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アマデウスの謎  作者: 伊吹 由
第2章 リナの過去
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第45話  再  会(2008年)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


  慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2


       「アマデウスの謎」 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

前回までのあらすじ


2012年、女子大生リナの妹が誘拐された。


霊能力を持つ1つ下の後輩・慎吾を連れて実家へと戻るリナ。誘拐犯から1週間以内に1億円を用意しろと要求され、羽鳥邸にいた面々は不安になる。


話は・・・ 4年前の2008年。

リナの新しいピアノ講師、そして彼氏となるヒロ・ハーグリーブス。


リナの父親・魁斗かいとは、覆面をつけた男らに誘拐されてしまう。

しかし自力で監禁場所から脱出し、ヒロに保護された。


マスターの一味に捕まったリナ。港での激しい銃撃戦の中、ヒロは倉庫を爆破。リナと2人、生きて港を脱出した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


   第45話  再  会(2008年)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

2008年12月11日(木)、午前1時56分。都内某所。


港での壮絶な銃撃戦から、無事生還したヒロとリナ。ボートで港を離れ、目立たない場所から上陸していた。


ヒロは近くに放置されていた古い年式の車に目をつけ、ピッキングで鍵を開ける。慣れた手つきで配線を直結し、エンジンをかけた。


ヒロ「よし! 助手席に乗ってくれ。ミスターカイトの元へ行こう」


リナ「うん・・・」


非常事態とはいえ、人の車を盗む恋人の姿にやや抵抗を感じる。自分も泥棒の共犯という後ろめたさを感じつつ、おずおずと助手席に乗った。


つい30分程前、2人を襲ってきた武装連中は・・・おそらく倉庫ごと吹っ飛んだだろう。もっとハッキリ言えば・・・ あの31番倉庫にいた連中は・・・


(リナ「みんな・・・死んだ・・・?」)


しかし「目の前にいた人が死ぬ」という事を、理解出来ないリナの頭は・・・ところどころの記憶が失われていた。もちろんみずから銃を人に向けて撃ったという記憶も・・・。


ヒロ「・・・ ・・・」


ヒロは携帯の時計を見ながら車を出した。ふとメールが届いているのに気づく。


(ヒロ「安田から・・・」)


