第54話 最初の犠牲者
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2
「アマデウスの謎」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
前回までのあらすじ
2008年。
15歳だったリナは、新しいピアノ講師ヒロと付き合う。しかし彼はイギリス諜報機関・SISのスパイだった。
リナの父、羽鳥魁斗が開発したソフト・・・そのアルゴリズムを狙ったテロリストがいる。ヒロはそのテロリストを追うべく、羽鳥家に近づいていた。
しかし魁斗はテロリストに奪われ、後に遺体が発見される。また、リナもテロリストに襲われてしまう。ヒロはリナを守り通したが、引き替えに自らの命を失った。
4年後の2012年、19歳のリナの妹・雛子が誘拐された。
霊能力を持つ1つ下の後輩、慎吾を連れて実家へと戻るリナ。
誘拐犯は1週間以内に1億を差し出さなければ、雛子を殺すと宣言。
後藤と藤岡は4年越しで、再び羽鳥家の誘拐事件を担当する事になった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
第54話 最初の犠牲者
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(誘拐犯が示したタイムリミット・・・12月19日24時)
2012年12月13日(木)、午後6時23分。羽鳥邸、リナの部屋。
送信者 : $K$
タイトル : なし
内容
574A7-2-17B-6-99F26B4452-79B-3-1B77847-2
5-194DA-99-3BF06BF2DF5B488ACF0-6E-4F066
06-20AC23-63F0B06F57E9F3AADEC-43719-9-8
-4-47-A8-4C-4-19-96B8C-41D82-278-305-D7
-1-93A9-1B-863-249-75BA-84-98-51AB-4-C5
4CF1-6B-67-3-2-7593F08-A0D0129-3-1-523-1
-942-AA-6541-2-1-90697B ・・・ ・・・ ・・・
世界最高のセキュリティソフト、ハドリアンズ・ウォールをくぐり抜けて届いたメール。慎吾はリナと共に、そのメールを見つめていた。
慎吾「こ、このメールに書かれているのは・・・
暗号です! 間違いない!」
諦め顔だったリナの表情が一変する。首を横に振りながら
リナ「ありえない・・・。
このメールは、難攻不落と言われたウォールをくぐり抜けてきたのよ。
認証を得てないファイルは、ウォールにはじかれるか・・・
例えウォールを無理矢理抜けたとしても、破壊されるんだから」
と、慎吾に返した。慎吾は再びメールをじっと見ながら口を開く。
慎吾「いえ・・・でも、間違いなく暗号です。何かを・・・
何かをリナのお母さんに伝えたいんです」
リナ「何故、わかるのよ!?
あんたの霊能力がすごいのは知ってるけど・・・
この文字化けしたヤツが、暗号だって・・・
そんな事までわかるものなの?」
慎吾は、ゆっくりとリナの顔を見つめて言った。
慎吾「えぇ。わかります。正直、誰がどこから送ったかはわかりません。
ただこれが暗号って事だけは・・・わかるんです。
暗号を解けと言われても、僕には解けませんが・・・
おそらく何か・・・ 暗号を解くキーがあるはずです」
慎吾の返事は意外だった。リナはこのメールの内容自体には、全く意味がないと思っていた。大事なのは【誰が】【どのようにして】ウォールをくぐり抜けられるようなメールを送ったかだ。
だからリナは、慎吾にメールの出所を突き止められないかを期待していた。しかし、このメールが暗号というなら話はまた大きく変わる。
