第43話 覚 醒(2008年)
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慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2
「アマデウスの謎」
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前回までのあらすじ
2012年、女子大生リナの妹が誘拐された。
霊能力を持つ1つ下の後輩・慎吾を連れて実家へと戻るリナ。誘拐犯から1週間以内に1億円を用意しろと要求され、羽鳥邸にいた面々は不安になる。
話は・・・ 4年前の2008年。
リナの新しいピアノ講師、そして彼氏となるヒロ・ハーグリーブス。
リナの父親・魁斗は、覆面をつけた男らに誘拐されてしまう。
しかし自力で監禁場所から脱出し、ヒロに保護された。
ところが、今度はリナが捕まってしまう。
ヒロはリナを助けるため、閉鎖された港で覆面男らと戦いを繰り広げる。
リナのいる倉庫での銃撃戦の中、絶体絶命のリナは・・・
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第43話 覚 醒(2008年)
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2008年12月11日(木)、午前1時14分。とある港の31番倉庫。
ヒロ「いいか、合図するまでここを出るなよ。
あと、声は出すな。相手に位置を悟られないように」
緊張しながら頷いたリナは、倉庫右奥のコンテナの隙間に身を隠した。2つのコンテナの間にある、50cm程度の隙間。リナは頭を低くし、震える手を握りしめた。
倉庫の奥は、大きさも様々な無数のコンテナがランダムに置かれている。閉鎖された港ゆえ、コンテナの中身はほとんど空っぽだ。
ヒロはリナの斜め前のコンテナから頭だけを出し、銃を2丁取り出していた。
(ヒロ「5人か・・・ 密室には多すぎる敵だな・・・」)
パリーン!!
突然背後のガラスが割れ、3mの高さにある窓から1人の覆面男が姿を現した。覆面男はヒロを見つけると、その高さから銃を向ける。
しかしヒロの銃は、男が現れる前から銃口をその窓に向けていた。
ヒロ「Be quiet!」
(静かにしろ!)
パーン!
わずか1発の弾丸は、銃を握る覆面男の上腕二頭筋を貫いた。男は3mの高さから落下し、頭を強打。はずみで男の銃は、奥のコンテナまで滑っていった。
そしてその銃は、リナの目の前で静かに止まった。
リナ「・・・ ・・・」
ゴクリと唾を飲み、しばらくその銃を黙って見ていると・・・
ガガガガガガ!!!
突然、銃が乱射される音が倉庫内に響き渡る。リナは怖くて、コンテナの奥から顔を出すことが出来ない。
激しい銃撃戦が繰り広げられているのは、見ずともわかる。
(リナ「ヒロ先生・・・」)
リナはコンテナの隙間に身を隠したまま、自分よりも彼氏の無事を心から祈った。
しばらくすると・・・
敵の1人が、催涙弾を投げ込んだ。と同時に、1人の敵がリナとヒロの間に侵入する。やむを得ず、ヒロがその催涙弾を撃ち抜くと・・・ガス爆発で、男は吹っ飛ばされた。
リナ「!?」
リナの目の前を、吹っ飛ばされた男が一瞬横切る。そして壁に激突する鈍い音が聞こえた。
頭を壁に打ち付けた男は、脳しんとうを起こす。
リナ「・・・ ・・・」
コンテナの隙間を1歩出てわずか2m左には・・・ 銃を持った男がいる。
リナ「・・・ ・・・」
ヒロの方を見ると、別の敵を相手にするので精一杯の状況だ。
リナは・・・目の前の銃・・・ 最初の敵が落とした銃を見て・・・
無意識にそれを拾い上げていた。
兆候はあった・・・。
リナが2度目に襲撃された時・・・。
激しいカーチェイスを演じるヒロを、リナは援護した事がある。自らの意志で発煙筒を手にし、追っ手の車をかく乱した。
この日、何度も極限状態に追い込まれたリナは・・・
すでに安全装置の外れた銃を両手で握りしめる。そしてお祈りするような形で深呼吸をした。
リナ「・・・ ・・・」
リナは静かに、敵が目の前に現れた時の事を想定する。
(リナ「ヒロ先生・・・」)
自分が危険な目にあえば・・・ ヒロは無理して自分を助けに来るだろう。学校で襲撃された時も、ヒロはリナを守るため、結果自らの危機的状況を招いた。
ヒロが無理をする時・・・それは・・・
(リナ「ヒロ先生が、危険な状況になる事・・・」)
リナの心と頭は・・・感情的ではあるが、論理的にこの状況を分析し始めた。IQ180と言われる羽鳥魁斗のDNAは・・・リナにもしっかりと継承されている。
しばらくすると・・・
リナのすぐ近くで倒れた男が、頭を左右に振りながら起きてきた。
男「・・・ ・・・」
リナの姿は見えないものの、何かの気配を感じる。銃を握り直した男は・・・ゆっくりと歩き出した。
そしてコンテナの一角で、リナに気づき立ち止まる。
リナ「・・・ ・・・」
気配を察知したリナは、すっと顔を上げた。
男とリナの目が合う。男は無言で・・・ゆっくりとリナに銃口を向けようとした。
リナ「・・・ ・・・」
何故かはわからない。
男がリナに銃口を向けるその行為は、リナの目にスローモーションで映っていた。
(リナ「ヒロ先生!」)
ヒロの事を思うと、迷いと恐怖が吹き飛んだ。
自分の身を守るためではない。彼氏を危険な目に合わせまいと・・・胸元で握っていた銃を、素早く男に向けた。
(リナ「ヒロ先生!!!」)
そして迷う事なく、引き金を引く。
パーァァン!