左手でハンドルを握りつつ、リナに見えないよう右手で携帯を操作し、内容を確認する。


ヒロ「・・・ ・・・」


1分ほどでメールを読み終えたヒロ。


ヒロ「・・・ ・・・」


ヒロにとって・・・、いや、今相手にしている組織【Unknown】以外の全ての人間にとって・・・安田のメールはあまりにも衝撃的な内容だった。


リナ「どうしたの? 顔色が悪そうだけど・・・?」


ヒロの様子が変だと気づいたリナが優しく声をかける。


ヒロ「い、いや・・・。

    さすがにあの連中を相手にするのは、ちょっと疲れてね・・・」


言いながらヒロは携帯をポケットにしまった。


ヒロ「10分程で着く・・・」


リナに笑顔を作って見せるヒロ。しかし頭は安田のメールの事でいっぱいだった。



・・・ ・・・。


午前2時6分。


静かにヒロは車を止めたは、周りを確認する。


ヒロ「・・・ ・・・」


不審な物や人物は見あたらないし、不審な音も聞こえてこない。


ヒロ「俺と一緒に来てくれ。あの建物の地下にミスターカイトがいる」


ヒロは車を降りながら前方を指さし、リナに声をかけた。


リナ「うん」


リナも続いて車を降り、ヒロの後ろについていく。


ヒロ「ここだ」


ヒロはリナの手をひき、とある建物の中に入って行った。地下に続く階段があり、ヒロは階段横のスイッチがONになっているのを確認する。


スイッチを切ると、ヒロは大きく深呼吸した。


ヒロ「ふ~」


リナ「どうしたの?」


ヒロ「あぁ、トラップが作動してないのを見て安心しただけさ。

    ミスターカイト以外、誰もここには来ていない」


先ほどよりも自然な笑顔を見せたヒロは、ゆっくりと階段を降りていった。後に続いたリナ。地下の部屋に入っていくと・・・


ベッドに座っている父親と対面した。


ヒロ「ミスターカイト。約束通りリナを連れてきました」


リナの姿が目に入った魁斗。ヒロの声など耳に入っていない。


数時間前、襲撃に遭い・・・拉致され、銃撃戦をくぐり抜けてきたリナは、泥やホコリにまみれて、全身汚れていた。


魁斗「リ・・・ ナ・・・」


ゆっくりと震える両手を拡げる魁斗に、リナは無言で抱きついた。数秒ほどして、ようやく声を出す。


リナ「パパ・・・」


魁斗「無事・・・デ、ヨカ・・・タ・・・」


無理矢理声を出そうとする魁斗。リナは不安そうに父親の顔に手をあてた。魁斗の状態をヒロが説明する。


ヒロ「ミスターカイトは薬物をうたれたんだ。

    俺が連れ出した時は、声も出せないし体も動かせなかった。


    だいぶ回復してきている方さ」


つい数時間前は寝たきりのはずだった魁斗が、今は上体を起こしてベッドに座っている。


ヒロ「これならあと2時間もすれば普通に動けるし、声も出せると思う」


それを聞いたリナは安心して、再び父親を抱きしめた。しばらく父娘の再会シーンを見ていたヒロ。30秒ほどして、2人に声をかけた。


ヒロ「これからどうするかですが・・・」


魁斗とリナはヒロの方を向く。


ヒロ「倉庫でリナを探していた時・・・

    敵の一部はミスターカイトを街中捜していたはず。


    ここも安全とはいえません」


リナ「じゃ、じゃぁどうするの・・・?」


不安そうにリナが声をかける。ヒロは魁斗を見ながら話した。


ヒロ「湾岸警察署に2人を送ります。

    あそこは、対テロ対策用に建造されています。


    防御壁を降ろせば、ロケットランチャーでも跳ね返しますから。

    それに万が一の場合は、自衛隊も10分以内に来てくれます」


ヒロは1度その警察署に、容疑者として世話になっている。もっともすぐに抜け出したのだが・・・。


リナ「湾岸警察署?」


羽鳥瞳とリナはその警察署に送られるはずだった。しかし移送途中、秋津駅近くで襲撃されてしまい、リナは拉致された。


魁斗に視線を合わせたまま、ヒロが話を続ける。


ヒロ「ここからなら車で30分。

    ミスターカイトの奥さんも、次女もそこにいるはずです。


    親子全員、感動の再会はすぐそこって事です」


携帯の時計をチラリと見るヒロ。


ヒロ「1分後にここから出ます」


魁斗は静かにうなずき、リナも2度首を縦に振った。それを見たヒロは小さな部屋の1番奥まで歩いて行き、冷蔵庫をズラす。


そして冷蔵庫の置かれていた場所の床下を開き・・・50cm四方の箱を取り出した。ヒロは箱の中にあるいくつかの・・・


武器を手にする。


箱の中には、銃が4丁に携帯電話のような小さな電子機器、双眼鏡やサングラスの小道具なども見える。


ヒロ「・・・ ・・・」