ウォールをくぐり抜けてきたというだけでも、あり得ない事なのに・・・
暗号としてこのメールを意図的に届けた。
これはすなわち、WBCの提供する未だ破られていないと言われるネットセキュリティ・・・通称【ハドリアンズ・ウォール】を初めてくぐり抜けてきた事を意味する。
慎吾が嘘をつけない人物というのは、リナが1番よく知っている。
リナ「でも・・・まさか・・・」
しばし、2人の間に沈黙が流れた。
・・・ ・・・。
TV「今日、お昼頃。
パンダレコード秋津駅ビル店で、女性客がナイフで刺されました。
女性客は病院に救急搬送されたものの、出血多量により死亡。
当時レコード店内では・・・」
つけっぱなしのTVから、ニュースが流れている。
リナと慎吾はパソコンのディスプレイから、TVへと視線を移した。
慎吾「あ、これ・・・ お昼に後藤さんが言ってた事件では?」
リナ「秋津・・・」
リナは【秋津】という言葉に反応し、暗い表情を見せた。それに気づいた慎吾が声をかける。
慎吾「リナ先輩・・・? どうかしました?」
リナ「あ、いや・・・ 秋津ってここのすぐ近くだから・・・」
リナは、何かをごまかすように慎吾に返した。
慎吾「・・・ ・・・」
ふと慎吾は、リナの部屋にあった掛け時計が目に入る。
慎吾「あ、もうこんな時間・・・」
リナ「時間? 何かあったっけ?」
慎吾「僕は今日、箱根に帰るようにって・・・
後藤さんに言われてたから・・・」
一度、捜査官の後藤に疑われた慎吾だったが・・・ その後、事件に無関係と判断され、この日箱根に戻るよう指示されていた。
リナ「慎吾・・・箱根に戻るの?」
慎吾「え、えぇ。ここにいると、捜査の邪魔らしくって・・・」
リナ「そっか・・・まぁ、仕方ないわね・・・」
慎吾の霊能力が、この誘拐事件を解決出来る糸口になる・・・そう思っていただけに、リナとしては慎吾が箱根に戻るのは痛手であった。
慎吾「ただ・・・」
リナ「ただ?」
慎吾「その・・・ リナ先輩の妹さんの誘拐事件についてですが・・・。
どうしてもおかしい点があるんです」
リナ「おかしい点?」
慎吾「えぇ・・・。今までの事を振り返って考えると・・・
その・・・誘拐犯の行動に、どうしても不審な点があるんです」
リナ「ど、どんな点!?
妹を助けるためには、どんな小さな情報でも欲しいわ!!」
慎吾「その・・・ゆっくり話したいのですが・・・。
箱根に戻るには、今すぐ出ないと電車が間にあわなくって・・・」
リナ「えぇ!? じゃあ、その不審点とやらをメールしてよ」
慎吾「それでもいいんですが・・・ その・・・」
リナ「 ? 」
慎吾「この誘拐事件・・・ 少しでも犯人に近づくために・・・
リナ先輩との連携が、とても必要になってきます」
リナ「連携・・・?」
・・・ ・・・。
午後9時14分。
慎吾は、再びひばりヶ丘にある羽鳥邸に戻ってきた。
大きな門をくぐりぬけ、金属探知機、さらにはX線という面倒な手順を踏まなければ、羽鳥邸の中へ入る事が許されない。
慎吾「・・・ ・・・」
羽鳥家・警備主任の井上による一連のチェックを終え、慎吾はようやく中に通された。
羽鳥邸の中に入ると・・・ 真っ先に捜査官の後藤が出迎える。
箱根に戻ったはずの慎吾・・・羽鳥リナの彼氏を目にして、あからさまに怪訝な表情を浮かべた。
後藤「確か君は・・・ 箱根に帰ったはずでは?」
慎吾「そ、それが・・・」
バツの悪そうな表情を浮かべた慎吾が、事情を説明し始めた。
慎吾「秋津駅から、新秋津駅まで歩いて・・・
武蔵野線に乗り換える予定だったんですが・・・
秋津駅で藤岡さんに会いまして・・・」
後藤「藤岡と?」
慎吾「えぇ・・・。何か、殺人事件の捜査だとか?
