第44話 炎 上(2008年)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2
「アマデウスの謎」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
前回までのあらすじ
2012年、女子大生リナの妹が誘拐された。
霊能力を持つ1つ下の後輩・慎吾を連れて実家へと戻るリナ。誘拐犯から1週間以内に1億円を用意しろと要求され、羽鳥邸にいた面々は不安になる。
話は・・・ 4年前の2008年。
リナの新しいピアノ講師、そして彼氏となるヒロ・ハーグリーブス。
リナの父親・魁斗は、覆面をつけた男らに誘拐されてしまう。
しかし自力で監禁場所から脱出し、ヒロに保護された。
ところが、今度はリナが捕まってしまう。
ヒロはリナを助けるため、閉鎖された港で覆面男らと戦いを繰り広げる。
銃撃戦の中、絶体絶命のリナは敵の銃を使って・・・相手を撃ち殺してしまった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
第44話 炎 上(2008年)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2008年12月11日(木)、午前1時26分。港の31番倉庫。
ヒロの耳は、複数の足音が31番倉庫に向かっている事を感じ取る。リナの手を引いて、倉庫の左奥まで歩いてきた。携帯の時計をちらりと見る。
午前1時26分44秒
(ヒロ「あと3分か・・・」)
コンテナに身を隠すように頭を低くする2人。やがてシャッターの入り口に多くの足音が聞こてきた。通常の聴力のリナでも、10数名の連中がそこにいることを感じとる。
ヒロ「リナ、よく聞いて」
小さな声でヒロが呟く。
ヒロ「今から2分40秒後に、そこに穴があく事になっている」
倉庫の入り口から見て、左奥を指さしながら話すヒロ。
ヒロ「かなり大きい爆発が起こり、風穴が開く。
この空っぽのコンテナが、衝撃を吸収して・・・」
今度は背中のコンテナを軽くコンコンと叩いた。
ヒロ「大きなダメージは俺たちにはない」
リナは無言で頷く。
ヒロ「爆発の後、連中は状況を把握するため2~3秒動きが止まるはずだ。
その隙をついて、開いた穴から脱出する」
リナ「わ、わかった!」
ヒロの目を見て、力強く頷いた。
(リナ「絶対、ヒロ先生とここを出る。そしてパパと会う!!」)
リナの力強い返事に
(ヒロ「今のリナなら・・・ 大丈夫だ」)
そう確信したヒロは、コンテナを背にして、リナを自分の右側に移動させる。
ヒロ「まずリナが先に出るんだ。すぐに俺も出る。
君が出遅れたら、俺は危険になる事を忘れずに」
リナ「う・・・ うん・・・」
ヒロの命がかかってる。そう思うとプレッシャーがかかるリナ。
ヒロ「とにかく2分後、ここから全力で走って出て行く。
逃げ遅れたら2人とも死ぬ」
リナ「わかった・・・」
緊張した表情を浮かべながらも、力強く首を縦に振った。
ヒロ「よし! 合図を出したら・・・迷わず走ってくれ」
ヒロはしゃがんだままリナを抱きしめ、リナの頭にキスをする。そしてその時を静かに待った。
数分前の激しい銃声を聞き、そして連絡を受け倉庫に入ってきた武装連中は13名。今回のゲームに参加し、現時点で動ける連中全てがそこにはいた。
【狩り】の対象であるヒロの姿は・・・まだ確認できていない。連中は銃を構えながら分散し、じわりじわりと倉庫の奥に侵入してきた。
(ヒロ「あと1分か・・・ 早く・・・」)
腕時計を見ながら、ヒロは時が経つのを心から祈る。これまでの人生の中で、これほど長く時を感じた事はない。
・・・ ・・・。
1:29:01 1:29:02 1:29:03 ・・・
倉庫の外・・・
リナ達とコンテナを挟んで、反対側にある壁。その壁を隔てた裏側で、ヒロの腕時計はゆっくりと、そして確実に時を刻んでいた。
1:29:09 1:29:10 1:29:11 ・・・
ヒロは倉庫に入る前、自らの腕時計を倉庫裏に落としている。いや、セットしたという方が正しい。
そのスパイ用腕時計は、午前1時半ちょうどに倉庫裏に風穴を開ける手はずになっていた。倉庫に閉じ込められた場合のBプランだ。
1:29:17 1:29:18 1:29:19 ・・・
・・・ ・・・。
ヒロの耳は、静かに相手の動きを察知する。
(ヒロ「多いな・・・」)
いくらヒロとはいえ、13名もの武装集団に一斉攻撃をされてはひとたまりもない。リナと共に息を殺して、静かに時を待つ。
1:29:31 1:29:32 1:29:33 ・・・
敵の1人が、ヒロとリナのすぐ2m前まで来た。コンテナ1つを隔てて、向こう側を歩いている。
ヒロ「・・・ ・・・」
ヒロの耳はしっかりと男の位置を捕らえていた。
1:29:44 1:29:45 1:29:46 ・・・
静かに銃を握りしめたヒロは、正確に刻む時に苛立ちを覚える。
ヒロの苛立ちをよそに・・・
男がすぐ横に侵入してきた。
1:29:53 1:29:54 1:29:55 ・・・
左を向いた男は、ヒロとリナが息を殺して身をかがめているのを見つけた。すぐに銃を向けるが・・・
パン!!
