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アマデウスの謎  作者: 伊吹 由
第3章 ゲームの行方
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56/147

第55話  不審点

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  慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2


       「アマデウスの謎」 


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前回までのあらすじ


2008年。

15歳だったリナは、新しいピアノ講師ヒロと付き合う。しかし彼はイギリス諜報機関・SISのスパイだった。


リナの父、羽鳥魁斗(かいと)が開発したソフト・・・そのアルゴリズムを狙ったテロリストがいる。ヒロはそのテロリストを追うべく、羽鳥家に近づいていた。


しかし魁斗はテロリストに奪われ、後に遺体が発見される。また、リナもテロリストに襲われてしまう。ヒロはリナを守り通したが、引き替えに自らの命を失った。


4年後の2012年。

19歳のリナの妹・雛子(ひなこ)が誘拐された。リナは霊能力を持つ1つ下の後輩、慎吾を連れて実家へと戻る。


誘拐犯は1週間以内に1億を差し出さなければ、雛子を殺すと宣言。

後藤と藤岡は4年越しで、再び羽鳥家の誘拐事件を担当する事になった。


そんな中、秋津駅で女性がナイフに刺され、殺されるという事件が起こる。


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   第55話  不審点


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(誘拐犯が示したタイムリミット・・・12月19日24時)


2012年12月13日(木)、午後10時35分。羽鳥邸、リナの部屋。


リナ「そういえば・・・ 妹の着信履歴、私のしかなかった・・・ 」


慎吾「【お母さん】の着信履歴は・・・ なかったんですね?」


リナ「うん・・・。

    私に電話したところで、1億なんて用意できるわけ無い・・・」


慎吾「何故、誘拐犯が母親ではなく、リナ先輩に電話を入れたか・・・

    それが1つ、犯人に近づく鍵になるかと。もっと言えば・・・」


リナ「もっと言えば?」


慎吾「えぇ。こういうパターンって・・・

    リナ先輩が知ってる人物が・・・犯人って可能性もあるんです」


リナ「わ、私が知ってる人が犯人!?」


慎吾「まぁ、推理小説だと・・・なんですがね。

    リナ先輩、心当たりとかは・・・?」


慎吾がリナに視線を合わせた。


慎吾「って、まさか無いですよね」


真剣な表情から一転、慎吾は軽く笑って見せる。


リナ「・・・ うん・・・」


慎吾は軽く笑い飛ばしたが・・・リナには心当たりがあった。


4年前、秋津駅の近くで、覆面男らに誘拐された経験があるリナ。


(リナ「あの時と・・・ 同じヤツが・・・?」)


4年前・・・父親の魁斗が誘拐された事件(後に魁斗は遺体でみつかったため、殺人事件になる)に関して、警察はヒロが犯人と断定した。もちろんリナは犯人が別にいると確信している。


(リナ「もし同じヤツなら・・・ 

     4年を経て、何故今・・・? 今度は妹を・・・?」)


慎吾「あと、これも1つの推測ですが・・・」


リナ「な、何?」


慎吾「誘拐犯は、リナ先輩の箱根の自宅のカードキー・・・

    そのDATAを盗んだって言ってましたよね?」


リナ「えぇ・・・。スキミングね」


慎吾「犯人は事前にリナ先輩、つまり【お姉ちゃん】を調べていた。

    さらに都内の高校から、妹さんを誘拐し・・・


    その後、わざわざ箱根にまで来ています」


リナ「うん・・・」


慎吾「推測ではありますが・・・

    ひょっとしたら、リナ先輩の部屋で何かを探していた・・・


    と、考えられないでしょうか?」


リナ「何かって・・・ 何を?」


慎吾「それは・・・ わかりませんが・・・ あくまでも推測って事で」


リナはじっと慎吾を見つめた。


リナ「文系のくせに、やけに論理的に犯人の行動を分析するわね」


慎吾は再び小さく笑う。


慎吾「推理小説、好きなんですよ。

    コナンドイルとか、アガサクリスティとか」


リナは、細い冷めた目で慎吾を見つめた。


リナ「歴史オタクに、文学少年か。草食系代表って感じね」


右手で頭をかいて、照れくさそうにする慎吾に


リナ「だから褒めてないっつーの!」


即座にツッコミを入れるリナ。


慎吾「あの・・・リナ先輩」


リナ「何?」


慎吾「もしよかったらですが・・・ 

    あ、いや、イヤだったらいいです、はい」


言いずらそうな表情を浮かべる慎吾。


リナ「だから何?」


慎吾「明日・・・ リナ先輩の部屋を、もう1回調べてみようかと」


リナ「はぁ? 妹の命かかってるんだから、私はここを動かないわよ」


慎吾「いや、だから・・・ 僕が、リナ先輩の部屋を調べようかと」


反射的にリナはひっくり返ったような声を出した。


リナ「はぁあ!? 何、1人で女子の部屋に入ろうとしてんのよ!」


慎吾「だ、だからイヤだったらいいんです・・・」


リナ「絶対あんた、私の下着とかもチェックするでしょ!!」


慎吾「絶対それは無いですって!

