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アマデウスの謎  作者: 伊吹 由
第2章 リナの過去
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第51話  Time to say good-bye (2008年)

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  慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2


       「アマデウスの謎」 


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前回までのあらすじ


2012年、女子大生リナの妹が誘拐された。


霊能力を持つ1つ下の後輩・慎吾を連れて実家へと戻るリナ。誘拐犯から1週間以内に1億円を用意しろと要求され、羽鳥邸にいた面々は不安になる。


話は・・・ 4年前の2008年。

リナの新しいピアノ講師、そして彼氏となるヒロ・ハーグリーブス。


リナと父親の魁斗は、謎の組織に狙われる。魁斗はリナとヒロを救うため、自ら囮になり、組織に捕まってしまった。


リナは湾岸警察署で、再び覆面男らの襲撃をうける。ヒロとリナはコンビを組み、敵に立ち向かう事を決意。次次と敵を倒していったが・・・


爆破攻撃を受けたヒロとリナは、1つ下の6階に落ちる。


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   第51話  Time to say good-bye (2008年)


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2008年12月11日(木)、午前3時50分。湾岸警察署、6階。


上に続く階段の前で、多くの警察官が騒然としている。


階段の途中に、雑に置かれた段ボール箱が2つ。50cm程度の立方体の段ボールで、片面ははがれ、その中身が見える状態だ。


そして・・・


その中に、爆弾が入っているのが確認出来る。


距離を取り、爆発物処理班を待つ署員達。突然・・・


爆発音が鳴り響いた。


目の前ではなく、上の階のどこかで何かが爆発したようだ。爆発音と同時に彼等は一斉に静かになり、建物の揺れを感じた。皆、上を見上げながら沈黙を保つ・・・。


その沈黙の中、さらに2度目、3度目のの爆発音が立て続けに上から聞こえてきた。


3度目のそれが轟くと、悲鳴をあげる者もいた。しかし警察官としての教育を受けてきた彼等は、その場を逃げ出すことはない。騒然としながらも銃を手にし、状況の動きを見守っていた。


藤岡「・・・ ・・・」


階段から少し離れて様子を見ていた藤岡。爆発音とは違う、何かが崩れるような音が耳に入ってくる。


(藤岡「上じゃない・・・。この階からだ・・・」)


階段の方と反対側を見つめる藤岡は、銃を握りしめ、音がしたと思われる方角へと走って行った。


階段の行列の最後尾にいた後藤は、藤岡が奥へと走っていくのに気づく。


後藤「藤岡・・・?」


まだ激しい頭痛を抱える後藤は、藤岡の行き先が気になり、ゆっくりと後を追いかけて行った。



・・・ ・・・。



ヒロ「ぐぅ!!」


7階から6階へ・・・3mもの高さから落ちたヒロ。全身を強打して、悲痛な声をあげる。頭から落ちたリナを両腕で抱えたため、自身の受け身が全く取れなかった。


左肩に全体重を乗せた状態で落ちた瞬間・・・


グキヤァッ!


ヒロの優秀な耳は、左肩の骨が粉砕した音を聞き取る。しかしその左肩を犠牲にしなければ・・・リナは頭から垂直に落下して、死んでいた。


ヒロ「はぁ・・・はぁ・・・」


力を振り絞って、ゆっくりと上体を起こすヒロ。


ヒロ「ぐ・・・」


立ち上がる事すら出来ない程の激痛が体中をはしり、座り込むのが精一杯だった。


リナ「う・・・ う~ん・・・」


脳しんとうを起こしたリナが、天井の瓦礫がれきと共にヒロの膝元で倒れている。


思うように動けないヒロ。しかし彼の超人的な耳は、迫り来る足音をいやおうでも察知してしまう。


(ヒロ「・・・ 革靴・・・ 警察か・・・」)


もはや満足に動く事が出来ないヒロは、自分が警察に拘束される覚悟はしていた。その代わり、今度こそリナに厳重な警護をつけるよう、要請するつもりだ。


5秒後。


ヒロの正面にある廊下の奥から、銀縁眼鏡で鋭い眼光を放つ男が走ってきた。


(ヒロ「藤岡・・・ 捜査官か・・・」)


