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アマデウスの謎  作者: 伊吹 由
第2章 リナの過去
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第46話  別  れ(2008年)

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  慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2


       「アマデウスの謎」 


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前回までのあらすじ


2012年、女子大生リナの妹が誘拐された。


霊能力を持つ1つ下の後輩・慎吾を連れて実家へと戻るリナ。誘拐犯から1週間以内に1億円を用意しろと要求され、羽鳥邸にいた面々は不安になる。


話は・・・ 4年前の2008年。

リナの新しいピアノ講師、そして彼氏となるヒロ・ハーグリーブス。


リナと父親の魁斗は、謎の組織に狙われる。ヒロは魁斗とリナを救出し、対テロ対策用に建造された警察署へ向かった。


しかし敵は魁斗を奪うため、なりふり構わず攻撃してくる。


危機を感じた魁斗は・・・皆が生きる唯一の方法と思い、ヒロの運転する車から、自らの身を投げ出した。


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   第46話  別  れ(2008年)


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2008年12月11日(木)、午前2時31分。品川ふ頭。


ふ頭のコンテナ群の中に、1台の車が静かに止まっている。


ヒロ「・・・ ・・・」


ヒロは運転席で、ハンドルを握りながら考え込んでいた。後ろを見ると、リナがシートベルトを着けたまま気を失っている。


車を降り、後部座席のドアを開けてリナをじっと見た。髪の毛をかきあげ、そのうなじに手を触れる。魁斗がスタンガンを押し当てた場所だ。


(ヒロ「やはり・・・」)


魁斗の突然の不可解な行動を、ようやく理解した。


リナのうなじに、3cm程度の十字傷が確認出来る。


(ヒロ「外から・・・ GPSチップか何か埋め込まれた跡だ・・・」)


リナは秋津駅近くで拉致され、閉鎖された港に連れて行かれた。


(ヒロ「港に移送中、埋め込まれたか・・・」)


そしてチップから発進される信号を元に、マスターの一派が追いかけてきた。魁斗には周りの電波を遮断する電子機器を持たせていた。だから魁斗がリナの側にいた時には、信号は出ていなかったはずだ。


つまり・・・


(ヒロ「港から脱出し、隠れ家へ向かっている時に・・・追跡された」)


リナに異物が埋め込まれた事を察知した魁斗。埋め込まれた場所にスタンガンをあて・・・


(ヒロ「高圧電流でチップをショートさせた・・・」)


リナの首の傷を見る限り、チップは皮膚の浅い所にある。スタンガンの電圧に耐えられるはずがないし、それを破壊すれば追跡される事も無い。


直後、魁斗は敵の前に身を投げ出した。


(ヒロ「リナを救うために・・・」)


ヒロはリナの頬を優しくなでる。


(ヒロ「ミスターカイトは・・・

     敵が自分の命を奪う事は無いと言っていたが・・・」)


リナと魁斗が再会して、わずか20分。再び親子は引き離された。2人とも守り通せない自分に、歯がゆさを感じるヒロ。


今すぐにでも、魁斗を助けに行きたいが・・・


(ヒロ「ここはミスターカイトの意志を・・・尊重すべきか・・・」)


ヒロはリナを湾岸警察署に移送する事を決意した。


(ヒロ「まずは確実に・・・リナを安全な場所へ・・・」)


ヒロはリナのシートベルトを外し、抱き上げる。

助手席に乗せ、シートベルトをつけると・・・静かに車を出した。


(ヒロ「ミスターカイト・・・必ずまた助け出します」)


周りに警戒を払いながら・・・車は湾岸警察署目指した。



・・・ ・・・。


「羽鳥魁斗、生きて確保しました。特に大きなケガなどはありません」


マスターと呼ばれる男は、携帯を通じて返事をする。


「そうか。では例の場所へ移せ。2度と逃がすんじゃないぞ」


いつもの冷静な口調に戻っていた。


「了解! 娘の方はどうしますか?」


「・・・。まだ追える位置にいるか?」


「信号は絶たれましたが、湾岸警察署に向かうならルートは2つ。

  今追えば、十分追いつけますが」


「・・・ ・・・」


最優先事項であった羽鳥魁斗の確保は達成した。しかし「羽鳥リナを殺す」と宣言したが・・・それは実行していない。


(「教授は奪ったが、娘はハーグリーブスの元・・・

   勝負は引き分けか・・・」)


魁斗を手に入れた事で、少しばかり心に余裕が出きていた。


「娘を追うとして、動ける人数は?」


「現在こちらの部隊は13人。

  羽鳥魁斗移送に2人を要するとして、追える者は11人です」


「・・・ ・・・」


1週間前には・・・実働部隊を50人従えていたはずだ。


(「それが今や13人・・・」)