    リナ先輩の下着なんか、触るわけないじゃないですか・・・」


リナ「・・・ ・・・。 いや・・・ 【なんか】ってのも・・・ 」


リナは、うまく言えないモヤモヤとしたものを表現できずにイライラする。


リナ「・・・ ・・・」


しばらく迷った表情を見せたリナは、意を決した。


リナ「わかったわよ。はい、カードキー!」


変な事をしないと信じたリナは、自分のカードキーを慎吾に差し出す。


慎吾「あ、ありがとうございます。

    何か、手がかりを見つけられるといいのですが・・・」


リナ「いい!? 風呂場と、タンスの・・・ 

    タンスの上から2段目の引き出し! 絶対に触らないでよ!」


慎吾「はい。そこに下着が入ってるんですね?」


リナ「ぐ・・・。そ、そうよ・・・」


慎吾「大丈夫ですよ。死んでも、下着とかには触りませんから」


思い切り眉間にしわをよせるリナ。


リナ「・・・ ・・・」


慎吾はニコッと笑って見せたが、リナにとっては複雑な気分だった。


リナ「とにかくあんたは、誘拐犯がいた現場検証ってわけね。

    一応気をつけてよ。万が一犯人と遭遇したら・・・」


慎吾「お気遣いありがとうございます。

    パワーストーンは肌身離さず持ってますので」


リナ「べ、別に心配はしてないけどさ・・・万が一って事もあるし」


慎吾は無言でリナに笑って見せた。


リナ「じゃあ私は、警察署のデータベースに忍び込んで、何か探ってみる。

    最近の誘拐事件とか、不審な事件とか・・・


    何でもいいから、今回の事件に繋がる情報がないか調べてみるわ」


リナの発言に慎吾が驚く。


慎吾「え!? 警察署!? だってあそこ、聞いた話じゃ・・・

    ハドリアンズ・ウォール使ったセキュリティでしょ?」


リナ「まあね」


慎吾「どうやって侵入するんですか? 絶対無理ですよ!」


リナ「ちっちっち!」


リナはカタカタとキーボードを打ち出した。


リナ「警察がね・・・セキュリティソフトをインストールする前に・・・

    私の領域をサーバに作っておいたのよ」


ディスプレイを見ながら、高速ブラインドタッチでキーボードを打つリナ。


慎吾「えっと・・・」


リナ「だから私は、警察署の中からアクセスしてる事になってるの。

    ウォールの内側だから、どんなウォールも無意味ってわけ」


リナのノートパソコンの画面に、警視庁の人間しかアクセスできないページが映し出された。


慎吾「そ・・・ そうですか・・・」


必要最小限でしか、パソコンを使わない慎吾。リナが何を言ってるのかわからない。


リナ「妹の誘拐事件に関わる情報がないか・・・洗ってみる。

    少しでもいいから、有力な情報が引き出せればいいんだけど」


慎吾「で、でも、それって・・・ バレたらヤバいんじゃ・・・?」


リナ「だからあんた、誰にも言わないでよ!」


慎吾「ぼ、僕は言いませんけど・・・

    サイバーコップとか、ニュースで聞きますが・・・


    捕まったりしませんか?」


リナ「ふん。私を誰だと思ってるの。私は・・・」


(リナ「私は、羽鳥魁斗の娘よ!」)