箱の中から銃を2丁取り出し、それを懐に忍ばせたヒロ。さらにティッシュ箱のような箱を取り出した。


ヒロ「・・・ ・・・」


しばらくそれを見つめた後、リナに声をかける。


ヒロ「リナ。これを・・・」


リナにその箱を渡した。


ヒロ「開けて」


両手で箱を受け取ったリナが、上ぶたを開ける。


リナ「!?」


箱の中には・・・ 銃があった。いや・・・


ヒロ「銃の形をしているが、それはスタンガンだ。

    ワイヤー型スタンガン。日本では市販されていない」


リナは右手で、銃を・・・いや、スタンガンを握りしめた。


ヒロ「使い方は想像通り。有効範囲は5m。

    連射型でなく、単発型だから・・・


    1度使うと別のカートリッジを装填そうてんする。

    まぁ、説明書を読んでくれ。英語だけどね」


そう言うと軽く笑う。笑顔の裏でヒロは、これ以上リナに【本物の銃】を持たせるわけにはいかないと、強く感じていた。


ヒロ「それともう1つ」


そう言うとヒロは、ハンドタイプのスタンガンを手渡した。この型のスタンガンは、以前にもリナにあげた事がある。


ヒロ「前あげたヤツは、学校で襲われた時にダメにしたからな。

    接近されたら、これを使うのが1番有効さ。


    離れた敵にはワイヤー型、接近されたらハンドタイプだ」


リナからしてみれば・・・以前もらった物も含めて3つもスタンガンをもらった事になる。リナはワイヤー型を右のポケットに、ハンドタイプを左のポケットにしまった。


ヒロ「さ、行こうか」


ヒロはまだ思うように体を動かせない魁斗の肩を抱く。反対側からリナも父親の肩を担いだ。


そしてゆっくりと階段を登り・・・ 周りを確認しながら車の所へと向かう。リナと魁斗を後部座席に座らせたヒロは、車を静かに発進させた。



・・・ ・・・。


4階建てのマンションの屋上から・・・

暗視双眼鏡で、ヒロ達の車を見ている人物がいた。


男は携帯電話を静かにかける。


「羽鳥魁斗、確認しました。娘、そしてハーグリーブスもいます。

  信号の途絶えた地点から、東に向けて車を走らせました」


覆面をつけた男・・・ マスターと呼ばれる男の一味だ。そして電話の向こうからは・・・マスターの声が返ってくる。


「おそらく目的地は・・・湾岸警察署だ。

  いいか、これが教授を取り戻すラストチャンスだ!」


いつも冷静な語り口だったが・・・


「娘はもうよい。残った者は全力で羽鳥魁斗を確保しろ!!

  手段は選ばん! 必ず生かして捉えるんだ!」


声をあらげ、魁斗を捜索していた連中全員に指示を出した。携帯電話を切った男は天を向いて、大きく息を吐く。


「・・・ ・・・」


倉庫では・・・完全なる敗北だった。たった1人で、倉庫にいたチームを壊滅状態に陥れたヒロ。


(「ハーグリーブス・・・」)


彼にはこれまで、ことごとく計画の邪魔をされてきた。3度におよぶリナの誘拐も・・・結局全て失敗に終わった。


(「しかしまだ、Game Overではない・・・」)


どうしても計画には魁斗が必要。


(「湾岸署に教授が入る前に・・・捉えるしかない」)


逆を言えば、魁斗が湾岸署に入りさえすれば・・・魁斗には手を出せない。


「・・・ ・・・」


マスターは再び大きく息を吐いた。


(「私が直接・・・ケリをつける必要があるかもしれない・・・」)


これまで知られざる者として、裏で組織を率いてきた男・・・表に出なければならない状況まで追い込まれていた。


「・・・ ・・・」


パソコンのディスプレイを見ながら、ある映像ファイルを再生する。そしてじっとディスプレイを見つめた。


マスターの視線の先では・・・


倉庫の中にいるリナが銃を撃ち、人を殺した瞬間の映像が流れていた。


「・・・ ・・・」



・・・ ・・・。



魁斗「オト・・・コヲ・・・ ミタ・・・」


必死に声を絞り出す魁斗にヒロが声をかける。


ヒロ「回復してからで結構です。今は体を楽にしてください」


情報は欲しいが、魁斗の悲痛な声は聞くに堪えられない。しかし魁斗は声を出し続ける。


魁斗「アルゴ・・・リズ・・・ムヲ・・・」


ヒロ「分かってます。

    あなたの開発したソフトのアルゴリズムを要求したんですね」


魁斗の負担を減らすため、先回りで魁斗の言いたい事を察して話すヒロ。


魁斗「オソ・・・ラク・・・ 

    テロ・・・オコス・・・ ツモ・・・ リ・・・」


ヒロ「・・・ ・・・」


ヒロも当初・・・相手にしている連中は、ただのテロリストだと思っていた。ネットから主要機関のコンピュータを乗っ取り、世界各国で恐ろしいテロを行うとはずだと・・・そう思っていた。