SISの腕利きスパイとはいえ、たった1人にここまでのダメージを受けようなどとは・・・完全に想定外だった。


(「捨て駒の連中とはいえ、このまま引き下がるワケにはいかん・・・」)


マスターは携帯電話を握り直し、落ち着いた声で語り始める。


「言う通り動け。その2ルートではなく、別ルートから追う」


「わかりました。では、そのルートとは?」


(「我が辞書に【敗北】の文字はない。そして・・・


   【引き分け】の文字も・・・」)


完全なる勝利を手にするためには


(「羽鳥リナを殺す・・・」)


そう思いながら、部下に詳細な指示を出した。



・・・ ・・・。


午前2時43分。


リナ「!?」


車の揺れで、リナが目を覚ました。


リナ「あ、あれ? 私・・・? あつっ・・・」


首の後ろに痛みを感じたリナは、左手でうなじを抑える。右を向くと、ヒロが車を運転していた。


リナ「わ、私・・・どうしたの?」


リナの意識が戻ったのに気づいたヒロは、沈んだ表情で口を開く。


ヒロ「あぁ。ミスターカイトが俺たちを守るために・・・

    囮(おとり)になった・・・」


リナ「パパが!?」


ヒロ「すまない・・・」


首の後ろをさすりながら、うつむくリナ。


ヒロ「君を湾岸警察署に預けた後、助けに行こうと思う」


リナはヒロの方を向いて大きな声を出した。


リナ「私も行く! 私も戦えるわ!」


大声を出した瞬間、首の後ろに激痛がはしった。


リナ「っつ・・・」


リナのゆがんだ表情を見たヒロは、静かに声をかける。


ヒロ「今のリナでは・・・ 悪いが足手まといだ。

    君を守りながら、ミスターカイトを助ける自信がない」


リナ「な・・・」


(ヒロ「これ以上、リナを危険に巻き込むわけにはいかない・・・」)


ヒロは、あえてリナを突き放す言い方をした。


リナ「何てことを言うの!? 私のパパよ!!」


ただ・・・父親を助けたい。今はそれだけがリナの頭を占拠している。


ヒロ「ダメだ!」


ヒロはやや声を荒げ、首を横にふった。


リナ「・・・ ・・・」


確かに・・・ これまで覆面男に襲撃を受けた際、リナはただ怯えてヒロに守られてきた。しかしリナの中で「私は変わった」という気持ちが芽生えている。


(リナ「今の自分なら、パパのために戦う事も出来る・・・」)


安易な気持ちがリナの心にあった。


そう思える根幹(こんかん)には・・・倉庫で銃を撃ったという事実もある。人に向けて銃を撃つ経験は・・・リナの中の何かを変えていた。


(リナ「確かに撃った・・・」)


しかし撃った後の記憶がリナにはない。


(リナ「敵に当たったのかしら?」)