1発の乾いた銃声と共に・・・
目の前の男は腹部を押さえ、そのまま崩れるように倒れた。
・・・ ・・・。
ヒロ「・・・ ・・・」
リナが撃たれたと思ったヒロ。
予想とは裏腹に、リナに銃口を向けた男が倒れたのを見て、何が起こったのか理解できない。
数秒後、コンテナの奥に隠れていたリナが現れる。身を低くしながら出てきたリナの右手には・・・銃が握られていた。
ヒロ「リナ・・・」
その銃口からは、硝煙があがっている。
(ヒロ「ま、まさか・・・」)
ついさっきまで・・・
極限にまで怯えていた少女の姿はそこにはない。
瞳の奥に強い意志を持った「リナ」が・・・そこにはいた。
しばらく整理がつかないヒロをよそに・・・
リナは突然コンテナの上から上半身を出し、ヒロに向けて発砲している連中へ銃口を向ける。
パンパンパン!!!
そして躊躇する事無く、3度引き金をひいた。
ヒロ「あ・・・あぶ・・・」
余りにも予想外・・・そのリナの行動に、常に冷静なヒロの頭脳は、さらに混乱する。
敵もまた同様。思わぬ角度からの突然の発砲に、混乱を隠しきれない。
慌ててリナを確認した2人の男。うち1人は身を低くし、銃口をヒロからリナに向けた。
その瞬間をヒロは見逃さなかった。
相手が一瞬攻撃に手間取った隙をつき・・・コンテナの上から身を乗り出し、リナに銃口を向けようとした男に発砲した。
パン!
1発の銃弾は左の男の腹部に命中し、崩れるように倒れる。すぐにヒロはもう1人の男に銃を向けるが・・・
ヒロ「・・・ ・・・」
引き金をひく前に男は倒れていた。
一瞬状況が飲み込めなかったが・・・リナの弾が当たったんだと理解した。
倉庫内を静寂が包み込む。
ヒロ「・・・ ・・・」
自分とリナ以外、物音を出す者はいない・・・ヒロの耳はそう確信した。
(ヒロ「とりあえず・・・今いる敵は、全て倒したはずだ」)
安全と判断したヒロは、リナの元へかけよる。
リナ「・・・ ・・・」
リナは銃を前に向けたまま固まっていた。その銃を静かに上から取り上げるヒロ。
ようやくリナはヒロの方を向いた。涙目になりながら口を開く。
リナ「ヒ、ヒロ先生・・・ 私、わたし・・・」
何も言わず抱きしめるヒロ。肩をふるわせリナは泣きだした。
リナ「私・・・」
ヒロ「いいんだ・・・」
抱きしめながらヒロは、リナが最初に撃った男を見る。リナのすぐ横に倒れているその男は、腹部から大量の出血をしていた。
ヒロ「・・・ ・・・」
まだ息はある。しかし・・・
(ヒロ「致命傷だ・・・」)
力強くリナを抱きしめていたヒロ。突然、その男に銃口を向けると
パン!!
迷わず引き金をひいた。
リナ「!?」
発砲した先を見ようとするリナの顔を、ヒロは自分の胸に埋める。
ヒロ「男がこちらに銃を向けたんだ。見てはいけない」
ヒロは・・・ 男の心臓を撃ち抜いた。もちろん即死だ。
リナが人を殺した。
そんな事実を・・・ヒロは受け入れられない。そして殺人という重荷を、リナに背負わす気など毛頭ない。
ヒロ「・・・ ・・・」
リナを抱きしめながら・・・心のどこかに、重くのしかかり、うごめく物を感じる。見た事は無いが、ブラックホールのようなものだとヒロは思った。
男にとどめを刺すことで
(ヒロ「リナが殺したんじゃない。俺が殺したんだ!」)
自分自身に言い聞かせる。
ヒロ「俺の力が足りなかった・・・ すまない・・・」
ふと、リナが倒した2人目の男に目をやると・・・
頭の横から血を流しているのが見える。間違いなく即死だ。
ヒロ「・・・ ・・・」
心のブラックホールはさらに大きくなった。
(ヒロ「リナに知られてはいけない・・・」)
おそらく無我夢中だったリナも、自分自身何をやったか理解していないはずだ。
リナが背負うってしまうであろう重荷。その全てを、ヒロは引き受ける覚悟を決めた。
(ヒロ「そのためには・・・」)
ヒロの耳は、複数の足音が31番倉庫に向かっている事を感じ取る。おそらく、先ほどの連中が連絡を入れたのだろう。聞こえる足音の人数は10人以上だ。
(ヒロ「俺がやるべき事は1つ」)
数秒後に訪れるであろう、10数名の武装勢力に対し・・・
(ヒロ「1人残らず・・・ 」)
皆殺しにする決意をした。
リナが人を殺した・・・ その事実を消すために。
(第44話へ続く)
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次回予告
31番倉庫に、10数名の武装連中が侵入してきた。
絶体絶命とも思われる状況で・・・
ヒロは、連中全てを倒すプランBを発動する。
次回 「 第44話 炎 上(2008年) 」
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