しかし安田の情報によれば・・・ もっと恐ろしい事を計画している。


ヒロ「Their purpose is not simple terrorism.」

(彼等の目的は、単なるテロ行為じゃありません)


突然ヒロは英語で話し始めた。リナに内容を悟られないためだ。


ヒロ「Their purpose is ・・・ the en・・・」

(彼等の目的は・・・)


リナと初めて会った時・・・リナは英語をかなり苦手にしてるのがわかった。


(ヒロ「安田からの情報は・・・リナの耳に入れてはいけない」)


もしリナが知ってしまえば・・・ヒロにとって【死】よりも恐ろしい事態になりうる。


魁斗「Are you・・・  serious・・・?」

(本当か?)


ヒロの意図を感じ取った魁斗も英語で返す。


ヒロ「Yes. It's true・・・ I'm sorry...」

(えぇ。残念ですが・・・)


リナ「・・・ ・・・」


突然ヒロと父親が英会話を始めた事で、リナは不思議がる。


リナ「何故、急に英語で話すの?」


リナのあどけない声は、今の会話の内容を全く理解していない事を示していた。


ヒロ「大人の会話さ。未成年にはまだ早い内容でね」


リナの疑問を、いつものジョークでかわすヒロ。「ふ~ん」というリナの表情をよそに、再び英会話を続けた。


ヒロ「Information source is right.」

(情報源は確かです)


魁斗「But... How・・・?」

(しかし・・・ どうやって?)


ヒロ「I don't know... It is under investigation...」

(わかりません。それを今、調べているところです)


魁斗「My... God...」

(何てことだ・・・)


英語で喋る方が、日本語より楽だと魁斗は感じていた。さりげなく横を見ると、リナはずっと窓の外を見ている。


魁斗「I... spoke.. to the... man... 」

(男と・・・ 話した)


ヒロ「An abductor?」

(あなたを連れ去った?)


魁斗「Yes... Probably... he... is the boss...

     He... was called... master.」

(そうだ。おそらく彼はボスだろう。マスターと呼ばれていた)


まだ薬物から回復してない魁斗。休ませようと思っていたヒロだが、情報の繋がりが見え始め、魁斗と会話を続けた。


ヒロ「Master? Oh...that's just what I thought...」

(マスター? やっぱりそうか・・・)


魁斗「Free... maison?」

(フリーメイソンか?)


ヒロ「No.But it has been one of the Free maison Lodge.

    Now this organization is called 【Unknown】」

(いえ。フリーメイソンでしたが、今はアンノウンと呼ばれています)


魁斗とは対照的に、あまりにも早く英語で話すヒロ。リナは彼等の会話内容を探る事を諦めた。


魁斗「Unkown... under... ground... organization...」

(闇の組織か・・・)


ヒロ「Have you seen the master directly?」

(直接マスターを見ましたか?)


魁斗「Yes... He was... so young... and...

    looked... Japanese... maybe... Asian...」

(あぁ。とても若かった。日本人に見えたが、あるいはアジアかも)


息も絶え絶えに、何とかヒロに自分の持ってる情報を渡す努力をする魁斗。


ヒロ「Okay.Please teach the information that you have.

    Hair color? how old? height? looks? glasses? 」

(わかりました。髪の色、年齢、身長、見た目、眼鏡の有無など、知ってる事を教えてください)


魁斗「AH... Hair coloer... is black... and... 」

(髪の色は黒かった。そして・・・)


ヒロ「Wait!」

(待って!)