他にもいっぱい警察の方がいました」
私服警官が警察手帳を一般人に見せ、聞き込みをする・・・慎吾は、テレビドラマでよく見る光景を思い出しながら、後藤に話した。
後藤「昼に起きた事件だ。近くのレコード店で、ちょっとな・・・」
人が殺された事件だけに、少し言いずらそうに話す後藤。
慎吾「て、テレビで見ました。女の人が殺されたってニュースですよね?」
後藤「あぁ・・・その事件だ。犯人は電車で逃げた可能性もあるからな。
現場付近での聞き込み捜査してるのさ。
しかし藤岡は、こちらの誘拐事件担当なんだが・・・
あっちの事件にも、首を突っ込んでいるらしいな」
慎吾「とりあえず藤岡さんに挨拶だけして・・・
新秋津駅に向かおうとした時・・・見たんです!」
後藤「見た? 何を?」
慎吾「その・・・ 不審な人物を・・・
だから僕、警察に話した方がいいかと思って。
でも正直僕・・・藤岡さんが苦手というか、何というか・・・」
苦笑いを見せる後藤は、軽く後頭部をポリポリとかいた。
後藤「まぁ、あいつは悪い奴じゃないんだが・・・。
他人にはちょいと、取っつきにくい所はあるかもしれんな。
他にも警察は何人かいたんだろ? そいつらに話せばいいじゃないか」
慎吾「その・・・僕、人見知り激しくて・・・
知らない人に話すの・・・緊張するんです。
だから顔を知ってる後藤さんに・・・話を聞いてもらおうかと。
それで戻ってきたんです」
後藤は鼻で大きく息をした後、再び頭をポリポリとかいた。
後藤「ふむ・・・ で? どんな人物を見たというのかね?」
慎吾は左手の拳を額にあて、思い出すしぐさをしながら口を開いた。
慎吾「秋津駅の南口を出たところで・・・
新聞を開いて、読んでいる人がいたんです」
後藤「そんなヤツ、いくらでもいるだろう?」
慎吾「えぇ、最初は僕も気にもとめなかったんですが・・・
なんかサングラスに白いコートの目立つ格好だったもので・・・
夜にサングラスって目立つなーって」
後藤「ちょっと待ってくれ」
慎吾がくわしい状況を話し始めたので、念のため手帳にメモを取る事にした。
後藤「続けて」
慎吾「新聞越しに、やけに警察の方を見ていたんです・・・
携帯もいじってましたし・・・」
後藤「ふむ。それで・・・?」
慎吾「多分、何かを写メっていた感じがしたんです。
その・・・警察が調べてる所を」
後藤「シャッターを切る音は聞いたかな?」
慎吾「いえ。でも、あの携帯の構え方は・・・
絶対に、警察を写していたと思います!」
後藤「そうか・・・」
メモはとるが、たいした情報ではないと内心思っている後藤。
後藤「それで?」
慎吾「それで・・終わりです。
でもずっと・・・警察の人たちを見てたんですよ?」
後藤「・・・。駅の中で、聞き込みしている警察がたくさんいた・・・
ただ『何事か?』と、見ていただけでは?」
慎吾「でも、夜にサングラスってのも不自然でしょう?
あれは絶対、顔がバレないようにですよ!」
後藤「うー・・・ん。まぁ・・・
とりあえず担当の連中には、連絡を入れておくが・・・」
閉じた手帳を、胸ポケットにしまいながら
(後藤「事件とは関係なさそうだな・・・」)
そう思っていた。
後藤「わざわざありがとう。じゃぁ、気をつけて箱根まで帰ってくれ」
玄関を閉めようとした後藤に、慌てて慎吾が声をかける。
慎吾「あ・・・あの!!」
少しばかり大きな声を出した慎吾。後藤は閉じようとした玄関を止めた。
後藤「どうした? まだ何か?」
慎吾「え・・・ えぇ・・・ 実は・・・」
・・・ ・・・。
瞳「あら・・・ あなた・・・」
応接室でテレビを見ていた瞳が、姿を現した慎吾に声をかける。
慎吾「あ、あの・・・ 非常に申し訳ないのですが・・・
もう1晩だけ、泊めていただけないでしょうか・・・?」
実は慎吾、この時間から箱根に帰ろうとすると・・・ どうやっても乗り換えで、終電に間に合わないのだ。
その事を説明すると、瞳はあからさまに嫌な表情を浮かべる。
瞳「(こんな時に)・・・仕方ないわね」
この言葉を受け、慎吾は羽鳥家で2連泊する事になった。
家政婦の新城はすでに帰宅していたが、警備の1人・安田が慎吾の面倒を見る。車でひとっ走りして、慎吾の下着や洋服を購入。風呂場の説明から泊まる部屋の準備までしてくれた安田に、慎吾は深々と頭を下げた。
用意してもらった部屋着を着て、前日と同じ部屋でしばらく時間を潰す。部屋の時計が10時半をさした頃、不意に慎吾はベランダに出た。
部屋の暖房で気づかなかったが、外はかなり寒い。薄い部屋着で外に出た慎吾は身震いをした。震えながらベランダの左側に歩いて行くと、隣の部屋との境界にある小さな塀を、ひょいと乗り越える。