廊下から少し横に入ったフロア。ヒロの存在に気づいた藤岡は、すぐに銃を構えた。


藤岡「ハーグリーブス! 銃を捨てて両手を見える位置に挙げろ!!」


その声を聞いたヒロは、右手だけを挙げる。


藤岡「両手を挙げろと言ったんだ!!」


ヒロが両手を挙げないのを見た藤岡は、声のトーンを上げて再びヒロに警告した。


ヒロ「はぁ・・・ はぁ・・・」


呼吸を乱すヒロは、静かに藤岡を見つめ口を開く。


ヒロ「はぁ・・・はぁ・・・ 左肩は壊れた・・・」


藤岡はじっとヒロを見つめ


藤岡「・・・ ・・・」


銃を構えながら、少しずつヒロとの間合いを詰めていった。ちょうどその頃、後藤が藤岡の後ろ5mというところまで追いついてきていた。


ヒロ「はぁ・・・ はぁ・・・ 抵抗はしない。

    羽鳥リナを預けるから、しっかり警護して欲しい・・・」


藤岡「・・・ ・・・」


声を絞り出すヒロに、藤岡は銃口を向けたままだ。



この時・・・



ヒロの耳が【音】を捉えた。


ザッ ザッッ ・・・


真上から聞こえたその音。


(ヒロ「ゴム底の靴・・・ 覆面男だ!」)


7階には・・・1人だけ倒していない覆面男が残っている。藤岡から視線をはずしたヒロは、静かに上を見上げた。


ヒロ「!?」


まだ、もうもうと立ち上がる粉塵の中、7階の抜けた床穴の向こうから・・・


覆面男が銃を構えているのが、はっきりと見えた。その銃が狙っているのは・・・


(ヒロ「俺じゃない・・・リナだ!!」)


瞬間・・・・


ヒロは2秒後・・・自分が撃たれる事を覚悟した。


それと同時に・・・


ヒロ「 ? 」


突然ヒロの周りに異変が起きる。


(ヒロ「何だ・・・? 周りがゆっくり動いている」)


緊迫した状況のはずなのに・・・何故か周りの全てが、スローモーションに動いているように見えた。


覆面男が粉塵の中、上からリナに狙いをつけ、まさに引き金を引こうとしている。それよりも早くヒロは、右手で落ちていた銃を拾い上げた。覆面男に銃口を向けると、迷わず2度引き金をひく。



・・・ ・・・。



銃をヒロに向け、3mの所まで近づいていた藤岡。突然ヒロが挙げていた右手を降ろし、素早く銃を握ったのを見て、反射的に身を低くした。


そして・・・


パンパン!!


2発の銃声が鳴り響いた。ヒロが撃った銃の音だ。


ヒロは銃を藤岡ではなく、上に向けて撃っていた。しかし藤岡は床に伏せたまま、ヒロに銃を向け・・・


ダンダンダン!!


3度引き金をひいた。



・・・ ・・・。



ヒロは、上に向けた銃の引き金をひく直前・・・


約3mの距離にいた藤岡が身を低くしたのも、スロー映像を見るような感覚で確認していた。自分が発砲すれば、藤岡がどういう行動に出るかも全てわかっている。


パンパン!!


それでもヒロは、最後の覆面男に向けて2発を発砲。


信じられないが・・・ ヒロには、自分の発砲した2発の銃弾の軌道まで見えていた。高速でスクリュー回転する銃弾が・・・確実に覆面男の急所を捉えるのが、はっきりと見える。


(ヒロ「これで・・・ リナを狙うヤツは、全て倒した・・・」)


侵入してきた11人の覆面男・・・全て倒した事を確信した。


(ヒロ「だが・・・」)


藤岡が自分に向けて発砲するさまが、ゆっくりと目に映る。



タキサイキア現象・・・。



人は交通事故など、命に関わる事故に遭遇すると・・・突然周りの動きが、スローモーションのように感じる時がある。


死に対する恐怖を感じた人の脳は、体を守るため血管が収縮するように指令を出す。これは出血を最小限に抑えるためでもあり、実際に出血してもすぐに血が固まるような成分へと血液は変化する。