人を殺してしまったという考えなど、毛頭無い。


きっと私は勇敢に戦った。


生まれ変わった私は、父親のためなら、銃を持った相手にも立ち向かえる。


そういう考えが、リナの頭の中にあった。


ヒロ「あと5分で着く・・・」


静かにヒロが声を出す。


リナ「・・・ ・・・」


リナの右手には、ヒロからもらった銃型のスタンガンが強く握られていた。



・・・ ・・・。



首都高速湾岸線を走るヒロの車は・・・やがて湾岸警察署の見える位置で止まった。


警察署までは約200m。周りに警戒線は張られていない。


ヒロ「俺は君を連れ去った容疑者だ。一緒には行けない。

    君一人で行くんだ」


正面を見て、何か考え事をしているリナ。


ヒロ「母親と妹もいる。君の姿を見せて安心させて欲しい」


正面を向いたまま、リナが静かに口を開いた。


リナ「わかった・・・。パパはヒロ先生に任せる・・・」


まだ納得いかないといった表情のリナだが、その言葉を聞いてヒロは一息ついた。


ヒロ「君が警察署に入るのを確認したら・・・俺は行く。

    絶対に外に出ない事だ」


リナ「うん・・・」


ヒロはリナの頬にキスした。


ヒロ「ミスターカイトに、モーツァルトを聴かせてやらなきゃな。

    今までのレッスンの意味がない」


キスされた頬を右手でなでながら、リナは少しばかり首を縦にふった。


リナ「うん。そうだね・・・」


元気なさそうに返事したリナは・・・ ようやく重い腰を上げて車の外に出た。ヒロに軽く手を振ると・・・真っ直ぐ警察署へと歩いて行く。


ヒロ「・・・ ・・・」


ヒロは、リナが警察署に向かう姿をじっと見ていた。

内心、勝手に父親を助けようと、無謀な行動に出ないか心配だったが・・・


リナは真っ直ぐ警察署に向かった。その姿を見ながらヒロは再び110番へ電話する。先ほどと同様、電話が繋がった瞬間相手よりも先にしゃべり出す。


ヒロ「さっきも電話したハーグリーブスだ。藤岡捜査官を出せ」


2度目の誘拐犯からの電話とあって、相手もすぐに藤岡に繋いだ。


藤岡「藤岡だ」


ヒロ「今、羽鳥リナが警察署に向かった。保護を頼む」


藤岡「羽鳥魁斗はどうした? 2人とも預けると言ったはずだ」


ヒロ「訳ありでね。リナの母親と妹もそこにいるな?」


藤岡「・・・。あぁ、2人とも安全に保護している」


ヒロ「よし。リナが署内に入ったら、防御壁を降ろすんだ」


藤岡「お前の指示は受けない。

    テロや武装勢力に対してはこちらが判断する。


    もう1度聞くが、羽鳥魁斗はどうした?」


ヒロ「・・・。羽鳥家をしっかり守れ」


ヒロは電話を切った。そしてリナが警察署に入って行く姿を、確かに確認する。


直後、安田に電話を入れるとすぐに繋がった。


ヒロ「リナは無事だ。今、警察が保護した」


電話の向こうからは、疲れ切った安田の声が聞こえる。


安田「安心したよ。社長は? 居所はわかるって言ってたよな?」


ヒロは魁斗を救出した時、安田に電話したが・・・魁斗を救った事は伏せておいた。そして再び魁斗は奪われてしまった。


ヒロ「残念ながら、まだ敵の元にいる・・・」


安田「・・・ そうか・・・」


ヒロ「それよりお前のメールの事だが・・・。

    【Uuknown】は、本当に・・・」


安田「こちらの情報源はSISより上だ。間違いない」


ヒロ「そうだな・・・今までもそうだった・・・信じるさ。

    かなりヤバイ状況ってわけか・・・」


安田「あぁ・・・これから大変だぞ」


ヒロ「俺は一度、ミスターカイトとコンタクトを取った。

    その時の情報によれば、首謀者はマスターと呼ばれている」


安田「社長と話したのか!?」


ヒロ「あぁ。だがちょっと会話できただけだ・・・」


安田「そうか・・・。

    マスターという呼び名は、【Unknown】の前身・・・


    【P2】がフリーメイソンだった頃の名残(なごり)だろう」


電話で会話を続けながらも、ヒロは警察署をずっと見ていた。


(ヒロ「・・・。防御壁を降ろせと言ったのに・・・」)


テロ対策用に建造されている湾岸警察署。つい数分前、拉致されたリナが署内に入ったというのに・・・


(ヒロ「防御策をとらないとは・・・。

     また襲撃を受けたらどうするんだ」)


警察署を襲撃するなんて考えられないが・・・警察の対応にイライラするヒロ。やや早口で安田との会話を続けた。


ヒロ「マスターは黒髪で、若い日本人、もしくはアジア人。

    ミスターカイトはそう言っていた」


安田「元はイタリアのロッジなのに・・・アジア人が?」


ヒロ「その線で調べられるか?

    【Unkown】の計画は、何としても止めねば」


安田「すぐ調査にかかる。他に情報があれば必ずまた連絡してくれ」


ヒロ「OK。お前は【Unkown】、俺はミスターカイトを・・・」


安田「承知した」


ヒロは電話を切りながら・・・・


警察署の屋上で何かうごめく物を見た。


ヒロ「・・・ ・・・」


暗視双眼鏡を取り出し、その正体を探る。


ヒロ「!?」


ヒロの目は確かに捉えた。14階建ての警察署。その屋上に、パラグライダーに乗った連中が、次次と舞い降りるのを。


そして連中は・・・もはや敵のトレードマークとなった覆面をつけている。


(ヒロ「な・・・ 何故!?」)


テロリストが警察署に攻め入るなんて、自殺行為に等しい。


(ヒロ「何故そこまでして!?」)


この1週間・・・


リナの学校、リナの自宅、そして秋津駅と、連中は何度もリナを狙ってきた。


そして今は・・・警察署にまで連中は姿を現している。


(ヒロ「狙いは・・・明らかにリナ・・・」)


執拗(しつよう)なまでにリナを狙う・・・その相手の意図が理解できなかった。すぐに車を降り、周りを警戒しながら足早に警察署へと向かう。


(ヒロ「だから、防御しろと言ったんだ・・・」)


疲弊(ひへい)しきった体にムチを打ち・・・


ヒロは最後の修羅場へと走っていった。



             (第47話へ続く)

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次回予告


湾岸警察署に、武装勢力が侵入した。


警察署7階の一室で、母親と再会したリナだが・・・

その時、銃を持った男が・・・


次回 「 第47話  強  行(2008年) 」

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