表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アマデウスの謎  作者: 伊吹 由
第2章 リナの過去
44/147

第43話  覚  醒(2008年)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


  慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2


       「アマデウスの謎」 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

前回までのあらすじ


2012年、女子大生リナの妹が誘拐された。


霊能力を持つ1つ下の後輩・慎吾を連れて実家へと戻るリナ。誘拐犯から1週間以内に1億円を用意しろと要求され、羽鳥邸にいた面々は不安になる。


話は・・・ 4年前の2008年。

リナの新しいピアノ講師、そして彼氏となるヒロ・ハーグリーブス。


リナの父親・魁斗かいとは、覆面をつけた男らに誘拐されてしまう。

しかし自力で監禁場所から脱出し、ヒロに保護された。


ところが、今度はリナが捕まってしまう。

ヒロはリナを助けるため、閉鎖された港で覆面男らと戦いを繰り広げる。


リナのいる倉庫での銃撃戦の中、絶体絶命のリナは・・・


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


   第43話  覚  醒(2008年)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

2008年12月11日(木)、午前1時14分。とある港の31番倉庫。


ヒロ「いいか、合図するまでここを出るなよ。

    あと、声は出すな。相手に位置を悟られないように」


緊張しながらうなずいたリナは、倉庫右奥のコンテナの隙間に身を隠した。2つのコンテナの間にある、50cm程度の隙間。リナは頭を低くし、震える手を握りしめた。


倉庫の奥は、大きさも様々な無数のコンテナがランダムに置かれている。閉鎖された港ゆえ、コンテナの中身はほとんど空っぽだ。


ヒロはリナの斜め前のコンテナから頭だけを出し、銃を2丁取り出していた。


(ヒロ「5人か・・・ 密室には多すぎる敵だな・・・」)


パリーン!!


突然背後のガラスが割れ、3mの高さにある窓から1人の覆面男が姿を現した。覆面男はヒロを見つけると、その高さから銃を向ける。


しかしヒロの銃は、男が現れる前から銃口をその窓に向けていた。


ヒロ「Be quiet!」

(静かにしろ!)


パーン!


わずか1発の弾丸は、銃を握る覆面男の上腕二頭筋を貫いた。男は3mの高さから落下し、頭を強打。はずみで男の銃は、奥のコンテナまで滑っていった。


そしてその銃は、リナの目の前で静かに止まった。


リナ「・・・ ・・・」


ゴクリと唾を飲み、しばらくその銃を黙って見ていると・・・


ガガガガガガ!!!


突然、銃が乱射される音が倉庫内に響き渡る。リナは怖くて、コンテナの奥から顔を出すことが出来ない。


激しい銃撃戦が繰り広げられているのは、見ずともわかる。


(リナ「ヒロ先生・・・」)


リナはコンテナの隙間に身を隠したまま、自分よりも彼氏の無事を心から祈った。



しばらくすると・・・


敵の1人が、催涙弾を投げ込んだ。と同時に、1人の敵がリナとヒロの間に侵入する。やむを得ず、ヒロがその催涙弾を撃ち抜くと・・・ガス爆発で、男は吹っ飛ばされた。


リナ「!?」


リナの目の前を、吹っ飛ばされた男が一瞬横切る。そして壁に激突する鈍い音が聞こえた。


頭を壁に打ち付けた男は、脳しんとうを起こす。


リナ「・・・ ・・・」


コンテナの隙間を1歩出てわずか2m左には・・・ 銃を持った男がいる。


リナ「・・・ ・・・」


ヒロの方を見ると、別の敵を相手にするので精一杯の状況だ。


リナは・・・目の前の銃・・・ 最初の敵が落とした銃を見て・・・ 

無意識にそれを拾い上げていた。



兆候はあった・・・。



リナが2度目に襲撃された時・・・。


激しいカーチェイスを演じるヒロを、リナは援護した事がある。みずからの意志で発煙筒を手にし、追っ手の車をかく乱した。


この日、何度も極限状態に追い込まれたリナは・・・


すでに安全装置の外れた銃を両手で握りしめる。そしてお祈りするような形で深呼吸をした。


リナ「・・・ ・・・」


リナは静かに、敵が目の前に現れた時の事を想定する。


(リナ「ヒロ先生・・・」)


自分が危険な目にあえば・・・ ヒロは無理して自分を助けに来るだろう。学校で襲撃された時も、ヒロはリナを守るため、結果自らの危機的状況を招いた。


ヒロが無理をする時・・・それは・・・


(リナ「ヒロ先生が、危険な状況になる事・・・」)


リナの心と頭は・・・感情的ではあるが、論理的にこの状況を分析し始めた。IQ180と言われる羽鳥魁斗のDNAは・・・リナにもしっかりと継承されている。


しばらくすると・・・ 


リナのすぐ近くで倒れた男が、頭を左右に振りながら起きてきた。


男「・・・ ・・・」


リナの姿は見えないものの、何かの気配を感じる。銃を握り直した男は・・・ゆっくりと歩き出した。


そしてコンテナの一角で、リナに気づき立ち止まる。


リナ「・・・ ・・・」


気配を察知したリナは、すっと顔を上げた。


男とリナの目が合う。男は無言で・・・ゆっくりとリナに銃口を向けようとした。


リナ「・・・ ・・・」


何故かはわからない。


男がリナに銃口を向けるその行為は、リナの目にスローモーションで映っていた。


(リナ「ヒロ先生!」)


ヒロの事を思うと、迷いと恐怖が吹き飛んだ。


自分の身を守るためではない。彼氏を危険な目に合わせまいと・・・胸元で握っていた銃を、素早く男に向けた。


(リナ「ヒロ先生!!!」)


そして迷う事なく、引き金を引く。


パーァァン!