それよりも早くヒロが発砲した。男は胸を押さえてその場で倒れる。
1:29:58
ヒロの発砲が合図になった。
残り12人の男が一斉に倉庫左隅に向けて銃を構え・・・
1:29:59
引き金を引こうとした瞬間
1:30:00
ドッッゴーーーン!!!!
爆音が倉庫内に鳴り響いた。
突然の轟音。武装連中は発砲するよりも先に、反射的に身を低くする。爆発直後、ヒロはしっかりとリナを抱きしめ・・・
倉庫の壁に直径1mほどの風穴が歩いているのを確認した。冷たい風が通り抜けるのを肌で感じたヒロがリナに合図を送る。
ヒロ「今だ!!」
合図と共に、リナは迷わず穴に向かって走り出した。身をかがめて、粉砕したブロックに足を取られつつも外に出る。
外に出ていくリナのお尻を確認したヒロは・・・
コンテナの上から体を出し、武装連中に向けて3発発砲した。
直後、リナの後を追って風穴に向かう。
ヒロの発砲から一呼吸置いた後・・・
連中は手にしていた銃を一斉に発砲し始めた。
外に出たヒロは、リナの肩を掴んで走り出す。
ヒロ「急げ!! 倉庫から離れるんだ!!」
ヒロはこれから起こる事を知っていた。
連中の撃った弾の1つが、火薬を満載した爆弾を撃ち抜く。そう・・・このゲームを提案した男が設置した時限爆弾をだ。
倉庫から5m程離れたところで・・・
ドカッ! ドカン! ドガガガガ! ズガガガガガーン!!
ヒロの腕時計が起こした爆発とは比べものにならない爆音が轟く。
ズズズズズ・・・・
リナ「・・・ ・・・」
ヒロに肩を掴まれ、全力で走るリナ。地震のような揺れが伝わってきた。そして背中に、熱い感覚がはしる。
チラリと後ろを振り返ると・・・
倉庫の屋根が爆音と共に、真っ赤な炎に包まれて吹き飛ぶ光景が目に入った。
リナ「な・・・」
ヒロ「後ろを向くな。爆風が襲ってくるぞ!!」
最初の爆発から、一呼吸置いて再び爆音が轟く。
ドッッカーーン!! ドゴン、ドッガーンン!!!
ヒロとリナは必死に走った。
港を走る恋人同士・・・には、違いない。
しかし彼等を包み込むのはロマンスではなく、大量の火薬の匂いと火の粉だった。
・・・ ・・・。
午前1時41分。
ヒロとリナは、水面を走るボートの上にいた。港に放置されたボートが数艇あり、その中の1つにガソリンが入っているのをヒロが見つけた。
リナ「・・・ ・・・」
リナはヒロの白いコートを羽織り、赤赤と燃え上がる倉庫を見ていた。ヒロは安全と思われる陸地へと向かい、舵を取る。
ヒロ「・・・ ・・・」
2人とも戦場と化した港から、無事に生還した・・・それは喜ばしい事だ。
しかしリナが1人の男に致命傷を与え、1人の男を即死させた事実は消える事がない。
唯一の救いは・・・リナ自身、人を殺した自覚が無いであろうという【推測】だった。
ヒロ「・・・ ・・・」
舵を取りながらチラッとリナを見た。ヒロの視線に気づいたリナが笑顔を返す。その笑顔は、人を殺した人間のそれではない。
ヒロ「・・・ ・・・」
かける言葉を見つけられないヒロは、無言で笑顔を返した。
(ヒロ「リナは何も知らない」)
そう信じるしかなかった。
しかし、ヒロの心に巣くったブラックホールは・・・徐々に広がりを見せている。
(ヒロ「リナ・・・」)
リナはヒロに近づき・・・ボートを操縦するヒロの腰に横から抱きついた。そして小刻みに震えながら、声をあげて泣きだした。
恐怖の中から生還した安堵による涙なのか・・・
銃で人を傷つけた嫌悪による涙なのか・・・
(ヒロ「分かる必要はない。全て俺が背負ってやる・・・」)
ボートの上、ことさら冷たい12月の東京の風を受けながら・・・
ヒロは優しくリナの冷えた手を握りしめた。
(第45話へ続く)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回予告
羽鳥魁斗とリナ。5日ぶりに父娘は再会した。
ヒロは、対テロ対策用の設備を整えた湾岸署に2人を移送する。
しかし魁斗を捜索していたマスターの一派が・・・
ヒロと羽鳥親子の乗る車を追跡してきた。
後がないマスター一派は、なりふり構わず突進してくる。
その時・・・ 体の不自由な魁斗が、予想外の行動に出た。
次回 「 第45話 再 会(2008年) 」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