突然魁斗との会話を止めたヒロ。その耳は何かを捉えた。バックミラーを見ると・・・不審な車が2台、後ろからついてきている。


ヒロ「・・・ ・・・」


スピードを上げず、しばらく不審車の様子を見る。


(ヒロ「この車に、ミスターカイトが乗っている事を知っているのか?」)


明らかにヒロ達の車を追うように着いてきている。その不審車は、ヒロの車との距離を徐々に詰めてきた。そしてヒロの目は、決定的な光景を捉える。


ヒロ「!?」


バックミラー越しではあるが、ハッキリと見えた。その車を運転する男が、覆面をしていたのを。


(ヒロ「倉庫にいる連中は全て片付けたはず・・・だとしたら・・・」)


電話の男が言っていた・・・魁斗を捜している連中がいると。


(ヒロ「そいつらで間違いなさそうだ・・・」)


不審車は、さらにスピードを上げて接近してくる。


ヒロ「リナ! ミスターカイトのシートベルトを締めて! 君もだ!」


言うが早いか、ヒロはアクセルを深く踏み込んだ。


(ヒロ「しかし何故・・・? 

     何故、ミスターカイトの位置がわかる!?」)


電話の男・・・おそらくマスターであろう。マスターは、魁斗の体にはマイクロチップが埋め込まれていると言っていた。


しかし魁斗の周りの電波を遮断する装置は、今も作動している。


ヒロ「・・・ ・・・」


十字路にさしかかり、ヒロは急ハンドルで右折する。


ヒロ「!?」


右折した先には、新たな2台の車が停車していた。ヒロの目は、車の中に覆面をした連中がいるのを確認する。


その車はヒロの車を見たとたん、エンジンをかけアクセルをふかした。助手席の窓からは、覆面男が銃を向けている。


ヒロは右折したスピードのまま、さらにハンドルを深く切り、ドリフトで左の小さな小道に車を進入させた。


追跡する車も、すぐに小道に進入してくる。


ヒロ「く・・・ 待ち伏せか・・・」


猛スピードのまま小道を走らせ、ビルの隙間をぬって再び大通りに出る。大通りに出ると・・・ 右手に1台、左手に2台の車がハサミ打ちする形でヒロの車に迫ってきた。


しかしエンジンがかかっている車なら、ヒロは事前に【耳】で察知できる。


車の接近する音を聞き取っていたヒロは、すかさず右側にハンドルを切る。迷い無くアクセルを踏み込み、1台の車の横に角をぶつけながらも突破していった。


ヒロが運転している車・・・ いわゆる盗んだ車の事だが・・・


万が一の事を考え、あえて年式の古い車を選んでいた。


(ヒロ「ある意味、正解ではあったな・・・」)


この車にはエアバッグが搭載されていない。年式の新しい車なら、大きな衝撃があった瞬間、エアバッグが開いて運転不能になったはずだ。


ヒロ「・・・ ・・・」


ヒロは左手で携帯電話を取り出すと、すぐに110番にかけた。繋がった瞬間、向こうが喋るより早くヒロがまくしたてる。


ヒロ「俺の名はヒロ・ハーグリーブス。羽鳥魁斗誘拐事件の犯人だ! 

    すぐ責任者を出せ!!」


警察「落ち着いてください。現在の場所は?」


電話の向こうから、事務的で無機質な男の声が聞こえてきた。


ヒロ「今、羽鳥魁斗と羽鳥リナを車に乗せている!

    責任者を出さなければ死ぬ事になる!

 

    急いで責任者を出せ!!」


話しながらも、5台の車から逃れるため、急ハンドルと急ブレーキ、急加速を繰り返す。


後部座席に乗っていた魁斗は、シートベルトを弱々しく握りしめながら慣性の法則に耐える。ふと右を向くと・・・ リナがヒロからもらったばかりの銃型スタンガンを手にしている姿が見えた。


魁斗「・・・ ・・・」


そしてリナは、左手でうなじを強く押さえている。


魁斗「・・・ ・・・」


車と同期して跳ねるリナの髪。髪の毛がふわりと持ち上がった際、リナのうなじが真っ赤に腫れあがっているのが見えた。


揺れる車の後部座席、魁斗はゆっくりとリナの首に手をあてる。


リナ「?」


父親の温かい右手の感触が、首に伝わった。


リナ「大丈夫。ちょっと首の後ろが熱いだけ」


ここまでリナも・・・秋津駅近くでの襲撃、そして港での銃撃戦、さらに今。数々の修羅場を経験してきて、いつの間にか首を痛めたのだろうと思っていた。


しかし・・・


(魁斗「これは・・・」)