1発の乾いた銃声と共に・・・


目の前の男は腹部を押さえ、そのまま崩れるように倒れた。



・・・ ・・・。


ヒロ「・・・ ・・・」


リナが撃たれたと思ったヒロ。


予想とは裏腹に、リナに銃口を向けた男が倒れたのを見て、何が起こったのか理解できない。


数秒後、コンテナの奥に隠れていたリナが現れる。身を低くしながら出てきたリナの右手には・・・銃が握られていた。


ヒロ「リナ・・・」


その銃口からは、硝煙しょうえんがあがっている。


(ヒロ「ま、まさか・・・」)


ついさっきまで・・・ 


極限にまで怯えていた少女の姿はそこにはない。


瞳の奥に強い意志を持った「リナ」が・・・そこにはいた。


しばらく整理がつかないヒロをよそに・・・


リナは突然コンテナの上から上半身を出し、ヒロに向けて発砲している連中へ銃口を向ける。


パンパンパン!!!


そして躊躇ちゅうちょする事無く、3度引き金をひいた。


ヒロ「あ・・・あぶ・・・」


余りにも予想外・・・そのリナの行動に、常に冷静なヒロの頭脳は、さらに混乱する。


敵もまた同様。思わぬ角度からの突然の発砲に、混乱を隠しきれない。


慌ててリナを確認した2人の男。うち1人は身を低くし、銃口をヒロからリナに向けた。


その瞬間をヒロは見逃さなかった。


相手が一瞬攻撃に手間取った隙をつき・・・コンテナの上から身を乗り出し、リナに銃口を向けようとした男に発砲した。



パン! 


1発の銃弾は左の男の腹部に命中し、崩れるように倒れる。すぐにヒロはもう1人の男に銃を向けるが・・・


ヒロ「・・・ ・・・」


引き金をひく前に男は倒れていた。


一瞬状況が飲み込めなかったが・・・リナの弾が当たったんだと理解した。


倉庫内を静寂が包み込む。


ヒロ「・・・ ・・・」


自分とリナ以外、物音を出す者はいない・・・ヒロの耳はそう確信した。


(ヒロ「とりあえず・・・今いる敵は、全て倒したはずだ」)


安全と判断したヒロは、リナの元へかけよる。


リナ「・・・ ・・・」


リナは銃を前に向けたまま固まっていた。その銃を静かに上から取り上げるヒロ。


ようやくリナはヒロの方を向いた。涙目になりながら口を開く。


リナ「ヒ、ヒロ先生・・・ 私、わたし・・・」


何も言わず抱きしめるヒロ。肩をふるわせリナは泣きだした。


リナ「私・・・」


ヒロ「いいんだ・・・」


抱きしめながらヒロは、リナが最初に撃った男を見る。リナのすぐ横に倒れているその男は、腹部から大量の出血をしていた。


ヒロ「・・・ ・・・」


まだ息はある。しかし・・・


(ヒロ「致命傷だ・・・」)


力強くリナを抱きしめていたヒロ。突然、その男に銃口を向けると


パン!!


迷わず引き金をひいた。


リナ「!?」


発砲した先を見ようとするリナの顔を、ヒロは自分の胸にうずめる。


ヒロ「男がこちらに銃を向けたんだ。見てはいけない」


ヒロは・・・ 男の心臓を撃ち抜いた。もちろん即死だ。


リナが人を殺した。


そんな事実を・・・ヒロは受け入れられない。そして殺人という重荷を、リナに背負わす気など毛頭ない。


ヒロ「・・・ ・・・」


リナを抱きしめながら・・・心のどこかに、重くのしかかり、うごめく物を感じる。見た事は無いが、ブラックホールのようなものだとヒロは思った。


男にとどめを刺すことで


(ヒロ「リナが殺したんじゃない。俺が殺したんだ!」)


自分自身に言い聞かせる。


ヒロ「俺の力が足りなかった・・・ すまない・・・」


ふと、リナが倒した2人目の男に目をやると・・・


頭の横から血を流しているのが見える。間違いなく即死だ。


ヒロ「・・・ ・・・」


心のブラックホールはさらに大きくなった。


(ヒロ「リナに知られてはいけない・・・」)


おそらく無我夢中だったリナも、自分自身何をやったか理解していないはずだ。


リナが背負うってしまうであろう重荷。その全てを、ヒロは引き受ける覚悟を決めた。


(ヒロ「そのためには・・・」)


ヒロの耳は、複数の足音が31番倉庫に向かっている事を感じ取る。おそらく、先ほどの連中が連絡を入れたのだろう。聞こえる足音の人数は10人以上だ。


(ヒロ「俺がやるべき事は1つ」)


数秒後に訪れるであろう、10数名の武装勢力に対し・・・


(ヒロ「1人残らず・・・ 」)


皆殺しにする決意をした。


リナが人を殺した・・・ その事実を消すために。




             (第44話へ続く)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回予告


31番倉庫に、10数名の武装連中が侵入してきた。


絶体絶命とも思われる状況で・・・

ヒロは、連中全てを倒すプランBを発動する。



次回 「 第44話  炎  上(2008年) 」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