第50話 3度の爆破(2008年)
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慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2
「アマデウスの謎」
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前回までのあらすじ
2012年、女子大生リナの妹が誘拐された。
霊能力を持つ1つ下の後輩・慎吾を連れて実家へと戻るリナ。誘拐犯から1週間以内に1億円を用意しろと要求され、羽鳥邸にいた面々は不安になる。
話は・・・ 4年前の2008年。
リナの新しいピアノ講師、そして彼氏となるヒロ・ハーグリーブス。
リナと父親の魁斗は、謎の組織に狙われる。魁斗はリナとヒロを救うため、自ら囮になり、組織に捕まってしまった。
リナは湾岸警察署で、再び覆面男らの襲撃をうける。ヒロとリナはコンビを組み、次次と敵を倒していくが・・・。
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第50話 3度の爆破(2008年)
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2008年12月11日(木)、午前3時45分。湾岸警察署、7階。
ヒロ「マズいな・・・」
敵に対して、有利な体勢を取ろうと動くヒロは、やや焦りを感じていた。
リナ「どうしたの?」
後ろからついてくるリナが声をかける。
ヒロ「残り4人全員が、全ての方角からやってくる。
俺たちを追い詰めるためだ・・・」
リナ「え? じゃ、じゃぁどうするの?」
ヒロ「そうだな・・・。
4人相手となると、さっきのようにはいかない・・・」
ヒロは左手に見えた部屋のドアノブに手をかけた。
ヒロ「とりあえずこの部屋に入って。相手の出方を探ろう・・・」
そう言うと、鍵のかかってないドアを開く。そしててリナと共に、中に入っていった。
リナ「この部屋・・・」
20畳ほどのその部屋は、真ん中に大きなテーブルと腰掛けが4つあった。右手にはテレビと冷蔵庫。左手には棚が並んで、奥には電話が見える。
左右対称ではあるが、リナが先ほどまでいた部屋と同じ作りだ。奥に別の部屋があるのも同じだった。
2人はその奥の部屋に静かに入っていく。奥の部屋に入ると、ヒロは窓を開けた。
ヒロ「・・・ ・・・」
わずか20cm程度の幅の足場があるだけで、足を踏み違えれば7階から真っ逆さまに下へ落ちる。
(ヒロ「万が一の場合は、ここからだな・・・」)
部屋にあったベッドを縦にし、その裏にリナと身を隠した。
リナの手を握り、ヒロは目を閉じる。
ヒロ「・・・ ・・・」
そして敵の【足音】に集中した。リナは何も言わず、ぎゅっとヒロの手を握りしめる。
5分後、運命の時が来る事を知らずに・・・。
・・・ ・・・。
4人の覆面男達は、一定の距離を保ちながらフォーメーションを組んで動いていた。男の1人は、高性能のサーモグラフィーを手にしている。学校でリナを襲撃した連中も使っていた物だ。
その男が、ピタリとある部屋の前で止まった。サーモグラフィー装置を部屋の壁にかざし、じっとモニターを見る。
(「・・・ ここか・・・」)
2人の熱反応を確認した男は、まず視界に入っていた仲間の1人に手を振って合図をした。合図は受けた男は、ヒロ達がいる部屋の隣の部屋へ静かに侵入する。
さらに高性能マイクロフォンを通して、残りの仲間にも連絡をいれた。
・・・ ・・・。
(ヒロ「左の部屋に1人・・・ 次はここか・・・?」)
隣の部屋に、1人が入った音を察知するヒロ。残りの連中がじわりじわりと、追い込んでいく事にまだ気づかない。
・・・ ・・・。
サーモグラフィー装置を手にした男は、やってきた男の1人に無言で合図を送る。合図を受けた男はゆっくりと頷き、指示された部屋に静かに入って行った。
・・・ ・・・。
(ヒロ「右の部屋にも1人・・・?」)
左右の部屋に敵がいる・・・。不審に感じたヒロは、さらに集中して【音】をさぐった。
ヒロ「・・・ ・・・」
チッ チッ チッ チッ・・・
(ヒロ「何かの機械音・・・?」)
とてつもなく嫌な予感がした。
(ヒロ「ま、まさか・・・」)
そう思った瞬間だった。
ドゴオーーーン! ドゴッドゴオオーーーン!!!