さらに奥へ進み、2つほど小さな塀を乗り越えると・・・2階の1番奥の部屋のベランダに辿り着いた。カーテンがしっかりとかかり、外側から中を見ることは出来ない。
慎吾は、外側からその部屋の窓をコンコンと叩く。
音に気づいたその人物は・・・中からカーテンを開け、ベランダに通じるドアを開いた。
リナ「お帰り」
2階の1番奥の部屋は・・・ 昔からリナの部屋である。
慎吾「あ、どうも・・・」
タンクトップにショートパンツという、露出度の高い姿のリナ。出迎えられた慎吾は、反射的に視線が宙に浮く。
慎吾「お・・・ お邪魔します・・・ すいません」
緊張しながら、暖かい部屋に入っていった。
リナ「何、謝ってんのよ?」
何事もなかったように部屋に招き入れたリナは、自分の机に向かって腰掛ける。
慎吾「あ・・・ すいません・・・」
リナ「だから、何をあやま・・・。まぁ、どうでもいいわ。座って」
リナの部屋に入るのは2度目の慎吾。リナが用意した腰掛けに座り、しばし体が暖まるのを待つ。
リナ「ちゃんと帰ってきたわね。言われた通り、うまく出来たって事ね」
慎吾「は、はい・・・。リナ先輩のお母さんに・・・
睨まれましたが」
慎吾が羽鳥邸に戻ってきたのは、2人の打ち合わせ通り。
リナは、パソコンのディスプレイを見ながら呟いた。
リナ「しかしホントに霊能力とやらで、暗号と判断できるのか・・・
正直、今でも半信半疑なのよね」
慎吾「本当に・・・わかるんですよ。暗号だって事だけは」
慎吾は、確信しているという表情でリナに語る。
リナ「まぁ、あんたが嘘つかない・・・
ってか、嘘つけないってのは知ってるし。だから信じるけどさ」
慎吾の言う通り、このメールがハドリアンズ・ウォールをくぐり抜けたというのなら・・・
(リナ「事件解決の・・・大きな手がかりになるかも・・・」)
リナはそう思っていた。
本来ウォールをくぐり抜けた不審なメールは、全てトラッシュ(ごみ)メールと化するが・・・
誰が・・・どこから・・・どのようにして・・・何を伝えようと・・・
このメールを送ったのか、その謎は未だに不明。
慎吾は、ここまで起きた事をじっくり話し合う時間が必要だと提言。リナもそれに賛成した。
しかし部外者の慎吾が、リナの家に連泊するのは余りにも不自然。そこで、再び慎吾が羽鳥邸に戻ってこられるよう、リナが策を練ったのだ。
リナ「まぁ、駅にいれば不審者の1人や2人、すぐ見つかるからね。
殺人事件が起こった駅なら、戻る理由にはなるし」
リナは、秋津駅を経由して箱根に戻るルートを調べ上げていた。そこで慎吾は秋津駅で、不審な人物を見て・・・それを羽鳥邸にいる捜査官に伝えに来た、というシナリオだ。
慎吾「後藤さんにも、変な目で見られましたが・・・」
リナ「大丈夫。
誰が見ても、歴史とか文学オタクにしか見えない、変人だから」
慎吾「そ、そうですか・・・」
少しばかり照れた表情を浮かべる慎吾に、リナはあきれて声をかける。
リナ「・・・。褒めてないっつーの」
言いながら、小さな溜息をついた。
リナ「で? 何から話せばいいの?」
慎吾「どうしても今までの事で、おかしな点があるんです。
そこから話を進めたいなと」
リナ「言って」
慎吾「えぇ。その前に聞きたい事が・・・
妹さんの携帯に、リナ先輩は何て名前で登録されてます?」
リナの箱根の自宅で、妹の携帯は発見された。今は誘拐事件の証拠品として、警察が保管している。
警察がその携帯を押収する前、リナは妹の携帯情報を抜き出し、自分のノートパソコンに取り込んでいた。
リナ「【お姉ちゃん】だけど?」
慎吾「では、お母さんの登録名は?」
リナ「そのまんまよ。【お母さん】」
慎吾は視線を下に移し、考えるそぶりを見せる。
慎吾「やっぱり・・・ 真っ先におかしい点が1つ・・・」
リナ「だから、何よ!?」
せかすようにリナが言った。
慎吾「えぇ。何故、誘拐犯は最初に【お母さん】ではなく・・・
【お姉ちゃん】に電話を入れたのでしょう?」
リナ「・・・ ・・・」
慎吾「もし、身代金だけが欲しいなら【お姉ちゃん】に連絡せず・・・
直接、【お母さん】に電話すればいいはず」
リナ「そう言えば・・・」
(第55話へ続く)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回予告
慎吾は、犯人の行動を深く分析していく。
リナのカードキーを受け取り、箱根で犯人に繋がる何かを探そうとするが・・・
箱根に戻る途中、慎吾は思わぬ事態に遭遇した。
次回 「 第55話 不審点 」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