魁斗はリナのうなじに、3cmほどの長さの十字傷を見つけた。そして左手で自分の首の後ろを触ると・・・


直接見えはしないが、似たような傷があるのがわかる。


(魁斗「間違いない・・・」)


その傷の正体がわかった。その時、ヒロが携帯に向けて大声を上げた。


ヒロ「名前は!?」


藤岡「藤岡だ。羽鳥邸で会っている」


携帯電話は、ヒロと藤岡の声を繋いでいた。


ヒロ「後藤という男はどうした!? 彼が責任者のはずだ!」


藤岡「後藤捜査官は撃たれた。お前の仲間にな・・・」


ヒロ「違うといいたい所だが、今は時間がない。

    これから羽鳥魁斗とリナを湾岸警察署に預ける!


    すぐに2人を受け入れる用意をしろ!

    そして、武装集団に対する防御準備をするんだ!」


藤岡「・・・わからんな。

    首謀者はお前なのに、まるで被害者のような話し口。


    お前の話自体、信用できん」


ヒロ「警察署の前で死人を出す気か!?

    15分で着く! 必要と思うなら、自衛隊も呼んでおけ!」


そう言うとヒロは携帯を切り、さらに増えた追跡車をかわすべくハンドルを切った。


どの車も、助手席や後部座席から銃を構えた男が見える。隙あらば発砲する気配はひしひしと感じられた。


(ヒロ「狙いはミスターカイト・・・」)


敵が発砲してこない理由を、ヒロは理解している。


ヒロ「くそ!!」


追跡してくる車が多すぎて、苛立ちが隠せない。その時、1台の車がヒロの車の右に横付けした。


助手席の男が銃をヒロに向ける。ヒロは急ブレーキをかけつつ、相手の車の右後部に自らの車体をぶつけてピンチを乗り切った。


しかし今度は左側に車が迫ってくる。


後部座席にいた魁斗は、激しく揺れながらも必死にリナに声をかけた。


魁斗「リナ・・・ ポケットの・・・ スタンガン・・・ 見せて・・・」


車の揺れで気分が悪くなりつつも・・・魁斗は3人全てが、生きてこのピンチを抜ける方法を思いついていた。


リナ「スタンガン?」


リナはヒロからもらった、ハンドタイプスタンガンをポケットから取り出した。


魁斗「・・・ ・・・」


魁斗は右手でゆっくりと、それを手にする。スイッチを入れると、バチバチとスタンガンの先に高圧電流が流れ始めた。


リナ「? それは接近した相手にしか使えないわよ?」


魁斗はかすれる声でヒロに声をかけた。


魁斗「ヒロ・・・ リナを・・・ 頼む・・・」


少しずつ、発する言葉がハッキリしてきている魁斗。エンジンや急ブレーキの大きな音の中でも、ヒロの耳は魁斗の言葉をしっかり聞き取った。


ヒロ「ミスターカイト・・・!?」


魁斗は突然、ONになったスタンガンをリナの首の後ろにあてた。


リナ「!!」


筋肉が硬直して、一切声を出す事が出来ない。


リナ「・・・ ・・・」


リナは涙目で父親を見ながら・・・ 体全体を硬直させ、気を失った。


ヒロ「ミスターカイト! いったい何を!?」


魁斗「連中は・・・ 私を・・・ 殺す事は・・・ ない・・・」


魁斗は震える手で、ゆっくりとシートベルトをはずす。


魁斗「リナを・・・ 頼む・・・」


ヒロにとって・・・魁斗の最後の言葉になった。


左手で後部座席のドアを開けた魁斗は・・・


迷わず車の外に身を預けた。


ヒロ「ミスターカイトーーー!!!」




             (第46話へ続く)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回予告


組織が自分を殺すことはない。

そう信じた魁斗は、自らの身を囮にしてヒロとリナを助ける作戦に出た。


ヒロを追跡する車は一気に減った。

これなら逃げ切れる・・・ しかし・・・



次回 「 第46話  別  れ(2008年) 」

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