしぐさをする。変な笑顔を浮かべながら、慎吾は自分の部屋へと戻っていった。
リナ「・・・ったく・・・」
腕組みをしながら、慎吾が戻る姿を見ていたリナ。部屋に戻るとノートパソコンの前に座り、真剣な眼差しでキーボードを打ち始めた。
4年前のあの事件の後・・・
ようやく普通の生活を送れるまで立ち直ったリナは、どうしても事件の事を調べたくて・・・
警察署にハッキングした。自ら数字依存症と呼んでいた症状のおかげで、あらゆる数値DATAを記憶できたリナ。
警察署へハッキングするのに、そう時間を要する事はなかった。
しかしそこで得られた情報は・・・
いかにヒロが残虐非道な行為を繰り返し、反社会的な人間だったか・・・そのような印象を受ける内容だった。
後に警察署は、世界最強のセキュリティソフトをインストールする事になる。リナはすでに架空のアカウントとパスワードを設定し、いつでもウォールの内部からアクセス出来るようにしていた。
(リナ「雛・・・」)
ここ数日の警察署のDATAを検索する。
(リナ「必ず・・・ 必ず助けるから!!」)
・・・ ・・・。
2012年、12月14日(金)。午後1時過ぎ。
午前10時に羽鳥邸を後にした慎吾。
秋津駅から新秋津駅まで歩いていき・・・そこから武蔵野線で、府中本町まで行った。
箱根に戻るには、もっとわかりやすいルートがあったのだが・・・
乗り換えが苦手で、電車や地下鉄に融通が利かない慎吾は、リナが調べてくれたルートで箱根まで帰る予定だ。
乗り換えのたびに、券売機の上にある路線図とにらめっこして、しばらく動けない。人見知りというめんどくさい性格ゆえ、駅員に聞くこともしなかった。
府中本町から、南武線で能戸まで行くハズが・・・川崎行きと間違えて、立川行きに乗ってしまった。
(慎吾「あ、あれ? 確かに川崎行きに乗ったと思ったのに・・・?」)
間違いに気づいた慎吾は、府中本町から1駅目の「分倍河原駅」ですぐに降りる。
(慎吾「と、都会の電車は・・・ 難しい・・・」)
沖縄出身の慎吾。地元には「ゆいレール」と呼ばれるモノレール路線が1つあるだけで、それ以外に電車や地下鉄などは一切無い。
それゆえ沖縄の人間の多くは、複雑な都会路線の乗り換えに苦手意識を持っている。
すぐに逆行きの電車に乗ろうとしたが・・・
慎吾「・・・ ・・・」
その前にトイレに向かった。
白い便器に向かって小便をしていた時・・・
慎吾「・・・ ・・・」
突然、何かの違和感を感じる。背中からだ。
慎吾「・・・ ・・・」
用を足した慎吾は、背後を振り返り、個室の列を静かに見つめる。
そして何かに導かれるように、変な空気を感じた1番奥の個室のドアに手をかけた。
カチャッ
鍵のかかってないそのドアを開けると・・・
慎吾「!?」
そこにはワイシャツ姿のサラリーマン風の男が、背中を向けて膝をついていた。
男は便器に嘔吐するような形で座りこみ、頭から便器に突っ込んでいる。
そして・・・ Yシャツには大量の血、便器の奥には・・・
血の付いたバットが、静かに立てられていた。
慎吾「・・・ し・・・ 死んでる・・・?」
(第56話へ続く)
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次回予告
死体の第一発見者となった慎吾は、警察の事情聴取を受ける事になった。
結局、箱根には戻れず・・・ 再び羽鳥邸でお世話になる事に。
秋津駅では女性が死亡。翌日には、分倍河原駅で男が死亡。
2つの事件に、何か関連があると感じる慎吾だが・・・?
次回 「 第56話 第一発見者 」
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