反射的に脳裏に浮かんだ言葉・・・それを押し殺したリナ。


リナ「私は・・・ 絶対バレないプログラムをはしらせているから・・・」


元気のない声を出したリナ。そのリナの表情を、慎吾が不思議な顔で見つめた。


慎吾「わかりました。じゃぁ、明日は・・・

    犯人に繋がる何かを見つけるため、それぞれで動くという事で」


リナ「うん。今日、誘拐犯からの連絡は無かったとはいえ・・・

    犯人の示したリミットも気になるし・・・


    今は、少しでも前に進んでおかないとね」


慎吾は立ち上がって、リナに挨拶する。


慎吾「必ず妹さんを助けましょうね。お休みなさい」


リナ「うん。お休み」


慎吾はベランダに出ると、思い出したようにリナに声をかけた。


慎吾「なんだか源氏物語みたいだ・・・」


リナ「源氏物語?」


慎吾「えぇ、紫式部の書いた物語です」


リナ「そ、それぐらい知ってるわよ!」


慎吾「源氏物語には、夜這いの描写とかもあるんですよ。

    男性が女性の寝てる部屋に忍び込むって。


    今の僕も、はたから見たら夜這いしてる感じかな~って」


リナ「夜這い?」


慎吾「あ、いえ、すいません。変な事言っちゃって。大丈夫ですから!」 


リナ「大丈夫? って、何が大丈夫なのよ・・・?」


慎吾「リナ先輩の部屋に夜這いなんて・・・絶対ありえないですから!」


リナ「・・・ ・・・。はいはい。早く戻りなさい」


リナは右手で、「しっしっ」と犬を追い返すようなしぐさをする。変な笑顔を浮かべながら、慎吾は自分の部屋へと戻っていった。


リナ「・・・ったく・・・」


腕組みをしながら、慎吾が戻る姿を見ていたリナ。部屋に戻るとノートパソコンの前に座り、真剣な眼差しでキーボードを打ち始めた。



4年前のあの事件の後・・・


ようやく普通の生活を送れるまで立ち直ったリナは、どうしても事件の事を調べたくて・・・


警察署にハッキングした。自(みずか)ら数字依存症と呼んでいた症状のおかげで、あらゆる数値DATAを記憶できたリナ。


警察署へハッキングするのに、そう時間を要する事はなかった。


しかしそこで得られた情報は・・・


いかにヒロが残虐非道な行為を繰り返し、反社会的な人間だったか・・・そのような印象を受ける内容だった。


後に警察署は、世界最強のセキュリティソフトをインストールする事になる。リナはすでに架空のアカウントとパスワードを設定し、いつでもウォールの内部からアクセス出来るようにしていた。


(リナ「雛(ひな)・・・」)


ここ数日の警察署のDATAを検索する。


(リナ「必ず・・・ 必ず助けるから!!」)



・・・ ・・・。


2012年、12月14日(金)。午後1時過ぎ。


午前10時に羽鳥邸を後にした慎吾。


秋津駅から新秋津駅まで歩いていき・・・そこから武蔵野線で、府中本町まで行った。


箱根に戻るには、もっとわかりやすいルートがあったのだが・・・


乗り換えが苦手で、電車や地下鉄に融通が利かない慎吾は、リナが調べてくれたルートで箱根まで帰る予定だ。


乗り換えのたびに、券売機の上にある路線図とにらめっこして、しばらく動けない。人見知りというめんどくさい性格ゆえ、駅員に聞くこともしなかった。


府中本町から、南武線で能戸まで行くハズが・・・川崎行きと間違えて、立川行きに乗ってしまった。


(慎吾「あ、あれ? 確かに川崎行きに乗ったと思ったのに・・・?」)


間違いに気づいた慎吾は、府中本町から1駅目の「分倍河原(ぶばいがわら)駅」ですぐに降りる。


(慎吾「と、都会の電車は・・・ 難しい・・・」)


沖縄出身の慎吾。地元には「ゆいレール」と呼ばれるモノレール路線が1つあるだけで、それ以外に電車や地下鉄などは一切無い。


それゆえ沖縄の人間の多くは、複雑な都会路線の乗り換えに苦手意識を持っている。


すぐに逆行きの電車に乗ろうとしたが・・・ 


慎吾「・・・ ・・・」


その前にトイレに向かった。


白い便器に向かって小便をしていた時・・・


慎吾「・・・ ・・・」


突然、何かの違和感を感じる。背中からだ。


慎吾「・・・ ・・・」


用を足した慎吾は、背後を振り返り、個室の列を静かに見つめる。


そして何かに導かれるように、変な空気を感じた1番奥の個室のドアに手をかけた。


カチャッ


鍵のかかってないそのドアを開けると・・・


慎吾「!?」


そこにはワイシャツ姿のサラリーマン風の男が、背中を向けて膝をついていた。



男は便器に嘔吐するような形で座りこみ、頭から便器に突っ込んでいる。


そして・・・ Yシャツには大量の血、便器の奥には・・・


血の付いたバットが、静かに立てられていた。


慎吾「・・・ し・・・ 死んでる・・・?」




             (第56話へ続く)

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次回予告


死体の第一発見者となった慎吾は、警察の事情聴取を受ける事になった。

結局、箱根には戻れず・・・ 再び羽鳥邸でお世話になる事に。


秋津駅では女性が死亡。翌日には、分倍河原駅で男が死亡。


2つの事件に、何か関連があると感じる慎吾だが・・・?



次回 「 第56話  第一発見者 」

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