ヒロ達が隠れていた部屋、その左右の壁から同時に・・・1度目の爆音が聞こえた。
リナ「きゃーーー!!」
反射的にリナはヒロにしがみつく。部屋と部屋を繋ぐ壁は破壊され、壁の破片がヒロ達のいる部屋に飛び散った。
立てたベッドのおかげで、その破片を直撃する事はなかったが・・・
壁穴から、マシンガンを持った覆面男が、左右同時に現れた。
ヒロ「しまった!!」
まさか壁を爆破して、攻めてくると思わなかったヒロ。突然の事態に、ヒロは左手でリナを抱きしめつつ、右の男に銃を向けて2発、発砲する。
「ぐあ!!」
右手の男は、胸に2発の銃弾を受けて倒れた。しかし左手の男は、マシンガンを連射してきた。
ガガガガガガ!!!
ヒロはリナの頭を押さえつけ、自分の身も低くする。盾にしていたベッドを貫通した弾が、ヒロとリナの髪の毛をかすめた。
パンパンパン!!
さらに自分達が通ってきた隣の部屋から、もう1人の覆面男が侵入し、銃を向けて発砲してきた。
(ヒロ「はさみ・・・ いや、三方攻め!?」)
最も恐れていた事態が起こった。密室で待ち伏せた場合、複数の方角から一気に攻撃されれば・・・四面楚歌の状態となる。
武装連中は左右の部屋、そしてヒロ達が通ってきた部屋・・・その3ルートを通って3人が同時に攻めてきたのだ。
(ヒロ「逃げ道は1つ!」)
身をかがめたままくるりと反転したヒロは、左の男に向けて思い切りベッドを両足で蹴りつける。同時に、正面の男には素早く銃を発砲した。
正面の男は、銃口を向けられた瞬間、身をかわして銃弾をよける。よけた直後、すぐに別角度から銃を向け、盾を失ったヒロ達に発砲した。
パンパン!!
相手も百戦錬磨。ヒロは身を低くしながら、リナの手を引いて走り出す。
蹴飛ばしたベッドは、床の抵抗を受けながらも、左手の男を壁とサンドイッチにした。
ヒロ「走れ!!」
ヒロは懸命にリナの手を引っ張り、右手の男が開けた壁の穴に滑り込む。
ガガガガガガ!!
隣の部屋にリナと滑り込んだ瞬間、マシンガンの連射音が背中から聞こえた。
ギリギリ敵の銃弾から逃れたヒロとリナ。今来たルートを戻る選択肢は無く、この部屋の出入り口から出て体勢を整えようとする。
ヒロ「リナ! ひとまず部屋から出・・・」
ヒロの視界が何かを捉えた。部屋の出口に・・・
ヒロ「ば、爆弾!?」
部屋にある唯一のドアに・・・ プラスチック爆弾がしかけられてるのが見えた。先ほど自分達がいた部屋からは、マシンガンの音が鳴り止まない。
リナはひたすらヒロを抱きしめ続けている。
ヒロ「ぐ・・・」
ついさっき倒した男が取り付けたのは間違いない。ヒロは、隣と通じる穴に時折発砲しつつ、その爆弾をチェックする。
ヒロ「・・・ ・・・」
爆弾の配線は、明らかにドアノブと連動していた。
(ヒロ「開けたら、ボン!か・・・」)
爆弾を解除するには数分かかるが、そんな余裕などあるはずがない。
正面には爆弾。隣の部屋には2人の武装男。絶体絶命・・・
(ヒロ「日本のことわざで言えば、【前門の虎、後門の狼】か・・・」)
リナ「ヒ、ヒロ先生・・・」
リナはただ、ヒロにしがみついている。
ヒロ「何かあるはずだ!!」
必死に打開策を探ろうとヒロはコートのポケットに手を突っ込んだ。
真っ先に掴んだのが・・・ 携帯電話。
右手で携帯を取り出したヒロ。
(ヒロ「・・・ これがあった!」)
抱きついているリナに声をかけた。
ヒロ「リナ! 携帯電話持ってるか?」
つい先ほどマシンガンの銃弾が髪の毛をかすめた少女は、怯えながらも自分のポケットに手を突っ込んで携帯電話を取りだした。
リナ「こ、これ・・・ ママの・・・」
ヒロに電話するため、母親から借りた携帯電話。最初の襲撃があった部屋から出る時、リナは1度手放したその携帯をポケットに忍ばせておいた。後で母親に返すつもりのそれを、ヒロに手渡す。
ヒロ「十分!!」
ヒロはリナから携帯を受け取り、リダイヤルを見た。
自分の番号がトップにあるのを見て、すぐにその番号へ電話をかける。
(ヒロ「この機能だけは、使いたくなかったが・・・」)
ヒロは自分の携帯電話を、最初の爆破で開いた風穴に向けて滑らせた。
そして瞳の携帯を耳にあて、呼び出し音が鳴っているのを確認する。
(ヒロ「これで・・・ 全てカタがつくはずだ・・・」)
ヒロの携帯は、滑りながらマシンガンの銃弾をかいくぐり・・・隣の部屋・・・つい先ほどまで、リナといた部屋の壁際に止まった。ヒロは瞳の携帯電話を耳からはずし、それを見ながら早口で呟く。
ヒロ「Good-bye my mobile phone!」
(さよなら、俺の携帯!)