この強力な脳の司令ゆえ、他の体の機能に関する感覚が鈍くなり、脳は体が受ける情報を処理しきれなくなってしまう。


目から入った視覚的情報を脳がうまく処理できず、コマ送りのような感覚でしか捉えらない。結果それがスローモーションのように感じてしまうのだ。



また、ある者は次のような推測も述べている。


人は「生きようとする存在」・・・いわゆる生物だ。


例えば人間は通常、どんなに力を入れようとも70~80%しか筋肉を使えない。しかし、危機的状況を察知した時、脳は100%のポテンシャルを発揮できるよう筋肉に信号を送る事が出来る。火事場の馬鹿力と言われるものだ。


生命の危機に直面した人は・・・


筋肉だけでなく、通常セーブして使っているあらゆる能力を極限にまで引き出す事がある。


遠くに離れた物音が鮮明に聞こえたり、壁の向こうにいる人の気配を察知したり・・・そして、目に映る物がゆっくりと感じたり・・・馬鹿力だけでなく、超能力に近い能力も人は潜在的に持っている。


死を意識した人は、生きるためにそれらの能力を発揮する可能性があるという・・・。


ひと一人の体は、水素爆弾数個分のエネルギーを持っている。しかしそのエネルギーを解放するすべは知らない。死への直面は、体に眠るエネルギーを解放するためのトリガー(引き金)なのかもしれない。



・・・ ・・・。



(ヒロ「1発目はハズれる・・・」)


藤岡の放った1発目の銃弾は、ヒロの右側を通過して後ろの壁に直撃した。


(ヒロ「2発目・・・ これは当たる・・・」)


ヒロの目には、2発目の銃弾が、自分の腹部へ向かっているのがはっきりと見えていた。


(ヒロ「よけられる・・・」)


信じられない事だが、ヒロはその弾を【目で見て】、【よける】事が可能だと判断した。


(ヒロ「だが・・・ 」)


この弾をよけたら、リナに直撃してしまう。


ヒロ「It's.. 」


藤岡の放った2発目の弾が・・・ ヒロの腹部にめり込んだ。直後、ゆっくりと血が噴き出していくのがヒロの目に映った。激痛までもがゆっくりと、体の中をかけめぐっていく。


(ヒロ「痛いが・・・、致命傷ではない。でも、次の弾は・・・」)


藤岡の放った3発目の弾は・・・ ヒロの胸に真っ直ぐと向かっていた。


(ヒロ「これは急所だ・・・」)


もはや激痛で体を動かせないヒロが・・・ 確実な死を覚悟した瞬間だった。


ヒロ「...time to say good-bye,Rina...」


3発目の銃弾は・・・  ヒロの左胸を貫いた。



・・・ ・・・。



後頭部を強打したリナは・・・体がグルグルと地面に引きずり込まれるような感覚に陥っていた。


1分程して、ようやく少しずつ意識が戻ってくる。


後頭部からは定期的に激痛の信号が送られ、視界もボヤけている。

目の前の彼氏に、静かに声をかけた。


リナ「ヒロ・・・先生?」


ようやく焦点が合ってきたリナの目に・・・

口と胸から大量の出血をしているヒロの姿が映った。


リナ「ヒロ先生!!」


薄目を開けたヒロが、小さな笑顔を見せる。


ヒロ「Rina... It's... time to... say... good-bye...」


リナ「な、何!? 何を言ってるの!?」


ヒロ「お別れ・・・ の時だ・・・」


リナ「な・・・」


後頭部に激痛がはしるが・・・それよりも、遙かに大きな苦しみがリナの心を襲う。まるで心臓をえぐられたような感覚だ。


何が起こっているのか、理解できない・・・いや・・・リナにとっては理解したくない状況だった。


スチャ。


不意に何かの気配を感じた。


リナ「!?」


目の前で・・・藤岡捜査官がヒロに銃を向けている。眼鏡の奥の瞳は怒りに満ちたように充血していた。


藤岡「ハーグリーブス!!」


ヒロに向けて3発、発砲した直後・・・ その銃弾がヒロを仕留めたのを確信した藤岡は一気に間合いを詰め、ヒロの頭に銃口を向けていた。


藤岡「ハーグリーブス! ゲームオーバーだ!!」


そう叫んだ後・・・


ダン!!


藤岡は引き金をひいた。




             (第52話へ続く)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回予告


藤岡捜査官に撃たれ、致命傷を確信したヒロ。


リナに最期の言葉を残す・・・。



次回 「 第52話 リナが教えてくれたもの (2008年) 」

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