そして6つの数字をプッシュした。 瞬間・・・
ドッッカーーーアーーーーァァアン!!!
隣の部屋から・・・2度目の爆音が聞こえた。
ヒロはリナを強く抱きしめ、床に伏せる。
スパイの携帯電話には・・・ 火薬が仕込まれている。時限式に爆破する事もできるし、他の携帯を使って遠隔操作で爆破する事もできる。
隣で銃を連射していた2人の武装男は・・・爆破により即死した。絶体絶命の状況で、ヒロはスパイ用携帯電話を犠牲にして乗り切った・・・
はずだった・・・。
ヒロはゆっくり顔を上げる。
ヒロ「!?」
ドアの向こう・・・
いや、ドアにつけられたプラスチック爆弾の向こう・・・
ガラス窓を通して、遠目の場所から1人の覆面男が銃を向けているのが見えた。
ヒロとリナはカウントを忘れているが・・・ その男が最後の覆面男だ。
彼の銃が狙っているのは、ヒロとリナではない。ドアにはり付いたプラスチック爆弾だ。
(ヒロ「部屋ごと俺たちをふっとばす気だ!」)
ヒロはすぐに銃を男に向け1発撃ち込んだ。しかし男は、予想していたのか即座に右に動いて銃弾をかわす。
ヒロ「リナ! もう1回だけ走るぞ!!」
すぐにリナの両腕を抱えて、一度通った風穴に向かった。
ダン!!
覆面男の銃声が、無機質に鳴り響く。
ドッッゴオオオーーン!!!
同時に、3度目の爆音が鳴り響いた。
リナ「きゃーー!!!」
ヒロ「くぅ・・・」
・・・ ・・・。
ヒロはリナを前に押し出し、隣の部屋に入る事には成功したが・・・
ヒロ「!?」
リナ「!?」
足が床を捉えない。
ヒロ「な・・・」
隣の部屋には床がなかった。最初の覆面男による爆破で、衝撃を受けた床は・・・
2度目のヒロの携帯電話による爆発で、さらにダメージを上乗せし・・・抜け落ちてしまった。
本来あるべき床に、足を置いたはずの2人は・・・
突然重力に従い、3m下の6階に落ちていった。
落ちながらもヒロは、とっさにリナの頭を両手でかばう。
そして・・・
大きな衝撃が2人の体を襲った。
後頭部から6階の床下に落ちてしまったリナ。ヒロの腕がダメージを吸収しなければ・・・
死んでいた。
・・・ ・・・。
後頭部を強打したリナは・・・体がグルグルと地面に引きずり込まれるような感覚に陥っていた。蟻地獄に引きずり込まれるとしたら、このような感覚なのかもしれない。
夢とも現実ともつかない、嫌な感覚を味わったリナ。1分程して、ようやく少しずつ意識が戻ってきた。
リナ「・・・ ・・・」
後頭部からは定期的に激痛の信号が送られ、視界もボヤけている。目の前の彼氏に、静かに声をかけた。
リナ「ヒロ・・・先生?」
ようやく焦点が合ってきたリナの目に・・・
口と胸から大量の出血をしているヒロの姿が映った。
リナ「ヒロ先生!!」
薄目を開けたヒロが、小さな笑顔を見せる。
ヒロ「Rina... It's... time to... say... good-bye...」
リナ「な、何!? 何を言ってるの!?」
そして・・・
1人の男が、こちらに銃を向けていた。
(第51話へ続く)
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次回予告
捜査官に銃を向けられたヒロ。
その銃弾をよける事ができたが・・・
ヒロには、その銃弾を受けなければならない理由があった。
次回 「 第51話 Time to say good-bye (2008年) 」
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